モブの災難 作:キュウリ大好き人間
ある休日、俺は自分で作った手作りプリンを抱えて道を歩いていた。
普段から何かとお世話になっている叔母たちへのお裾分けだ。
一人暮らし歴がそこそこ長い俺は、家庭料理レベルならちょっとしたお菓子も含めて一通り作ることができる。
トボトボと歩いていると、前方に二人組の男が見えた。
そのうちの一人は、俺と同じような強烈な童顔の男だった。
「おっ、俺の仲間か?」と思って通りすがりざまに他の男との身長差を見れば……小さいとはいえ、百四十センチの俺からしてみれば十分にデカい。羨ましすぎて血涙が出そうだ。
その童顔男と、もう一人のやたらとガタイが良い青髪の男が何かを話している。
ぶつかりそうになったのでサッと身をよけた、その瞬間だった。
くんくん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。
「クンクン……何か、めちゃくちゃいい匂いがするな」
「え? そう言えば……何かいい匂いしますね。どこからでしょう……」
(ヒッ……!!)
その瞬間、俺の脳内で危険信号がガンガンに鳴り響いた。
長年の「モブの勘」が叫んでいる。早くここから逃げろ、と。
しかし一歩動くより早く、青髪の男がキョロキョロと辺りを見回し、俺とバッチリ目が合ってしまった。
男の目が信じられないくらいキラキラと輝き、その口元からダラダラとヨダレが溢れ出る。
森の猛獣たちと同じ、あの恐怖の「ご馳走を見る目」だ。
「これ、あんたが作ったのか!?」
迫力に押され、俺はとっさにコクコクと頷いた。
「あ、あぁ……俺が作った」
青髪の男は今にも俺のプリンに襲いかかりそうなほど食い入るように見つめている。
これは叔母たちの分だが、幸いにも自分用に作った余りが一個だけある。
俺は恐怖のあまり、とっさにそれを差し出した。
「あー……っ、これをどうぞ!」
「うおー! ありがとうな! いただきます!!」
男は物凄い嬉しそうな顔でプリンをパクリと口に入れた。
次の瞬間、男の目がカッと見開かれる。
「な、な、な、なんて美味さだ……!! これ、隠し味に蜂蜜が入ってるな!?」
「あぁ、この前もらったやつを使って作ったんだ」
そう、この前「呼ばれた気がして入った森」で迷子になった時のことだ。
一匹の巨大な蜂の猛獣が目の前に現れた。
相変わらず襲われはしなかったのだが、そいつは何を思ったのか、俺に蜂蜜を差し出してきたのだ。
最初は「いらない」と首を振ったが、受け取るまで執拗に付いてくるので仕方なくもらい、ついでに入り口まで案内してもらった。その時の蜂蜜だ。
俺の言葉を聞いた青髪の男は、顎が外れそうなほど驚いた顔をした。
「へぇー……これは『ハニードラゴン』の蜂蜜か……!」
ハニードラゴン? なんだその物騒な名前は。
俺はそんな名前は知らない。
「え? あの……ハニードラゴン蜂蜜?」
俺が首を傾げると、隣にいた童顔の男まで「えぇぇっ!?」とひっくり返りそうなほど驚き始めた。
……そんなに驚くことか?
俺からしたら、いつも森で会う奴らは顔が怖いしヨダレを垂らしてるし威圧感もすごいから死ぬほど怖いが、たまにこうやって物をくれる良い奴(?)もいる。それが俺の日常なのだ。
二人は信じられないものを見る目で俺を見つめ、何かを確信したように何度も力強く頷き合っていた。
そして青髪の男は、目をこれでもかとキラキラ輝かせて俺の肩を叩いた。
「あんたすげーな! 今度あんたのフルコースメニューを奢ってくれよ! あ、そう言えば名前なんて言うんだ? 俺はトリコだ」
え? あの超有名美食屋のトリコ……!?
っていうかフルコースメニューってなんだ? そもそもなんでそんなキラキラした目で俺を見てるんだ?
「あ、フルコースメニューって何かよく知らないが……まあ、機会があったらな、奢るよ。俺はモブって名前だ」
トリコは満足そうに頷いた。
何に対して納得したのかさっぱり分からんが、まあいいや。
「小松、これ本当に美味いぞ! 食べてみろ!」
「本当ですね! 美味しい……! それに蜂蜜をガッツリ入れるんじゃなく、隠し味として各層に少しずつ馴染ませているのでしょうか? 甘いのが苦手な人にも最高ですね!」
なんでひと口でそこまで分かるんだ。
恐怖。
小松の言う通り、叔母たちが甘すぎるのが苦手だから、本当にほんの少しだけ工夫して足したのだ。
プロの料理人か何かか?
「美味しかったぜ! 次は俺から行って何かお礼するからよ! じゃあな!」
「ありがとうございました。次は僕からも何か作りますね。あ、申し遅れました、僕は小松と申します。それでは!」
嵐のように現れた二人は、満足そうに去っていった。
……だが、あのトリコとかいう男、去り際に俺のことを完全に「ロックオン」したような目をしていた気がする。
……気のせいか。
フルコースだのお礼だの、何だか意味深なことを言っていたが……まあいいか。早く歩かないと叔母たちを待たせてしまう。
俺はプリンの袋を抱え直し、再び普通の日常へと歩き出すのだった。