続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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本日は12時と18時の二回投稿します


第8話 逃げるためじゃない

 正式な命令が届いたのは、ノエルさんから最初の報告を受けた翌朝だった。

 

 いつもの残党掃討なら、活動宙域と確認戦力、それに捕捉できなかった場合の捜索範囲くらいが並んでいる。今回の資料は最初から違った。地球上から宇宙までいくつもの戦域が表示され、その各所に連邦軍の部隊名と残党側の動きが書き込まれている。

 

「北米方面で武装蜂起。複数の旧ジオン系部隊が行動を開始しています。追跡は現地の残党掃討部隊が担当。ファントムスイープという部隊です」

 

 ノエルさんが画面を切り替える。聞き覚えはない。

 

「北米だけじゃないんですね」

「はい。直接戦闘が確認されているのは地上が中心ですが、宇宙側でも輸送量が増えています。軍は便乗した別の残党まで含まれている可能性を見ていますが、一部は行動時期が一致しすぎているそうです」

「偶然にしては揃いすぎてる、か」

 

 ブライトさんが地図を見ながら言った。

 

「俺たちはこっちだ」

 

 宇宙側に、新しい表示が出る。

 

 旧ジオン軍が一年戦争中に使っていた補給航路の一つだった。戦後はほとんど使われていないはずなのに、ここ最近になって輸送船らしい反応が何度か捕捉されている。ただ、監視網へ引っかかるたびに針路を変え、そのままデブリ帯へ消えていた。

 

「地上の主力を追う必要はない。こちらはこの航路を調べる。残党が何を運んでいるのか、どこから出してどこへ送っているのかを押さえるぞ」

 

 ブライトさんの方針に異論はなかった。

 

「シーマ隊も連れていきます。向こうの輸送の癖を見てもらった方が早そうです」

「シーマ中佐にはこちらから伝えておく。ただし、元ジオンだから何でも分かると思うなよ」

「そこまでは期待してませんよ」

 

 その日のうちにレイブンは進路を変えた。二日ほど調べても、最初は何も出なかった。監視記録に残っていた航路をなぞっても艦影はなく、放置されたデブリばかりが流れている。

 

 三日目、先行していたリリー・マルレーンから通信が入った。

 

『こっちで妙なのを見つけたよ。船じゃない。昔の補給用ビーコンが生きてる』

「戦時中の?」

『形はね。でも電源を入れ直したのは最近だ。こういうのは放っといて勝手に蘇るもんじゃないよ』

 

 場所は大きなデブリの陰だった。戦時中に破壊された輸送施設の一部が流れ着いたように見えるけど、調べると内部の通信機だけは新しい部品に交換されている。そこから発信された信号を追って、さらに半日。今度はレイブン側のセンサーが先に捕まえた。

 

「艦艇反応二。小型輸送艦と思われます。周辺にMS反応六。デブリを利用して停船中」

 

 ノエルさんの報告と同時に、艦橋の主画面へ位置が表示された。

 

「向こうも気づいたな」

 

 ブライトさんが言った直後、二隻が別々の方向へ動き始めた。逃げ方が妙だった。一隻はすぐ地球方向へ針路を取り、もう一隻は反対側へ加速する。MS六機のうち四機はこっちへ向かい、残り二機は地球へ向かった方についていった。

 

「囮を分けた?」

「逆かもしれません」

 

 ノエルさんがすぐ答える。

 

「どちらが重要か、現時点では判断できません」

「両方追えば戦力が割れるな」

 

 ブライトさんが俺を見る。

 

「地球方向を優先します。反対へ逃げた方はリリー・マルレーンに追跡だけ頼んでください。無理に止めなくていいです」

「分かった。こちらはMS隊を出す。輸送艦は沈めるな。積み荷を確認したい」

 

 発進してすぐ、敵の四機がこちらを迎えに来た。動きは今まで相手にしてきた残党とは違っていた。勝てそうだから出てきた感じじゃない。輸送艦との距離を一定に保ちながら、こっちを近づけないためだけに動いている。

 

「時間稼ぎだな」

 

 アムロの声が入る。

 

「たぶん。無理に倒しに来てない」

『だったら面倒だね。こういう連中は自分が逃げるんじゃなく、後ろを逃がすために残ってる』

 

 シーマ中佐も同じものを感じたらしい。

 

「クリスさん、左から回れます?」

『行ける。でも輸送艦には近づきすぎないで。荷物ごと自爆されたら調べようがないわ』

「了解。アムロは右。俺は正面を押さえる。ララァたちは後ろから抜けようとする機体を見てて」

 

 敵はしつこかった。こっちが前へ出れば下がり、横へ回ろうとすれば二機で射線を重ねる。撃墜を狙うより、数分でも余計に足止めすることを優先している。俺が一機の武器を落としたところで、その機体は即座に後退した。代わりに別の一機が前へ出る。連携がちゃんとしている。

 

「レン、輸送艦が加速してる」

 

 アムロの声と一緒に表示を見る。

 

 まずい。

 

「ブライトさん、輸送艦を止められますか?」

『レイブンを前へ出す。だが主砲は使わん。機関だけ狙える距離まで詰める』

 

 その判断が早かった。レイブンがデブリの隙間を抜けて前へ出たことで、輸送艦は進路を変えるしかなくなる。そっちへ回り込もうとした敵MSをララァとクスコが止めた。

 

『一機、そっちへ行くわ』

「見えてます」

 

 ララァの声は落ち着いていた。以前みたいに敵が目の前へ来ただけで動きが硬くなることもない。計器を見て、必要な時だけ感覚を補助に使っている。敵MSの一機が輸送艦の側面へ寄る。何をする気かと思った次の瞬間、クリスさんが割り込んだ。

 

『その位置は駄目!』

 

 撃ったのは機体ではなく、持っていた武器だった。爆発で敵が姿勢を崩す。

 

「自分たちの船を撃つ気だった?」

『可能性はあるわ。積み荷を残したくないのかもしれない』

 

 だったら余計に沈めるわけにはいかない。数分後、輸送艦の推進器を止めたところで敵側の動きが変わった。二機が武器を捨て、残りも距離を取り始める。

 

「投降するなら攻撃は止める。全機、追撃するな」

 

 こちらから呼びかけると、少し遅れて返事が来た。残った三機も武装を捨てた。戦闘そのものは、そこで終わった。

 

 問題はその後だった。輸送艦の貨物区画へ入った調査班から、想像以上の量の物資が報告されてきた。食料や医薬品もある。ただ、それ以上に多いのが弾薬、推進剤、交換部品、通信機材だった。

 

 しかも積み方がおかしい。

 

「これ、一つの部隊用じゃないですね」

 

 ジョブが貨物一覧を見ながら言った。

 

「規格が混ざりすぎてます。MS用だけでも何種類かあるし、艦艇用の部品も同じです」

「そりゃそうだろうね」

 

 検分に参加していたシーマ中佐が、少し呆れた声を出した。

 

「逃げる連中なら、こんな積み方はしないよ。自分たちが使える物から積む。これは送り先が別々にある荷物だ」

「分配用?」

「だろうね。それも、思いつきで集めた量じゃない」

 

 押収した端末にも同じような痕跡が残っていた。通信記録の大半は消されていたけど、輸送予定だけは完全には消しきれていない。いくつかの時刻と識別番号、その横に別々の受け渡し地点が並んでいる。

 

 その一つは地球方面。別の一つは、今朝まで別部隊の活動が報告されていた宙域と近かった。

 

「ノエルさん、これ、他の戦域の記録と照合できますか?」

「やってみます。ただ、今の段階では同じ作戦だとは断定できません」

「分かってます。似てるだけでもいいです」

 

 少し待つと、いくつかの表示に印が付いた。

 

「完全一致ではありません。ただ、輸送予定の時刻と、北米方面で残党側の動きが活発になった時間帯が近いです。それから、別の監視記録にも同系列と思われる識別符号が一つあります」

 

 偶然で片付けるには、また一つ材料が増えた。ブライトさんが資料をしばらく見ていた。

 

「ここの補給線を一つ潰しただけでは終わらんな」

「ですね。逃げ回ってる残党にしては、準備が良すぎます」

 

 俺は画面に残ったいくつもの受け渡し地点を見る。今回捕まえた連中が何を企んでいるのかまでは分からない。北米で戦っている連中と、どこまで同じ命令で動いているのかも分からない。

 

 ただ、今まで相手にしてきた残党とは違う。逃げるために物を集めているんじゃない。まだ何かをやるために、集めている。

 

 そのくらいは、俺にも分かった。

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