モブの災難   作:キュウリ大好き人間

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第4話:占師の訪問と、深まる勘違い

 

今日はいつもより仕事が早く終わり、明るいうちに帰宅することができた。

 

「はぁ、疲れた……」とため息をつきながら、アパートの自室のドアを開ける。

 

――そこには、あり得ない光景が広がっていた。

 

「よっ!」

「お邪魔してます」

 

「…………」

 

俺は声も出ず、ただ口をぽかんと開けることしかできなかった。

 

我が家の狭い居間に、あの巨体の青髪男・トリコと、童顔の料理人・小松が当然のような顔で座っている。

 

そもそも、なんで俺の家を知っているんだ? 鍵は閉めていたはずなのに、どうやって入った?

 

怖い。

 

怖すぎる。

 

しかも、ちゃっかり自分たちで淹れたお茶を飲んでくつろいでいる。

 

「な、なっ、なんで……なんで知ってるんだ、俺の家……っ!」

 

俺は恐怖でガタガタとどもりながらトリコに訊ねた。

 

「あー、あんたの匂いを辿って来たらここに案内されたぜ!」

 

なんて鼻をしてやがる。ただの人間を匂いだけで追跡して家にたどり着くなんて、どんな警察犬だよ……。

 

「すみませんね、モブさん。勝手にお茶までいただいちゃって……」

 

「え? あ、まあ、お茶はいいんだけど……」

 

困惑する俺の視線が、部屋の隅で静かに佇む「もう一人の男」へと向いた。

 

そう、そこにはさらにもう一人、見覚えのない超絶イケメンが座っていたのだ。

 

高そうなスーツを身に纏い、いかにも知的で心優しそうな、大人の色気を放つ男だ。

 

「ごめんね、勝手に入っちゃって。えっと……君の名前は?」

 

「い、いや、大丈夫です! 俺は……モブと言います」

 

俺が名乗った瞬間、その心優しそうな男の目がスッと鋭くなった。

 

何かに深く驚いたような表情を見せる。

 

「……君がモブくんかい。トリコから聞いたよ。プリンの隠し味に『ハニードラゴン』の蜂蜜を使ったという……」

 

(また出た、ハニードラゴン……!!)

 

この前から気になっていたが、一体何なんだその名前は。

 

そもそも、なんでこの男もそんな有名人のお約束みたいな言い方をするんだ。わけがわからない。

 

「え? トリコがなんて言ってたのかは知らないが……確かに蜂蜜は入れたけど……」

 

俺がそう答えると、その男は何かを確信したかのように、真剣な顔で何度も深く頷いた。

 

……なんだその、すべてを見透かしたような真剣な顔は。普通に怖いんだけど。

 

「あぁ、すまない、自己紹介が遅れたね。僕はココ。よろしくね?」

 

「あぁ……よろしく、おねがいします……」

 

とりあえずペコリと頭を下げた。

 

(ココ……? どこかで聞いたことがあるような……。っていうか、トリコと知り合いってことは、まさかこの人もとんでもない有名人なんじゃ……!?)

 

なぜか四天王の二人、そして一流の料理人に自宅を特定され、完全に囲まれてしまった。

 

モブの平穏な日常が、音を立てて崩れ去ろうとしていた。

 

 

 

【ココ視点】

 

トリコから「ハニードラゴンを従える140センチの男がいる」と聞いて半信半疑で連れてこられたが……。

 

目の前にいるモブくんと対峙した瞬間、僕は背筋が凍るような衝撃を受けていた。

 

僕の目は、生き物の発する『電磁波(オーラ)』を見ることができる。

 

普通、彼ほどのレベルの強者であれば、どれだけ隠そうとしても凶悪なオーラが周囲に漏れ出すものだ。

 

だが、モブくんからは――人間としての気配すら、完全に『ゼロ』なのだ。

 

気配を極限まで遮断する暗殺の達人か、あるいは自身の力を分子レベルで完全にコントロールしきっている超大物。

 

僕の挨拶に対しても、彼は一切の覇気を見せず、ボソリと呟いた。

 

「あぁ……よろしく、おねがいします……」

 

声に動揺はない。

 

その瞳の奥は、僕たちの奇襲(訪問)を最初から予期していたかのように、冷徹なまでに静かに凪いでいた。

 

(……モブ。底が知れない人間だ。トリコの目に狂いはなかったね。もし彼が敵に回れば、四天王総出でも勝てるかどうか……)

 

僕は手のひらに冷や汗が流れるのを必死に抑えながら、この未知の人物を決して刺激しないよう、慎重に言葉を選ぶことを心に誓うのだった。

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