side~アリア~
ロッテから通信が来た。宏壱が接触した敵が変異したらしい。何かの実験か、そういうレアスキル……は無いにしても能力を持っているのか。ただ、並の武装隊じゃ相手をすることはできない。宏壱がそう判断した。もし交戦中の敵に変異反応が見えたら無理に戦わず撤退するように、って忠告されたんだけど……。
メキメキメキッ!
ロッテから通信が来る前に交戦し、二人の負傷者を出しながらもリング バインドで拘束した敵に異変が起き始めた。
「皆、後退する準備をはじめて」
「はいっ!」
「ライラ、負傷者の強制送還はできる?」
[はい、可能です]
「ん、お願いしていい?」
[了解しました]
負傷した二人が光に包まれ、アースラヘと強制転移された。光に包まれる直前の二人の顔はひどく悔しそうだった。
「退避して一度態勢を立て直す……時間もないわね」
「……そう、みたいですね」
「……こんなことを同じ人間にするなんて」
「……気味が悪いです」
それぞれ思い思いのことを言いながら構える。わたしは左足を引き腰を落とし何があっても対処できるように備える。
〔ギ、ギギ、ガガ、グゲエエエェェェ!!〕
〔ウ、ウウオオォォォォ!!〕
拘束していた男は十三人、その内二人が変異した(宏壱はその変異したヤツを怪物って表現してたらしい)。一人は皮膚が裂けていき筋肉が丸見えの状態で上半身が異常発達した。腕が丸太のようになり、首筋もわたしの腰よりも太くなってる。でも身長が変わらず足もそのままで非常にアンバランスだ。もう一体は皮膚の色が灰色になり血管が浮き上がっただけ、それでもその異様さが分かる。そしてそのに二体は変身する際に周りを巻き込み、そばに転がっていた仲間を踏み潰した。
「失敗したわね。こっちに避難させればよかった」
「……よく平静でいられますね」
「慣れよ。あまり良いことじゃないけどね」
少し顔色を悪くしている武装隊の三人に苦笑を浮かべてそう言う。
「来るわよ。皆、気を引き締めて――ズンッ!!ミシッ!!――……え?」
少しの震動と何かに皹が入るような音が響いた。
「な、何?」
「上です!」
状況を把握しようと周囲を見渡すわたしに、上を見ていた一人の武装隊員が声をかける。その言葉に従い上を見ると天井に円形に皹が入り、わたし達の頭上にまで広がっていた。皹の中心は大きく盛り上がっていて今にも崩れ落ちてきそうで、その盛り上がった部分の真下には変異した怪物がいた。
「っ!?崩れてくる!?全員、障壁を展開して!」
わたしの言葉に障壁を展開する三人。わたしも障壁を展開する。それとほぼ同時に天井が崩れ落ちてきて、わたし達に瓦礫が降り注ぐ。瓦礫が降り注ぐ中で変異した怪物の方向、天井が盛り上がっていた部分を見ると、何かが落ちてきて変異した怪物と拘束した男達を巻き込み更に下の階へと続く穴を開けて落ちていく。崩れ落ちた場所から亀裂が広がり崩れていく。その亀裂はわたしの足元まで既にきていて……。
「っ!?ここも崩れるわ!備えてっ!!」
わたしの言葉と同時に床が崩落する。わたし達は飛行魔法を行使しながら障壁を頭上で展開、瓦礫を防ぎながらゆっくりと下りていく。
「……何が起きたんですか?」
「分からないけど……何かが上の階から落ちてきたのが見えたわ」
「何か、ですか?」
「ええ、分からないけどね」
そんな会話を交わしながら下の階へ下りる。瓦礫は既に降り止んでいてあたりには誇りが舞1m先も見えない。
「……どこまで落ちたんでしょうか?」
「この分だと二階も崩れてそうね」
ゆっくり下りているとはいえ足が地に着くまで時間が掛かりすぎている。わたし達が居たのは三階、なら必然的に下の階は二階ということになる。それが崩れて一階まで抜けた可能性はある。
「っと……ふう」
漸く足に硬い感触が返ってきた。どうやら一階まで下りてきたみたいね。少しごつごつしていて不安定な足場だけど、これは上の階から降ってきた瓦礫が原因ね。
〔グギアアァァッ!!〕
「「「「っ!?」」」」
突然響いた咆哮、いや、これは……悲鳴?
「せやっ!」
今度聞こえたのは聞き慣れた気迫を込められた声。普段よりも低く重い声。
ゴウッ!!
衝撃波で立ち込める煙が吹き飛び視界が開ける。わたし達の目に映ったものは、背の高い筋肉質な男が、怪物の腹部に深々と拳をめり込ませ吹き飛ばしているところだった。
「……だ、誰?」
「あんな人、武装隊にいましたか?」
「保持魔力も相当なものですよ。感じられるだけでAAは確実にあります」
「そっか、皆知らないんだ。あれは――〔グアアァァッ!!〕――っ!?宏壱、後ろっ!!」
多分さっき悲鳴を上げた怪物だと思うけど、ソイツが背の高い男、宏壱の背後から襲いかかる。
「らぁっ!!」
宏壱の足が一瞬消え、その時には悲鳴を上げることもなく襲いかかった怪物は、吹き飛び壁を突き破って姿を消した。バチッと放電する宏壱の右足。アレで蹴り飛ばし、た? 全然見えなかった。それにあの放電……まさか、電気資質? そんな話聞いたことないんだけど………後で『お話』の時間を設ける必要があるわね。
「アリア! ロッテの方に大きな気配が出てきた!」
宏壱がわたしの方を見ずに言う。
「お前らの後ろの通路から、こっちに向かってくる魔力反応がある。ロッテと一緒にいたヤツらだ。ソイツらと合流してロッテの方に行ってやってくれ」
「え、でも、宏壱は」
「直ぐに行く。急がないとロッテがヤバイぞ」
その宏壱の声は冗談の余地もなく、こちらに有無を言わせぬ真剣さがあった。
「……わかった。こうと決めたらテコでも動かないもんね、宏壱は」
「はは、理解があって助かるよ」
「宏壱に言うことじゃないけど……気を付けてね」
「おう」
わたし達に背を向け手をヒラヒラと振る宏壱を一瞥して、三人を連れて走り出す。
「アリアさん、さっきの人は?」
瓦礫が散乱し不安定で既に道とも呼べない場所を走っていると、後ろについて来ていた三人の内の一人が聞いてくる。まぁ、疑問に思うのも当然だけど。
「あれは宏壱よ」
「……え?」
「宏壱って……山口二等陸尉、ですか?」
「そんな、さっきの人はどう見積もっても二十代前半、十代にも見えませんでしたよ」
「あれは宏壱の魔法『グロウ』の効果よ。『グロウ』は術者の肉体を飛躍的に成長させる効果があるの。メリットは…身体能力をこのまま成長すると、得られるであろうものにまで増幅することとリーチが伸びること。デメリットは…無理な成長を促すため解除後に体中に激痛が走って二、三日筋肉痛で動けないことね。今は改良を重ねて痛みもそれほど無いみたいだし、筋肉痛も一日で済むみたいだけど」
「幻術魔法、とはまた違うんですか?」
「大きな括りで言えば一緒ね。魔力が切れれば解除されるし、子供が見る幻想とも言えるものだし」
「本人は全然子供らしくありませんけどね」
「くすくす、そうね」
そんな軽口で気分を落ち着かせ焦燥感を払拭する。焦っても良い方向には転ばないって見に染みて知っているから。
暫く走っていると曲がり角が見えて、そこからは瓦礫がなく天井が崩れていない場所だった。
「アリアさん!」
前方から声が聞こえ、そっちを見ると、ロッテと行動を共にしていた武装隊の面々が息を切らせて走っていた。
「はぁ、はぁ、ロ、ロッテ、さんが、はぁ、はぁ」
「落ち着いて、状況は大体分かってるわ」
「はぁ、はぁ、え? 分かってる、って?」
わたし達の前まで駆けてきた五人は、膝に手をつき息を整える間もなく説明を始めようとするその内の一人に、簡単に事のあらましを説明する。
「山口二等陸尉は、そんなことも出来るんですね」
特に驚いた風もなく、わたしから話を聞いた彼は合点がいったと何度も頷く。他の四人も同様だ。
「そんなことより、その地下の座標は分かる?」
「座標ですか? デバイスに記録されてますけど……早くロッテさんを助けに行かないと」
焦る彼らに、わたしは安心させるように軽く微笑んで。
「転移でそこに飛ぶから」
そう言うと「あっ」と口を開けて、失念していたことを誤魔化すように慌てて座標を空中モニターで掲示した。
「貴方達は残って、わたし達が四人で行くから」
座標を覚えそこに合わせてわたし達の足下に転移魔法陣を展開し、駆けてきた五人にそう言うと。
「いえ、もう大丈夫です! 自分達も行かせてくださいっ!!」
五人のその目は真剣で断ることをわたしに許さなかった。
「分かった。でも、無理はしないこと、いい?」
「「「「「はいっ!」」」」」
魔法陣を広げ五人も中に入れて転移する。
転移して先に見えたのは広大な空間。床、壁、天井に至るまで白で埋め尽くされた空間だった。次に目に入ったのは二足歩行する
「ア……さん! アリ……ん! アリアさんっ!!」
「っ!?……え?……あ」
わたしを呼ぶ声に、恐怖に支配されそうだった思考を無理矢理戻される。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど」
「ええ、大丈夫よ。大丈夫」
心配そうな彼らにそう言う。自分に言い聞かせるようにもう一度大丈夫と呟いて、先程の『なにか』の先に影が見えたのを思い出す。
「ロッテ!?」
そこに居たのは、壁に背を預け座り込むわたしの双子の妹、ロッテだった。ロッテの前に立つ『なにか』は腕を振り上げ、
「「「「「チェーン バインド!!!」」」」」
〔グルゥッ!?〕
「「ブレイズ キャノン!!」」
〔グブアッ!!〕
何時示し合わせたのか、放たれた五つのチェーン バインドが『なにか』の腕を絡めとり、首と胴に巻き付き、足を床に縫い付ける。そして間髪を容れず放たれた魔力弾は、そのなにかに直撃し爆発を巻き起こす。
「アリアさん! 今のうちにロッテさんを!」
「え、ええ!」
連携に参加していなかった青年がわたしにそう言う。それに答え、声を掛けてくれた青年と一緒に、魔力弾が着弾し爆煙の晴れない『なにか』を迂回してロッテの下まで走る。
「ロッテ!」
「……アリ、ア?」
ロッテの名前を呼びながら駆け寄ると、それに反応したのか少し焦点の合わない目を向けてきた。
「ロッテ、……大丈夫?」
「はは、うん、なんとか、ね」
良かった、なんとか無事みたいね。
「ロッテ、……大丈夫?」
「はは、うん、なんとか、ね」
そう言って笑うロッテの笑みは、苦いものが混じっていた。
「まったく、無茶ばっかりして、宏壱に似てきたんじゃない?」
「……それって、誉め言葉?」
「そんなわけないでしょ。はぁ、直ぐにここを離れるわよ。手伝って!」
「はっ!」
軽口を言い合ってロッテの無事に安堵する。一歩でも遅かったらと思うとゾッとしないわね。
〔グルアアアアッ!!〕
ギチギチギチカシャアァァァァン!!!
わたし達が飛行魔法でロッテを支えて飛び、チェーン バインドで『なにか』をで拘束している武装隊の側に下りると同時にその『なにか』はチェーン バインドを引き千切る。
「マズイよ、アリア。アレは本当にヤバイ」
「……うん、分かってる。姿を見ただけで体の震えが止まらない」
ロッテの声は震えていて、その意味が痛いほどに分かる。敵わない、頭じゃなくて本能が、心が敗けを認めてる。あーあ、これだったら気配の読み方なんて教わらない方が良かったわね。
「……どう、する?」
後ろからの攻撃も難なく躱して見せる宏壱が羨ましくて、気配の読み方を学んだ過去の自分に、ホンの少し後悔しているとロッテが声を掛けてきた。……どうする、か。
「わたし達じゃ勝てない」
「……アリア?」
それは確かで、確実なもの。
「わたしとロッテが連携を組めばなんとかなる。そこに武装隊のサポートがあれば、ね」
それも本当で虚勢を張っている訳でも、強がりを言っているつもりもない。
「だけど、今のわたし達は腰が引け足が竦んでる」
心が、本能が敗北している。誰かが言ったように『諦めたらそこで試合は終了』まさにそんな感じね。今のわたし達は。
「でも」
でも、まだ負けていない。魔法戦はまだ勝ち目があるけど、純粋な近接戦闘でゼストとタメを張れる彼には、魔法無しの戦いでの勝機はもう無い。
「アリア!そこに居たら危ない!」
「あの子はそうじゃない」
ロッテの言葉を無視して、近付いてくる大きな魔力に集中する。
「……え?」
ドゴオ!!
「わたし達が戦えなくても、宏壱がいるから」
気付けばわたしの前まで来ていた『なにか』は遠くに吹き飛び、代わりに広い背中があった。
side out
……長いなぁ。いや、ホント長いですね、エルピオン大虐殺編。後一、二話 で終わるかな?明言はできませんが。
それは置いといて、今更なんですけど……読みにくかったりしないでしょうか?と言うのも先日、今話を書いている最中に少し前話を見ながらしていたのですが、ちょっと地の文と会話文で間隔を空けすぎかな?何て思いまして……書いているときは気にならなかったんですけどねぇ。
自分は文字が混んでいると目が疲れてくるので、あまり混みすぎないようにと意識したんですけど、どうでしょう?何か御意見が有れば参考にさせていただきたいと思います。
さて、次回は宏壱くんの戦闘シーンですね。成るべく皆様に伝わるように書きます。ではまた次回。