リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第十六鬼~赤鬼と猛獣、違和感~

 side~宏壱~

 

 リンディさんが本局からの指令を受けて三日。アースラの姿は第27管理世界・エルピオン軌道上にあった。

 

 

「さて、皆さん今からエルピオンへの調査を開始したいと思います。準備はいいですね?」

 

 

 リンディさんが既にバリアジャケットを着用した(デバイスは行動の妨げになる可能性があるから展開していない)、俺を含めた調査班10人を見る。この人数になったのはボルクがリンディさんに戦力温存だのと進言したからだ。リンディさんは渋りながらも了承し少数になった。おかしい、あの男はいったい何をした?

 

 

「それじゃあ、皆気を付けてね?」

 

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」

 

 

 俺たちの足下が光を放ち転移ゲートが開く。一瞬視界が光に包まれ、収まると眼前には生い茂る木々が広がっていた。

 

 

 [山口二等陸尉聞こえますか?]

 

「ああ、感度良好、問題ない」

 

 

 俺たち調査班には通信機が配給されている。その通信機から透き通るような耳に心地い女の声が聞こえる。

 

 

[こちらオペレーターのライラ・テミリアル伍長です。サポートはこちらで行います。よらしくお願いします]

 

「ああ、テミリアル伍長よろしく頼む」

 

 

 この調査班の班長は俺が務めることになっている。俺がこの中で一番階級が上だからだそうだ。ま、あくまで形だけだ。いざという時のための物、それまでは基本臨機応変に各自対応ってことになってる。

 

 

[此方で映像を見ることができません。ですのでレーダーで調査班の位置、周囲の状況を把握していきます]

 

「了解」

 

 

 アースラに何かしらの不具合が生じているらしく、此方の状況を映像として映し出せないらしい。今復旧作業中が行われている最中だ。

 

 

[では、そこから1km北へ進んでください。その森を抜けた先に件の現場があります]

 

「了解」

 

 

 行き先を聞き調査班、他九人を伴い生い茂る藪をかき分けながら進む。

 

 

「止まれ」

 

「山口二等陸尉?」

 

「どうかしましたか?」

 

 

 500mほど進み進行方向に気配を感じ立ち止まる。右手を挙げて後ろに付いてきていた九人も止める。

 

 

[調査班、気を付けてください。前方に生命反応有り、警戒してください]

 

 

 オペレーター、テミリアル伍長の言葉で状況を把握したんだろう。後ろで息を飲む音が聞こえる。

 

 人……じゃないな。もっと大きい何か………猛獣、か? 第27管理世界・エルピオンは文化レベルAで、都心はミッドのそれに近い模様を呈している。だが、都心より離れた地域には自然が多く残されており、猛獣の類いも数多く確認されているそうだ。

 

 

[生命反応………これは、Aランク危険種!? ビズルモーガです! 距離30m!25m! 凄い速さで近づいています!調査班対処してください!!]

 

 

 テミリアル伍長の悲鳴のような叫びが耳に響く。前方からガサガサと草を掻き分ける音が聞こえ、その音はどんどんこっちに近づいているようだ。

 

 ゴクッっと後ろから唾を飲み込む音が聞こえた。緊張が高まっている。

 

 俺は肩幅まで足を開いて腰を落とし左手を胸の前へ右手は腰に持っていく。

 

 ガサガサガサガサッ!

 

 ひときわ大きく草を掻き分ける音が聞こえ、次の瞬間には大きな影が草陰から飛び出す!

 

 

「ぜぇぁあっ!」

 

 

 丁度俺の正面から飛び出してきた影を捉え

 眼前に迫った影を右足を引き半身になることで躱し、腰に据えていた右手を振り上げ掌底を放つ!

 

 ゴキュッ!っと音を響かせ巨体は宙に浮き上がる。

 

 

「はっ!」

 

 

 確かな手応えを感じながらもそこで手を休めることはせずに、短く息を吐き左足を軸に体を回し右回し蹴りを叩き込む! 踵がめり込み巨体をぶっ飛ばす!!

 

 ドゴッ!ドゴッ!

 

 吹き飛んだ先にある木々を一本、二本、三本と圧し折り、やがて勢いは殺され四本目で止まる。

 

 木が倒れた影響で辺りに土煙が舞う。一分弱程で土煙は晴れ少し風景の変わった森が見えてきた。

 

 

「テミリアル伍長、どうなった?」

 

 

 弱く成りはしたものの、完全に気配が消えた訳ではないことから生きていることは分かっているが、余りボルクに手の内を見せたくはない、そう考えながらテミリアル伍長に状況を聞く。

 

 

[………あっ、は、はい! えっと………せ、生命反応確認! 生存確認しました。ですが……瀕死の重傷、もう動けないでしょう]

 

「了解。一応確認に向かう」

 

[は、はい。気を付けてください]

 

 

 呆けていた九人の意識を起こし、影の吹き飛んだ先に向かう。

 

 そこには、木を背凭れにし此方を鋭い眼光で睨む白い体毛に覆われたゴリラがいた。腕は左右に二本ずつあり丸太のように太い、胸から腹にかけて毛はなく硬質な筋肉がむき出しになっている。立ち上がれば3mにはなるだろう巨体を支える足は、意外にも細く腕が丸太なら足は枝という(ただガリガリという意味ではなく無駄な肉を極限まで落としたマラソンランナーという感じだが)表現がぴったりだ。

 

 どうやら怪我をしているようで腹から止めどなく血が流れている。

 

 

「………これは」

 

「怪我、ですか?」

 

「腹部に穴が開いてますね」

 

 

 調査班が言ったように腹に複数の小さな穴、もっと言えば弾痕のようなものが複数存在した。

 

 

「ビンゴっす、リンディ艦長。これは質量兵器によるものだ。まだ傷も新しい。こいつの来た方向を考えると……」

 

[先にいるということね?]

 

「そういうことになるっすね」

 

 

 一応任務中ということで敬語(?)で話す。

 

 

[気を付けてね?]

 

「うっす」

 

 

 そこで会話を切り調査班を見渡す。

 

 

「この中で回復魔法が得意なのは誰だ?」

 

 

 俺の質問に首を傾げつつも三人が手を挙げる。

 

 

「よし、じゃあ、その三人とお前とお前はここに残れ」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

 俺の言葉に指名された五人は一瞬呆けた顔をする。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「そ、それってどいう?」

 

 

 声を上げたのは二人、ただ、後の三人も不満そうだ。

 

 

「回復魔法を使える君らはこいつの回復を、あとの二人は何かあった時のための護衛を頼む」

 

 

 全員に目を合わせて言う。身長差のせいで首が少し痛いけど。

 

 

「はぁ~、分かりました」

 

 

 一人がそう言うと他の四人も了承の意を伝えてくれる。それに「ありがとう」とだけ返す。その場は五人に任せ残りの四人を引き連れて目的地へと再び歩みを進める。

 

 暫く藪を掻き分けながら歩くと森が終わり眼前には倒壊し瓦礫とかした建築物であったであろうものが見えた。

 

 

「これは、ひどい」

 

「殆どが焼け焦げてますね」

 

「撤去とかしないんでしょうか?」

 

「道なんてあってないようなものですね」

 

「思うところはあるだろうが、任務が先だ。普通なら散開して調べるんだけどな、敵がいる可能性が高くなった。固まって動くぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 形だけの班長のはずが、いつの間にからしくなってやがんな。ガキの俺に対する反発もないし、そこは管理局の実力主義みたいなところに救われたな。さっきの確か……ビズルモーガ、だっけか? 手負いとはいえあれを伸したのも効いたんだろうな。

 

 

「特に変わったようなことはありませんね」

 

「………ああ(何か違和感が、何だ?)」

 

「しかし、酷い血の痕だ」

 

「ええ、まだ血の咽せ返るような臭いがするわ」

 

「山口二等陸尉!」

 

 

 少し先行していた男の魔導士が俺を呼ぶ。

 

 

「どうした?」

 

「これを」

 

 

 男が差し出したのはA4サイズの一枚の紙。所々焼けていて雨にも曝されぐちゃぐちゃになっていて読むことはできないが、奇跡的に一部分だけ瓦礫が火除けになり、雨よけになった部分がある。その部分数行だけが辛うじて読みことができた。

 

 

「……これは!?」

 

「事実、でしょうか?」

 

「刃」

 

〈………記録しました〉

 

 

 男の問いに答えず刃の撮影機能で記録保存する。

 

 

「……事実かどうかは兎も角、ここら一帯に同じようなものがないか探すんだ。見つけ次第俺のところに持ってきてくれ、自分達のデバイスに記録するな。身を危険にさらすことになる」

 

[調査班何か発見しましたか?]

 

 

 他の四人に指示を出し、俺も作業へ取りかかろうとしたところでテミリアル伍長から通信回線が開かれる。

 

 

「いや、状況が把握しきれていない。帰還後に報告する」

 

[了解しました]

 

 

 最低限のことだけを告げ通信回線を閉じ、俺も周辺調査に加わった。

 

 それから一時間の調査の甲斐虚しく何も見つけることはできなかった。

 

 

「………何もない、か」

 

「山口二等陸尉これ以上はもう」

 

「ああ、無駄だろうな」

 

 

 調査班の一人の言葉に頷く。

 

 

「よし、全員森の中にいるやつらと合流、そして帰還するぞ!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 しかし、何もなかったな。組織の連中がいると思ったんだが………此方にいない? っ!? まさか!?

 

 パァン!

 

 その時、遠くから破裂音のようなものが聞こえてくる。

 

 

「山口二等陸尉!? どうしたんですか!?」

 

 

 他の四人を置き去りにして、外れていてほしいと願いながら走り出す!

 

 

「刃!」

 

〈御意!〉

 

 

 即座に刃を展開右手に持ち森に差し掛かったところで跳び上がる。トンっと体重をかけすぎず木の枝に乗り前方の枝に跳ぶ。

 

 

[山口二等陸尉!]

 

「テミリアル伍長! 置いてきたやつらの状況は!?」

 

[敵勢力と交戦中! 敵は一人です!]

 

「了解! 俺が行くまで保たせろ!」

 

[は 、はい!]

 

 

 枝から枝へと、それを繰り返し一分にも満たない時間で目的地が見えてくる。

 

 

〈二名負傷、三名交戦中です〉

 

 

 刃の報告を聞きながら銃を持つ男の背後に着地する。

 

 

「一時的にとはいえそいつらは俺の部下になったんだ。手を出すなら俺が相手になるぞ」

 

「「「山口二等陸尉!」」」

 

「っ!?」

 

 

 驚愕の声が三つ、息を飲む音がひとつ、どれが誰のものかは見なくても分かる。

 

 

()っ!」

 

 

 男が振り向くよりも早く、男の横っ腹を手加減して殴り、吹き飛ばす。男は木に激しくぶつかり動かなくなった。気絶したんだろう。

 

 

「お前ら、大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「僕らは怪我はないですけど……」

 

「二人、負傷しました。命に別状ありませんが、戦闘への参加は不可能です」

 

「分かった」

 

 

 三人の報告に頷き返す。三人が言うように怪我らし怪我もなさそうだ。

 

 

「それで負傷者は?」

 

「こちらです」

 

 

 二人を気絶した男の見張りとして残し、一人に案内してもらう。付いていくと、治療をするとき暴れられて困ったんだろう、バインドで縛られたビズルモーガの近くに応急処置を受けた二人がいて、右肩と左足に包帯を巻いた男と右脇腹に布を当てて露出した木の根にもたれ掛かった女。確かに敵勢力がまだ残っていた場合、戦うことはできないだろう。

 

 

〔ヴヴヴヴ、ガァァァァァ!!〕

 

 

 二人の状態を確認しているとビズルモーガが突如吠え出す。

 

 

「山口二等陸尉! 危ない!!」

 

「黙ってろ」

 

 

 声に覇気を乗せ殺気をちょろっと込めて睨み付ける。

 

 

〔グウウウゥゥゥ〕

 

 

 すると怯えた表情になり低く唸るだけになった。

 

 

「そいつの治療は?」

 

「我々の魔法では完治とまではいきませんが、走る程度なら」

 

「なら離してやれ。ここにいられても邪魔なだけだ」

 

「………分かりました」

 

 

 少し考えバインドを外す。ビズルモーガは俺たちを、俺を警戒しながらゆっくりと後ろ向きに下がり、ある程度距離が空いたところで体の向きを変え猛然と走りだし、木々の間へと姿を消していった。暫く気配を追うが止まることなくむしろ速度を上げて離れていく。もう大丈夫だと判断し俺は通信機の回線を開きテミリアル伍長へと繋ぐ。

 

 

「テミリアル伍長聞こえるか?」

 

[はい、聞こえています]

 

「負傷者二名の強制送還はできるか?」

 

 

 テミリアル伍長にそう聞くと、通信機の向こう側でリンディさんと会話しているのが聞こえてくる。

 

 

[はい、医務室の準備もできているそうです]

 

「じゃあ頼めるか?」

 

[はい、……送還開始]

 

 

 二人の下に光が現れて包んでいく。やがて光は収まり二人はアースラへ帰還した。

 

 

「さて俺たちも――ドオォォン!!!――っ!?何だ!?」

 

「襲撃者を置いてきたところです!!」

 

 

 俺たちもあの男を連れて帰還しよう、そう言おうとしたところで近くで爆発が起きる。一瞬狼狽えたが、残してきた二人の魔力の高まりを感知した。何らかの魔法を放ったんだろう。だが、何かあったのか? 思いつくのは銃を持ったあの男か。此処で考えていても埒があかないな。

 

 

「行くぞ。魔法を使う何かがあったんだ」

 

「はい!」

 

 

 爆音のしたところに辿り着くと、デバイスを構えた六人の魔導士、その眼前には土煙が広がっていた。俺が向こうにいっている間に合流したんだろう。

 

 

「何があった?」

 

 

 近寄りながら俺がそう聞くと、

 

 

「山口二等陸尉! 実は質量兵器を所持した男が目を覚ましまして」

 

 

 代表して一人がそう返す。

 

 

「それで攻撃したのか?」

 

「いえ、武器を構えたので武器を下ろし投降するよう呼び掛けたのですが」

 

「無視したのか」

 

「はい」

 

 

 なるほど、勧告を無視したわけだ。なら同情の余地は――ゾワッ!――っ殺気!?

 

 バンッバンッバンッ!

 

 殺気を感じたと供に三回の銃声。考えるよりも早く、手に持つ刃を振るっていた。横凪ぎ、切り上げ、切り下ろし。確かな手応えを感じた。

 

 

「なっ!?」

 

「ウソ、だろ」

 

 

 調査班の面々は驚愕の声を上げる。土煙が晴れたそこにはハンドガンを構えた男が不気味な笑みを浮かべて立っていたいた。

 

 

「………魔法が効いてない?」

 

 

 AMF(Anti Magilink Field、最近巷で出回っているそれなりに金を積めば買える、対魔導士用兵器巷で出回っているものはB~Aランクまでの魔法の魔力結合を崩すというもの。俺はまだ見たことはないが一部の犯罪組織はそれよりさらに高性能なものを持っているらしい)、か?………にしては妙だな。魔力結合を崩されたのなら魔法自体が発動せず消されるはずだ。……試すか。

 

 

「イヒヒヒヒヒヒヒャハハハハハハ」

 

「キモい笑いかただな、おい。……そのクセェ口を閉じやがれ!! 炎神槍!」

 

 

 左手を横に伸ばし掌に魔力を集め、炎の槍を形作り腕を振るうことで放つ!

 

 炎の槍は真っ直ぐに男に向かい直撃――ドゴオォォォン――爆発を起こす。

 

 

「うわっ!?」

 

「ちょっ!? 山口二等陸尉! 手加減ぐらいしてくださいよ!!」

 

「加減はした」

 

「あれで!?」

 

「……どんだけ規格外なんだよこの人」

 

 

 爆風に煽られた調査班の面々から口々に文句を言われるが知らん。加減はした、それは事実だ。ただ、あの男と目が合った瞬間、背筋に悪寒が走って力が入りすぎた。………まるで絶望の果てに壊れたような、そんな目だった。

 

 

「ヒッヒッヒッヒッヒャハァァア」

 

「な、何で、まだ立って……」

 

「な、何なんだよ」

 

「あり、得ない」

 

 

 男はハンドガンを構え狂ったように笑いながらトリガーを引き続ける。カチッカチッっと撃鉄が何度もぶつかる音がするが、銃弾が撃ち出されることはない。

 

 

「弾切れなのが分かってねぇのか?」

 

 

 まさに狂人だな、完全に狂ってやがる。

 

 

「もういい、テメェは寝てろ。剃!」

 

 

 剃で一気に男の懐に飛び込み刃を横薙ぎに振るい、横っ腹にぶち当て吹き飛ば――ガシ――そうとしたところで腕を掴まれた。

 

 

「なっ!?」

 

「ニヒヒヒヒヒギャハハハハ」

 

 《主!?》

 

「山口二等陸尉!?」

 

 

 クソッタレが!!

 

 

「ヒャハハハハハハ」

 

 

 男は笑いながらとある球状のものに付いているピンを抜き足元に落とす。俺が初めて生を受けた世界で何度も見てきたもの、手榴弾!

 

 

「自爆する気か!? こんなところでテメェなんかと心中はごめんだ!! ブレイク ショット!」

 

 

 ブレイク ショットを放つも効果がない! クソが! ヤブレカブレになり足を振り上げ俺を掴んでいる男の腕に降り下ろす! ゴキャッっと音がなり男の腕が折れ、手が離れる。

 

 

「ギヒィ!」

 

 

 叫ぶ男を無視して後ろに跳ぶ、と同時に地面が弾けた。男は木っ端微塵に吹き飛び、後ろに跳んだ俺も衝撃に煽られ吹き飛ばされる。

 

 ゴッ

 

「ガッ、あ」

 

 

 体勢を立て直すことがかなわず木に背中を打ち付けられ、その反動で跳ね上がった頭、後頭部を打ち目の奥に火花が散る。

 

 ま、ずい、意識、が……もうろ………うと………。

 

 

 

 

 

 side~リンディ~

 

「軽い脳震盪ですね」

 

「………そう」

 

 

 今私は医務室にいる。ベッドの上には宏壱君が寝かされていて、その頭には包帯が巻かれていた。

 

 

「そのうち目を覚ますと思います。私はまだやることがあるのでこれで」

 

「ええ、私が見ているわ」

 

「くすくす、お願いします」

 

 

 そう言って女医は医務室を後にする。

 

 

「私がもっと人員を割いていれば、こんなことには」

 

 

 宏壱君からの進言はあった。もっと人が欲しいと、十人では対処できるのもできなくなる、と。それなのに私は……。

 

 

「くぅっ、ごめん、なさい」

 

 

 誰も見ていないそんな状況が私を弱くさせる。

 

 

「なめ、るな……そう言った筈、なんだけどな」

 

「っ!?」

 

 

 唇を噛み溢れる涙を止めることもできずに俯いていた私に声が掛けられる。

 

 

「……宏壱、君?」

 

 

 顔を上げると、そこには体を起こし右手で頭を押さえている宏壱君がいた。

 

side out

 

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