キリマンジャロ基地を攻略したとの連絡が届いた頃、俺は研究艦の請求書を見直していた。アムロたちは無事で、機体には修理が必要だという。届いた内容を読んで返信を送り、隣で一覧を作っていたマウアーにも知らせた。
「地上の作戦は終わったそうです。こちらは、まだ返事待ちですか」
「二件、回答が来ました。医療用の消耗品は補給に載せられます。工作機械の交換部品は、在庫がある分だけ先に出すそうです。ただ、装置本体の方は担当部署で確認中です」
前に研究艦へ来た時から、必要だと言われていたものもある。現物を見せてもらうと、古い装置を調整しながら使っている箇所が幾つもあった。動いているから後でいいとされれば、いつまでも順番は回ってこない。
俺はゴップさんへ連絡を入れた。届いた資料を開いた彼は、金額の並ぶ欄をしばらく眺め、それから俺の顔へ視線を戻した。
『これは、次に何かあった時の分まで入っているな』
「入ってます。予備品が届くまで装置を止めるのは困るでしょう。こっちも戦闘のたびに補給へ戻れるわけじゃありませんし。現地で交換できるところは、できるようにしたいんです」
『ずいぶん遠慮がなくなったものだ。前は、今必要な分だけ先に、と言っていたが』
「その時の不足がまだ残ってるんですよ。管理はうちで続けます。だから、金と物も今のうちに確保したい。どこへ出せば一番早いですか」
ゴップさんは笑い、端末の向こうで別の資料を開いた。こちらへ回された連絡先は一つではなかった。治療・保護の継続に関わった者と、通常の軍用機材の補給に関わる者。どちらも、話を初めからやり直す相手ではないという。
『研究艦を動かした実績は、認めた側も手放したくない。軍の上では指揮系統の話が揺れ、各部局は自分の予算まで持っていかれまいとしている。必要性と使い道を出せ。今、実際に仕事をしている場所へ回すと言えば、押せる者はいる』
「では、この一覧を出します。人員の補充も入れていいですね。機材だけ届いても、扱う人が足りないところがあります」
『そちらも出しておけ。わしから話はするが、見積りの説明まで代わってやるつもりはないぞ』
「もちろんです。説明なら、こっちの担当者も出します」
その日から、マウアーの予定表には折り返しの連絡が増えた。担当者が替われば、同じ説明をもう一度することもある。俺は研究艦側の実務担当を呼び、必要な時には同席してもらった。
先に動いたのは、倉庫にある物の方だった。数日後には予備の電源部品と循環系の交換部品、医療用の消耗品が届き始めた。請求に戻した装置にも予算がつき、納入時期の調整へ進む。マウアーが一覧へ印をつけるたび、俺はまだ空いている欄を指した。
「こっちは、まだ出せますね。今回の便に間に合うものだけでも、載せてもらってください」
「はい。研究艦側の受入れ場所と、先方の積載量を確認します」
受け取る物が増えれば、保管する場所と作業する時間も要る。研究艦の通路へ箱を積むわけにはいかず、俺たちはレイブン側へ置く分も分けた。ジョブは届いた部品の型を確かめ、使えるものから交換の予定へ組み込んでいった。
◇
工作区画では、レゾルート用の取付部が形になっていた。研究艦の技術員が、保管していた兵装と機体側の記録を照合しながら作ったものだ。大型のビームライフルと、選んで取り付けるミサイルポッド。両方を同時に装備させるかどうかは、まだ決めていない。
試験の日程をシナプス少佐と合わせ、コウとキースには一時こちらへ回ってもらった。二人は図面を受け取るより早く、試験架に載ったライフルを見に来た。
「これ、機体から大きく突き出しますね。構えている時はよくても、持ち替える時に脚へ当てそうです」
コウは取付部だけでなく、銃を降ろした時の位置を見ていた。研究艦の技術員が可動する範囲を示し、ジョブがレゾルートの腕の動きと重ねて見せる。
「今は両手で扱う前提だ。通常のライフルと同じように振り回すと、機体を動かした分に腕がついてこない。まず低い速度で動かして、補正を合わせる」
「なら、射撃のあとで加速するところまで試したいです。構えたまま下がる場合と、片腕を空けて下がる場合で、かなり変わると思います」
「俺はポッドの方も見たいですね。撃ったあともこれを付けて帰るなら、空になった状態でどう動くかも。満載で動くだけじゃ分からないでしょう」
キースが図面の肩の部分を指した。クリスさんが二人の話を聞きながら、試験する順番を書き直す。俺はそばへ出ていた取付部を覗いた。機体へ固定するだけなら簡単そうに見えたが、腕を動かす位置まで考えると、そうでもないらしい。
「コウ、キース。二人がこれを持って出るなら、どこで使いたい? 実戦の組み方からも聞いておきたいんだ」
「味方が接近する前に、こちらへ向けている敵を動かしたいです。今の武装でもできますが、距離が開くと、相手がこちらを無視してしまうことがありますから」
「続けて撃てないなら、最初に撃つ場所はかなり選びたいですね。次が撃てるまで、誰と組むかも決めておかないと」
コウは射撃記録の一つを開いた。キースがそこへ別の場面を足す。武装の提案を持ってきた技術員も、二人がどこで困っていたのかを聞きながら、手元へ書き込んでいた。
その午後、俺は研究艦の観測区画で、コウのレゾルートがライフルを構えるのを見ていた。初めのうちは機体だけを動かし、次に砲口を標的へ向ける。思った位置で止まらず、小さく戻した際に行きすぎた。本人から調整の希望が入り、いったん帰艦する。
二度目に出ると、同じ動きがずっと小さく収まった。射撃後には銃身の温度が上がり、次を撃つまで間を置くことになったが、コウはその間も機体を動かし、構え直す時の引っ掛かりを確かめていた。
『前側の握りを、少し手前へ移せませんか。構え直すたび、肩まで引きつけることになるんです。戻ったら位置を見てもらいたいです』
帰艦したコウは、記録を渡すとジョブたちと機体の下へ入った。キースは次の試験に向けて、ポッドを空にした時の重さを確認していた。
◇
A.E.から届いた輸送便には、請求していた部品とは別に、大きな木枠が積まれていた。ガーベラ・リファイン用の追加装備だ。以前から送っていた運用記録を基に、A.E.側で試作を進めていたという。こちらへ来る便があるなら実機で見たいと返すと、技術員も一緒に来た。
今回の受入れ書類と評価項目を確かめ、枠を外すと、増槽を抱えた加速ユニットが現れた。機体へ取り付ける部分を先に確かめ、吊り具でガーベラの背部へ運ぶ。シーマ中佐は整備台の上から作業を見ていたが、収まる位置が決まると、自分も下りて横から眺めた。
「随分と背中が伸びるね。こいつを付けたまま、どこまで振り回すつもりなんだい」
「まずは接敵までの加速と、推進剤の余裕を増やす装備として評価します。近接戦へ入る前に切り離す使い方も含めてです。機体側の推進器と合わせた制御を見ていただきたい」
技術員が接続部を示し、ジョブと図面を確かめた。シーマ中佐は切り離し機構を覗き込み、何かあった時にどの順番で外すのかを聞いている。見た目の印象より、残る部品と外れる部分の境が複雑だった。
取り付けた状態での確認を終えると、艦外へ出す日を決めた。中佐は操縦席から見える表示を何度か試し、必要なものを目に入りやすい位置へ動かさせた。
初めの試験には、俺もアルコルで随行した。ガーベラがレイブンから離れ、指定された位置で止まる。A.E.側から確認が入り、背部の推進器が光った。
機体の表示が、予想していたより速く画面の端へ移った。俺はすぐ追わず、予定の位置を保つ。加速を終えたガーベラが向きを変え、機体側の推進器で減速する。停止するまでには普段より長い距離が要り、中佐はそこからこちらへ戻ってきた。
『加速を止めてからが長いね。こっちのつもりより、まだ前へ出たがる。次は短く吹かすよ。これだけ積んで、ずっとまっすぐ飛ぶわけじゃないんだから』
シーマ中佐は同じ出力で短く加速し、今度は早めに姿勢を変えた。動きが止まる位置を確かめると、少し間を置き、もう一度繰り返す。俺はアルコルを動かし、中佐がこちらへ機首を向け直すまでの位置を記録した。
切り離しの試験では、ユニットが離れたあとに、ガーベラの姿勢がわずかに流れた。中佐がすぐに直し、こちらへ機体を寄せてくる。A.E.の回収班が、離れた装備を追いかけた。
『切り離した直後、右へ持っていかれた。今の分、記録を出しておくれ。あたしの入力が残ってたのか、外れ方のせいなのか見たい』
「こっちからも撮れてます。戻ったら合わせましょう。装備を外したあとの動きはどうですか」
『そっちは悪くない。これなら追いかけてきた相手にも向き直れる。ただ、切り離す場所を選べない時に、今の癖が出るのは面白くないね』
帰艦後、中佐は技術員と記録を見直した。加速した時間だけを比べれば、はっきり違いは出ている。それでも本人は、切り離す前後の短い部分を何度も戻していた。
「ここを直してからもう一度だね。使い方の方は考えられそうだよ。味方がついてくる前に遠くへ行きすぎても、あたし一人で敵を抱えるだけだからさ」
技術員が頷き、次の試験までに見直す項目を挙げた。俺は評価分の記録を渡し、残りの調整はジョブたちに任せた。レゾルートの方でも、帰艦時に武装を扱いやすくするため、支持部の位置を変える作業が続いていた。
◇
研究艦へ来て一週間ほど経った頃、マウアーが新しい通信を持ってきた。アクシズからの面会申し入れだった。エゥーゴの使節を介さず、黒鴉隊と直接話す機会を持ちたい。そのために俺の来訪を求めるとある。名義はハマーン・カーンだった。
「連絡先と、受入れ可能な日程が添えられています。先方は大佐からの返答を待っています」
前に会った時の、最後のやり取りを思い出した。あの勧誘を冗談と思うな、と言われたのだった。今度の文面は会談の申し入れだが、彼女が何を聞きたいのかはまだ分からない。
ただ、あちらの動きは気になっていた。共和国との会談を終えても、アクシズ自身がこの先どうするかを聞けたわけではない。エゥーゴとの協力が成立しなかったあと、別の相手と話していてもおかしくなかった。
「会いましょう。先方へ返事をお願いします。こちらの試験予定と、移動の日程も合わせてもらえますか」
「承知しました。レイアム大尉と航路を確認します。試験の残りについても、日程を伺っておきます」
マウアーが部屋を出たあと、俺は届いた文書をもう一度開いた。前回の席で目が合った時の感覚は、今でも思い出せる。あちらからもう一度会いたいと言ってきたことを、俺は自分でも思ったより気にしていた。
返信に使う希望日を選び、マウアーへ送る。ほどなく試験区画から呼び出しが入り、俺は文書を閉じて格納庫へ向かった。
次回ハマーン再び
ここで先に告知しておきます遅くても11月20日までにはZ編完結します。
作品も一度完結にして数日置いてから続きを出します。名前は決まってますZZ編なので 続続・黒いガンダムの宇宙世紀 です。
Z決戦終了から作中日数がかなり短いのですぐZZ編になります。