リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第二十鬼~赤鬼と突入と怪物~

side~宏壱~

 

 壁を突き破り屋内へ侵入した俺の視界は立ち込める土煙に塞がれている。が、気配を読むことは可能で、この舞う土煙りの中に四人の敵意を持つ人間の気配があるのが分かる。そこまで感知して上体を少し後ろに反らす――バンバンバン――三度光が瞬き銃声が響く。一瞬前まで俺の頭があったところを三発の銃弾が通っていく。それを見送ることなく銃声のした方へ足を踏み出し一足で距離を詰め、銃を構えていた男の腹に左拳を深くめり込ませる。

 

 

「ぐげっ!?」

 

 

 蛙の潰れたような声をあげ吹き飛んでいく男の姿を視界の端に捉えつつ、その横にいた別の男が反応するよりも早く左足で跳び体を捻り右足を延髄に叩き込み沈め、魔力弾を左手の人差し指と中指に形成して銃を構え撃とうとしていた二人の男に向けて……。

 

 

「ブレイク ショット」

 

 

 放つ。放たれた魔力弾はそれぞれの肩を直撃するも効き目は薄くダメージは無いだろう。が、それでも衝撃はそれなりにあるようで強制的に上体を後ろに反らさせられる。

 

ゴッ!!

 

 上体を戻そうとした一人の男の顔面に跳び膝蹴りをかまし、倒れ行く男を踏み台にして跳び空中で前宙して、反応できなかった最後の一人に踵落としを極める。土煙りが晴れ、俺が突っ込んで出来た穴とコンクリート片、気絶し倒れている四人の男の姿がはっきりと見えた。

 

 

「グラヴィティ バインド」

 

 

 気絶している四人の男にグラヴィティバインド(宏壱の持つレアスキル『重力操作』をリングバインドの術式に編み込んだバインドで、リングバインドそのものを物理的に重くする能力が付与されている{当然空中に固定せず自由落下するように設定されている}。因みに通常は100kg程度だが最小10kg~最大1000kg迄の操作が可能である)を掛けソイツらをそのまま放置しコンクリートで出来た通路を歩く。

 

 

「外からは木造に見えてたんだけどな」

 

〈幻術、でしょうか?〉

 

「そんなもんだろ」

 

 

 屋敷の中は四方をコンクリートで固められ、幅は大の男が五、六人横に並んで歩いても余裕があり、天井は3mはあるだろう。明かに外観と内部の構造が一致しない。実際はビルのような建物じゃないかと思う。

 

 

「外は固めたか?」

 

〈そのようです〉

 

 

 突入するのは俺、アリア、ロッテ、他十人の武装隊の面々だ。アリア、ロッテにそれぞれ五人ずつ付き、俺が一人で行動することが簡単なミーティングで決められていた。そして、外詰めとしてもう十人の武装隊が当たることになっている。猫の子一匹逃さないようにな。

 

 

〈前方30m先の曲がり角から複数の生命反応の接近を確認しました。……数は七つどれも殺意を持ってますね〉

 

 

 暫く何事もなく歩いているとネックレスの状態で俺の首にぶら下がっている刃からそんな報告が来る。特に慌てたようすもなく、ただの確認、本当にそれだけの意味で言ったんだろう。因みにバリアジャケット呑み展開し刃は展開していない、

 

 

「はぁ、面倒くせぇな」

 

 

 そう呟き俺はその場に立ち止まり、右腕を前に付きだし親指を捲き込むように握り拳を作り人差し指で親指を押さえる。親指の上に魔力を集中させ圧縮し氷結変換する。周囲の温度がどんどん下がっていきコンクリートの通路に霜が下りていく。

 

 

〈主?彼等に魔法は〉

 

「効かないってんだろ?」

 

〈……はい〉

 

「ダメージは無いだろうな……でも」

 

 

 喋っている間に曲がり角から七人の男が姿を見せた。

 

 

「氷神槍・七指弾(しちしだん)!」

 

 

 押さえていた親指を七回弾き、圧縮されていた魔力の塊が撃ち出されボールペンほどの大きさの氷の槍へと形を変えていく。『氷神槍・指弾』、氷神槍をボールペンほどのサイズにした魔力弾で、指で弾くことで発射する連射性の高い魔力弾だ。ただ、射程に難があり遠ければ遠いほど威力は落ち、下手をするとターゲットに届くまでに消滅してしまう。が、逆に近ければ近いほど威力は跳ね上がる。それは標準の氷神槍(第八鬼~試験開始~、参照)にも引けをとらない。

 

 小さな七つの深紅の氷の槍は通路を突き進み七人の男に直撃する。普通ならなんの効果もなく奴等は銃を乱射できるんだろうが、生憎ソイツには物体を凍結させる能力がある。魔力ダメージが通らないのなら……。

 

 

〈凍結させればいい……ということですか〉

 

「ま、そういうことだな。AMFの類いじゃないのならこういう付属効果は十分通る筈だ、ってな」

 

 

 俺の前方には七つの深紅の氷のオブジェがあり、その氷の中に銃を構えたまま閉じ込められた男達がいた。別に死んだわけじゃない、所謂仮死状態にしただけ、急激な温度の低下による強制的に睡眠を促しただけだ。これが魔導師ならバリアジャケットで防護され完璧な仮死状態に至らすことも出来ず内側から破られるのが落ちだ。が、今回は魔導師でもない生身の人間に使ったんだ、抵抗する術はない……はずなんだけどなぁ。

 

 

〈………ヒビが入りましたね〉

 

「………入ったなぁ」

 

 

 目の前にある一つの氷のオブジェにヒビが入り始めた。

 

 

〔グガアァァァ!!!〕

 

 

 封印とも言える氷を破り出てきたのは人……ではなく体長2mほどの怪物だった。筋肉が異常発達し大きく盛り上がり血管が浮き出ている。顔は腫れ上がり歪な形をしていて目は白眼になり口をだらしなく開け涎と舌を垂らしている。明かに正気じゃない、理性がなく人語も喋れずただの獣に堕ちた何かだった。

 

 

〈……これは、いったい?〉

 

「分からねぇな。何かの薬か、実験でもされたのか……」

 

 

 考えてても仕方ない、か。こっちに向かってくるなら対処する。場合によっては……殺すことも視野に入れねぇとな。

 

 

〔グギアァァァ!!〕

 

 

 コンクリートの床を踏み砕きながら突進してくる。

 

 

「おっと」

 

 

 それをサイドステップで躱し、通り過ぎる瞬間に足を引っ掻ける。勢いがあったためか二転三転と転がっていく。怪物はすぐさま起き上がり再び突進してくる。

 

 

「バカの一つ覚えみたいに」

 

 

 知性の欠片もない力任せの突進に辟易しそう呟き腰を落とし構える。

 

 

「せあっ!」

 

 

 目の前まで来た怪物の腹に右正拳突きを放つ!

 硬い筋肉を砕く勢いで打った拳は腹部に深くめり込む――ゴッ!――

 

 

「があっ!!」

 

〈主!?〉

 

 

 突然の横から衝撃を受け俺の体は壁を突き破りその先にあったタンスにぶち当たる。

 

 

「ぐっ、なん、だ?」

 

 

 破片を押し退け体を起こす。

 

 

〔グウゥゥ、ガアッ!!〕

 

 

 怪物は俺が通った穴を抜け突っ込んでくる。

 

 

「クソがっ!!」

 

 

 横に転がって躱し起き上がり様に走る。怪物は俺の後を追いかけてくる。

 

 

「うらぁっ!!」

 

 

 駆けていた足を曲げブレーキを掛け、バネのように返ってきた反動に乗り跳ぶ、突っ込んでくる怪物の首筋を全力で蹴り飛ばす!

 ゴギッと明かに骨の折れた音と足に伝わる感触で仕留めた!と確信する、が。

 

 

〔ギヒヒヒ〕

 

「な、に?」

 

 

 怪人の強靭な筋肉が、折れた骨を支えているのか!?

 

 

〔ギハァ!!〕

 

「ぐっ、がはぁ!!」

 

 

 怪人の首筋にぶつけた足を掴まれ天井に叩きつけられそのまま天井を突き破り、上の階へと放り出される。

 

 

「……糞ったれが!」

 

〈主!?御無事ですか!〉

 

「何とかな」

 

 

 刃が心配して声を掛けてくるが、問題ないと返す。実際強がりとかそういうものではなく本当に大したことはない。バリアジャケットの恩恵と言えるのか、衝撃で肺の中の空気が出て咽せはしたもののダメージは皆無と言っていい。

 

 

「取り合えずここから離れるぞ」

 

〈御意〉

 

 

 息を調え体を起こしそう言う。一度態勢を立て直す必要がある。流れは向こうにあるし、こっちの戦闘音を聞きつけ、アリアかロッテどちらかが駆けつける可能性がある。二人ならともかく他の武装隊の連中じゃどうしようもないだろうしな。

 その場を離れ息を殺して物陰に身を隠し見聞色の覇気を全開にする。と、建物の全容が見えてくる。凡そ七階建てのビルで今俺がいるのは五階らしい、アリアは……三階で交戦中、動きの悪いのが二人、負傷したか?

 ロッテは……これは地中? 地下があるのか? 取り合えずロッテに連絡を取るか。

 

 

「ロッテ、聞こえるか?」

 

[宏壱?……どうしたの?]

 

「ちょっと伝えたいことがあってな、今大丈夫そうか?」

 

[え? うん、大丈夫だけど]

 

 

 怪物の位置を気にしながら小型通信端末でロッテに通信を繋げる。刃にも当然通信機能はあるが、相手に繋がるのに少しタイムラグがある。その点こいつはタイムラグが存在せず直ぐに相手に繋がる。通信距離も短いし、相手側が同じ端末を持ってないと意味無いけどな。

 

 

「ちょっと問題が起きた」

 

[問題?]

 

「ああ、実は――」

 

 

 そう切り出し事の経緯を簡単に伝える。

 

 

[怪物、か。それって宏壱が勝てないほどなの?]

 

「いや、グロウを使えばどうとでもできるし、今の状態でも手段さえ選ばなければなんとでもなる」

 

[それって、まさか]

 

 

 俺の言わんとすることが分かったんだろう。ロッテの表情が戸惑いと困惑に染まる。

 

 

「アレを放置はできんだろ?」

 

[宏壱が言うほどなら、そうかもだけど]

 

 

 ま、心配してくれるのは嬉しいけどな。俺が自分の家族の仇を殺したってのは、アリアにもロッテにも言ってるしな。

 

 

「来たな。切るぞ、アリアへの連絡は頼んだ」

 

[………うん、気を付けてね]

 

 

「おう」とだけ返し通信を切る。

 

 

 

 

 

 side~ロッテ~

 

 宏壱との通信が切れる。

 

 

「大丈夫、だよね?」

 

「心配、ですか?」

 

 

 後ろを付いてきていた子がそう声をかけてくる。あたし達は今散策中に見つけた地下への階段を下りて、その先にあった通路を進んでいる。四方はセメントで固められ、地上の建物の通路より細く二人並んで歩くのがやっとってところ。今のところ一本道で、特に迷うようなこともなく進んでいるけれど、ここは敵地、油断はできない。

 

 

「騎士を名乗るクセに人体実験をしているのか!!」

 

 

 憤り、その感情がぴったり来る声が後ろから聞こえた。声に出さないだけであたしも同じ気持ちだ。

 

 

「気にしてても仕方ないし、あたし達はやることをやるだけだ」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 アリアに宏壱の話を伝えて通路を進む。一本道の通路、地上よりも広く天井も高い。その通路を進んで行くと、前方に大きなドアが見えた。

 

 

「この先に何があるのか分からないけど、油断だけはしないで」

 

 

 あたしの言葉に五人が無言で頷く。

 

 

「行こう」

 

 

 ドアの前に立つと、自動で両側に開いていき暗い部屋の中に明かりが点る。照らし出された部屋の中は白いタイルで覆われた広大な真っ白な空間、その空間を埋めるほどの無数の生体ポット、規則的に等間隔に列べられ中には緑色の液体と……人?

 右腕だけが大きく他は平均的な大人の男、上半身は人で下半身はトカゲの女、額に三つの目がある子供、腕がカマキリのカマのようになっている男、形は様々だけど……。

 

 

「ロッテさん、これ!」

 

 

 側にあった端末をいじり情報を見ていた武装隊の一人があたしを呼ぶ。

 

 

「何か見つかった?」

 

「これです」

 

 

 彼が見せてくれたものはこの生体ポットに入れられた人達の情報、だと思う。出身世界、名前、年齢、血液型、リンカーコアの有無、何時攫ってきたか、etcetc...。

 

 

「腐ってる!」

 

 

 ――ガン!――と端末に拳を振り下ろす。

 これが、こんなことがコイツらの! 管理局の転覆も! 魔法を使えない人のための世界も! 全部、全部でたらめだった! こいつらに騎士道なんてない!

 

 

「ようこそ管理局の犬諸君、我が城へ」

 

「っ!?」

 

 

 この広大な空間にあたしたち以外の声が響く。あたしは突然の声に驚き、顔をそちらへ向ける。そこにいたのは四十歳ほどの白衣を着た男。男の目にはこちらを見下すような色が見えた。

 

 

「あんた何者?」

 

 

 あたしは目の前の男を警戒しながら聞く。大したものはないと思うけど少しでも情報が欲しい。

 

 

「管理局の犬に答える義理などない、が……今日は気分が良い、特別に答えてやろう」

 

 

 いちいち癇に障る仕草をしながら男は言う。

 

 

「私の名はポーク・サーロンだ。主に生物学を専攻している」

 

「見れば分かる。随分と趣味が悪いんじゃない?」

 

「これは失敬。それほど知能が高いようには見えなかったのでな」

 

「ふん」

 

 

 バカにされているのは分かる。でも名前は聞き出せた、順調……とは言えないかな。嫌な予感がする。宏壱はあたしたちの気配を読んで背後からの攻撃も躱す。そしてあたしとアリアはそんな宏壱に感化されて、第六感とも言えるものを会得した。この力を身に付けて命を救われた場面は幾つもある。危機察知能力、宏壱はそう呼んだ。その危機察知能力が逃げろって騒いでる。

 

――ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ!!! コノシタニハ、キョウフガイル!!!! カナワナイ、カナワナイ、カナワナイ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ――

 

 この部屋に入ってからずっと頭の中で騒ぎ続けている。あたしの本能が逃げろと、ここにいては死んでしまうと。それが強さを増していく。

 

 

「こんなことして、お前は、お前達は何がしたいんだ!」

 

 

 怒声を発することで虚勢を張り、萎縮しないように体の震えを押さえる。

 

 

「私とあの男を一緒にしないでもらいたい」

 

「(あの男……この組織のリーダーのことか?)じゃあお前の目的はなんだ!」

 

「ふむ、これから死に行く諸君には関係のないことだが……話しても構わんか」

 

 

 少し考える仕草をして結論が出たのか男は語りだす。

 

 

「私の目標は究極生命体を作ることだ」

 

「究極生命体?」

 

「そう! 究極生命体だ! 強靭な肉体! 明晰な頭脳! 不屈の精神! 存在するだけで世界に恐怖を与える存在感! それらすべてを兼ね備えた生物を作る。それが私の使命だ!」

 

 

 そう言って男、ポーク・サーロンは指をパチンと鳴らす。するとこの空間にあるにある全ての生体ポットが地面へと沈んでいき、ポーク・サーロンの後ろから沈んでいく生体ポットの一回り大きい生体ポットが迫り上がってくる。その中にいたのは……。

 

 

「……ドラ、ゴン……?」

 

 

 誰が呟いたのか、大きくもないその言葉がこの広い空間に妙に響いた。




ちょっと中途半端かな?とも思いますがここで切らせていただきます。

では、また次回会いましょう。
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