師匠は男です。
転生して15年くらいだろうか、俺は立派な青年として成長した。それもかなり美少年という感じで将来にとても期待が持てる。また、原作の雨緒紀=サンが長髪だったから俺も憧れて髪を伸ばしてみたりと、何だかんだ憑依転生を満喫している
「雨緒紀様! 意識が乱れていますよ」
「っ! おわぁっ!」
師匠の斬撃が飛んできて、俺は体制を崩してしまう。5年くらい前だろうか。父様から剣術を学ぶように言われてからは、こうして毎日訓練の日々だ。
「ッ〜っ、痛ってェ〜!! ししょ〜、俺もう疲れた」
「甘ったれるんじゃありません。それに何度も言っているでしょう、貴族のご子息として、一人称俺は辞めなさいと。私と言いなさい、あと言葉遣い!」
「うぅ……」
言葉遣いは直さなくちゃいけないとして、一人称変えるのは中々慣れない。しかしまぁ、原作の王途川雨緒紀=サンは、とてもじゃあないが、一人称が俺の顔には見えないので、1ファンとして鰤の世界観を壊さない為にも頑張って意識している。
そうして俺こと私は、相変わらず厳しい師匠に苦虫を噛み潰したような顔をする。剣術は多少上達している気もするが、師匠に勝てぬなら意味は無い。
私はこっそり霊圧を刀にかける。どうやら私の霊圧はめちゃくちゃでかいらしく、生まれた時には母と産婆は気絶たらしい。そういう訳で、物心つくよりも前に霊圧の閉じ方を教えられた私にとって、霊圧操作はお手の物だ。
「分かっていますよ、霊圧込めているの」
くそーっ、もうバレたのか
師匠の追求の目から逃れるように視線を外し、込めていた霊圧を四散させる。
「おりゃぁっ、隙ありっ!」
私は師匠に一瞬の気の緩みを感じ、地面を蹴って刀を振りかざす。しかし師匠はそれすらも計算だったようで、振るった刀は弾き飛ばされてしまう。
そこから何度も斬撃を食らわせようと刀を振るうが、最初から狙っている場所がわかっているのかのように防がれていく。
「っ! はぁっ、はぁっ」
息が切れる。対して師匠は呼吸一つ乱していない。
「随分と息が上がっていますね、雨緒紀様」
「誰のせいだと……!」
こちとら5年間毎日のように剣を振ってるんだぞ。もうちょっとこう、成長した弟子を見て「やるようになりましたね」とか言ってくれてもいいんじゃないかな。
「私から一本取れれば、今日の稽古は終わりにして差し上げますよ」
「……はは、言ったね?」
私の口元が僅かに緩む。
よし、絶対に後悔させてやる。
私は刀を握り直すと、再び地面を蹴った。
「はぁっ!」
上段から刀を振り下ろす。当然のように師匠の刀がそれを受け止め、甲高い音が響いた。
しかし押し切れない。ならばとすぐに刀を引き、今度は胴を狙う。しかしこれも防がれる。右、左、上、下。何度打ち込んでも師匠の刀は寸分違わず私の斬撃を受け止めた。
やっぱり駄目だ、私がどこを狙っているのか、刀を振るより先に知られているような気さえする。
それならば。
「はぁっ!」
大きく踏み込み、師匠の肩目掛けて刀を振り下ろすのを師匠が刀で弾き返そうとする。
「っ!」
刀同士がぶつかる寸前、私は無理矢理手首を返す。そうして軌道を変えた刀が師匠の刀を滑る。
「……!」
初めて、師匠の目が僅かに見開かれた。
今だ。
私はそのまま一歩力強く踏み込み、刀を返す。そして——師匠の首筋、その寸前で止めた。
「……一本。お見事です、雨緒紀様」
「…………勝った?」
「ええ」
「ッ〜〜〜っ!!! よしっ!」
私は思わず小さく拳を握る。だって、5年間もやられっぱなしだったのだ。毎日のように打ち込んでは防がれ、転ばされ、一本も取れなかった師匠から、初めて一本取った。
「ですが、最後の一撃は随分と危なっかしいものでしたね」
「取れたんだからいいじゃないか」
「そういうところですよ」
師匠は呆れたように息を吐く。しかし、私の考えた戦略に少しだけ笑っていた。
「……しかしまぁ、そろそろよいでしょう」
「何がだ?」
「明日から、斬魄刀をお持ちになってもよいでしょうと」
「…ほんと!」
尸魂界には死神統学院があるが、この時代では基本的に貴族、それも上級貴族は学院には通わない。皆家の豊富な教育と資金によって死神としての力を養い、死神になるのが普通だ。
よって今師匠から告げられた斬魄刀使用可能宣言は、私が死神への道の第一歩を踏みしめられたのと同義であり、原作通りの、夢の初代護廷十三隊入りに少し近づけた証拠でもある。
「ええ。旦那様には私から話しておきましょう」
思わず口元が緩んでいく。
「雨緒紀様、顔に出ていますよ」
「……仕方ないじゃないか」
だって斬魄刀だぞ。これで喜ぶなという方が無理な話である。
「では、今日の訓練はここまでです。私は今から旦那様の所に行ってきますから」
師匠は私の刀を回収し、倉庫へと戻すべく歩いていった。急に暇になった私はとりあえず自室に戻ることにする。
「しかしなぁ、私が護廷十三隊の隊長になる頃にはユーハバッハの侵略があるんだろ? 第一関門はそこだよな」
ユーハバッハによる滅却師の侵略だって、最終的には失敗に終わっているものの戦争だ。敵も死ぬし味方も死ぬ。その戦場では1つの過ちが命取りとなり、もし弱いまま戦場に赴けば、気づいた時には私の胴体は泣き別れだろう。
生き延びるためには、ひたすら力を磨くしかない。まだ初代護廷十三隊メンバーには一人も会ってないが、全員が全員戦闘狂で殺しを至上主義とする集団なんて、私が弱かったら不意打ちで処刑されそうだし。
敵にもやられないようにするため、そして仲間に寝首をかかれない為に強くなる。強くなりたい理由としてこれ以上に甘っちょろく弱い信念はないだろう。
「……まぁ、とりあえず勉強するか」
私は早速鬼道の指南書を開く。この年代にも鬼道は存在し、破道・縛道・回道共に全て揃っている。幾つかは原作とは若干違う詠唱だったり名称だが、恐らく1000年の過程で進化するのだろうなと思う。
「しかも二重詠唱なんて概念はないし。それも原作軸近くで開発されたのかな」
まぁいい。無いのなら、自分で作ればいいだけの話だ。
こういう時こそ、まさかの原作開始千年前に生まれるという盛大な原作知識潰しを食らった私が、数少ない未来知識を存分に活かす場面だろう。
「二重詠唱があるなら五重詠唱とかもあるのかな? すごいやってみたいけど…まずは基礎からだよね、うん」
個人的に雨緒紀さんは一人称「私」だよなあ、と思っているので今作でも「私」にしました。
あの顔で「俺」または「僕」はちょっと想像できませんでしたので。
雨緒紀さんって雨の日に縁側で読書…とかが似合いそうですよね。