side~ロッテ~
「あの!すみません!」
急に大きな声で話しかけられる。
「う~、耳がキィンってするう~」
受験者達の声を聞くために、マルチタスクを全開にしていたアリアが耳を押さえている。
「ア、アリア大丈夫?」
「う、うん、なんとか」
「?」
首をかしげる男の娘(誤字にあらず)。まぁ、分かんないよね、そんなに大きい声って訳じゃなかったし。あたしらは猫を素体とした使い魔だ、人間の何倍もの聴力がある。
「えっと、それで君、どうしたのかな?」
「あ、はい! チームメンバーと挑む試験官を決めました!」
「えっ! もう!?」
「はい!」
メガーヌが問いかけると、男の娘は答える。あたしらはその言葉に集中する。思ったよりも早い、メンバーは兎も角、試験官をもう決めた? あたしらも負けるつもりはないし、易々と試験を突破させるつもりもない。
作戦会議の時間は後で20分あげるつもりだった。でも即興のチームで足りる時間じゃない。だからこそチームメンバーと試験官を決める時間もその作戦会議に当てるつもりだ。何より受験者達の動きが止まってる、周りへの牽制にもなる。
「そう、それじゃ貴方のチームメンバーと挑む試験官を言ってくれる?」
「はい! ニッツ・マーケン、ルイーヤ・バルセットさん、レイ・アセル・モーズさん、アル・フェルトさん、デリッツシュ・マッサロさん、山口宏壱くんの六人です!」
「山口宏壱くんっと。試験官は?」
メガーヌが名簿にチェックを入れていく。彼、宏壱の名前が出て反射的に宏壱の方に顔を向ける。宏壱は椅子の背凭れに背を預け、腕を組んで目を閉じている。(子供がやってるのに様になってるってのが不思議だけど)
多分あいつがこの子を誘導したんだ。さっき見せた闘いへの意欲、戦闘狂若しくはそれに準ずるものを持ってる。無闇矢鱈に誰かに戦闘をふっかけるような奴じゃないのは分かる。ちょっと話しただけでもその温厚さが見えた。でも、そうだとしてもあいつの中には……だとすれば狙いは確実に。
「ゼスト・グランガイツ試験官です!」
「「「っ!?」」」
「ほう」
「やっぱり」
だと思ったよ! この中で一番の実力者は間違いなくゼストだ! 昔はあたしとアリアの方が強かった。でも、今じゃ二人がかりで互角だ。クイントとメガーヌにしても楽勝とは言えなくなった。
受験者達の中で、宏壱だけが突出し過ぎてる。強者をかぎ分けるには、才能だけじゃ無理だ。アイツはそれだけの経験を積んでる。その経験で、あたしらの中でゼストが一番強いと判断した。……確認してみる、か。
「ロッテ、やっぱりって?」
アリアが聞いてくるけどそれは無視して、ニッツ・マーケンに誰がゼストを指名したのか聞いてみる。
「えっと、ニッツだっけ?」
「はい! 受験番号13番ニッツ・マーケンです!」
「うん。ニッツ、誰がゼストを指名したんだ? みんなで相談したの? それとも、誰かが」
「宏壱くんです!」
ニッツに目を合わせて問えば、元気な声で宏壱だと返答してくれる。アリアもゼスト達も気付いた。彼だけが異質だと、あたしらの視線が宏壱に向く。それに気が付いたのか、あたしらの視線と宏壱の視線が重なる。
「それじゃ、僕戻りますね?」
「っ! あ、うん、ありがとう」
「失礼します!」
ペコリと頭を下げて戻っていくニッツを見送る。視線を戻すと宏壱はもうこっちを見ていなかった。
「あの子、ロッテが最後に連れてきた子よね?」
「うん、アイツあたしのことを観察してた」
「観察、か。あれは戦闘狂の類いか?」
そう聞くゼストに首を横に振って答える。
「違う。誰彼構わずってタイプじゃない。強い者を求める戦士、そんな感じだと思う」
そう、戦士、戦士なんだ。アイツは父様も持ってない風格を持ってる。闘ってみたい、鍛えてみたい。そんな恋にも似た感情が浮かび上がってくる。横を見ると、アリアの頬が朱に染まってるし、クイントも目を輝かせてる。クイント程じゃないけどメガーヌも同様だ。
ゼストは拳を強く握りしめ、肩を震わせている。自分の騎士としての感情を抑え込んでいるのが分かる。そうして、あたし達が自分の興奮を抑え込んでいると汚い声が聞こえてきた。
side out
side~宏壱~
《ニッツが戻ってくる前に言っておくことがある》
「「「「っ!?」」」」
残った四人が俺の思念通話に驚きこっちを見る。
《普通にしてろ。周りに感付かれるな》
全員が頷くのを確認して、目を閉じて腕を組む。
《さっき言った言葉、あれは、一緒だって言ったんだ》
《一緒ですかぁ~?》
《ああ。この受験会場にいる者、等しく試験官達に勝つことはできない》
《それは、あたしらが弱いって言いたいの?》
俺の言葉に表情を険しくするアル。アルだけじゃないな。表情には出さないが、雰囲気を剣呑にするルーヤ、オロオロするも思うところがあるのか俺を見ているレイ、口は笑っているが薄目を開けてこっちを見るリッシュ。ぶっちゃリッシュが一番怖い。あとレイがかわいい。
《まぁ、聞けって。いいか? 彼らは管理局員だ。しかも隊長クラスのが一人いるんだよ》
《ゼスト・グランガイツさんですか?》
《レイ、正解だ。クイントさんとメガーヌさん、この人らが隊長だと呼んでいた。なら上司と部下の関係であるのは間違いない》
《でもそれだけで》
《魔力量で判断するな。自分達で感知できるものが全てだと思うなよ。おそらくリミッターを付けているはずだ》
《じゃあ、どうするの?》
(ん?)
視線を感じ目を開けてその方向を見る。ゼストさん達と視線が重なる。試験官五人から闘気が溢れ出る。そういった気などの概念は殆んどないと聞いた。有っても騎士と呼ばれる者達だろうとは呉羽の調べだ。
《それでぇ~、どうするんですかぁ~?》
《試験官に見惚れてんじゃないわよ! マセガキ!》
《ど、どうかしたんですか?》
《どうしたの?》
ゼストさん達に視線を向け、その闘気を受け止めていると、一気に思念通話で話しかけてくる。
《一気に喋んな! 頭いてぇ》
《あ、ご、ごめん》
《ふん》
《す、すみません》
《申し訳ぇ~………すぴぃ~…zzz》
《!
ここに来て初めてのシンクロだった。模擬戦で感じたかったぞ。と言うかレイでも怒鳴るんだな。
《すみません~。余りにも良い陽気でしたからぁ~》
陽気も何も、ここ室内だぞ。
《はぁ~、まぁいい。作戦は一応考えてある。即興だし、なんと言っても俺たちは初対面だ。互いのことを把握してないし、知る時間もない》
《じゃ、じゃあどうするんですか?》
《試験の意味、分かるか?》
「伝えてきました!」
途中でニッツが戻ってきて、試験官を伝えてきたと言う。
「おう、あんがとさん」
礼を言い、ニッツが伝えに行った後で話していたことを伝える。
「何で僕には伝えてくれなかったんですか?」
頬を膨らませ拗ねるニッツ。男にトキメいたのは一生の不覚だ。
「ど、どうしたの?目頭押さえて」
「いや、何でもない。自分の性に絶望しただけだ」
「と言うかさぁ、何であんたが仕切ってんの?」
今まで話した感じで、俺をガキだと見下している雰囲気があったから何時我慢の限界が来るかな、何て思っていたが……今きたか。まぁ、ちょうどいいや。ヒヨッコ共に上には上がいるってことを教えてやりますか。
side~ゼスト~
「おう、ねぇちゃん。そんなガキの相手してねぇで俺たちの相手してくれや」
ロッテが言っていた少年、山口宏壱を見ていると室内に大きく声が響いた。ニッツ・マーケンが言ったチームメンバーを五人の二十代半ばほどの男達が取り囲んでいる。
「はぁ」
溜め息が聞こえ横を見ると、額を押さえうんざりしたような顔をしたクイントがいた。溜め息こそ漏らしていないが、メガーヌ、アリアも同様だ 。
「どうした?」
「あれ、今回の要注意人物ですよ隊長。資料見てないんですか?」
「いや、そんなものは見ていないが」
「あれ? ロッテに渡してって言ってあったんだけど」
「いや、俺の手元にはないな」
アリアの問いに否定の言葉を返す。知っていればある程度の注意は払っている。
「ということは………ロッテ?」
「あははは、ごめんなさい忘れてました」
「今日のさんまは抜きね」
「そんなっ!? 横暴だ! ちゃんと謝ったのに!」
「ごめんなさい、で済んだら管理局は要らないのよ」
「ううぅぅ~」
「その話は後だ。それで、アイツらはなんだ?」
問答を続けるアリアとロッテを仲裁?し話を促す。
「第87管理世界カラチ・カラカスの出身ですね。五人兄弟で同じ部族の出のようです。部族の伝統で名前の前と後にチンとピーラを付けるみたいですです」
「カラチ・カラカス、確か治安の悪い世界だったか?」
「はい、政府からして横領は当たり前、会議中にキレて暴行を働く、出向いた局員に唾をはく等々、上層部では管理世界からの除名を、との声も上がっています」
「お父様の話だと、アルカンシェルでこの世から消し去れって、過激なこと言う人もいるらしいしね」
メガーヌの説明にそう付け足すアリア。その間もカラカスの者達は彼女達に声を掛け続けているが、冷たくあしらわれている。奴等は照れていると勘違いしているようだな。容姿は全員がポンパドールで中肉中背、魔力量はAA程だが何か突飛なものがあるわけでもなさそうだ。
「なぜそんな連中が此処にいるんだ」
右手で頭を押さえながら呟く。
「確かカルチ・カラカス政府が管理局との関係の改善にって橋渡しとして、カラカスでもそれなりの実力者を入局させたいって話らしいけど、あんな頭の悪そうな奴等が、筆記試験をクリア出来るとは思えないんだけどね~」
「はぁ、そうだな」
ため息をつきながらロッテの言葉に同意する。
「たとえ出来ていたとしても、あれではやっていけん。組織内の不協和音に繋がる」
「そうですね「俺らが誘ってんだ!! んなつんけんすんなよ!!」……限界です ! 隊長、私が摘まみ出してきます!」
「待て、クイント!」
「隊長! あれでは試験どころではありません!」
「あれを見ろ」
「え?」
飛び出そうとするクイントを制止し、彼らのいる場所を見るように言う。
「何だこれ動けねぇ!?」
「足が凍りついてやがる!?」
「女の扱い方も知らねぇカス共が、俺が教育してやる」
そこには、足を地面に氷で縫い付けられた五人組と、それを行ったであろう少年、山口宏壱が立っていた。