「はい。これが貴方の浅打ですよ」
「これが、私の……」
ってただの刀やないかい。
私のがっかりした心情を察したのか師匠は、あのですね、と説教モードに切り替わる。
「これは二枚屋王悦様がお造りになられた、言わば何にでもなれる最強の斬魄刀なのですよ。雨緒紀様が何を期待されてるのかは知りませんが、貴方の霊圧を毎日この刀に馴染ませる事で——」
「うんうん、わかったわかった、要するに毎日霊圧をつぎ込んで一緒に暮らしていればいいんでしょ?」
「そういう事です」
師匠の説教タイムは始まったら長いのでこうやって切り上げるしかない。にしても霊圧いくらでもつぎ込んでいいのか…。浅打壊れちゃわない?(自意識過剰)
「師匠。私の霊圧さ、全部解放してみてもいい?」
「構いませんよ」
試しに受け取った浅打に霊圧を込めてみる。が、一向に反応はなくただそこにあるだけだ。
さすがにちょっとやそっとでは、私だけの斬魄刀にはなってくれないみたい。そりゃあ、心を写し取ることが必要なんだし、時間はかかるか。
でも今まで霊圧を頑張って閉じるように意識していたのを、浅打に流し込めばいいとなると結構楽かもしれない。霊圧を閉じるというのは。自身に纏わりつかせるようにしなければならないので中々意識を裂かれるのだ。
私は更に霊圧を解放し、浅打に注ごうかと思ったその時、焦った顔をした師匠に止められた。
「……っ、雨緒紀様、これ以上はいけません。既に周りの者が片膝をついている上、私も耐えきれない」
「え? あぁ、ごめん」
急激に閉じれば、自分自身にも負荷が掛かりかねない。逸る感覚を抑えながら、ゆっくりと霊圧を収斂させていく。
しかし、日に日に膨れ上がる霊圧は、もはや意識して閉じ込めるだけでは抑えきれなくなりつつあった。そろそろ別の対症療法を考えた方がいいかもしれない。
……いっそ、自分自身に結界術でも施してみるか?
「それでは雨緒紀様、刀の——」
その時、私達に向かって何か巨大な霊圧が降ってくるのを感じた。師匠は私に下がるように言うと、即座にその人影から振るわれた刀をを自らの刀で跳ね返す。
「……ッ! 貴様、何者だ!!! もしや、巷で噂の賊か?」
人影は刀を跳ね返されると跳躍し、木の上に立って私達を見下ろす。ちょうど太陽が眩しくて顔は見えないが、女物の着物にピンク色の髪を靡かせた人物像が次第に顕となった。
「はははっ、オレは"賊"などではない、オレにも名前はある! 聞きたいか? オレの名は最強、不老不死ッ!!」
ピンク色の髪色に、如何にも厨二病然とした名前。思い出した、あいつは初代護廷十三隊六番隊の——
「
「ちーがーうーっっ!!
じゃあ齋藤ってのは聞き間違いだったのか。最強って名乗ったはずが、齋藤だと思われて後世に伝わった…という。
「雨緒紀様、奴は強い霊圧を感じては通り魔的に戦いを挑むと噂の野蛮者です。しかし今の貴方では——」
「なーんじゃなんじゃ、先の霊圧はそいつではなく、長髪の貴様。であろう?」
齋藤は刀の鋒を私に向けながらそう話すと、木から消えた次の瞬間、既に私の首を刈り取らんと刀を振るっていた。
「ッッ!!」
私も先程貰ったばかりの浅打を抜刀し、咄嗟に首元へ滑り込ませる。
直後、刀身同士がぶつかり甲高い音が鳴った。
「ぐっ……!」
重い!!!
受け止めた腕が痺れ、身体ごと後ろへ押される。
なんとか踏ん張ろうと地面を踏み締めるが、それでも勢いは殺し切れず、草履の裏で土を抉りながら数歩分後退した。
「ほう? 受けたか」
齋藤は刀を押し付けたまま、面白そうに私の顔を覗き込んでくる。
「そりゃ……まだ死にたくないからね……!」
「ふはっ!」
齋藤が突然力を抜いた。
「うわっ」
押し返そうとしていた力の行き場を失い、一瞬だけ身体が前へ傾く。まずい!と、そう思った時にはもう遅かった。
視界の端で桃色が揺れる。齋藤は私の横をすり抜け、いつの間にか背後へ回っていた。
「雨緒紀様、後ろです!」
「っ!」
師匠の声に反応して振り返る。
横薙ぎに迫る刃を避けようと身体を仰け反らせると、刀が鼻先すれすれを通過した。
「危なっ……!」
しかし完璧には避けられなかったようて、髪の毛が何本か刀に切り裂かれた。
殺す気じゃんこの人!!
「初見で今のを避けるか! いい、筋はいいぞ!」
「そりゃあ、どーも!!」
齋藤が踏み込む。
速い!!!
上段から振り下ろされた刀を受け流す。続けて左から一閃。それを刀の腹で受けると、間髪入れず今度は下から刃が跳ね上がってきた。
「っ、く……!」
一歩下がって躱す。そして、次々に飛ばされる斬撃を刀を交差させるようにして受け止める。
師匠とは全く違う。一撃一撃が重いくせに、とにかく速くて腕が痺れるのだ。
師匠の剣は、こちらが何をしようとしているのか全て分かった上で先回りして塞いでくるような剣だ。
対してこいつは——
「ははははっ!! どうしたどうしたァ!」
「ちょっ、待っ——」
考える暇すらくれない。速いとか上手いとか、そういう話じゃない、ただひたすら斬り続けてくる。
右から来た刀を受け止めた瞬間、そのまま力任せに弾き飛ばされた。
「うわっ!」
身体が浮き、背中から地面へ叩き付けられる。肺の中の空気が一気に押し出された。
「がっ……!」
「雨緒紀様!」
師匠が動こうとする。
「大丈夫だ、これは私の戦いだ!!」
そう言い切って、地面に突き立てた浅打を支えに身体を起こす。背中が焼けるように痛む。さっきの一撃で肺の空気を全部吐き出したせいか、上手く息も吸えない。
それでもどうにか立ち上がり、浅打を正眼に構えた。しかしその切っ先が、僅かに震えている。
「…………」
違うな、刀が震えているんじゃない。私の手だ、柄を握る右手が震えている。
無意識に力を込めるが、それでも止まらない。手だけじゃない。足も、呼吸も、さっきから私の言うことを聞いてくれない。
怖いのだ、目の前の女が。
「……ほう」
先程まで浮かべていた笑みは消えて、射抜くような目線て齋藤がこちらを見る。刀をだらりと下げ、ただ私を観察するように立っている。
師匠とだって今までも真剣で斬り合ってきた。何度も刀を向けられたし、寸前まで刃が迫ったことだって一度や二度じゃない。
だけど、師匠は私を殺さない。どれだけ鋭い一撃でも、私が受けられなければ止めてくれる。そう心のどこかで分かっていながら訓練していた。
だが、この人は違う。避けなければ斬られるし、受けなければ死ぬ。
さっき髪を斬った一撃だって、俺があと少し反応するのが遅ければ——
「…………っ」
ごくりと唾を飲み込もうとするが、喉がからからに乾いていてうまく飲み込めない。
死。
今更になって、その言葉が頭の中へはっきりと浮かんだ。私は一度死んでいるからこそ、死ぬのが怖い。せっかくBLEACHの世界に転生したのに、死んだら全て終わりだ。
斬魄刀だって今日貰ったばかりだ、始解すらしていない。卍解なんて夢のまた夢だし、山本元柳斎重國にも会ってない。護廷十三隊の創設だって見てない。
それに——黒崎一護。
私はまだ、彼を見ていない!!
「…………冗談じゃないね」
「あ?」
齋藤の眉が僅かに動く。
「こんなところで死んでたまるかっつーことだよ」
震える両手に力を込める。
怖いし、今だって逃げたい。でも、逃げたところでこの人が見逃してくれる保証なんてどこにもない。こうして指を咥えて斬られるのを待つくらいなら、殺るしかない。
今まで刀に霊圧を込めるのは、まず基礎の剣術からと言われて師匠との打ち合いでも禁止されていた。
だがどうだ、これは練習ではなく実践。ならばやるべきは霊圧を使うこと
私は一気に霊圧を解放し、浅打に注ぎ込む。その瞬間、ドンッと空気が沈んだ。実際は音など鳴っていないはずなのに、まるで巨大な何かが地面へ落ちたような錯覚を周囲に与える。
庭の砂埃が円を描いて吹き飛び、木々がざわめき、枝が大きくしなる。
「いくぞ、齋藤!!」
私が地面を蹴ると、先程までとは比べ物にならない勢いで景色が後ろへ流れ、一瞬で齋藤との間合いを詰める。
「——っ!」
初めて、齋藤の目が見開かれた。
そのまま右上から浅打を振り下ろす。齋藤も即座に刀を合わせ、二振りの刀が真正面から激突した。
ガァンッ!! と、先程までとは明らかに違う轟音が庭に響き渡る。
「……ほう!」
「ぐっ……!」
重い事実は変わらない、しかし、押し負けていない!
先程は一撃受けるだけで腕ごと持っていかれそうになったというのに、今は足元が僅かに沈むだけでその場に踏み止まれている。
浅打へ流し込んだ霊圧が刀身を伝い、齋藤の刀とぶつかる一点へ集中する。
「っ、らぁ!!」
更に力を込めて押し返す。
「ふはっ!」
齋藤は嬉しそうに笑うと、刀を僅かに傾けた。こちらの力を横へ受け流され、身体が前へ流れる。
しまった、そう思った瞬間には、もう齋藤の刃が脇腹目掛けて迫っていた。
「っ!」
浅打を引き戻し、刀身を滑り込ませる。
ギィンッ!!と、火花が目の前で弾けた。
「今度は受けるか!」
「さっきみたいにはならないよ!」
刀を弾き返す。そして、今度はこちらから踏み込んだ。その一撃は防がれるが、すぐに刀を返し、横薙ぎ。
齋藤が半歩下がって躱す。そう来るなら、そのまま追うのみ!
「はぁっ!」
「ふははははっ!! そうじゃ、それでいい!!」
一合、二合、三合と、再び刃と刃がぶつかる。その度に甲高い金属音が鳴り、火花が散る。
まだ速度は齋藤の方が速いし、剣術だって上だ。それでも、霊圧を刀に乗せた今なら食らいつけている。いや、食らいつける。
何より、さっきまであれほど怖かったはずなのに。気付けば私は笑っていた。齋藤の刀を受け止めながら、口元は勝手に吊り上がっていく。
怖いという感情はまだ私の心に残っているし、今もこうして私の両手を震えさせようとしてくる。
でも、心底楽しかった。戦いというものはこうも人の生存本能を刺激し、快楽物質を出すのかと。
「……ふ」
私のそんな様子を見た齋藤が、完全に動きを止める。そして次の瞬間、今までで一番嬉しそうに歯を見せた。
「いい顔になったのォ!! 長髪!!」
そう言うと数間離れた場所へ着地し、私へ刀の鋒を向ける。
「気に入った、名は何という!!」
「王途川、雨緒紀だ」
齋藤は何かを思い出すように一度目を細めると、なるほどあの王途川の倅か。と呟いた。
「あれ、知り合いなのか?」
「いや知らん」
「どっちなんだよ!?」
思わずツッコミを入れると、家は何となく聞いた事があると話す。
齋藤は満足したように頷くと、私に向けていた刀を地面に下ろす。
「雨緒紀! オレと次会う時までには更に強くなっておけ。ではな!!」
そう私に向かって叫ぶと、その姿は屋敷を囲む塀の上へ移り、もう一度跳躍した時には完全に見えなくなった。
「えぇ、? ちょっと調子良くなり始めた所だったのに……なんか不完全燃焼感」
「まぁまぁ。お見事でしたよ、雨緒紀様」
「っはは、ありがとう、ししょ……」
その瞬間、視界がぐらりと傾いた。
「……ぁ?」
足元から急に力が抜け、身体の感覚が遠のいていく。
「雨緒紀様!?」
師匠が私の名を呼ぶ声が聞こえたが、その声さえも次第に遠ざかっていく。
何が起きたのか理解する暇もないまま、視界は黒く塗り潰され——
そこで、私の意識は完全に途切れた。
昨日ブリチーのアニメをリアタイしたのですが…なんなんですかアレ。
誰も知らないブリチーが繰り広げられてて、黒崎一護は新衣装だし、井上織姫は覚醒するし訳わからん。
でも最高に素晴らしい回でした、ありがとうございます師匠。途中から涙が止まりませんでした。
井上ェェェェ!!!!!