「……まぁ、ともかくだ。まどろっこしい話は抜きにして、早速私の作品の話をしようじゃあないか」
自己紹介もそこそこに、自らを
「それで、その刀が例の戎具って事で良いのか?」
「フーム、厳密に言うならば、従来の虚狩る戎具とはある部分において一線を画しているのだが、説明は後でいいだろう。まずは手にとってみたまえよ」
ワイズマンに促されるまま、刀掛けに安置されたソレへ手を伸ばす。鞘越しに伝わってくる感触は思いのほか軽く、拍子抜けするほどだった。
柄を握り、そのままゆっくりと刀身を抜いてみる。
刃長は70センチほどの細身の刀身。切先から峰の中頃までにかけて両刃剣のような造りになっている。いわゆる
吸い込まれるような鏡の刃には、穏やかな波のような白い刃紋が何重にも重なっている。武器というよりも、むしろ一種の芸術品を見せられているような錯覚すら覚えた。
「美しいだろう?……フム、どうやら拒絶反応は出なかったようだね」
「……ああ……って、はい!?拒絶反応とかあるなら先に言ってくれないか!?」
思わず声を荒らげると、隣にいた准将が僅かに眉をひそめた。
「……ワイズマン」
「ハイハイ、悪かったよ」
レイエス准将の咎めるような視線に肩を竦めて答えるワイズマンだが、その顔色には一切の反省が伺えない。
「俺こいつ嫌い」
「落ち着け、大佐」
「ハハハ、偉大なる者はいつの世も反感を買うものだね」
この場で切り捨ててやろうか、コイツ。
刀を握った手に、無意識に力が入る。
「ところで君たち、従来の虚狩りの欠陥について理解しているかね?」
「……あ?」
その言葉に、思わずワイズマンへ視線を向ける。
ベリオラさんとレミエールが欠陥だと?
「おっと、気に障ったのならすまないね。現存している虚狩る戎具と、その運用方法についての欠陥と言い換えようか」
「……」
どうやら俺が何を思ったのかは伝わったらしい。とはいえ、今の言い方では誤解するなという方が無理がある。
「分からんかね?まず第一に戎具側の問題点として、一つ挙げるなら代償の存在だ。虚狩る戎具はいずれも使用者に人智を超えた強力な恩恵をもたらすと同時に、決して無視できない代償を要求する」
ワイズマンが語る言葉を聞きながら、俺は手にした刀へ視線を落とした。
分かりやすい例ではレミエールの戎具であるタウミエル。確か時序の力だったか。時間をある程度操る力があったはずだ。それほど強力な力であれば、一体どれほどの代償を要求されたのだろうか。
「第二に、結使化についてだね。そもそも、虚狩る戎具は成り立ちからして不明点が多いが、恐らく共通しているのはいずれも始まりの主とやらの権能を切り分けて、その能力としているそうだね。故に使えば使うほどに、始まりの何某の御使いたる結使へと近づいていくと言う事なのだろうが……その辺りのスピリチュアルは私の専門外なのでね。
「そこは丸投げかよ」
「専門外なのだから仕方あるまい。専門家に聞くのが一番だろう?」
悪びれる様子もない。
「そして、これらの問題を総合的に表現するならば、そう――」
ワイズマンはそこで一度言葉を切った。
そして、何故か妙に勿体ぶった様子でこちらを見る。
「―――虚狩りの耐用年数、短すぎるんじゃね問題」
「……」
「…………」
レイエス准将までもが無言になった。
分かってはいたことだが、やはりこうして言葉にされると酷い話である。
求められる代償によっては、虚狩りとして活動できる期間はそう長くない。英雄と呼ばれる者たちが、その力を振るうほどに終わりへと近づいていく。
ワイズマンはそんな現実を、まるで笑い話でもするかのように語っていた。
「だが!安心したまえ!この問題を解決できる可能性を秘めた最高傑作を作ったのが、この私!ワイズマンというわけさ!」
「……」
その妙な自信だけは、どこから湧いてくるのだろう。
「改めて、その刀の銘は『
「…壊れないのは良いんだが、何というか……こう」
「……凡人が言いたいことなど理解できる。地味だと言いたいんだろう?だが、その不壊の力が使用者にも効果があると言ったら、どうかね?」
「……わお」
思わず間の抜けた声が漏れた。
「何だと……!」
隣から聞こえた准将の声には、明らかな驚きが滲んでいる。
「キミが断漄をその手に取った時点で、その刀はキミの情報を記憶した。これから先、キミはほぼ老いることは無く、どんな重傷を負っても瞬く間に回復するだろう」
刀身へ目を落とす。
さっきまでただ美しいだけに見えていた刃が、急に得体の知れないものへと変わった気がした。
「それは……あまりに都合が良すぎるのでは?」
「もちろん、注意点もいくつかある。負傷による傷はすぐに癒えるが、痛みやショックはキミ自身で耐える必要がある。また、その不壊の能力はあくまで断漄の能力であって、キミの能力では無い。この意味が分かるかね?」
「一々クイズにしないと気が済まないのか?」
「……フン、つれないね」
ワイズマンは眼鏡の位置を直しながら、どこか楽しそうに笑った。
「いいかね?不壊の能力にも出力上限というものがある。キミが短期間で瀕死の重傷を負い続けたりなどした場合、その力は本来の持ち主たる断漄を守ることに注力するだろう」
そこで一度言葉を切り、ワイズマンは刀へと視線を向ける。
「その際に君が負った傷は、能力の出力が戻るまで癒えることは無い。そして、不壊の現状維持能力によって副次的に停止していた結使化についても、爆発的な速度で進行するだろうね」
「……!」
背筋に、冷たいものが走った。
つまり、この刀は俺を不死身にするわけではない。
あくまでも刀自身を守るために、俺の命を後回しにすることがあるということだ。
「人類の英雄が一転、不死身の化け物が完成。なーんて笑い話にもなりゃしないからね」
軽口のような言い方だった。
だが、その言葉の裏にある意味だけは嫌というほど理解できた。
「何にせよ!不壊の力こそが断漄の恩恵にして代償!キミはこれからそのヒトの尺度ではあまりに永い一生をかけて、人類の英雄たるを体現していく事になったワケだ。おめでとう!」
「貴様……ワイズマン!」
今まで黙って話を聞いていた准将が、ついに声を荒らげてワイズマンへ詰め寄った。
その顔には、先ほどまでの冷静さがない。
「いいかね?民衆共は気付いてしまったのさ。虚狩りもまた人なのだと!人である限り終わりが来る!私たちは終わりの見えた英雄になど用はない。求めるのは、ただ恒久的に我々の安全を守ってくれる、終わりなき英雄なのだと!」
「それは……市政の望みでもあると?」
俺が呟くと、ワイズマンは満足そうにこちらを見た。
「ご想像にお任せするよ、大佐」
そのまま一通り語り終えたらしいワイズマンは、満足した様子で出口へ向かって歩き始める。だが扉へ手を掛けたところで、ふと思い出したように立ち止まった。
「ああ、そうそう。先程も言った事だが、その刀の能力はあくまで壊れない事だ。それ以外はよく斬れる刀でしか無いのであしからず」
振り返ったワイズマンが、口元を歪める。
「だが、問題無いだろう?なんせキミには無限に等しい時間と残機が与えられたのだから……文字通り、死ぬ程鍛えれば何だって出来るとも!」
それだけを言い残して、ワイズマンと名乗った男は部屋から消えていった。
残された俺と准将の間に、妙な沈黙が落ちる。
手の中には断漄。
それは、これから先の俺の人生を大きく変えることになる一振りだった。
「……オキタ大佐、良かったのか?」
「ええ……癪ですが、ヤツの言う事には一理ある」
俺は手の中の刀を見つめる。
虚狩りの喪失によって、人々は英雄という存在そのものに疑問を抱いた。
エリー都に
俺は喜んで