ここから一日二話投稿になります。たぶんz本編終わるくらいまで行けると思います
アクシズの帰還が確認されてから、各艦へ入る観測情報が増えた。もっとも、艦隊の規模も、どの艦が先行しているのかもつかめていない。レイブンはアーガマと航路を合わせ、月から送られてくる情報を受け取りながら、ティターンズの動きを警戒していた。
その日の連絡は、ブライトさんからの呼び出しで始まった。アーガマが先行していた宙域の外側へ、ドゴス・ギアが進出してきたという。画面に出された進路予測を見ると、両艦はアクシズ側へ近づく前に互いの射程を意識しなければならない位置にいた。
『ここでティターンズに先を越されるわけにはいかん。向こうがアクシズと話をつければ、こちらはますます不利になる』
通信に割って入ったウォン・リーの声は、苛立っていた。ブライトさんは黙って聞いていたが、相手の話が終わると手元の航路図を示した。
『先に仕掛けるなら、こちらも相応の危険を引き受けることになります。ドゴス・ギアの護衛隊を甘く見るわけにはいきません。アーガマの後方には味方の帰投路もあります』
『分かっている。だが、ティターンズの出方を待って好機を失うのも危険だ。戦闘のやり方は艦長に任せる。今動くべきだと言っているんだ』
ウォンが通信から外れると、ブライトさんは俺を見た。
『レン、こちらはドゴス・ギアの進出を阻止する。お前たちにも状況を知らせておきたかった。戦闘に入れば向こうはレイブンも敵と見なすだろう。巻き込むつもりはないが、近くにいる以上、互いの艦の位置は把握しておきたい』
「了解です。そちらの攻撃判断はこちらからはできません。レイブンは今の外側の位置を保って、アーガマの退路を塞がれないようにします。攻撃がこっちへ来たら、その時は遠慮なく応戦しますよ」
『ああ。こちらから配置情報を送る』
回線を切ると、ノエルさんがドゴス・ギアの護衛MSを表示に重ねた。レイアム大尉はアーガマとの間隔を確かめ、レイブンを敵の砲口から外れる向きへゆっくり移していく。マウアーは別回線で整備班の出撃可能機を確認していた。
「アルコルはどうなってる?」
『外装の交換と駆動確認は終わっています。ジョブ准尉から、運用に問題なしと回答が来ています。ただし、戻ってからの再点検は予定に入れてほしいとのことです』
「了解。いつもそのあたりは抜かりないな」
シーマ中佐が通信へ入った。
『レン、あたしは艦の手前へ出るよ。連中がこっちへ流れてきたら、あんたが動くまで待っちゃいられないからね』
「お願いします。クリスさんとクスコさんはレイブンの近くに残ってもらいます。俺は敵MSが抜けてくる方向を見ます」
『一人で抱え込むんじゃないよ。こっちはこっちで手を貸すさ』
出撃準備を進める間にアーガマから最終の位置情報が届いた。ブライトさんが戦闘開始を決めたという報告も、続けて入ってきた。
◇
アルコルの発進固定具が外れるより先に、遠方で強い光が走った。アーガマの主砲だ。発射点から少し遅れて、ドゴス・ギアの前方に閃光が広がる。艦の機関部を狙ったような一撃ではなかったが、装甲の一部に火花が散り、すぐに対空砲火が始まった。
『こちらアーガマ。敵艦より反撃、MS部隊の発進を確認。事前に共有した配置で対応する!』
ブライトさんの声が共有回線に響く。ドゴス・ギアは進路を変えながら砲を向け直し、アーガマの接近角度を潰そうとしていた。先制したからといって、簡単に退かせられる相手ではない。
「レイブン、アルコル出ます。ノエルさん、敵の側面の動きは見えてますか」
『数機がこちらの進路へ向きを変えました。アーガマの後方に回ろうとしています。クリス少佐とクスコ少尉が対応に入ります』
「分かりました。シーマ中佐、艦との間は任せます」
『ああ。あんたは前を見な』
俺が加速すると、レイブンへ向かっていた敵機の一機が射撃を始めた。艦の近くを光が走り、レイアム大尉が機体の帰投路を残してレイブンを外へ振る。こちらへ飛んできた次の一射をかわし、敵機の側面へ撃ち返したところで、ガーベラ・リファインが前へ出た。シーマ中佐は敵を追い払おうとはせず、艦へ抜ける相手だけを押し戻している。
アーガマ側でも戦闘が始まっていた。カミーユのZが正面に出た敵を引き受け、その後ろからクワトロ大尉の百式が僚機を援護している。アムロのデルタ改は一度外側へ大きく出た。変形して移動距離を稼いだあとMS形態へ戻り、アーガマの側面へ回ろうとした敵の足を止める。敵が艦へ向けて加速しようとするたび、デルタ改の射撃がその姿勢を崩した。
『カミーユ、そちらへ二機流れる。前の一機だけを追うな』
『分かってます、アムロ少佐。百式の後ろへは通しません!』
共通回線に二人の声が重なった。Zは変形と加減速を繰り返していたが、以前傷めた肩をかばうような動きは見えなかった。エマ中尉のMk-IIもアーガマの近くにいて、後方から接近していた敵を押さえていた。百式もデルタ改も、互いの隙を放置していない。こちらが護衛を抜けられないのと同じように、敵のMS隊もアーガマの内側へ入れずにいた。
その均衡を破るように、ドゴス・ギアの護衛隊から一機の可変MSが飛び出した。張り出した肩に、折れ曲がった長い脚、細長い尾。ハンブラビだ。機体の形がはっきり見えたところで、俺は照準を合わせた。あれにヤザンが乗っているなら隙を見せるわけにはいかない。
「ノエルさん、あの可変機の識別は?」
『未登録です。ティターンズの護衛隊から離れ、大佐へ向かっています』
こちらが撃つより先に、ハンブラビは脚を畳んで機体を伏せた。背部の二門から立て続けにビームが走る。俺は一射目を減速して外し、二射目にはアルコルを横へ滑らせた。返したライフルの一撃もかわされたが、相手はそのまま遠ざからず、回り込むように機首を向け直してくる。ギャプランのように加速で押し切る動きとは違う。機体の向きを変えるのが速く、射撃のあともこちらへ正面を向け直すまでが短かった。
『へえ、今度の黒いガンダムは、こいつにも付き合えるか?』
開いた周波数から飛んできた声を聞いて、相手が誰かはっきりした。やっぱりヤザンだ。
「また新しい機体ですか。ずいぶんいいものを回してもらってますね」
『お前とやるなら、これくらいは欲しいところだ。こいつがどこまで使えるか、試させてもらうぜ!』
ヤザンは一度こちらを追い越すように加速した。俺が振り向くと、ハンブラビは変形を解きながら急に速度を落とし、照準の動いた先へ背部の砲を向けていた。追わせてから撃つつもりだったらしい。アルコルの右側を光が抜け、俺はシールドバインダーを動かし、その補助推進器も使って機体の向きを変えた。二射目が来る前にアルコルをヤザンの横へ滑り込ませる。
射程に入ったところでライフルを撃ったが、ヤザンはかわす代わりに機体を寄せてきた。変形を解いた両腕からクローが開き、銃を持つ側の腕を狙ってくる。ライフルを引き、抜いたサーベルで腕を払ったものの、ヤザンはそこで引かなかった。こちらがサーベルを振り切ったところへ機体の腰をひねり、長い尾の先を下から突き込んでくる。
アルコルを半身にして盾を差し入れる。先端がシールドの外縁をこすり、操縦席へ鈍い振動が伝わった。受けたままでは腕を持っていかれる。補助推進器を短く吹かして盾ごと機体を逃がし、その動きで相手のクローからも間合いを取った。すれ違いざまの一射は当たらなかったが、ヤザンも今度は無理に追ってこず、距離を取って機体を起こした。
あいつは今の一合で、シールド側の動きまで見ただろう。俺も尾の間合いを確かめられた。次に同じ形で仕掛けても、もう通用しないはずだ。
『レン、艦の側面はあたしが見てる。そいつは任せるけど、無茶な追いかけっこはなしだよ』
「了解です。こっちからは深追いしません。向こうが来るなら、この辺りで相手をします」
視界の端ではガーベラ・リファインが、レイブンへ抜けようとする敵機の側面へ回っていた。クリスさんとクスコさんも艦から離れずに対応している。ヤザンを引き離すために俺が追うより、ここで食い止める方がいい。
ハンブラビは今度、正面から速度を上げなかった。背部の砲をこちらへ向けたまま斜めに流れ、俺が照準を追えばすぐ変形して横へ抜けられる位置を保っている。射撃の応酬だけでは埒が明かない。俺はレイブンから遠ざからない向きへアルコルを動かし、相手が砲を撃った瞬間に加速を切った。光が先へ流れたところで盾側の推進器を吹かし、敵機の内側へ切り込む。
今度はこちらが先にサーベルを振った。ヤザンは腕の刃で受け流し、反対側のクローを盾へ引っかける。引き寄せられる前にシールドバインダーを回して爪を外すと、シールドに備えた小型ビーム砲の銃口を向け、短く撃った。光がハンブラビの肩先をかすめ、ヤザンは機体を倒して距離を取った。直撃を期待できる角度ではなかったが、接近を止めるには十分だった。
『盾にまで仕込んでやがるのか。面白え!』
ヤザンは笑いながらも、もう一度こちらの盾側へ飛び込むことはしなかった。サーベルを構えたまま機体を横へ流し、俺が追えば抜けられる距離を保っている。俺もライフルを向けたが、追い撃ちはしなかった。盾に近づけば撃たれると、もう向こうも分かっている。
そのまま間合いを測っていると、ヤザンがサーベルを収め、持ち替えた柄をこちらへ向けた。柄から伸びるワイヤーの先端が飛んでくる。海ヘビだ。ヤザンは盾を構えた側へ先端を送り込んでくる。さっきのように盾で受けてしまえば、今度はこちらの機動を封じられかねない。
俺はシールドを引き、噴射の向きを変えてアルコルを下へ滑らせた。ワイヤーが上を通り過ぎたところから短く加速し、ライフルでヤザンを牽制する。相手はあっさり射線を外したが、海ヘビを回収するまでこちらへは踏み込めない。そこを追ってもよかった。しかし、その先にはレイブンから離れる進路しかない。ヤザンも俺が追わないと見るや、無理に攻めず変形して距離を取った。
距離表示には、レイブンとの間隔が出ている。俺が後退すれば、あいつもこちらへ寄ってくる。新型を手に入れても、俺を艦から引き離そうとする点は変わっていないらしい。相手の動きへ一々付き合うのをやめ、艦を守れる位置で射線を作り直したところで、ノエルさんの声が入った。
『大佐、外側から多数の機影が接近中! 既存の識別情報と一致しません』
戦域の外へ表示を広げると、ドゴス・ギアより遠い位置に光点が増えていた。小隊規模どころではない。いくつかの隊列を組んで進み、先頭機が光学映像へ入った。赤紫の装甲に張り出した肩、細い脚。ガザCだ。アクシズが来たか。
ヤザンもこちらへの接近をやめた。ハンブラビの機首が新しい部隊へ向き、俺もその隙にレイブン側へ位置を戻した。あの数が入ってきた以上、一機との勝負を続けている場合じゃない。
『アーガマより周辺各艦へ。未知のMS群が接近中。本艦からの発砲は保留する。各艦も接近方位に注意されたい』
ブライトさんの警告を受け、俺もレイブン側に先制射撃を控えるよう伝えた。アーガマでは百式が艦の近くへ戻り、デルタ改がまだ追ってくる敵機を牽制していた。カミーユのZも敵を深追いせず、エマ中尉のMk-IIと味方の帰投方向を確保している。
最初に撃ったのは新たなMS部隊だった。先頭集団から放たれたビームがドゴス・ギアの護衛隊へ向かい、ティターンズのMSが散って応戦する。ガザCの後続も展開を続け、砲火を浴びた隊が下がると別の隊が前に出た。乱れた突撃ではなく、まとまった部隊の攻撃だった。
『大佐、未識別機群の射撃はティターンズ側に集中しています。こちらへの攻撃はありません。ただ、このまま進めば本艦の近くを通る隊列があります』
「レイアム大尉、艦を外側へ寄せてください。アーガマとの間隔は保って。ノエルさん、接近部隊の追跡を続けてください」
『了解しました』
レイブンが進路を変え、俺もその外側に位置を取った。遠くではドゴス・ギアが新たな部隊へ対空砲を向け、アーガマを相手にしていた護衛機を呼び戻し始めている。ここで三つの勢力が入り乱れれば、どこも余計な損害を出しかねない。
ハンブラビが一度だけこちらへ向き直ったので、ライフルを構えた。ヤザンも背部の砲を動かしたが、結局撃たずに機体を起こした。ドゴス・ギアの護衛隊はもう後退を始めている。あいつもこの場で一機の勝負を続ける気はないらしい。
『……ちっ、ここで終いか』
さっきまでの開いた周波数に声が落ちた。ヤザンは追撃せず、ハンブラビを変形させて僚機の方へ去っていった。
ドゴス・ギアもこちらへの砲撃を収め、護衛機を回収しながら戦域の外へ進路を変えた。護衛機の数はまだ残っている。こちらもドゴス・ギアを追い詰めたわけではない。だが、正体の分からない部隊が新たに砲火を加える中で、このまま戦い続ける理由は薄い。シロッコもそう判断したのだろう。
「こちらからは追いません。シーマ中佐、クリスさん、クスコさんも一度艦の周りへ戻ってください。アーガマ側には、未知の部隊の動きを確認していると伝えて」
『了解。あの連中が何者か分かるまで、迂闊に背中を向けない方がいいね』
未知のMS部隊は、ティターンズを追うことも、すぐアーガマへ近づくこともしなかった。赤紫の機体が隊形を整え、互いの距離を取り直している。俺はアルコルをレイブンの外側へ戻しながら、あの群れを映像の中央へ入れた。
こちらを助けたように見える。だが、まだ一言も交わしていない。ノエルさんから未識別機の追跡が続いているとの報告を受け、俺はレイブンへの帰投を急がず、向こうが次にどちらへ動くかを見守った。
赤紫の機体は、こちらの動きを確かめるように隊列を保っていた。撃ち合っていた相手が退いたからといって、そのまま背中を向けるわけにはいかない。俺はアルコルをレイブンへ向け、いつでも対応できる速度で移動を始めた。
『大佐、アーガマが未識別機群から呼び出しを受けています。こちらへも交信の概要が回りました』
「何て?」
『発信者はアクシズを名乗っています。先ほど介入した部隊は自分たちの所属だと。ただ、今のところこちらで独自に確認できるのは発信方向と部隊の動きまでです』
「ブライトさんに任せましょう。レイブンは位置を変えずに警戒を続けます。向こうが攻撃を止めている間は、こちらからも撃たない」
アクシズか。予想していた名前でも、向こうが自分から名乗ったとなれば話は違う。アーガマから転送された交信には、先ほどの部隊を自軍のものと認めたうえで話を求める文言があった。ティターンズへ攻撃した理由については、何も言っていない。
ドゴス・ギアの航跡が表示の端へ遠ざかっていく。赤紫の機体群は追撃せず、隊形を整えたまま動かなかった。あの数で攻め込んできた連中が、今は撃とうともしない。こちらに何を望んでいるのか、まずは話を聞くしかなかった。
『アーガマから追加連絡です。相手が正式な接触を希望しています。こちらが攻撃しないことを確認したうえで、通信を続けるそうです』
「分かりました。俺は帰投します。シーマ中佐にも伝えてください」
アルコルをレイブンへ寄せる途中で、ガーベラ・リファインがこちらの外側についた。シーマ中佐は機体の向きを未識別だった部隊へ残したまま、帰投路を合わせてきた。
『見物が増えたと思ったら、今度は挨拶かい。忙しい戦場だったね』
「名乗ってくれたのはいいんですが、何を考えて撃ってきたのかまでは分かりませんね」
『そこを聞くための挨拶だろ。ま、向こうもこっちをどう見てるか分かったもんじゃないけどさ』
最後の一機が収容されるまで、レイブンはアーガマと互いの位置を保った。ヤザンのハンブラビの姿はもう見えない。こちらもアルコルの燃料や損傷を確認しなければならなかったし、次にあの機体と会う時に備えるのは帰ってからでいい。
◇
格納庫ではジョブがアルコルの脚部を見上げ、近くの整備員に何か指示していた。俺が点検の具合を尋ねると、「今はまず機体を降りてください。詳しい話は後でします」と返された。言う通りにして艦橋へ上がると、先に帰投したシーマ中佐がノエルさんとアーガマからの交信記録を見ていた。
「発信元は、接近中の艦隊との位置関係が合っています。未識別機の部隊も通信後は隊形を変え、こちらへ近づいていません」
「アクシズだと確認していいんですか?」
「通信で名乗った相手としては、です。先ほどの機体を自軍のものだと説明しています。所属の認識を更新することはできますが、敵味方の判定とは別になります」
ノエルさんが赤紫の機体群の表示を書き換えた。所属欄にはアクシズからの申告が付いたが、機種名は空欄のままだ。俺はそれを指摘せず、次の通信を待った。
マウアーが別の通信をつないだ。ブライトさんからで、アーガマ側にウォン・リーも同席していた。向こうも戦闘直後らしく、背景で人が資料を受け渡している。
『アクシズから会談を申し入れてきた。少なくとも、こちらへ発砲せずに話す意思はあるらしい。だが、何を求めているのかは分からん』
「場所や相手は?」
『先方は旗艦を会場として指定している。グワダンという大型艦だ。現在の指導者が誰か、誰が会談の席へ出るかは、まだ答えがない』
グワダン。その艦名も記憶にある。その流れでは俺たちがこれから会う相手も決まっているが、どうなることか。
『今のうちに会っておくべきだ。今日の戦闘でティターンズ側を攻撃したのは事実だし、こちらを無視しているわけでもない』
ウォンは前へ身を乗り出して言った。興奮しているというより、ようやく得た機会を逃がしたくないようだった。
『ウォンさん。相手がこちらを助けるために攻撃したとは限りません。こちらから乗り込むなら、先に連絡艇の行き先と戻る際の安全を確かめます。交渉を急ぐことと、艦や人員を危険にさらすことは別です』
『それは艦長に任せる。私が言いたいのは、相手の返事を待っているだけで機会を逃すなということだ。ティターンズだって、また接触を試みるだろう』
『分かっています。そのための話をしているところです』
ウォンの言うとおり、ティターンズが相手より先に交渉を進めることはあり得る。だからといって、戦闘に介入したばかりの艦へ人を送り込むのだ。ブライトさんが発着の条件から確かめようとするのも当然だった。
「俺たちも会談に加わる余地はありますか?もちろん、アーガマの代表としてじゃありません。連邦軍のBLACK RAVENとして、別の立場だと相手に伝えたうえでの話です」
『行きたいのか、レン?』
「ええ。今日あそこにいたのはアーガマだけじゃありません。向こうから見れば、ティターンズと同じ連邦軍の艦も一緒に戦っていたことになります。それなら、俺たちの立場を隠さずに顔を出した方がいいと思います」
ブライトさんはすぐには答えず、ウォンの方を見た。ウォンは顔をしかめたものの、反対はしなかった。
『連邦軍の正式部隊が同席するとなれば、相手は警戒するかもしれん。しかし、協力関係を隠す必要もない。先方には人数と所属を明示して問い合わせよう』
『そうだな。レン、そちらの人選は決めておけ。先方の承諾が取れたら知らせる』
「分かりました。こちらで相談しておきます」
◇
レイブン側で準備できるのは、人選と留守中の勤務くらいだった。グワダンの発着条件はアーガマが問い合わせている。俺はシーマ中佐を呼び、机に残っていた戦闘記録を閉じた。
「シーマ中佐も一緒に来てもらえますか。アクシズの今を見ておいてほしいんです」
「……あたしもかい? まあ、構わないさ。昔とは立場が違うからね。ただ、レン。向こうの艦へ乗り込む以上、帰りたい時に帰れるとは限らない。それだけは頭に入れときな」
「ええ。そこはブライトさんとも合わせます。マウアーも同行をお願いします。通信と記録の整理は一緒に見てほしい」
「承知しました。では、必要な資料と連絡先を整理します。ただ、三人とも艦を離れるなら、残る側への引継ぎが先です」
ノエルさんとレイアム大尉を交えて、留守中の判断範囲を確認した。シーマ中佐も俺もいない間はノエルさんが艦橋の指揮を預かり、航行や発着についてはレイアム大尉の判断を聞く。レイブン自体は、会談の場へ無理に寄せない方針にした。相手がどんな態度に出るか分からないのに、艦まで近づける必要はない。
「大佐。会談中に新しい通信が来た場合、こちらから確認を求めても構いませんね」
「もちろんです。急ぎの用件ならノエルさんの判断で動いてください。航行のことはレイアム大尉と相談して。いちいち俺の返事を待つ必要はありません」
「了解しました。留守の間も監視と通常の警戒を続けます」
決め終えると、マウアーが人員の一覧を整えた。レイブン側は俺、シーマ中佐、マウアーの三人。アーガマ側の人数はまだ返ってきていなかったが、相手に連絡するためにも、こちらの顔ぶれを確定させておく必要がある。俺はその内容をブライトさんへ送り、艦橋の様子を見に行った。
◇
アーガマから返事が来たのは、艦の配置と連絡艇の準備を確認している時だった。相手側がグワダンへの訪問を受け入れ、人数と所属を把握したいと言っている。訪問は連絡艇で行い、艦へ近づく前に互いの識別と進路を確認する。細部は出発までに詰めればいいという。
『こちらから向かうのは、私とウォンさん、クワトロ大尉、それにカミーユ、レコア、アポリーだ。六人で行く』
「こちらは三人です。俺とシーマ中佐、それからマウアー。先方には連邦軍の人間がいることも伝わっていますか?」
『ああ。そこは明示してある。同行者としての申し入れは受け入れられた。ただし、議題まで先方と合意したわけじゃない。決まったのは訪問の条件だけだ』
「了解です。こちらも引継ぎを進めています。出発前に、連絡方法だけもう一度確かめたいです」
『ああ。こちらも私がいない間のことは引き継いでおく。あとは互いの艦から連絡艇へどう乗り継ぐかだな。その手配はうちで進める』
六人の名簿でクワトロ大尉の名前に目が止まった。先日聞いた「筋を通したとは言えん」という言葉を思い出す。本人があそこへ出向くことをどう考えているのかは分からない。今はそれより、九人が無事に行って戻れるようにしておく方が先だった。
マウアーが資料の持ち出し分を確かめ、ノエルさんは相手から届いた連絡を警戒情報と分けて保存した。レイアム大尉は出発時のレイブンの位置を計算している。艦橋へ戻ると、ちょうどシーマ中佐がその航路図を眺めていた。
「九人か。グワダンの連中も、ずいぶん大人数だと思うだろうね」
「俺たち三人が加わった分、増えましたからね。向こうにとっても誰が来るのか気になるでしょう」
「まあ、招いた以上は顔を見てもらおうじゃないか。今のあたしらが何者なのか、隠すことでもないしね」
レイアム大尉の示した候補航路を見ていると、マウアーから出発までの確認事項が届いた。アーガマの連絡艇との合流位置がまだ決まっていない。レイアム大尉が選んだ候補を二つブライトさんへ送り、返事が来るまでは現在の航路を保つことにした。
ヤザンが黒いガンダム大好きすぎる
次回 謁見