読みにくかったらすみません。今後視点の変更がある際は前書きにてお知らせします。
リンドウが虚狩りとなって100年以上が経過したある日。
今となっては旧都と呼ばれるかつてのエリー都の威光もそこそこに、新エリー都と名を改めた其処は今もなお人類最後の都市として輝き続けていた。
旧都陥落の大災害。その折、零号ホロウが拡大し、旧都プルートー区とミネルヴァ区を呑み込まんとするその裏で、もう一つのホロウが蠢いていた。
PL-0359という味気のない識別名で呼ばれていた超小型の共生ホロウが零号ホロウの拡大と時を同じくして急拡大の兆候を見せた。
拡大開始からものの数時間で原生ホロウへと再分類されたPL-0359はアヴェルヌス・ホロウと名を改められ、零号ホロウとは反対側からエリー都を飲み込むようにその領域をなおも拡大。18時間後にはエリー都に接触、48時間以内には零号ホロウと接触、融合の可能性すら示唆された。
これにより、エリー都は零号ホロウとアヴェルヌスホロウに対する前代未聞の両面作戦を強いられることになる。
しかし、当時の防衛軍はじめ、民間の戦力までほぼ全ての戦力が零号ホロウの拡大阻止に投入されており、アヴェルヌスホロウに割ける戦力はほぼなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが虚狩り、オキタ・リンドウである。100年前から変わらず、代々エリー都の市長を務めるメイフラワーの勅命の元、リンドウはアヴェルヌスホロウの単騎制圧へ乗り出し、見事にアヴェルヌスホロウを鎮静化、どころか完全に消滅させてしまった。
半ば時間稼ぎの捨て駒のような形でリンドウを送り出すほかなかったメイフラワーもこの結果には瞠目していた。
アヴェルヌスホロウの内部で何が起こっていたのか、最早リンドウのみぞ知るところだが、彼の救出に当たった防衛軍の回収班によれば、回収当時、オキタ・リンドウはほぼ意識のない状態で発見され、剣を持つ右腕全体が黄金の光を放つ痣のようなもので覆われていたという。
新エリー都にて、市政主催の懇親会会場にて。
皆が煌びやかなドレスやスーツに身を包む中、腰に刀を佩き旧都時代の意匠があしらわれた真っ黒なコートのような軍服を身にまとった異質な男が一人、会場の隅で誰にも気づかれない様に酒を呷っていた。
「……」
「……あなたがこのような場にお顔を見せるとは、珍しいですね」
「……メイフラワーか…何だったか、新しい虚狩りに、会えると思って」
「新しい虚狩り……星見雅殿のことですかな?彼女は、あまりこういった場には姿を見せませんから」
「そうだった。そう、星見の……」
なんだかしょんぼりした様子で、リンドウは更に酒を流し込む。
「ふむ…どうやらずいぶんとお疲れのご様子だ。ライカン君、どこか落ち着いて話せる場所に…」
「承知いたしました」
メイフラワーとその従者であるライカンと呼ばれた白いシリオンに案内されて会場から少し離れたボックス席に向かったリンドウは、促されるままに革張りの高級そうなソファに腰掛け、用意してあったシャンパンを一息に飲み干した。
「リンドウ様、お久しぶりですね」
「……様はよせ。新エリー都の市長様が一市民に様付けだと格好がつかんだろう」
「ハハハ、貴方を一市民などと呼ぶものは、新エリー都にはおりますまい。…ああ…昔、私が子供の頃にも似たような話をした記憶がありますね。覚えておいでですか?」
「そうだったか?……あー、ライカンといったか?悪いが酒を持ってきてくれ。できればもっと強いやつを」
「かしこまりました……よろしいのですか?」
了承したように頭を下げつつライカンは主人であるメイフラワーに小声で確認をとる。
すでにリンドウは相当量のアルコールを摂取しており、このボックス席にたどり着くまでもどこかおぼつかない足取りで、幽鬼のようにふらふらと歩いていた。
「ああ、言うとおりにして差し上げなさい……彼は酔えない」
「では、すぐにお持ちいたします」
「……ゆっくりでいいぞ」
どこか事情を察したような様子でお辞儀をしたライカンが部屋を退出した。気配が遠のくのを確認してから、メイフラワーは改めて口を開く。
「して……あれからお体はお変わりありませんか?」
「ああ……
メイフラワーの問いにそう返しながら、リンドウはまるで知能構造体のように黒い装甲と籠手で覆われた右腕を掲げる。装甲の隙間から微かに黄金の光が漏れた気がした。
「旧都陥落のあの一件から10年が経とうというのに、いまだに症状の鎮静すらままならないとは……旧都時代の虚狩りに投与していた浸食鎮静剤もその様子では効果は期待できませんね」
「……酒を飲んでも酔えない時点で、薬剤投与など意味をなさないと気付くべきだったな」
「…そうですね」
「……そもそもこの浸食症状は不可逆だ。断漄によってこうなっている以上、断漄による回復も期待できない」
リンドウは右腕を下ろすと、どこか他人事のようにそう言った。
「症状も悪化する一方です。こう言っては何ですが、10年前までの貴方とはまるで人が変わったようだ……それに、記憶も」
「覇気がないってか?お前も10年この症状と付き合ったら理解できるさ。理性が残ってるだけまだマシだと思ってくれ。それに記憶か、最初は俺もついに100歳を超えてボケたのかと思っていたがどうやら違うらしいな。最近じゃ昔のことがどんどん思い出せなくなっている。なぜ虚狩りになったのか、100年も生きてまでするべきことは何だったのか。俺の根底にあったはずの何かを、忘れてしまったような気がするんだ」
「もはや、そこまで……やはり、彼の地を頼るほかない、か」
「彼の地?」
「空域機密特区ロスカリファ、です」
「ロス、カリファ……ロスカリファ……」
リンドウはどこかで聞き覚えのあるその名を確かめるように繰り返す。
「……何かご存じで?」
「ロスカリファ……サンブリンガー」
「……!」
メイフラワーはふとリンドウの瞳にかつての壮健さが戻りつつあることに気が付き、続きを促す。
「サンブリンガー、そうだ。彼女には一度だけ会った……あの時は、確か…レミエールとベリオラさんに紹介されて……それで……」
「今何と?」
「……いや、何だったか……思い出せない」
一瞬、リンドウの右腕が淡く光ると、先ほどまで何かを掴みかけていた筈の顔から再び感情が抜け落ちていく。
「そう、ですか……ともかく、ロスカリファにはかのミス・サンブリンガーに加えて、虚狩る戎具の制作に関わったフリンツ一族もいます。彼女たちであれば何か治療の糸口が掴めるやもしれません」
「…そうか」
「日程については後日改めてお伝えします。それまではどうか、新エリー都から出ずにご安静に」
「ああ、ではな」
そう言い残して、リンドウは再びふらふらと歩きだし、会場の誰一人として彼に気が付かぬまま会場から姿を消した。
「ライカン君、もういいぞ」
「……あの方がオキタ・リンドウ様でございますか」
「ああ、表向きには、現在生存している最古の虚狩りだよ。10年前までは、もっと溌溂とした、見た目通りの好青年だったんだ。見た目こそ変わらないが、今ではもう消えかけの蝋燭のようだ」
メイフラワーはリンドウが消えていった会場の出口へと目を向けた。既にそこに彼の姿はなく、煌びやかな装いの招待客たちが談笑を続けているだけだった。
「かと思えば、ふとした瞬間にかつてのような饒舌さを取り戻すこともある。」
「あの方の身に一体何があったのでしょうか?」
「端的に言えば、彼は彼の持つ戎具の力を使いすぎた。あれはその代償のようなものだよ」
「……」
「……私が考えるに、まだ、彼には自分を取り戻す術が残っている。希望的観測に過ぎないが、きっと……まあ、詳しい話はこのような場所でするべきではないか、私たちもそろそろ行くとしよう」
「はっ」
十月頭に発売されたとあるゲームに夢中になっていたら、書き溜めしてたデータがどっか行きました。これはおそらくベルカ人の陰謀(伝われ)