目を覚ますと、足首まで冷たい水に浸かっていた。
「……どこだ、なんだここ」
見渡す限り一面の水で、遠くには水面から無数の岩山が突き出し、その頂には古びた楼閣や砦が建ち並んでいる。空はどうやら夜のようだが、月はない。
代わりに、空には沢山の星が浮かんでいた。
「……108、?」
それらの星々を数えた訳じゃないが、自然と数はわかった。何故か、そうだと分かったのだ。
「おりゃっ」
それはそれとして、何もすることがない私はとりあえず水遊びをすることにした。水を蹴り上げたり、手で掬っては遠くに投げてみたり。
「っはぁ、横になると冷たくて気持ちいいな」
よく分からない夢だが、やけに感覚は鋭いし身体も自由だ。頬を抓っても痛い。
「随分と愉快そうよのう」
「っ!?」
顔を覗き込むようにして、一人の女が立っていた。丁度光が当たらず、顔は暗くてはっきり見えないが、肌が白く透き通っていて綺麗だ。
私は思わず飛び起きて女から距離を取る。よく見ると私と同じく長い髪に、切長だがどこか優しげな瞳。頭につけた簪をしゃらんと揺らしながら、風などないというのに、薄絹を幾重にも重ねたような衣を纏ってこちらを見据えている。
「先の猿女との闘い、見ておったぞ」
「猿女て…可哀想じゃないか?」
「ぎゃあぎゃあと喚きながら刀を振るうなら猿と同じ。して雨緒紀、更なる力が欲しいとは思わぬか?」
人を惑わせるような、あやしくも美しい魅力を持った声で私をそう誘惑する。力が欲しいかと問われれば是だが、こういうのは代償がつきもの。夢とは言え油断はしない。
「欲しいがいらない!!」
「っな…! 今のは欲しいと素直に答える所じゃろうて!」
「はははっ、そうやって私を騙そうとしているのか? 引っかからないからな!」
私に掴みかかろうとする女を瞬歩で躱し、ぴちゃぴちゃと音を立てながら縦横無尽に動き回る。
痺れを切らした女は、自分に纏わせていた羽衣を掴むと、私に向かってカウボーイの要領で振り回し始めた。
「え、ちょっ、そういう使い方するものなのか!?」
「黙って捕まらぬか、この戯けが!」
女の手から羽衣が放たれる。ひらひらとした布だ、こんなもの、瞬歩で横に逸れれば簡単に——
「うわっ!?」
確かに避けたはずだった。しかし羽衣は空中で蛇のように軌道を変えると、逃げる私を追ってぐにゃりと曲がった。
「なんだそれ反則だろ!」
瞬歩で更に距離を取るが、羽衣は離れてくれない。まるで磁石のように、右へ行けば右へ、左へ行けば左へと追従してくる。
一度岩山を盾にしてみても、羽衣はその周囲をぐるりと回り込んで追いかけてくる。
「くっそ……!」
ならば上だ。私は水面を強く蹴り、空中へ跳び上がる。これなら——
「捕まえた」
「え?」
気付いた時には遅かった。いつの間にか背後から回り込んでいた羽衣が腰へ巻き付き、一気に締め上げられる。
「うわぁっ!」
ぐん、と身体が後ろへ引っ張られ、水面へ背中から落下する。その衝撃で盛大に水飛沫が上がり、鼻に水が入った。
「っげほ! げほっ! おまっ、夢のくせに鼻に水入るのかよ!」
「ふん」
羽衣でぐるぐる巻きにされたまま女の足元まで引き摺られていく。その様子は完全に簀巻きである。
「離せー! 人攫いー!」
「喧しい!」
「痛っ! 頭叩くなよ!」
「少しは黙って人の話を聞け! っ、いいか、ここはな、お主の精神世界じゃ。そして妾はお主の斬魄刀」
「なっ……!」
「そしてあれらは——」
女が夜空を指差すので、つられて見上げる。次に女が口を開いた時、その声から先程までの調子は消えていた。
「——其方の、力であり其方自身じゃ。しかしまぁ正しく言えば、未だ其方ではない。いずれ其方の内に宿り、其方と共に歩むものよ」
「私の……中に?」
「左様」
女が指先を僅かに動かし、私の頬を撫でる。顔はどこか母親のような哀愁じみた顔になっており、私を慈しんでいるようだった。
「其方は死にたくない、それは妾も同じく其方には死んで欲しくない。そんな妾らの願いが体現された世界じゃ。妾の名を呼べば、いつでも妾が守ってくれよう」
名前はなんだ、と聞くよりも前に私の脳内にはこの女の名前が入ってきた。いや、入ってきたというより、既に知っていたに近いのか。
「妾の名を呼ぶのだ、雨緒紀」
百八の星が瞬く。
「死ぬ時は共に在ろう」
——————
「はっ……」
知ってる天井だ。変わらない屋敷の天井。
右手を動かすとカチャ、という音が聞こえたのでそちらを見ると、浅打を抱くようにして横になっていた。
いや、浅打なんていう名前じゃないな、こいつは——
「ふ、雨緒紀様!? 旦那様、坊ちゃんがお目覚めになられましたよ!!」
丁度私の見回りにきた使用人が、私の目覚めに気づいて父様を呼びに行った。その呼び声で屋敷内が慌ただしくなっているのを感じる。
そのうち、パタパタとこちらに向かって廊下を歩く音が聞こえ、ノックもせずに師匠が入ってきた。
「師匠」
「雨緒紀様、昨日賊と戦ってから急に気絶されたんで驚きましたよ。しかも浅打を全く離されませんし」
「あ、それがね……」
私は精神世界で自分の斬魄刀に会った事を伝えた。どういう風景だったとか、どんな奴だったとか、はっきりと声に出して言える名前も。
「それは……随分速いですね、もっと6年以上はかかるのかと思っていましたよ」
「そうか。もう、死神なれるかな」
そう口にすると、師匠は少し悩んだような顔をした後、キッパリと駄目です。と言った。
「えー! 始解だって出来るんだよ、そろそろ良くないか?」
「駄目なものは駄目です。鬼道の九十番台が出来るようになって、卍解も習得しないと死神にはなれません」
「死神ってそんなすごいの!?」
どうやら私が虚をバッタバッタ倒す日々は遠そうだ。加えて1000年前だと、死神の基準も高いらしい。初代護廷十三隊だって最初にして最強、なんて言われていたくらいだしね。
卍解はまだ出来る気はしないが、鬼道の方は六十番代までなら辛うじて出来る。といっても戦闘中にする余裕を持てるまでになっていないのが玉に瑕だ。
「とりあえず、明日からは斬魄刀を使用した訓練に移りましょうか、使いこなせねば卍解など夢のまた夢ですからね」
「はーい」
アニメ最新話、二桁は見返してますわ…!月を背景にした「…卍、解」ってのがカッコよすぎて震える…。
あと、ブリチーの一番くじA賞、血鎖の一護が出ると思いきや何も発表されず。
また新たに黒崎一護の新衣装が出て、それがフィギュアになるんですかね。