夫に「今日めちゃくちゃえっちな下着を着けている」と言われた 作:名無し
「……今日めちゃくちゃえっちな下着をつけている」
それはなんて事のないとある朝の出来事だった。いつものように日の出と共に起き、顔を洗い、庭に出て飼っている鶏達に餌をあげ、家の中に戻り、朝食の準備の為に炉に薪を焚べて火を起こし、そして薪に良い感じに火がついてきたタイミングで起きてきた夫に向かい、
「おはよう。今日は朝ご飯は食べていかれるの?」
と、普段は食べないがたまに朝食を食べて仕事に行く夫に声をかけようとした時、言われたのが冒頭の言葉で……
は?えっちな下着?えっちな下着って……私が昔着けていたような、布地が極端に少なかったり、隠すべきところが隠れていないような……あれのこと?え?この真面目すぎてそのせいで一度騎士団に処罰されかけたこの人が?えっちな下着を??は???
あまりに衝撃的すぎる夫の言葉に私は何も言葉を返せずただただ唖然とするが、言った張本人である夫は平然とした顔で
「……今日も朝食はいらん。では、行ってくる」
「え?あ、はい。行ってらっしゃい…」
と、いつもと変わらない態度でチュッと私の額にキスを落として足早に家を出て行った。そのあまりにもいつもと変わらない態度だったものだから普通に見送ってしまったが、今のあの人……えっちな下着付けてるのよね……
えっちな下着をつけて仕事に……騎士団に……しかも今日は訓練があるって言ってた気が……えっちな下着で訓練に……若手が集まる訓練に……
「あ、あかん!あかんでそれは!!」
こうしちゃいられない!思い立った私は慌てて炉の火を消し、急いで夫の部屋から下着を取り出すとそれを風呂敷の中に詰めて、家を飛び出した。
向かう先は勿論、騎士団の詰め所だ。
幸い、家から騎士団まではそう遠くない為、ものの十分で騎士団の詰め所前に着いた私は暇そうに背伸びをしている門番であろう騎士の前へと立った。
「もし?少しお尋ねしたいのだけれど……」
「……ん?どうされましたレディ?ああ、もしかして保釈金を持ってきたんですか?それなら向こうの受付で保釈申請を出して頂いて……」
「え?保釈金?保釈金って……ち、違います!私、ならず者の情婦じゃなくて……騎士団第三部隊副隊長クリス•シャードの妻ですわ!」
「……………はい?」
私がそう名乗った途端、門番の騎士はぴたりと動きを止めた。
「……クリス・シャード副隊長?」
「ええ!」
「シャード副隊長ってあの堅物で有名な……?」
「そうよ!」
「その……妻? 貴女のような、ならず者の愛人をやっていそうな派手な女性が、真面目で有名なシャード副隊長の……?」
「もう!そうだって言ってるじゃない!いいからあの人を呼んでくださいな!そ、その……忘れ物を届けにきたって!」
「は、はあ……しかしながらレディ。シャード副隊長は今騎士団にいなくてですね……」
「え?いない?いないってどういうこと?確かに今朝、家を出て……」
「いえ、確かに騎士団には来られたんですが……実は今朝欠員が出ましてその代わりに今市場の方に巡回に行っておられまして……」
「い、市場ですって!?」
その言葉を聞いた瞬間、私は飛び上がった。だ、だって市場よ市場。王都の中でも一際賑やかで王都内外から多くの人々が集うあの市場にあの人が……巡回に……えっちな下着を着けて……
(っそ、そんなのダメよ!ダメ!もし巡回中に子供がぶつかってきてその拍子にズボンを掴まれてパンツが丸見えになったり、諸国放浪中の剣豪に絡まれて服だけを切り刻まれて衆人の前で肌を晒すような事が起きたらどうするの!?あの人の良さを知っていていいのは私だけなんだから!)
もはや一刻の猶予もない。
「あのー…レディ?もしよければその荷物を預かりましょうか?シャード副隊長いつ戻ってくるか分かりませんし…」
「結構よ!!」
「あ、ちょっと!」
門番に差し出された手を振り払い、私は駆け出す。向かう先は勿論、市場だ。あいにく騎士団の詰め所からはだいぶ距離があるが、
「うおおおおおっ!!あなた待っていてねええええ!!」
給仕女時代、食い逃げ犯を追いかけ回して培った脚力を全力で発揮し、私はものの三十分で市場へと辿り着く。
そして市場を見渡せば相変わらず人でごった返しており、露店の呼び込み。行き交う商人。子供たちの笑い声。焼き菓子の甘い匂いに、肉の香ばしい香りに、ついつい目移りしそうになるが、その雑踏の中でーー見つけた。
「……いたわ!」