ゲインロス効果、というものがある。初めにマイナスの印象を与えた後、プラスの印象を見せることで、最初からプラスだった場合よりも相手により強い好感や魅力を抱かせる心理効果の事だ。
簡単に言えば、ヤンキーが猫に優しくしていたら好感を抱いてしまう現象である。
十番隊隊長着任当日、私は隊士の九割を霊圧だけで叩き伏せ、「とんでもなく怖い隊長」という第一印象を植え付けた。その翌日から普段通りに接した結果、図らずともゲインロス効果めいたものが働いていた。
普段あんなに血気盛んに戦うタイプじゃなかったので気づかなかったが、意外とこういう……弱いものいじめ的な戦闘も好きかもしれないな……。
おっと危ない、思考が変な方向へ行ってしまった。
それにしても、護廷に入隊する前に実家で訓練を沢山積んでおいて良かったと本当に思う。私の斬魄刀はどちらかと言うとパワーアップ系ではなく自らの力量がそのまま能力に反映される形だ。なんなら始解は十分の一コピーの大量生産。霊圧はそこそこあるとはいえ斬拳走鬼を鍛えなければ強くはなれない。
「「「王途川隊長! おはようございます!!!」」」
「おはよう、みんな」
まだ護廷十三隊の指示系統や仕事裁量も殆ど決まっておらず、一からやるのは中々に骨が折れたが、自分たちで護廷を作っていくのだと思うと同時に楽しくもあった。
十番隊の役割もまだ曖昧だ。巡回、虚の討伐、流魂街での揉め事の仲裁、他隊の応援。とにかく人手が足りなければ十番隊へ、という雑な扱いをされている。
なんか皆に便利屋のような扱いを受けているのがココ最近の不満である。
「隊長、本日の予定ですが」
副官の田中健太郎が、数枚の紙を抱えて私の隣へ並ぶ。こいつはあの日、私が十番隊へ初めて足を踏み入れた時に真っ先に声を掛けてきた男だ。特にこだわりもなかった私はとりあえずこいつを副官にした。
「午前中は隊首会、その後十二番隊から訓練場を借りたいとの要請が。午後からは五番隊との合同訓練が入っています」
「わかった」
左右では隊士達が木刀を振り、別の場所では鬼道の詠唱が響いている。最初の頃は好き勝手に喧嘩していた連中も、今では随分まともになった。少なくとも、私を見る度に刀へ手を掛ける奴はいない。
さて、私もそろそろ隊首会に行かなければならない。この前、齋藤が時間ギリギリに来たらそれはもう総隊長がネチネチネチネチと説教をかましてきたので、隊首会に遅刻は厳禁なのだ。
え?副官は置いていっていいのかって?式典以外は基本的に連れてきちゃダメらしいよ。
「じゃ、行ってくるね」
「はい、お気をつけて!」
私は瞬歩を使い、一気に瀞霊廷内を駆け巡る。
すると丁度四番隊の志島知霧がいたので、話しかけようと近づいていく。
「おはよう、志島」
「ん? あぁ王途川か」
相変わらず猫背で気だるそうにしており、いつも通り表情も暗い。
彼は私の師匠の息子だ。初めて会った時、それはそれは驚いた。なにせ昔送られてきた師匠からの手紙には「手のかかる子供が〜」と書かれていたので、てっきり産まれたばかりの子供なのかと思っていたのだ。
「そういえばこの前、執行と花街に行ったんだが、あいつ普段から通ってるらしく終始特別対応だったよ」
「あ〜アイツなぁ、護廷入りする前から色狂いで有名だぞ。あんまお前も引き摺り込まれんなよ」
「それは流石にない」
執行乃武綱とは、七番隊隊長を務める人物である。白い髪と髭に手袋と毛皮のマフラーを付け、やつれた顔をした長身痩躯の男で、隊長の中でも一際人相が悪い。おまけに体液は全て毒になっているので、あんまり近くに長時間居すぎると体調が悪くなってくる。
「ふん、私は奴が大嫌いです」
「! 厳原、相変わらずだな」
そう言って現れたのは厳原金勒。眼鏡をかけた神経質そうな男で、その見た目通りめちゃくちゃきっちりした奴だ。ご飯を食べに行った時は1円まで割り勘にしてくるという、インテリヤクザな見た目にそぐわぬケチ臭さを持ち合わせている。
「そもそも何故神聖なる瀞霊廷にあのような穢らわしい存在がいるのか、早いとこ任務で事故死して欲しいですね」
「はは……、仕組むなよ、?」
志島は、厳原の悪口に呆れながらそう言う。本気でやりそうなのがこのエセインテリヤクザ、私達も何かやらかせば裏で消してきそうなので気が抜けない。
「っと」
色々話しているうちに一番隊の隊舎に到着した。もう既に何人かは集まっていたようで、中で話し声が聞こえる。
「あ! 王途川隊長!」
「雀部。あと来てない隊長は?」
「それが……八番隊隊長が朝からお見えになっておらず」
その時、ドドドと誰かが走ってくる音がした。
「すみませ〜ん、ふぅ、ギリギリセーフっ」
現れたのは、胸から2つの巨大な西瓜をぶら下げた眼鏡の女、鹿取抜雲斎。その穏やかで少し抜けてそうな見た目にそぐわぬ残虐性を持ち合わせており、敵がどれだけ苦しみながら死のうが眉ひとつ動かさない。……まぁ、隊長は皆そんなもんか。
「ヒッヒッヒ……、善定寺の奴もまだ来てなかろうて」
日陰から声がしたのでそちらを見ると、逆骨才蔵が相変わらず不気味な笑みを浮かべながら座っていた。見た目は小柄で背の曲がった老翁なのに、性格がとにかく捻くれている上に用心深い。
「あぁ、善定寺の奴なら裏で始まるまで寝てるぞ」
そう答えたのは四楓院。呼びに行こうか?と私が言うと、放っておけと言われたので私もそれ以上気にしないことにした。
すると。
「——全員、静まれ」
いつの間に来たのだろうか、先程まで好き勝手に話していた皆の声が、ぴたりと止む。
一番隊隊舎の入口に、山本元柳斎重國が眠そうな善定寺を引き連れて立っていた。その姿を見た瞬間、私達は二列に整列する。
どうやら、雑談していられるのもここまでらしい。
「さて、隊首会を始めるとしよう」
総隊長は私達の列の間を進んでいき、奥に立つ。
「皆の衆、滅却師という存在は知っているか?」
その言葉に数人が反応する。首を傾げた者は罪人から護廷入りを果たした者で、それ以外の正規ルートで死神になった奴、貴族ルートで死神になった奴は厳しい顔になる。
そんな彼らを察し、雀部が一歩前に出た。
「滅却師とは、虚を完全に消滅させる能力を持つ人間の事です。それ故に三界の魂魄均等を乱し、世界のバランスを崩す存在です。以前から対話を重ねて来ましたが……」
「その度に交渉は決裂。そして此度、その滅却師共が軍勢を率い、尸魂界へ攻め入るとの情報が入った。死神が何人死のうが、どんな手を使ってでも敵将・ユーハバッハの首を掻っ切れ」
———滅却師共を殲滅させるぞ。
——————————
「滅却師ねぇ」
総隊長が去った後、私達はその場に座って話し合う。
「ええい面倒臭い! 侵略がいつなのかハッキリ示せばいいものを!」
「執行、これは戦争だ。それでは意味がない」
「王途川の言う通り、今回は文字通りの戦争だ。いくら卑怯と罵られようが、生き残った方が勝つ」
四楓院は周りをぐるりと見渡す。
「侵略時の役割を決めよう。総隊長は切り込み隊長として1番前に出るだろうから、総隊長を筆頭に、厳原、尾花、鹿取、久面井、王途川、善定寺の六名を主軸とする。異論はないか?」
「はいはーい、オレは何すりゃいいんだよ。まさか指くわえてボーッと見てろって言いてぇのか?」
「齋藤、卯ノ花は遊撃だ。執行は彼女ら二人のサポート」
遊撃という言葉に目を輝かせる齋藤とは対照的に、サポートと言われた執行は少し不満そうな顔をする。しかし彼の戦い方的にもこれが最適だ。
「私と逆骨は開戦後、敵陣へ潜り込み指揮官級を狙う。いわば暗殺部隊だ。そして志島は……」
「治癒担当でしょ。でも僕も戦闘に参加させて貰うからね、戦いたいし」
「うーん、回復役が近くにいた方が都合良いか……? まぁそれで良いとしよう」
「では、問題は敵の規模ですね」
卯ノ花が静かにそう言い放ったので、私も口を開く。
「現状は『滅却師が攻めてくる』事しか把握されていない。数も、戦力も、侵入経路も分からない。これじゃあ配置を決めても、どこまで機能するか怪しいな」
「そこは隠密機動で探る予定だ」
四楓院が即答する。
「事前に総隊長から襲撃情報を聞いていたから、既に現世には何人か放ってある。滅却師が集まっている地域までは絞らせている。もっとも——」
一度言葉を切り、眉間に皺を寄せた。
「連中、妙に足取りが掴めない。集団で動いている筈なのに、霊圧の痕跡が突然途切れることがある」
「隠蔽に長けてるってこと?」
「それだけならいいんだけどね」
四楓院の声が僅かに低くなる。
「やはり滅却師という種族故に、死神とは根本的に霊子の使役方法が違う。私達の知らない、何らかの移動手段があると見ていいだろう」
「ヒッヒッヒ……敵が何処から来るかも分からぬ、か。嫌じゃのう。実に嫌じゃ」
口では嫌がっているくせに、逆骨の口角は先程より上がり、残虐的な笑みを浮かべている。
「なら侵入経路を予測すること自体、あんまり意味がねーんじゃねェのか?」
善定寺が頭をボリボリと掻きながらそう言うと、厳原が眼鏡を指で押し上げ目を光らせる。
「瀞霊廷の東西南北、どこから侵入されても即座に戦力を移動出来る体制を作るべきでしょう。隊ごとに持ち場を固定すれば、裏を取られた際に対応が遅れます」
「私も賛成ですぅ」
鹿取が柔らかく微笑みながら手を挙げる。隣の弾児郎もまた賛成の意思表示をして、快活な笑みを浮かべた。
「敵がどれくらいいるのかも分かりませんしな! 最初から主戦力を細かく分けすぎるのは危ないだろう!!」
「じゃあ全員で固まって動くか?」
「それも駄目でしょうね」
齋藤の提案に、黙って話を聞いていた卯ノ花が静かに答える。
「敵が一方向から来るとは限りません。こちらが一箇所へ集まれば、それ以外の場所を自由に蹂躙されるでしょう」
「じゃあどうすんだよ」
「なので先程、四楓院さんが決めた主軸の六人とその隊を瀞霊廷に均等に配置するしかありません」
「それなら……」
私がそう言うと、皆の視線が集まった。
「各隊で、伝令役を決めておこう。伝令が死んだ時の予備も要る。だから一人じゃなく二、三人だ。なるべく瞬歩に長けた奴を選ぼう。戦闘が始まったら隊長同士が直接連絡を取る余裕なんて無くなるだろ?」
「ほう、戦況を共有するためですか」
厳原がこちらを見る。
「そうだ。敵の数、能力、位置、何でもいい。自分の隊で得た情報を抱え込まないようにしよう」
私が知っているのは『最終的にはユーハバッハに勝った』それだけだ。今のところ未知数な敵戦力について情報があれば、それだけで生存に繋がる。
「敵の能力が分かったら即座に全隊へ回す。一度食らった手を、別の奴が馬鹿正直にもう一度食らう必要はないだろ」
「良いんじゃない?」
四楓院が頷く。
「隠密機動からも伝令に人を出すよ。情報の集約先を二番隊にしておけば、そこから各隊へ流せる」
「決まりだな!」
「じゃあ、八番隊からも足の速い子を選んでおきますぅ」
鹿取が微笑んだ。
「俺ァそんな面倒なことしなくても——」
「執行は絶対伝令役を決めておけ、一番報告を怠りそうだからな」
「同感だな」
「同感です」
「同感じゃ」
「お前らなァ!!」
何人もの声が重なり、部屋に笑いが起こる。
半分以上、というかほぼ全員が犯罪者または準犯罪者の集団が、こうして同じ敵を倒すために頭を突き合わせている事実に思わず胸が熱くなる。
やっぱり共通の敵ってのは必要不可欠なんだろうな。だから原作でも滅却師との戦いまで内輪揉めばかりだったのだろうか。
「では、今日はここまでにしよう」
四楓院が立ち上がり、膝についた埃を払う。
「各々、隊に戻って戦の準備。隠密機動から情報が入り次第、また招集をかける」
「了解」
「分かりました」
「ヒヒ……面倒じゃのう」
次々と隊長達が立ち上がる。
そういえば、私の斬魄刀は雑兵処理や乱戦に向いている。案外この戦いが最初で最後の大活躍シーンになったりするのだろうか、千年後も活躍していることを祈るばかりだ。
新登場メンバー
一番隊副隊長:雀部長次郎
三番隊隊長:厳原金勒
四番隊隊長:志島知霧
八番隊隊長:鹿取抜雲斎
十番隊副隊長:田中健太郎(オリキャラ)
十二番隊隊長:善定寺有嬪
十三番隊隊長:逆骨才蔵
アニメ相変わらず最高ですね。
黒崎一護の絶望顔と絶叫だけで飯が食える。
あと、以前から気になっていた事をアンケート取ってみたいと思います。投票してくださるとありがたいです。
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