ゼロは悩んでいた。
どうしたものか、どうするものか。うーんうーんと一人で頭を抱える。
ゼットがゼロに弟子入りを申し込んでからどれほど時間が経っただろう。
何度も何度も、弟子じゃねぇ、認めてねぇと言い続けるのに、誰も聞いちゃいないし、思い切り外堀から埋められて。
いつの間にか、ちゃっかりしっかり名実ともに弟子入りしちゃってたあいつ。
思い出したら腹立ってきた。あとで組手と称してボコろう。
それはそれとして。
腹の立つ言動もおかしな言葉遣いも治らないままここまで来たわけだが、それももういい。
一人で自分の中のハルキと喋って不審者となるのも、もうみんな慣れたものだ。
そんなことで悩んでいるのではない。そうだ、もっと大事なことで悩んでいる。
あの頃と比べて遥かに成長……した?ゼットのこれからだ。なっちまったからには師としてしっかりしなければと色々考えて接してきたわけだ。
そんなんだから、実は面倒見がいいと見抜かれて断っても断っても弟子入り志願のゼットが諦めなかったのだが。よし、3本組手にしよう。3回ボコる。
って、そんなことでもない。
大きく成長……たぶんしているゼットはもう一人前と認めてやってもいいと思っているのだ。言わないが。肩を並べて、背中を任せて戦えると思っている。言ったら絶対に調子に乗ってうるさいから言わないが。
伝え方で悩んでいるのか?いや違う。ゼロが悩んでいるのは更にその前だ。
しばらく前から、ウルトラ兄弟No.5、ウルトラマンエースの名付け子にして、あのウルトラマンゼロの弟子、と認知されたゼットは当然のように将来を嘱望され、地球を守ることで力を示し、その後も研鑽を積み、今では危険な任務が増えた。
まだゼロよりは少ないが、それでも危険度の高い任務を任されることが増えたのだ。
当然、怪我をして帰ってくることも増えた。
それでもゼットはニコニコしながら言う。
「ゼロ師匠の一番弟子として!喜ばしいばかりですな!」
もはや弟子じゃねぇと返すのもバカバカしくなるほどまっすぐにそう言うのだ。
“ウルトラマンゼロの弟子なのだからできるだろう”という意図を知ってか知らずか、“ウルトラマンゼロの弟子として成長したウルトラマンゼットならできるだろう”と脳内変換しているようだ。いいことなのか微妙なところである。
その件で上に掛け合ったこともある。
ゼットはまだ未熟で力不足。見合った任務につかせろと。
それでも返ってくるのは、「お前の弟子だろう」。
ウルトラマンゼロの弟子。それが重荷になっているような気がするのだ。
一途に慕ってくるゼットは可愛い後輩で、認めたくなかったが何故か今では弟子だと認めてしまっている。
だから、そんなことで潰したくはない。
せめて何か助けになれないか。いや、いつも助けているような気がするな、それはやめとこう。甘やかすのは良くない。
なら、なにか助けになるようなものを渡すか。調子に乗りそうだが、それがいいかもしれない。
自分も、師匠のレオにマントをもらったときは嬉しかったし、大事に手入れをしながら使っている。離れていても、守られていると安心して戦える。
調子に乗ってしばらくウザくなる弟子への対応と弟子の未来。天秤にかけるまでもない。それにウザいのはいつものことだ。
せっかくなら喜ばれるものを贈りたいが、やはりマントだろうか。
長くなったがつまるところ、ゼロの悩んでいることというのはこれだ。
ゼットになにか役に立つものを贈ってやりたい。だが何を贈ったらいいか分からない。
レオはどうやって贈り物をマントに決めたのだろう。もし、自分がゼットにマントを贈るのなら……。
とりあえず、師匠のことは師匠に聞くのが一番だ。
「よし」
ゼロはがたりと立ち上がって体を伸ばし、レオのところに向かった。
「何?なんでお前にマントを贈ったか?」
「あぁ」
「珍しい。どうしたんだ、急にそんなことを聞いて」
「え、いや……その、き、気になっただけ」
モゴモゴと歯切れの悪いゼロに何かを察して、ほう、とレオは笑う。
「そうだな……まず、お前に危険な任務が増えたからだ。どんなに強くなっても、絶対はない。身を守れるものの一つもあったほうがいいかと思ってな」
ふむふむ、と心の中にメモしておく。自分が考えていることと同じだと思うと同時に、あの守られている感覚が気の所為ではなかったと感じて少しくすぐったい。
「その上でお前の動きを邪魔しないものであること。静か動かで言えば、お前は明らかに動だからな。その動きを邪魔するような重さや硬さはいらない」
なるほど、ゼットのやつも基本ガンガン行くタイプだ、理にかなう。
「それから」
「まだあるのか?」
「マントだと暖かい」
「は?」
ぽかん。今、俺たちは一体何の話をしていた??あれ??
その疑問が顔に出ていたのか、レオが答えを教えてくれる。
「体を冷やさないことは大事だ。体が冷えれば筋肉が固くなる。そうしたら動きも悪くなるし、いらん怪我をするリスクも出てくる。特にお前は隊長……セブンの息子だからな」
「そういえば親父、寒いの苦手だったな」
「そういうことだ。マント一枚あればなかなか便利だぞ。ゼットに贈ってやれば喜ぶだろう」
「そうかな……って、別にゼットにやるなんて言ってないだろ!ゼットが寒いの苦手とか特に聞いたこともないし!」
納得しかけて、はたと首を振る。
「そうか?俺のところにわざわざマントのことを聞きに来るのだからてっきりゼットに渡すのだと思ったのだが」
真面目な顔で目が笑っていた。
引っ掛けられたとバツが悪くて目をそらす。
「お前も相変わらず素直になれないやつだな」
「うるせ」
「随分と師匠らしくゼットを気にかけるようになったじゃないか。あれだけ嫌がっていたのに直談判までしに行って」
「仕方ないだろ、なんかそうなっちまったんだから。なったからにはできるだけのことはちゃんとするさ」
師となった弟子の成長を見て喜びを噛みしめるレオ。その視線もゼロにはどこか面映ゆい。
「で、どうするんだ?マント」
「あー……」
素直に、ゼットに贈るマント、を認めたくないのか未だに渋りつつ、ゼロは頭を抱える。
「そんなに難しく考えることもないだろう」
「まぁそれもそうなんだけど……マントをやるなら考えてることがあって……」
ボソボソゴニョゴニョとらしくない声で机に突っ伏す。
「あのさ、レオにもらったあのマントをゼットにやってもいいか?」
それは意外だったのか、レオが目を丸くした。
「別に気に入らねぇとかじゃねぇからな!?」
「それは分かっているが」
むしろ、あれだけ喜んであれだけ丁寧に手入れをして大事に大事に使ってくれていたのだ。そこを疑うわけがない。
「その……あのマントならずっと俺を守ってきてくれてたわけだし、きっとゼットのことも守ってくれるんじゃないかって……他のどんなマントより信用できるっていうか……だから、その……だめか……?」
突っ伏した状態から顔を上げて、上目遣いにレオを窺うゼロ。人から想われて貰ったものを、自分がそうしたいからとあげてしまうのは気が引けたのだろう。
「ほんとはこんなこと言うのおかしいかなって思ったんだけど……やるんならこのマントがいいなって」
「ゼロ。お前がそういうのなら俺に異論はない。そこまで考えて手放そうというのなら構わないし、そこまで想われるものを贈れて俺も幸せだ」
てっきり、怒られるか反対されるかと思っていたゼロは、ほんとにいいのか?と体を起こしてレオに向き直る。
「あぁ。それほどまでにあのマントを信用してゼットに託そうというのなら俺に異論はない。俺のことは気にせず、お前の好きなようにしろ」
ならばゼロには新しいマントが必要だな、と心算を計る。
適任がいる。誰よりも何よりもゼロを守りたいという想いが強い男が。彼に新しいマントのことを耳打ちしておこう。
後日、コロシアムにゼットを呼び出し、決めていた通り三本組手できっちり3回、弟子をボコるゼロ。
「いってて……さすが師匠、鬼のように厳しい組手でございましたですよ」
「あぁん??まだまだだな、ゼット。そんなんじゃ一人前って認められねーぞ」
本心とは逆の辛口な批評を口にしてしょぼくれるゼットを見下ろす。
「一人前にもなりきれねーまだまだなお前はこれを使ってしっかり鍛錬するんだな」
柔らかい袋をぐいとゼットに押し付ける。
「え?なんでございます?まさかの師匠からのプレゼント!?うわ、感激!!」
体の痛みも忘れて天にも昇る気持ちを全身で現しつつ、感涙にむせぶ……
(あれ……?こいつほんとに泣いてない……?)
俺はこいつの中でどんな冷血漢扱いされているんだともう一回しばき回したくなったが、ここはぐっと堪える。
「師匠!開けてみてもいいですか!!!」
疑問符はまっっったく見当たらなかった。
「少し落ち着け」
一応言ってみるものの、ゼットの耳には届いていないらしい。声の勢いとは裏腹に袋からそっと取り出されたゼットの手に、青いマントが握られる。
え、とゼットが固まった。
「ぜ、ゼロ師匠……?これって……」
口が動いていたら、金魚のようにパクパクと動いていたかも知れない。
「それを使うからには、余計な怪我なんかするんじゃねぇぞ」
「し、師匠ぉっ!?」
今度は完全に声がひっくり返っている。忙しいやつだ。
「だ、だめですよ、師匠!レオ大師匠から頂いた!大事なマント!!」
「レオからの許可は取ってある。いいな、危険な任務が増えたからって怪我まで増やしていいわけじゃねぇんだから、ちゃんと気を引き締めて」
「師匠ーー!!!!!」
ぐえっ、と変な声が出た。自分より軽いとはいえ図体のでかい男にタックルされたらそんな声も出ようというもの。
「ありがとうございますぅぅぁぁ!!この!不肖ゼット!!これからも師匠の顔にドロを……ドロ……ドロをぶつけないよう全力で任務を成し遂げちゃう所存なのです!!」
『ゼットさん!泥を塗らないように!です!!』
黙ってやり取りを見守っていたハルキが、やっべぇ!と言わんばかりに訂正を叫んでいるが、感無量なゼットには聞こえていない。
突然の泥をぶつける宣言にぽかんとしたゼロもハルキの声で意味がわかったようで、頭を抱えてしまう。
「お前ってやつは……」
「師匠!!似合いますか!師匠ほどではないにしても!似合いますよね!!」
さっそくマントを羽織ってハイパーハイテンションに喜んでいるゼットに怒る気力もしぼんでしまった。
「はぁ……まぁいい。ゼット」
真剣な声音に、ピシッと姿勢を正してゼットは大人しくなる。
「それがあるからって無茶はするな。無茶するためにやるんじゃないからな。余計な怪我をするな。危険度が高い任務が増えてるとはいえ、怪我が多すぎる。気をつけろ」
「は、はい……すみません」
ハイパーハイテンションが嘘のように萎れていく。
「まったく。そんなに怪我ばっかりしてるやつに背中なんか預けられねぇからな、気をつけろよ!」
勢いに任せて、ゼットを一人おいてゼロはコロシアムの出口に向かう。
「それはつまり……怪我をしなくなれば背中を預けてもらえる、と、そういうことでございますかな……?あと、気のせいでなければ心配されていたような……?」
『そんな感じに聞こえたっすね』
ハルキの全面肯定に、ゼットのテンションは跳ね上がった。
「よーし!怪我なく任務遂行!達成!師匠の背中をお守りできるよう!ウルトラ頑張るぜ!!!」
そんな声を背中で聞きながら、まぁ怪我が減るならなんでもいいか。と内心ため息をついた。
それに、あれだけ喜ばれては、もう何も言えない。
「得なやつだなぁ」
父と暮らす家に帰って、騒がしい弟子の喧騒を思い出して、ソファに座ってマントを収納していたブレスレットに触れる。
当然、もうその中にマントはない。
後悔はしていないが、ほんの少しだけ寂しい気がした。
「ゼロ」
「ん?なんだ?親父」
ほら、と、包みがセブンから差し出された。
「?なんだ、これ。開けていいか?」
聞きながらも、なんとなく感触がゼットに渡したそれに似ている気がした。
包みの中から、見慣れた青色が顔を出す。
「これって……」
「お前がゼットにマントを譲るという話を聞いてな。それならと用意したんだ」
色合いも付いている金具も、ゼットに譲ったそれに酷似しているが、何倍もキラキラと輝いているように見えた。
輝いて見えるのは、昔と違って、マントを贈られる意味を知っているからかもしれない。
「これ、俺がもらっていいのか?」
「当然だ。そのために用意したんだから。お前だって生傷が絶えないんだから、それを使いなさい」
父親からの[[rb:マント > 想い]]を大切そうに抱きしめる。
可愛いこの子が痛い思いをしないように。大事なこの子が苦しい思いをしないように。愛しいこの子が、無事に生きて帰ってくるように。
「ありがとな、親父。大事にする」
「あぁ。俺もレオも、他のみんなも、お前の、お前たちの無事を心から願っていることを忘れるな」
こうやって、守り守られる歴史が紡がれていく。この暖かさを知っているから、地球を、他の星を、この宇宙を守りたいとみんなが願う。
その温もりが大切で愛おしいから守るのだ。
そんな彼らだから、人は彼らをウルトラマンと呼ぶ。