想いの青   作:輝波斗

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マントの青は愛の色

 俺が生まれたぞ!と世界に主張するように、元気な産声が壁や天井を超えて空に響く。

「あぁ……」

 無事に、元気に生まれたのだと知って、命の尊さを知る赤い戦士が安堵の息を漏らした。

 ようやく、子どもに会える。

 息子だろうか、娘だろうか。どちらでもいい、元気に生まれてきてくれたのだから。

 早く会いたい。

 子どもと母親のための部屋に足が急ぐ。

 シュン、という扉の開閉音の向こうには、子どもが入っているであろうカプセルと、ウルトラの母が待っていた。

 母親である“彼女”の姿を探すが、その部屋の中に彼女はいない。別の部屋で休んでいるのだろうか。

「ウルトラセブン」

 呼ばれて、ようやくウルトラセブンの目がウルトラの母に向く。柔和ないつもの笑みより少し硬い表情をしているように見え、セブンの胸を小さな不安が走った。

「おめでとう。元気な男の子ですよ」

 ありきたりだが、心底嬉しい言葉をかけられたことで不安は拭い去られて相好を崩す。

 やはりこの子は元気に生まれてきてくれたのだ。それが何よりも嬉しく、誇らしい。

「さぁ、会ってあげて」

 胸にこみ上げるものに立ちすくんでいると、ウルトラの母にそう促され、ようやくカプセルへと歩を進める。

 光の国に響き渡れと言わんばかりの大きな産声をあげたとは思えないほどに小さな体。青い布の間から覗く、まだ銀の色が強い小さな体には、確かに赤と青の2つの色の兆しがある。自分と彼女の色だと嬉しくなる。

 頭には小さなスラッガーが2つ。あぁ、こんなところにも自分と似たところが。自分のかけらがこの子に確かに宿っている。

「ゼロ」

 彼女と決めた名前を呼ぶ。すべての始まり。新しい光。

 初めて呼ばれたその名前に、確かにゼロはセブンを見た。

 まだほとんど見えていない、認識もできない目で、確かに息子は父親と目を合わせた。

 小さな小さな命が入ったカプセルをゆっくりと抱き上げる。

 突然の動きにも、小さなゼロは不安に泣くこともなく父親の腕に大人しく抱かれる。

「あなたがお父さんだと分かっているみたいですね」

 そう言われて胸が熱くなる。

 俺が、父親なのだ。

 そう自覚する。これが父親になるということか。

 この子を守らなければ。この子が大事だ。愛おしいのだ。

 この日覚えた感動を、誓いを永遠に忘れることはないだろう。

「ゼロ。無事に生まれてきてくれてありがとう。お前の最初の声が[[rb:宇宙 > そら]]まで聞こえたぞ」

 さすが、俺の息子だ。

 そう囁く。

 まだ赤ちゃん語のお喋りも笑ったりの感情表現もできない生まれたてのゼロがじっとセブンを見つめて、手をニギニギと動かした。まるで、手を握ってくれ、というように。

「この部屋でなら手を入れるくらいはできますよ」

 手に触れたいと思ったセブンを見透かすようにウルトラの母がそう告げると、嬉しそうにしながら恐る恐るカプセルを少し開けて手を入れる。

 まだ直に抱くことができないのを少しがっかりしながら、ニギニギと動くゼロの手に指を絡ませた。小さな手が一生懸命指を握ってくる。

 思ったより強い力に驚きながら、命の強さそのものを指で感じる。動いているのを見るだけで、何度でも感動できた。

 俺の息子、なんて可愛いんだ!

「セブン。少し話があります。その子の母親のことで」

 セブンが感動に完全に飲まれそうになる前にウルトラの母がそう声をかける。

 硬い声音に、さっきまでとは別の緊張を覚えつつ、ゼロのカプセルを下ろして別室へと移動した。

 

 

 しばらくしてウルトラの母の許可も降り、ともに帰ることができない青い彼女がいない家に、ゼロを連れて帰ってきた。

 まだ家の外ではカプセルに入ったままでなければならないゼロと二人だけの家はとても広い。

 自分の光を少しずつ分け与えながら、二人だけの家を見回す。

「広いな、ゼロ」

 ポツリとそうこぼす。

 ゼロは青いおくるみを握って放そうとしないまま、セブンの指をニギニギしている。お気に入りの遊びになったようだ。相変わらず力が強い。

 さすが、俺の息子だ。

 小さな発見を見つけるたびに、喜びと誇らしさをのせて、ゼロにそう語りかける。

 青いおくるみを放そうとしないのは、それが母親の色だと知っているからかもしれないなとなんとなくそう思った。

 銀色は泣く。赤もぐずる。青色だけが、ゼロを機嫌よくさせて包んでくれている。

 母親とともに過ごせないゼロにとって、唯一母を感じられるのが青という色なのかもしれない。

 彼女が得られない幸せを、複雑な思いで享受する。ともにあれる幸せと、自分だけがその幸せを感じる罪悪感。

 ゼロの出生はまだ公には知られていない。知っているのは大隊長ウルトラの父と銀十字軍隊長ウルトラの母、隊長のゾフィー、親友のウルトラマン、そして弟子のレオ。これだけだ。

 皆、祝福してくれた。

「この子が戦士を志すなら、お前が鍛えてやってくれるか、レオ」

 ゼロが生まれる前、冗談7割本気3割程度でそんな話をして、生まれてからも顔を見せた。母の腕のような青いおくるみに包まれた小さな可愛い息子。

 真紅のファイターの息子だ。強い戦士になるだろうが、戦わない道を選ぶならそれもまたいい。だが、戦う道を選ぶのなら、ともに成長をより近くで見てほしい。

 そう願った。自分が育てた弟子だからこそ、より近くで息子の成長を見て、導いてやってほしい。

「俺でいいのですか?セブン」

「あぁ」

 そんな約束一つで、幸せな気持ちになる。未来の約束はそのまま、未来があるということになる。

 たくさん、約束をしよう。

 その約束を、お前ごと守ろうと。

 だが、その後すぐのことだ。

 ゼロと、愛する息子とともに暮らすことができなくなったのは。

 物心つく前に、ゼロはセブンのもとから離れざるを得なくなった。

 

 

 一人ぼっちで過ごすゼロをずっと遠くから見守ってきた。

 とても優しい子に育ったゼロ。少し荒っぽいところはあるが、それを差し引いてもとても優しく、真っ直ぐに育った。

 しかし、真っ直ぐゆえに、寂しさと家族への憧憬と、家族がいないことへの劣等感と、様々な感情がない混ぜになって、その手は強い光に伸ばされた。

 あの事件。忘れることはない。自分とあの子と、あの子を守りきれなかった大人たちの罪業の日。

 禁忌を犯した息子への苛立ちと失望と怒りと、無事だった、間に合ったことへの安堵。

 禁忌を犯させてしまった自分たちへの怒りと不甲斐なさと、息子への申し訳無さ。

 そんな感情から、ゼロを突き放すような言葉をかけてしまった。

 深く深く悔いるセブンを前に、レオが声を上げる。

「ゼロの更生は任せてほしい」

 驚きの目と胡乱げな目がレオに向く。

「必ず、立派な戦士にしてみせる」

 ゼロの面倒をレオが見ることが決まって解散した後、セブンがレオに近づく。

「なぜ……」

 未遂とはいえ罪人となってしまった彼を。

「約束したからです。セブン、あなたと。あの子が戦士を志すなら俺にとあなたは言ってくれた。だから、俺はそのあなたの意志をあの子に伝えることが役目と思っています」

 俺が、あの子を守り、導きましょう。表立ってそれができないあなたの代わりに。俺はあなたの弟子ですから。

 真っ直ぐに煌めく獅子の瞳が揺らがないのを見て取って、セブンは一言絞り出した。

「あの子を、頼む」

 レオは万感のこもったその言葉に、力強く頷いた。

 

 その言葉通り、ゼロは光の国の英雄と謳われる戦士になった。汚名は雪がれた。

 父と名乗ったセブンは飛び立っていくその背中を誇らしげに見つめる。

「セブン」

 レオに呼ばれて振り返る。

「せっかく親子として過ごせるようになったのですし、ゼロにマントを贈ってはどうでしょう?もう一端の戦士ですから。成長の証ということで」

「そうだな……」

「あなたから贈られれば、喜びますよ」

 黙って何かを考えるセブンに答えを急くことなく、じっとレオは言葉を待つ。

「………そういうことなら、俺よりもお前から贈ったほうがいいだろう。戦士としてあの子を育てたのはお前だ」

 守ってやれなかった父を父と呼んでくれるだけで自分には過ぎたことなのだ。これ以上を求めてはいけない。

 そう自戒する。

 自分に厳しすぎるほど厳しい師をなんとも言えない顔で見つめるレオ。

「では、あなたが自分でゼロにマントを渡せるようになる日まで、俺からのマントを使ってもらうとしましょう」

 それもまた、一つの約束。

「………あぁ。そうだな」

 そんな日が来るかは分からないが。それを願っていいのかも分からないが。

「そうだ、レオ。一つだけ俺のわがままを聞いてくれるか」

「はい?」

 少しだけキョトンとするレオに、セブンはどこか寂しげに笑う。

「色は、青にしてやってくれ。あれは青が好きだろうから」

 幼い頃に、ゼロが絶対に放さなかった色を二人で思い出す。生まれたばかりのゼロを守るように包む、青。

「彼女もまた、あの子を守りたい一人だ」

 一瞬目を丸くして、レオは頷いた。

「分かりました。では、マントの色はとびきり綺麗な青にしましょう」

「あぁ、頼む」

 可愛いあの子が痛い思いをしないように。大事なあの子が苦しい思いをしないように。愛しいあの子が、無事に生きて帰ってきますように。

 そう望むのは、父であるセブンや師であるレオ、叔父である兄弟たちだけではない。

 会うことも叶わない青い彼女もまた、その一人なのだから。

 それは母の青で、お前を守るための色なんだ、と。お前は生まれたばかりの頃からその色を絶対に放そうとしなかったんだと。

 いつかそう伝えてやれる日が来ればいいと願う。

 ゼロを守る青は、父の愛で、師の愛で、母の愛でもあるのだ。

 そして、その青がいつかの未来に、ゼロが紡ぐ歴史に受け継がれていくことになるのだが、そんなことはまだまだ、誰も知らない未来の話だ。

 




 凄まじい捏造の嵐。まぁ途中から何書きたかったか迷子になった感はある(小声)
 タグにゼロ付けてるけど、ゼロは喋りません、バブゼロちゃんなので。

 ゼロの出生や母親については絶対書かないだろうな、と思っていたはずなんですがねぇ……直接的な明言は避けているつもりです。
 レオはなんでゼロに青いマントを贈ったのかな、とふと思いまして。
 自分と同じ白は渡さないのはなんか分かるけど(キングからもらったマントって話ですし)、父親とお揃いの赤でも良かったのでは?と思ったんですよ。
 単に青のほうが似合う説、赤だとブラザーズマントに準じてしがらみやらなんならが説とか考えたんですが、こじつけて捏造してこねくり回した結果、セブンやレオが初めて生まれたばかりのゼロを見たときに青いおくるみをしていたのでは??というところに帰着し、こんな感じになりました(笑)
もっと長い話になるかと思ったんですが、意外と短くまとまりましたね、よかったよかった(笑)
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