かつ、かつ、と、階段を下る音だけがやけに響く。
山本総隊長を先頭にして、齋藤、私、弾児郎、四楓院と並んで暗い階段を下っていく。
「なぁ齋藤、そういえばお前最初、最強って名乗ってなかったか?」
「うーん、オレも最初は最強で戸籍登録しようと思ったんだが、それは登録出来ないと言われた。それで仕方なくお前が言ってた"齋藤"にしたんだ」
「なるほど……」
そりゃそうだ、最強で通ったら何でもアリになってしまう。というかよく不老不死の方通ったな?まぁ、この世界じゃ名前を変える奴も珍しくない。不老不死くらいで突っ込んでたらキリがないか。
「ついたぞ」
総隊長の言葉に気を引きしめる。辺りは暗いが、かなり強者の霊圧の持ち主がいることは辺りの空気で察せられた。
そういえばここに囚われているのって誰なんだ?原作で登場したのは藍染惣右介くらいだったが、実際はもう何人か捕まっていたのだろうか。
「さて先日の回答を聞こうか。——のう、卯ノ花八千流」
卯ノ花八千流ちゃんかぁ…卯ノ花八千流!?
「——お久しぶりですね、山本元柳斎重國」
穏やかで鈴を転がすような、と形容してもいい。少なくとも声だけを聞けば、こんな場所に囚われている人間のものとは到底思えない。しかし、一言喋るだけで生存本能を刺激されるような声だった。
やがて闇の奥から、一人の女の輪郭が浮かび上がる。
「…こりゃージイさん、えらいもんを引っ張るつもりだな」
「あぁ、噂には聞いていたが…成程。尸魂界史上最大の大罪人『死剣』卯ノ花の名は伊達じゃあないらしい」
齋藤と四楓院がそう講評する。
そんなに尸魂界で有名だったのか。不味いな、家に籠もってばかりいた弊害が早速出てきた。
「護廷入りを果たせば、私のこれまでの罪は無罪放免……というお約束でしたよね。それ以外に利点は?」
「これは限られた者しか知らぬ情報だが、近々滅却師の軍団が尸魂界に攻め入るとの報せが入っておる。此奴らも強者ばかりと聞いた。貴様の欲も満たせるのではなかろう?」
「おっさんマジかよ!? なんでそんなウマい情報隠してやがったんだよ!!」
「齋藤は黙っとけ」
齋藤が吠えるように突っかかるので制止する。
今世では初耳だが、前世の知識がある私には驚くほどの話でもない。恐らく総隊長は、滅却師による尸魂界侵略があるから護廷十三隊を作り上げるのであって、治安維持なんかではないだろうな、と。
じゃなきゃ、こんな犯罪者だらけの集団を『治安維持部隊』として作るはずがない。
「…………まぁ、別にいいでしょう。こんな暗闇で遠い先の未来に思いを馳せるよりも、外に出て刀を振るう方が遥かに楽しい」
「そうか、交渉成立じゃな。貴様は十一番隊じゃ、浅打はまた後日手渡す。ほれ、行くぞ」
齋藤が卯ノ花用の隊長羽織を手渡すのを確認すると、総隊長は早速踵を返して地上への歩を進んでいく。その後に続いて、私達も地上を目指して歩く。
「私は王途川雨緒紀だ。十番隊だから隣同士仲良くやろう、卯ノ花」
「……えぇ、よろしくお願いしますね、王途川さん」
「なぁ! 卯ノ花! 今度オレと勝負しようぜ!!お前強いんだろー?」
……齋藤がすごいガキに見えてきた。卯ノ花に目をキラキラさせて、玩具を買ってもらうような子供のように嬉しそうだ。
「……構いませんよ、お時間があれば是非」
「よっしゃァ!!」
意外にも二人はすぐに意気投合し、得意な戦い方や武器の話を始めた。
その様子を後ろから私と弾児郎、四楓院は半ば呆れながら見ていた。
「なぁ弾児郎、護廷ってあんな奴ばかりなのか?」
「まぁな…俺ら以外大体あんなだし、殆どが元罪人だぞ? 三度の飯より殺し!って感じの奴らばっかだ。七番隊の執行乃武綱って奴も中々の戦闘狂だったし、あと拷問好きの……」
「久面井煙鉄、九番隊だ。私が総司令官を務める隠密機動で拷問官をやっていてな、彼に1度拷問を受ければ皆、目が合うだけで失禁する」
「へ、へぇ……」
……犯罪者予備軍を含めるなら、13人中ほぼ八割くらいが思想真っ黒なんですかね?
初代護廷十三隊は中々キャラが濃いらしい。流石ユーハバッハに血生臭い集団と称されるだけあって、この先私がやっていけるのか不安になる。
そんな話をしている間にも、長い長い階段を上っていく。来た時には何も気にしていなかったが、無間へと続く道には窓どころか灯りすら殆ど存在しない。一定の間隔で壁に掛けられた燭台だけが、ぼんやりと足元を照らしている。
揺らめく炎が五人分——いや、今は六人分の影を石壁へ長く伸ばしていた。
その中で、卯ノ花は妙に静かだった。齋藤に話しかけられれば笑って答えるし、足取りも穏やかで、長い間牢へ繋がれていた人間とは思えないほど堂々としている。
「…………」
怖いな〜、この人。
前を歩く卯ノ花の背中を眺める。霊圧を撒き散らしているわけでもなければ、殺気を放っているわけでもないのに、隙が一切ない。
右手は空いている。歩幅は一定。呼吸にも乱れはない。もし今、私が背後から斬り掛かったとして——。
「王途川さん」
不意に、卯ノ花が振り返った。
「先程から、随分と熱心に見ていらっしゃいますね」
「……気付いてた?」
「えぇ」
卯ノ花はにこりと笑いながら頬に手を添える。
「斬り掛かられるのかと思っておりました」
「……する訳ないじゃないか」
「あら、残念」
残念なのか、この人やっぱり怖いなぁ……。
すると、弾児郎がニヤニヤしながらこっちを向いて言う。
「なぁ雨緒紀、やってみろよ」
「なんでだよ」
「気になるだろー、どっちが強いか!」
「お前がやれ」
「オイオイ! 雨緒紀はやらなくても、オレは地上に出たらやるぜ!」
「そうなんだ……」
「——貴様ら」
前方から低い声が飛んできた。山本総隊長がこちらを振り返りもせず続ける。
「
「はーい」
「すみません」
「悪かった!」
齋藤、私、弾児郎の声が重なる。
……なんで私まで怒られてるんだろう、どちらかと言うと巻き込まれた側ではないだろうか。
四楓院を見ると、口元を押さえて笑っていた。
「……四楓院、なに笑ってんだよ」
「ん? いや全然?」
「目を見て言ってくれ」
「王途川って案外苦労するタイプだね」
何が苦労するタイプだ、私はこいつらのお世話をするために初代護廷十三隊へ入った訳じゃないのに。
「……眩しいですね」
そうこうしている内に、前方から白い光が差し込んできた。長く暗闇にいたせいか、ほんの僅かな光なのに随分と眩しい。階段を一段上るごとに光は強くなり、湿り気を帯びていた地下の空気に、地上の風が混ざり始める。
やがて最後の一段を上り切り、無間へ繋がる門から出る。
「さて、王途川と卯ノ花の隊はこの地図の場所じゃ。隊士はそれぞれ100人。副官を置く、置かないは自由」
「ありがとうございます」
「儂はこれより残る二人の所へ行く。貴様らは自分の隊の管理でもしておれ」
「「「はい」」」
地図を見ると、十番隊区画は王途川家の屋敷も内包しているようだし、隊舎も家のすぐ近くだった。これは随分と通いやすい。
「なぁ卯ノ花! 早速やろうぜ! 刀はオレのを貸してやる。うちに来い!」
「はい。ふふ、楽しみですね」
二人はそのまま連れ立って歩いていく。齋藤は卯ノ花の肩に腕を回さんばかりの勢いで話しかけ、卯ノ花もそれを鬱陶しがる様子はない。
……そういえば、原作で初代護廷十三隊の連中って千年後には殆ど残ってなかったよな。
山本総隊長と卯ノ花以外は、少なくとも本編には姿を見せていない。
寿命で死んだのか、戦死したのか、それとも隊長を辞めただけなのか。今こうして目の前で騒いでいる齋藤も、四楓院も、弾児郎も。千年後にはどうなっているのだろうか。
まぁ考えても仕方ない。そもそも私がここにいる時点で、前世で知っている歴史と全く同じ道を辿る保証なんてどこにもないのだし。
「じゃ、俺も五番隊に戻るかな。雨緒紀、今度飲もうぜ!」
「いいね。落ち着いたらな」
「おう! 四楓院も来るか?」
「暇だったらね」
「じゃあな!」
弾児郎は大きく手を振ると、瞬歩で姿を消した。
「……嵐みたいな奴だね」
「志波の血筋は昔からあんな感じだよ」
「偏見じゃないか?」
「事実だろーがよ」
まぁ確かに。千年後の志波一心も豪快な人物だったな。
私と四楓院もそれぞれ隊舎へ向かうため歩き出す。先程まで薄暗い地下にいたせいか、瀞霊廷の景色が妙に鮮やかに見えた。白壁の向こうには瓦屋根が幾重にも重なり、遠くでは建築途中らしい隊舎から槌を打つ音が響いている。
千年後の瀞霊廷ほど整然としてはおらず、道は舗装されている場所と土のままの場所が入り混じり、隊舎も新しい建物の隣に古びた屋敷が残っている。
護廷十三隊そのものが、まだ出来上がっていないのだ。
「そういや四楓院、お前のところはどんな感じなんだ?」
「二番隊? 殆どは隠密機動から引っ張ってきているから元々は私の手足として使っていた連中だ。統率に困ることはないよ」
「うわ、最初のアドバンテージがでかいな」
「人徳と言ってほしいね」
「家の力だろ」
羨ましい……。王途川家にもそういう私設部隊があればなぁと思う。
しばらく歩いたところで、道が二手に分かれた。四楓院は右で私は左。
「じゃ、ここで」
「ああ」
四楓院が数歩進んだところで、ふと足を止めた。
「王途川。隊長就任、おめでとう」
「……さっきも言われたよ」
「さっきのは当主就任。これは隊長就任」
そう言って片手をひらひらと振る。
「精々死なないようにね、十番隊隊長殿」
「そっちこそ」
四楓院の姿が瞬歩で掻き消える。
「…………さて」
一人になった私は地図へ視線を落とす。十番隊隊舎はここからそう遠くない。
王途川家の屋敷に近いという話も本当らしく、このまま真っ直ぐ行って二つ目の角を曲がれば着くようだ。
「……ここか」
足を止めると、目の前には、まだ真新しい木の匂いを残した大きな門があった。その向こうには瓦葺きの隊舎が広がり、白壁に囲まれた敷地の奥には訓練場らしき広い空間まで見える。門の脇には簡素な木札が掛けられていた。
墨痕も新しい、『十番隊』の3文字。
「おぉ……」
思わず声が漏れる。さっき羽織を渡された時より、こっちの方がずっと実感がある。
「お早うございます! 王途川雨緒紀隊長!」
「ん?」
声のした方を見ると、修練場の入口に、一人の男が立っていた。死覇装こそ着ているが隊長羽織はない。年齢は見た所30代くらいか、これといって特徴のない顔立ちだが、立ち姿は整っている。
そして、その背後に、黒い死覇装を纏った人間がずらりと並んでいる。
「総隊長より、十番隊へ配属された百名のうち、現在ここにいる九十七名です」
「九十七?」
「三名、先程喧嘩により医務室へ運ばれました」
「…………」
……本当に私ここでやっていけるのだろうか。これまでの人生でこんな荒くれ者共を率いた経験は一度もない。やっぱり不安になってきたなぁ。
「ええと……君は?」
「十番隊、副官候補として配属されました。名は——」
男が名乗ろうとした、その時。
「おい!!」
隊列の後方から怒鳴り声が響いた。見れば、明らかに周囲より二回りほど大きな男が、隊士達を押し退けながら前へ出てくる。顔には刀傷。腰には浅打。そして目が完全に据わっている。
あぁ、嫌な予感がする……
「アンタが隊長か?」
「……そうだけど」
男は私を頭の先から足元まで舐めるように眺める。
「随分と綺麗な面してんな、貴族の坊ちゃんが隊長だァ? ふざけやがって。俺ァ強え奴の下にしかつく気はねえぞ」
「…………」
男が腰の浅打を抜いたので、ざわり、と百人近い隊士達が揺れる。しかし止める者はおらず、むしろこちらを見る目には期待すら混ざっていた。
私は小さく息を吐く。これは恐らくこの男一人の問題ではない。隊長とやらは本当に俺達より強いのか?という疑問の答えを、ここにいる全員がそれを知りたがっている。そりゃそうだ、規律も伝統もなければ、『隊長』という肩書きに千年後ほどの権威も存在しない時代。
仕方ないなぁ……
「分かった」
私は斬魄刀をゆっくりと引き抜き、自らに構築している霊圧制御の結界を解く。
その瞬間——
「——っ!?」
隊士達の表情が一斉に強張った。
まるで空気そのものが急激に重くなったかのように、何人かが無意識に肩を落とす。
風が巻き起こるようにして修練場に立っていた隊士達の死覇装が僅かに揺れた。地面に落ちていた砂埃が円を描くように外側へ押し退けられ、門の脇に立て掛けられていた木刀が、からん、と乾いた音を立てて倒れる。
「な……んだ、これ……」
先程まで私に食って掛かっていた大男は顔色がみるみる青ざめていき、表情から完全に余裕が消えた。
それだけではない。
「う……っ」
私のすぐ近くに立っていた隊士が1人、またひとりと膝をついていく。
「が……っ」
「息、が……」
「おい、しっかりしろ!」
立っていられなくなり膝をつく者。胸元を押さえながら荒い呼吸を繰り返す者。意識を失い、その場へ前のめりに倒れ込む者。ほんの数秒だけで先程まで百人近くが並んでいた修練場の景色が一変した。
『やり過ぎではないか?』
「これでも抑えてるよ」
天魁星の声に、心の中で答える。
もちろんこんな所で全開にする筈はない。生まれた時とは違い、今の私は自分の霊圧が周囲へどう影響するかくらい理解している。
「うん、丁度良く九割くらい倒れたね」
立っているのは、十人にも満たない。その中には先程の大男もいた。膝は震えているし、額からは滝のように汗が流れ落ちている。浅打を握っている手も、僅かに震えていた。
「意外とやるじゃん」
少なくとも威勢だけではないらしい。
「どうした? 弱い奴の下にはつかないんだろ? 確かめればいい。まだ立ってる奴は全員かかってきていいよ」
「…ッ!!舐めんなァ!!」
最初に動いたのは、やはりあの大男だった。彼の地面を踏み砕くように駆け出す姿を見て、残っていた者達も続く。
「なるほど」
どうやら全くの素人という訳でも、考え無しな訳でも無いらしい。自然と包囲するように散らばっていく。
先ずは一歩目、前へ出ると、正面から迫っていた大男が、浅打を振り上げ飛びかかってきた。
「死ねェ!!」
私が刀を僅かに傾け、振り下ろされた刃が私の刀身へ触れた瞬間、その力を横へ逃がすと、力任せの男の刃は行き場を失い、身体は前へ流れる。
「なっ——」
二歩目、その懐へ入り込み、素早く柄頭を鳩尾へ打ち込んだ。
「がっ……!」
息を吐き出しながら男の身体が折れたので、私はそのまま左肩へ手を添え、後ろから斬り掛かってきた隊士の前へ、進行方向を僅かにずらす。
「っ!?」
急には止まれない。振り下ろしかけた刀を慌てて逸らした隊士と、大男の身体が正面からぶつかった。
三歩目、二人の脇を抜ける。
そうして右から迫った刃を鍔元で受け、そのまま外へ弾く。姿勢が崩れたところへ、返した刀の峰を首筋へ叩き込んだ。
「ぐっ……!」
更に左から迫っていた刀を紙一重で躱し、相手の脇をすり抜けながら膝裏を軽く蹴る。
「うわっ!?」
崩れたところへ、肩へ峰打ち。すると背後からも気配を感じたので、振り返らず一歩ずらすと切っ先が耳の横を通り過ぎた。伸び切った腕を掴み、そのまま相手の勢いを利用して前へ投げる。
「ぐあっ!」
地面へ背中から落ちた。
さて、残る奴は——
「っ、らぁ!」
二人同時に斬りかかってきたが、私に言わせてみれば隙だらけで、たいした力も籠ってない。
私が刀を一度だけ振るうと甲高い音が二つ、ほとんど同時に鳴る。
「……え」
二人の浅打をまとめて真っ二つに叩き斬り、呆然とする彼らの首筋へ続けざまに手刀を叩き込む。
「がっ」
「っ……!」
二人が同時に気絶し倒れる。辺りを見渡すと、そこには、先程まで立っていた者達が全員倒れていた。
「四歩のうちにやられるなんて、本当に死神か?」
私は刀についた僅かな砂埃を袖で軽く拭い、鞘へ収める。まだ意識のある大男が、地面に伏したままこちらを見ていた。
「……ば、化け物……」
「失礼だな、これからは隊長と言ってくれ」
私は再び自分に結界を纏わせる。
押し出されていた霊圧が収斂し、修練場を覆っていた重圧が嘘のように消えていく。
ただ悔しそうに歯を食いしばっている先程の男を含め、私は倒れている隊士達を一度見渡した。
「私は十番隊隊長、王途川雨緒紀だ。よろしく」
自分で言うのも何だが、なかなかオサレに決まったのではなかろうか。
新登場メンバー
十一番隊隊長:卯ノ花八千流
高評価、お気に入り登録、感想、誤字報告等ありがとうございます。
今日のアニメブリチーが楽しみですね。
そろそろ月島さん来る……か?
藍染は卍解しろ。