リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第十鬼~赤鬼と試験終了~

side~宏壱~

 

 自身を覆っていた氷の膜を破る。まず視界に入ったのは、高い視線。子供の体とは明らかに違う、自分の体を見下ろせば地面が遠く、手に持っていたはずの刃は、鞘に納まりズボンのベルトの左腰に刺さっている。

 周囲の確認をすると、未だにリッシュの展開した防壁の中にいるリッシュ、ルーヤ、レイの三人。この三人には事前に危うくなったら俺が切り札を切るから動じないでくれと伝えてある。それでもちょっと驚いてるっぽい。

 少し離れたところで地面に俯せに倒れているニッツ、意識はあるが体が動かないようだ。そして、その視線の先には、デバイスを振りかぶるゼストさんと来るであろう衝撃に、身を強張らせているアルの姿だった。

 

 

(先ずはアルの救出からだな)

 

 

 やることを決め動く為に刃へと思念通話を送る。

 

 

《刃、サード ムーブだ》

 

《主!? セカンドのままでも!》

 

《術式は出来てる。でも、一度も試したことがねぇってのは問題じゃねぇか?》

 

《………》

 

 

 そう言うと少し黙る刃。 やがて言葉を紡ぐ。

 

 

《そう、ですね。データは欲しいですし、でも、やるなら速攻で決めてください。幾らグロウを使っていると言っても限界はあります。それに、リスクが無いわけでもありませんから》

 

《おう》

 

 

 今の遣り取りを一瞬で終わらせ、セカンドをサードに移行する。そして、視界がブレる。

 次の瞬間には、アルを腕に抱き空中で『薄氷』(空中に薄い氷の膜を張り足場を作り出す魔法)を張ってその上に立っていた。

 

 

《どうですか?》

 

 

 刃の声が聞こえるが、はっきり言ってそれどころじゃない。視界が揺れて気持ち悪いし、体の節々が痛い。その上血の流れが異常なほどに速い。心臓がバクバクいって煩い。周りの音が遠く感じる。

 これは多分グロウ(刃に保存されている前世での宏壱のデータを元にして、宏壱自身を前世の最盛期{20~30歳の間}まで今の肉体を成長させる魔法。この際に肉体の安定を図るため魔力でコーティングする必要があるが、魔力変換で炎に包まれたりとか、氷漬けになる必要はなく、ただの演出である)とサード ムーブ (ファースト、セカンドのさらに上位の魔法。元々構想はされていたし、術式も完成していたがセカンドと違い、サード以降はどうシミュレーションしても子供の体では耐えきれず壊れてしまうので、試験することができなかった)の併用が原因だろうな。

 急激な肉体の成長に合わせ飛躍的な身体能力の向上。ファーストから段階を踏めば良かったんだろうが、そんな暇はねぇし、状況が許してくれるとも限らねぇ、体を鍛えるしかねぇ、か? ま、この問題は後だな。今はこの試験を乗り切る!

 

 

「すぅ………はぁ~、すぅ………はぁ~。よし」

 

 

 目を閉じ深呼吸を数度繰り返し、速くなっていた動悸を整え、新鮮な空気を肺に入れ嘔吐感を抑えて思考もクリアにする。

 

 

《主?》

 

《あ、ああ、ある程度の問題点は把握した。少し難ありだけどな》

 

 

 目を開けたところで刃から声がかかる。

 

 

《そうですか。では、今後はそれらを注視しながらの鍛練、ということですか?》

 

《ああ、そうなる》

 

《では、早く終わらせましょう》

 

「《ああ。その前に》で、そろそろこっち向いてくれねぇかな?」

 

 

 刃との思念通話を終わらせ、キョロキョロと視線をさ迷わせるアルに声をかける。

 

 やっと俺の方に顔を向けたアル。何か、どんどん顔が紅くなってきたんだけど。目もグルグルとナルトみたいだな。

 

 

「(見てて楽しいことは楽しいんだけど、終わらねぇからなぁ)現実逃避は終わったか?」

 

「あ、あんた宏壱でしょ!? なんで背が伸びてッ!って言うか、どう見ても20代じゃん! 何! 何したのよ!?って言うか、下ろしてよ! 恥ずかしいんだけど!」

 

 

 めちゃくちゃテンパってんな、おい。アルにもこんな可愛いとこがあるんだな。わたわたと自分の顔の前で両手を振りまくるアルを見てそんな風に思う。

 

 

「下りるんじゃなかったのか?」

 

「下りるわよ!」

 

 

 俺の腕から下りたアルは足場を確かめるように爪先で『薄氷』を何度か叩いている。ほんと元気だな。魔力も殆ど残ってねぇみたいだけど。

 

 

「さて、ニッツとアルが頑張ってくれたんだ。俺も良いとこ見せねぇとな。で? アルは一人で降りれんのか?」

 

「別に飛行魔法ができない訳じゃないわ。苦手なのよ、ゆっくり降りれば問題ないわ」

 

「了解」

 

 

 アルの言葉に短くそう返し、軽く『薄氷』を蹴り飛び降りる。

 

 

《ルーヤ、レイ準備はどうだ?》

 

《バッチリだよ!》

 

《い、いつでも行けます!》

 

《よし! なら俺とゼストさんが鍔競り合いになった瞬間を狙ってくれ! ギリギリで躱す!》

 

《《了解だよ!!/りょ、了解です!!》》

 

 

 二人との思念通話を終わらせ降下中に刃を鞘から抜刀、飛行魔法を発動し、成長した俺の姿に驚いているゼストさんめがけ突っ込む!距離は凡そ15m。

 

 

「何をした? いや、今はそんなことよりも」

 

 

 高速で近づく俺に対しゼストさんは右足を前に出し、左足を後ろに下げ半身の状態になり、腰を落として胸の前で槍を構えその切っ先を俺に向ける。

 

 

(なんだ。魔力が槍頭に集まっていく?)

 

「シュトース ヴェーエン!」

 

 

 ゼストさんはその場で俺に向けて突きを放つ。

 

 

「この距離で!?」

 

 

 彼我との距離は10mはある。それを補うように飛ばされた魔力の突きだ。

 

 

「避けれまい!」

 

「ちぃッ!月歩!」

 

 

 迫り来る魔力の突きを、空中を力強く踏み抜くことで空中歩行を可能にした体技『月歩』で空を蹴りギリギリのところで回避する。

 

 

「なにッ!?」

 

「ファースト ムーブ!」

 

〈First Move〉

 

 

 驚きを表すゼストさんの隙を逃さずファースト ムーブを発動する。次の瞬間にはゼストさんの右側デバイスを構えている方向とは逆側に移動していた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 目を見開くゼストさんと視線が重なる。刃を両手で持ち腰を落とし左腰に構え振り上げる!

 

 

「なん、だと!?」

 

 

 振り上げた刃は後ろに回された槍の柄で防がれた。

 

 

「なんて反射速度してやがんだ!」

 

「ぬうぅぅッ! 見掛けだけではないのか!? 力も大人の男と変わらん、それどころか並みの男よりも強い!」

 

 

 ギチギチと互いのデバイスを擦り合わせ力が拮抗し、打つ手がなくなる。

 

 

「何でそんな体勢でこんだけの力が出せんだよ!」

 

「意地だ!」

 

 

 体勢で言えば明らかに俺の方が有利だろ! それを意地だけで! だが、この拮抗も長くは続かなかった。

 

 

「「合成魔法! トランスペアレント チェーン!」」

 

 

 ルーヤとレイの声が辺りに響くと同時に、ジャラジャラと鎖の輪っか同士を擦り合わせたような音があちこちから聞こえだし、やがて音はジャラララララ! っと鎖を引っ張るときのような音に変わる。その音は俺の背後からも聞こえていた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 驚くゼストさんを放って置き、大きく後ろに後方宙返りの要領で跳ぶ。数秒前まで俺が居た場所をジャラララっと鎖が通過した。

 

 

「こ、これは! チェーン バインド!?」

 

 

 俺が着地するとゼストさんは緑色の魔力で出来たチェーンにより、両腕を腰と一緒に縛り上げられていた。

 

 

「この程度のものぉ!!」

 

 

 ゼストさんは身体能力を魔力で強化しチェーン バインドを引き千切ろうとする。が。

 

 

「させるか!」

 

 

 上体を低くして走りながら右手に持った刃を手の中で回転させて逆手に持つ。チェーン バインドを引き千切られる前に!

 

 

「チェックメイト、だ」

 

 

 チャキっと音を鳴らせ刃をゼストさんの首筋に突きつける。

 

 

[ゼスト・グランカイツVS受験生六人による実技試験を終了します。尚、実技試験勝者は受験生組とさせていただきます]

 

 

 試験終了を知らせるアナウンスが流れる。

 

 

「ふぅ」

 

 

 一息つき刃を下ろす。

 

 

「刃、モード リリース」

 

〈御意〉

 

 

 俺の全身が光に包まれる。光が収まった頃には視点が低くなり、ここ数年で見慣れた高さになった。(背が伸びてないって意味じゃねぇぞ?)それと同時に刃も待機形態の十字架のネックレスになる。

 今回チームを組んだメンバーを見やれば、ルーヤやレイ、リッシュは喜び3人で手を合わせてその場でピョンピョンと跳びはねている。アルはニッツの手を掴み起こしている。今まで仏頂面だったアルも笑顔だ。

 近くで何かが砕ける音がした。と言ってもゼストさんを拘束していたチェーン バインドが解けただけだけどな。

 

 

「まさか、負けるとはな」

 

「勝ちは勝ちだけどさ、あんたもリミッターみたいなの着けてるだろ?」

 

 

 ゼストさんの呟くような言葉に、こっちに向かって走るルーヤ達を見ながら答える。

 

 

「これでも首都防衛隊の隊長をしている。たとえリミッターが有ったとしても負けるつもりはなかった」

 

「だろうな。あんたからは並々ならぬ闘気を感じた。あれで加減した、手心を加えた。何て言われても信じねぇよ」

 

「そうか(闘気? 聞いたことがないな。この後なら時間もある、聞く機会もあるだろう)」

 

「ああ」

 

 

 それだけ言葉を交わし沈黙する。見ため通りかなり無口と言うか寡黙って感じの男だな。

 

 

「宏壱君! やったね!」

 

「ぼ、僕も頑張りました!」

 

「私の幻術とルーヤさんの捕縛魔法の混合凄いです!」

 

「ま、まぁ、上出来なんじゃない?」

 

「はうぅぅ~~、疲れましたぁ~。早く帰って寝たいですぅ~」

 

 

 皆嬉しそうな顔をしている。そう思う俺も表情が緩んでいるのが分かる。

 

 

「次の試験の邪魔になる。話すのはブリーフィングルームに戻ってからでいいだろう」

 

 

 そう呟きゼストさんは隊舎へと向かう。それを追うように俺たちも隊舎へと歩みを進める。

 

 

「あ! そうだ! 宏壱君、ブリーフィングルームに着いたらさっきの魔法のこと教えてよ!」

 

 

 ルーヤの言葉に他の四人も気になるようで首を縦に振っていたり、興味の無いフリをしてチラチラとこっちを見たり、眠気が吹き飛んだのかキラキラと目を輝かせたりと、様々な反応だが全員興味が有るみたいだな。前を歩くゼストさんも意識をこっちに向けてるみてぇだし。

 

 

「あー、まぁ、時間もあるんだろ? ゼストさん」

 

「ああ、後三組の受験者の実技試験を行い、それが終われば合格通知の届け先の登録、解散という流れになる」

 

「その間って絶対にブリーフィングルームにいねぇとダメか?」

 

「? いや、時間までに戻ればこの隊舎内の見学くらいなら出来るが。何か見たいものでもあるのか?」

 

「いんや、ちょっち腹へったなぁ、って思ってさ。食堂ととかあるんだろ?」

 

「ああ、今の時間帯なら利用している局員も少ないだろう」

 

 

 そう言ったゼストさんの案内で俺たちは食堂へと向かった。




終わらない、だと!

一応試験は終わりましたね、試験は。

次はさらっと行けるかなぁ~、何て心配しています。

どうも文章がくどいかもしれません、誤字脱字ちょっと多いかもしれませんがお付き合いのほどを。

ではこれにて。
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