十一月二日の朝、山の斜面は低い雲に覆われていた。デルタ改を飛行形態にしたまま高度を抑えると、岩肌が近づいてくる。上へ逃げれば見通しはよくなるが、基地の対空砲からも狙いやすくなる。俺は先行する偵察機の報告を確かめ、予定の尾根へ向かった。
『アムロ少佐、右の砲台が動きました』
「見えた。カミーユはそのまま先へ。俺は西から入る」
Zと別れ、尾根の陰へ機体を滑らせる。そこで変形を解いた。脚を下ろして姿勢を起こす間に、岩の向こうをビームが通り過ぎた。飛んできた時の俺を追って撃ったものだ。地面へ降り、ライフルを構えてから、砲台が見えるところへ出た。
山肌に据えつけられた砲が向きを変えてくる。手前の遮蔽物へ撃っても仕方がない。砲口がこちらへ回る前に、露出した旋回部へ照準を合わせた。一射目は外装を削っただけだったが、続けた二射目で基部から火が上がった。
すぐ別の場所から撃たれた。機体を引くと、足元へ砲弾が当たり、砕けた岩が装甲を叩いた。砲台だけではない。低い施設の間にハイザックがいる。奥にはマラサイも見えた。彼らは一斉に飛び出さず、こちらが撃ち返すたびに建物の陰へ退いた。
『こちらクワトロ。南側も敵が出ている。地上隊は予定どおり進め』
『了解。こちらで一つ押さえるわ。バーニィ、奥の機体も見ておいて』
ディジェが下方の斜面を横切った。止まって撃つ場所を決めていたらしく、岩の張り出しへ入ると、すぐにライフルを構える。その少し後ろでディアスがバズーカを撃った。砲弾はハイザックのいた施設へ当たり、敵が建物の反対側へ逃げ出した。
百式の射撃が、その先を捉えた。敵機の脚から火が噴き、転んだ機体が道路脇へ滑る。だが、ほかの敵は助けに飛び出してこなかった。奥のマラサイがこちらへ撃ち、別のハイザックが砲台の陰へ移っていく。
無理に追えば、その二機と砲台の両方を相手にすることになる。俺はデルタ改を横へ走らせ、建物の隙間から見えたマラサイへ撃った。相手は盾を向けて下がりながら、ライフルをこちらへ向けていた。足を止めず、次の岩陰へ入る。
『アムロ少佐、東の陣地を一つ止めました。でも、上にも砲があります』
「そっちは見てる。そこから上がると正面に出るぞ。今の高さで動いてくれ。こっちが撃つ間に、砲台の脇へ回れるか」
『やってみます。こちらの位置を送ります』
カミーユから届いた位置を確かめ、俺はもう一度姿を見せた。対空砲の砲身が下がる。こちらへ撃つために向きを変えたところで、東からZのビームが走った。砲の後方で爆発が起き、俺は手前のハイザックへ照準を戻す。
ライフルを撃つより先に、敵がこちらへ突っ込んできた。盾で一射を受け、サーベルを振り下ろしてくる。俺は半歩下がって刃を外し、デルタ改のサーベルを抜いた。横へ回って斬った腕が、まだ光る刃を握ったまま落ちた。
その機体を避けて奥へ出ようとした時、別のハイザックが姿を現した。俺を撃たず、下の道路へライフルを向けている。工作班が近づく側だった。
「下に一機! シイコ、その道路を撃たせるな!」
ディジェが岩陰から加速した。敵が向きを変えるより早く懐へ入り、長い柄のビーム刃を振るう。ライフルを持った腕を落とすと、すぐに斜面を蹴って離れた。追ってきた射撃が、さっきまでディジェのいた岩を砕いた。
『この辺を見られたわ。道路はもう使わない方がいい。下にいる人たちへ伝えて』
ハヤト側から短く返事があった。俺も工作班の車両を探したが、道路に車影はなかった。シイコが岩陰へ戻るのを見て、基地側へ撃ち返した。
昼を過ぎても、守備隊は斜面を明け渡さなかった。カラバ側のほかの部隊も加わったが、対空陣地の奥にはまだ動いている施設がある。俺たちは補給のために交代し、戻るたびに敵の位置を確かめ直した。
夕方、工作班が基地内部へ入ったとの連絡が届いた。ただし、予定していた通路の一部が使えず、設置作業にはさらに時間が要るという。ハヤトは外側の部隊を一度退かせ、翌朝に攻撃を再開することを伝えてきた。
◇
補給地点でデルタ改を固定すると、整備員が脚部の装甲を外し始めた。飛んできた岩の破片で傷がつき、装甲の隙間には砂も入り込んでいる。俺が操縦席から降りる間に、別の者が予備のEパックを運んできた。
カミーユはZの足元で、作業が終わるのを待っていた。俺が近づくと、自分の機体より先にデルタ改を見た。
「まだ飛べますか。右の脚、かなり当たっていましたよね」
「岩の破片だ。駆動部まで届いていなければ、明日も出せる。Zは?」
「盾の端を少し削られました。変形には影響しないそうです。ただ、明日は上の陣地まで相手にしないと、今日と同じことになるんじゃないですか」
俺は整備員から渡された点検結果を読み、彼にも見せた。すぐに出撃不能になる損傷ではない。かといって、二日目も同じ撃たれ方をしていいわけではなかった。
「今日ので、敵もこっちの来る場所を見ただろうな。変えるのは向こうも同じだ。朝の偵察結果を見てから、入る場所を決めよう。今は整備員に任せておけ」
カミーユはZをもう一度見上げてから頷いた。作戦室へ戻ると、クワトロが地形図に今日確認した敵の位置を書き込んでいた。シイコとバーニィも、それぞれの記録を持ってくる。
車両を通す予定だった退路は、落石で狭くなっていた。ハヤトは偵察の報告を示し、南へ回る経路を使うと決めた。バーニィが打ち合わせで気にしていた道だった。今度はその先まで確認した映像があり、機体を降ろせる場所にも印がついていた。
工作班との連絡は、外に残る連絡員を介して続いていた。帰ってくる時にどこまで迎えに行くかを決め、俺たちは機体ごとの受持ちを入れ替えた。
◇
三日の朝は、前日より風が強かった。デルタ改を飛ばすと、尾根の上へ出た途端に機首が振られた。速度を保って通り抜け、基地の南西へ回る。昨日撃った砲台は止まっているが、その脇へ移動式の砲が運び込まれていた。
敵はこちらの接近に気づき、早い段階から撃ってきた。狙いを変えるために高度を上げかけたが、その先にも砲口が見えた。戻る位置を読んで置かれている。俺は上昇をやめ、谷沿いに機体を傾けた。
「カミーユ、昨日の入り方は使えない。西の尾根の内側へ回る。そっちは東を見てくれ」
『了解。百式と地上隊は、もう動いてます』
谷の陰で変形を解き、上へ出る前に、百式とディジェの位置を確かめた。二機とも基地の手前で戦っていた。ディアスはさらに下にいる。予定の退路を見ながら、奥から出てくる敵を撃っていた。
俺は斜面を上がり、移動砲台の側面へ回った。こちらへ向き直る前に一発を当てる。砲架が傾き、撃ち返された光が斜め上へ抜けた。その向こうでZが姿を現し、別の砲台へ続けて撃った。
基地側のハッチが開き、新しいMSが出てきた。マラサイだ。二機が道路を下り、一機が建物の裏へ入る。近い二機へ向かいかけた時、裏へ回った機体の銃口が見えた。下る敵を追わせ、上から撃つつもりだったらしい。
デルタ改を止め、サーベルを抜く。道路から上がってきた一機が撃った弾を盾で受け、傾けた機体をそのまま相手へ寄せた。ライフルを持った腕が引かれる。俺は胴へ刃を入れ、爆発する前に横へ跳んだ。
すぐに上から撃たれた。背部をかすめた一射で警告が鳴る。隠れていたマラサイが建物の角から出てきていた。狙いを直す前にZの射撃が入り、相手が身を引く。その間に俺は岩陰へ下がった。
『背中、当たりましたか?』
「外装はやられた。だが、まだ動ける。ありがとう。俺は下へ回るから、上の一機を頼む」
カミーユが短く答えた。Zは俺の横を通り過ぎず、その場から撃って敵の反応を見ている。俺もライフルへ持ち替え、残った一機を追って斜面を下りた。
工作班が外へ出始めたとの連絡は、その直後に来た。設置を終えた者から撤収し、最後の班がまだ地下にいる。ハヤトは迎えの車両を動かし、南へ回る経路を空けるよう指示した。
基地の上では大型の艇が発進し、雲へ向かって上がっていった。カミーユからも報告が入ったが、追える位置ではない。俺は艇の映像だけを記録し、地上へ視線を戻した。
百式が、道路を横切る敵へ撃っていた。その下を工作班の車両が走っている。ディジェは退路の入口へ寄り、近づいてくるハイザックを迎え撃った。敵も車両に気づいたらしく、撃ちながら坂を下りてくる。
『最後の車、止まってる! こっちへ一機出てきます!』
バーニィの声と同時に、ディアスの位置が動いた。道路へ出てバズーカを撃ち、車両へ向かいかけた敵を引きつける。次の瞬間、ディアスの左肩で光が弾けた。
「バーニィ、肩をやられたぞ。下がれるか!」
『動けます! ただ、後ろに車が……!』
止まった車両の横へ、別の一台が寄せられていた。人が荷台から降り、隣の車へ乗り移っている。最後に二人がかりで誰かを運び出した。ディアスがそこから下がれば、敵の前が空いてしまう。
俺はデルタ改の推進を強めた。飛び上がって建物を越えると、ディアスを撃ったマラサイが見えた。サーベルを構え、着地する場所へ振り向いてくる。相手の前へ降りず、建物の壁際へ着地してライフルを撃った。
盾を向けた敵の右へ、ディジェが出た。シイコは長い柄を敵の腕の下へ差し入れ、サーベルごと押し上げた。俺が空いた腰へ撃つと、マラサイの機体で爆発が起きた。ディジェはすでに離れ、倒れた機体を避けてディアスの方へ向かっている。
『バーニィ、先に下りて。車は動いたわ。こっちも続くから』
ディアスが振り返り、道路を離れた。乗り換えた車両も、その後を追っていく。俺は残った敵へ撃ち返し、百式がこちらへ下がってくるまでその場に残った。
『アムロ、こちらは抜けた。カミーユも来る。君が最後になるぞ』
「了解。デルタ改、離脱する」
クワトロの報告を受け、基地から離れる。先に下がったカラバ機も、交代でこちらを見ていた。Zが近くへ来たところで、俺は機体の状態をもう一度確かめた。背部の補助推進器が一基、出力を落としている。今すぐ変形して飛ぶより、地面を伝って下りた方が早かった。
ハヤトから、工作班全員が基地外へ出たとの連絡が入った。帰還確認の声が続き、少し間を置いて、山の上で光が膨らんだ。
建物の一つが持ち上がり、すぐに崩れた。続いて別の位置から炎が噴き、山肌に開いた入口へ煙が押し出される。遅れて届いた振動に、デルタ改の脚部が反応した。カミーユのZも足を止めかけたが、飛んできた石を見て再び動き出した。
「止まるな。下まで抜けるぞ」
振り返ると、まだ撃っている砲台があった。その向こうで施設が崩れ、砲身が傾いていく。基地のあちこちから上がった煙が、雲の下でつながっていた。
◇
アウドムラへ戻ったのは午後だった。収容を待つ間に、ディアスの左肩から外装が剥がれ落ちた。バーニィが慌てて機体を止め、整備員がその下を空ける。ディジェと百式にも傷があり、Zの盾にも新しい焼け跡が残っていた。
俺はデルタ改を固定し、推進器の異常を伝えてから降りた。ハヤトは戻った工作班を迎え、担架を運ぶ者へ通路を空けさせている。爆破の完了報告も届いていた。すべての施設がどうなったかまでは分からないが、基地の主要機能を止めたことは、地上からの観測でも確認できたという。
「アムロ少佐、車のところ、助かりました」
ヘルメットを抱えたバーニィが寄ってきた。俺は彼の肩越しにディアスを見た。剥がれた外装の下では、整備員が配線を調べている。
「お前が残ってくれたから間に合った。左腕は動くのか?」
「動きます。あのまま撃たれてたら分かりませんでしたけど。途中で見えなくなったんで、無茶してるんじゃないかって、シイコさんに怒られました」
近くで話していたシイコが顔を上げた。
「返事をしてから動いてよ。車の陰へ消えたら、こっちには何をする気か分からないでしょう」
「すみません。次は先に言います」
バーニィはそう答え、自分の機体へ戻った。クワトロはハヤトに声をかけ、作戦室へ向かっていった。まだ連絡しなければならない相手がいるらしい。
カミーユが降りてきて、格納庫の壁際へ腰を下ろした。俺も隣へ座り、ヘルメットを足元に置いた。二人ともしばらく話さず、整備員に呼ばれてから、ようやく立ち上がった。
シイコとディジェとナギナタってなんかいいですね
あ、結婚して夫とこどもは普通に生きてるし相方を亡くした過去なぞないので修羅にはなってません オールドタイプ最強格の女性です