side~宏壱~
体勢を低くして物影を移動しながら『見聞色の覇気』で建物全体の気配を感知する。すると、この建物の下、おそらく地下10m程の距離。そこにロッテと、彼女と行動を共にしている五人の武装隊員の気配がある。そして、そのさらに下から尋常じゃない威圧感を覚える。この程度ならロッテ一人で充分だろ。まぁ、それでも手を打つに越したことはない、か。
アリアの位置は近いな、なら……。
「さて、そろそろ目覚めてもらおうかな。もう一人の相棒に」
〈……無限を起こすのですか?〉
俺の呟きに刃が反応を示し、誰の事を言ってるのか言い当ててきた。まぁ、もう一人の相棒なんざ無限しかいないから、当てるも何もないけどな。
「ああ、デバイスにも慣れたし、魔法戦にも充分適応できた。なら、これ以上は待たせられないだろ?」
〈……〉
「不満か?」
〈い、いえ、そんなことはありません。ただ……〉
何も言葉を返さない刃にそう聞くと、躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「ただ?」
〈その、えっと、ですから〉
「なんだよ。はっきりしねぇな」
基本的にハキハキ喋る刃が言葉に詰まるというのは珍しい。
〈……その、主との二人の時間が減るなーって〉
「……は?」
予想外の言葉に思わず動きが止まる。
〈うぅっ、は、恥ずかしいです〉
「………」
言葉がでない。こういう場合は何て返せばいいんだ? 「二人の時間を作る」とでも返せばいいのか? いや、桃香や愛紗に言われたときはそう返したんだけどな。
でも、デバイスだぞ? メンテナンス時以外に手もとから離れたところに置いておくのは得策じゃないだろ。……さて、どうしたもんか。
〔グオオォォォ〕
「っと、今はそんな話してる場合じゃないな」
刃の言葉にどう返そうか悩んでいると、怪物の呻き声が聞こえた。言葉を発することもできない、完全に獣だな。
「とりあえず起こすぞ。良いな?」
〈申し訳ありません。我が儘を言いました〉
「気にすんな」
謝る刃に一言そう返した後、刃を待機形態にしてバリアジャケットも解除する。そして刃を左手に握りしめ、首に掛けているもう一人の相棒を右手で握りしめる。
「『手にするは無限、振るうは刃、猛る炎に轟く纏う我が身は氷雪を振り撒く冷徹なる鬼』」
握りしめる両手の中から深紅の光が漏れ時折、火の粉や、火花が散り、俺の足下に霜が降り周囲の温度が幾分か下がる。
〔グガアアアァァァッ!!〕
後ろから雄叫びが聞こえた。見つかったか。だが、もう止まらんぞ、既に起動キーを紡いでいる。
「『大いなる意思のもとに我が敵を屠らん。目覚めろ“無限の力”!全てを“絶つ刃”!この“赤鬼”の名のもとに!!』」
〔グギアアアァァァッ!?!?〕
周囲が深紅の光に包まれる。怪物の悲鳴が聞こえたが、光で目でもやられたか?
〈……お久しぶりです。御主君〉
「ああ、ざっと3年ぶりだな」
〈3年……もうそんなに経つんですね〉
〈……姉に挨拶はなしですか。無限?〉
〈誰が誰の姉だ。刃、私が眠っている間、本当に御主君を支えられていたんだろうな?〉
「止めろ、バカタレども」
目覚めて早々喧嘩腰になるとか……刃の姉発言が相当気にくわなかったんだな。
「刃、無限とデータを共有して現状を教えてやれ」
〈……御意〉
なんか渋々って感じだな。
〈…………なるほど、相当腐った組織のようですね。騎士などと名乗ってはいますが取って付けたようなもの、中身などないのでしょう〉
「そりゃあ、なっ!」
〔グガッ!?〕
後ろから忍び寄っていた怪物を、振り返らずに右腕を思い切り後ろに振るって殴り飛ばす。ちょっとした知能は残っていたらしいな、この怪物は。
〈お見事です〉
〈衰えていませんね〉
「当たり前だ。まだ7歳だぞ、これからもっと強くなるんだよ」
衰えるって年でもねぇよ。そう無限に言い『グロウ』を発動する。刃に内蔵されている炎熱変換機能、無限に内蔵されている電気変換機能、そして俺自らが持つ氷結変換。
それらすべてが作動し俺を包んでいく。炎が足下から吹き上がり、その周囲を雷が走っていく。完全に俺を包み込むと、今度は足下から炎と雷を巻き込み凍っていく。端から見れば不思議な光景だろうな。そこで視界は暗転、意識が……遠退い、て………。
〔グギャアアアァァ!!〕
それも一瞬のことだ。深紅の氷の中で背後から響く轟音の発生源に向けて、魔力弾を放つ。
「ブレイク キャノン」
魔力弾は氷を砕きカーブを描きながら怪物の後頭部に当り――ボンッ!!――と炸裂させる。
「ファースト ムーブ!」
〈Fast Move〉
それと同時にファースト ムーブを発動し、近くにあった机を踏み台にして跳び、右足に魔力を集め炎熱変換する。
「紅蓮流星脚!!」
燃え盛る深紅の炎を足に纏わせ右足を顔面めがけて振るう。ブレイク キャノンでバランスを崩していた怪物は反応できず、諸に喰らい蹌踉めいた。
その隙を見逃さず着地と同時に踏み込み腹部に左掌底、直ぐに腕を引きさらに深く踏み込んで同じ箇所に肘をいれる。
怪物の体はくの字に曲がり吹き飛ぶ――前に右足を掴み力任せに床に叩きつける。床にヒビが入るが気にせず跳躍、うつ伏せに倒れた怪人の背中に、重力操作で自分の体重を加算凡そ500kg程のGを掛けて下りる。
「おらぁっ!」
〔グゲアァァ!!〕
――ズン――っと建物全体が揺れ、床一面に皹が入り俺を中心に床が崩れ下の階に落ちていく。
瓦礫と怪物と一緒に崩れ落ちる中、瓦礫と瓦礫の間から障壁を頭上に展開して、瓦礫を防いでいるアリア達が見えた。それも一瞬、
すぐに衝撃が来て更に下に落ちる。
「結局、一階まで落ちたな」
〈そのようです〉
〈何も見えませんね〉
辺りは立ち上がった埃で何も見えず、未だに降り注ぐ瓦礫で迂闊に動けない。
〈誰がやったんですか〉
「心を読むな、無限」
〈主、後ろから来ます〉
「分かってる」
ナチュラルに人の思考を読む無限にツッコミを入れていると、刃が警告してくる。当然それは危機迫ったものではなく、ただ俺と無限のやり取りを、中断させるためのものでしかないんだろうが。
「雷神・鉄!!」
――バチィッ!――っと左腕に雷が走る。肘を突き出し、勢いよく突っ込んできた怪物の腹部に突き刺す。
〔グギアアァァッ!!〕
接触と同時に肘から怪物へと雷撃を通すと悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
俺の意識がそっちに向くのを見計らっていたのか、正面から煙を掻き分け怪物が右腕を振り上げ襲いかかってくる。
「せやっ!」
ゴウッ!!
魔力を込め武装色で強化された鉄拳、それは怪物を殴り飛ばすと衝撃波を生み、辺りに立ち込めていた煙が吹き飛ぶ。
「アリア達、下りてきたんだな」
〈みたいですね〉
〈……あの女がリーゼ・アリアですか?〉
「ああ、俺の魔法戦の師匠みたいなもんだ」
〈なるほど〉
そう話していると、後ろで怪物が起き上がる気配がした。
「〔グアアァァッ!!〕――宏壱、後ろっ!?」
アリアの叫びと、怪物が突っ込んでくるのはほぼ同時で、……それに気づいている俺が対処できないはずもない。
「雷神・脚。らぁっ!!」
雷を纏い放たれた右足は、アリア達には消えて見えただろう。雷神は変換資質、電気でこの身に雷を纏う初歩的な強化魔法だ。当然炎熱は勿論、氷結でもできる。
ただ、他と違うことが一つだけある。それは俺自身を変換すること。炎熱なら炎に、氷結なら氷に、電気なら雷に、と細胞の至るところまで変換することができる。まぁ、今は体の一部分だけで精一杯だし、魔力自体はそんなに喰わないけど、精神力を持っていかれる。雷神で100m動けばその100倍の運動をした時とほぼ同じ疲労感が襲ってくることが分かっている。ただ、これも3年前のデータだからな……新しいデータ、今の俺の記録を得るための実験台にコイツらを使わせてもらったって訳だ。
それに攻撃を喰らわない訳じゃない。魔力のこもった攻撃は普通に通るし、強力なもの、例えば岩を穿つような威力のあるものでもダメージを喰らったりするんだ。そこら辺は3年前に検証済みだ。
そんなことを考えていると下から巨大な気配が迫り上がってきた。前世で感じたことのあるものに非常に酷似したソレは、死を本能的に感じさせるもの。龍だ。
「アリア! ロッテの方に大きな気配が出てきた! お前らの後ろの通路から、こっちに向かってくる魔力反応がある。ロッテと一緒にいたヤツらだ。ソイツらと合流してロッテの方に行ってやってくれ」
アリアを見ずに言う。
「え、でも、宏壱は」
「直ぐに行く。急がないとロッテがヤバイぞ」
戸惑うアリアに心配ないと言外に伝え、俺よりもロッテの方こそ手助けが必要だと言う。
「……わかった。こうと決めたらテコでも動かないもんね、宏壱は」
「はは、理解があって助かるよ」
「宏壱に言うことじゃないけど……気を付けてね」
「おう」
手をヒラヒラと振ってとっとと行けと伝えると、後ろから駆ける音が聞こえてきて静かになる。
「行ったな」
〈はい〉
〈こちらも早く終わらせて向かいましょう〉
「ああ、こっからは遠慮なくやろう。非殺傷設定解除だ」
〈〈御意〉〉
二人の声が淀みなく重なる。ここからは情け容赦なしだ。本気で殺しに行く。
[待ってください! 山口二等陸尉! それは!]
サーチャーで俺達を見ていたであろうライラが、回線を開き何かを言おうとしたが、刃が切ってしまう。
「おい、刃」
〈今は必要ありません〉
〈私も刃と同意見です。御主君、今は集中しましょう〉
「お前ら……はぁ、こりゃ始末書書かなきゃな」
〈〈頑張ってください〉〉
「誰の所為だよ」
そんな軽口を言い合い気持ちを落ち着ける。人……とはもう呼べない姿に変異したが元は人だったもの、動植物、昆虫類を殺すのとは訳が違う。命はすべてが平等で尊いんだ!………なんて言う奴がいるがそんな奴でも蚊を殺し、ゴキブリを殺す。豚を食い、牛を食い、鶏を食う。魚類だって食べるし、野菜も食べるだろう。そこに感謝もなければ申し訳なさもない。家畜や魚類は勿論、昆虫だって生きてるし植物にだって命は宿っている。平等で尊いと言うならそれらに感謝し罪悪感を抱くべきだ。
『平等はこの世に存在しない』それが俺の持論だ。時間でさえ生まれ持って違うものだ。どれだけの人間が寿命まで生きられる? 医療が発達した現代でも治せない病は存在する。生後数ヵ月の赤ん坊が呆気なくその命を奪われることもあるだろう。そもそも生き物によって生きられる長さは違うし、それぞれの種でも個体差がある。人でもそうだ。当然体の強い弱いはあるし、先天的にそういった病を患うものもいる。だから『平等は存在しない』んだよ。前世で学んだことだ。………なんの話をしてんだ?
ああ、そうだ思い出した。要は人の形をしているものを自らの手で殺めるとき、そこには同族殺しという定義がつく。正常な人間はこれを嫌悪し忌避する。なら多くの人を殺してきた俺はどうか?感覚が麻痺しているのか? NOだ。残念なことに、今でも誰かの命を奪うのは怖い。初めて人を殺してから多くの者の命を奪ってきた。それでも慣れないし、慣れたくはない。ソレに慣れてしまえば俺が死んでしまうから、俺が俺じゃなくなってしまうから、だから慣れることは許さないし許されない。妹との約束はまだ生きているからな。
――閑話休題――
俺は殺す覚悟を決め、俺達の様子を見ていた三匹の怪物(俺とアリアが話しているうちに集まっていた)を見据え、腰を深く落とし上半身を前方に傾けていく。
「剃っ!」
――シュッ――っと音を置き去りにしてその場から駆ける。俺の姿を見失った怪物どもは、戸惑ったように周囲を見る。真ん中にいた灰色の怪物の懐に潜り込み、脇腹に左手を添えると、俺の掌より一回り大きい深紅の三角形の魔法陣が浮かび上がる。
「炎神・剛砕拳!!」
右腕を振りかぶり魔方陣を殴り付けると、魔法陣が砕けて――ドゴォオン!!――と爆炎を拭き上げ爆発する。
「まずは一匹」
手加減をしていない一発は悲鳴も上げさせず怪物を炭に変えた。
〔グ、グゴオォォッ!!〕
一瞬反応が遅れて俺の右側にいる怪物が腕を伸ばしてくる。それを右手で掴んでその場で一周し、左側にいた怪物に投げつける。
〔グギアッ!!〕
〔グブッ!!〕
激しくぶつかり合った怪物が悲鳴を上げ倒れていく。
右手に深紅の魔力を集め、集めた魔力を槍の形にし、無限に内蔵されている電気変換機能で深紅の雷の槍に変わる。
「雷神槍!」
重なった怪物が倒れる前に放たれた雷の槍が、光速で二匹の怪物の腹を貫いた。
「止めだ。蛍火」
左手の人差し指と中指を立て倒れこんでいる怪物に向ける。指先に少量の魔力を集めて、炎熱変換でマッチ程度の火の粉を作り放つ。フヨフヨと火の粉が、腹に穴を開けられもがき苦しむ二匹の怪物の近くまで飛んでいく。そこまで確認した後、それに背を向けてアリア達が向かった方向に歩き出し一言。
「火柱」
そう呟くと背後で――ゴォォオオオオォォォォッ!!!!!!!――と火柱が上がった。熱風が吹き荒れ周囲を焼き付くしていく。……これもバリアジャケットの恩恵なんだろう。熱源にそれなりに近くにいるのに熱をほとんど感じない。生身でこんな無茶はできんな。
「さて、行きますか。ファースト ムーブ」
〈First Move〉
〈Second Move〉
ファースト ムーブを発動して駆け出すと間を空けずに、無限がセカンドにチェンジする。駆ける速度が上がり、最早走ると言うより跳んでいると言った方がしっくりくる。
普通ならもう暫くギア チェンジには間を空ける必要がある。何故ならセカンドへの急なチェンジは体を痛める可能性があるため、ファーストに体を馴染ませる必要があるからだ。だが、今回は無限が全面的に俺に掛かる負担を緩和してくれているお陰で、スムーズに移行できた。
「サードだ」
〈……大丈夫ですか?〉
刃が心配そうに声をかけてきた。
「今なら無限もいる。お前ら二人ならこの程度の処理どうってことないだろ?」
〈……〉
〈刃、我らは御主君の決定に従うだけだ。異議を唱えるな〉
俺の言葉に黙り込んだ刃を、叱責するように無限が言葉を放つ。
〈無限、臣下とはただ主の言に頷くだけの存在であってはいけません。主の体を心配すればこそ苦言を申し上げるのです。主の意見に頷くだけの臣下では、主の成長など望めません〉
〈刃、お前に言われずとも、それくらい理解している。私が言いたいのは、御主君が我らを信じ力を貸せと仰られている。ならばその信に報いるのが我らの今すべきことであり、異議を唱えることではない。そう言っているのだ。当然無茶だと判断すれば従うことなどせん、ソレが必要な場面ならば話は変わってくるがな〉
ほんと好きだな。三年前も同じように口論してたっけ。仲が悪いって訳じゃないんだけど、こう、言い合える仲?って言うのかね。戦友、ある意味では親友のような関係だな。そんな二人はよく意見が食い違い議論することは多々あったし、俺もコイツらの心情みたいなのが聞けて放置するんだが……時と場合を考えてくれ。
「どうでもええから、早よサードに移行せーや」
〈主が関西弁にっ!?〉
〈しょっ、承知いたしました!〉
意図的に関西弁で喋り、俺が少し苛立っていることをアピールする(実際は全然怒ってないけど)。
「おっ!と」
更に速度が上がり少しつんのめる。一年前に試験で使って以来、偶に慣れるために使用することはあっても実戦で使うのは初めてだからな、この速さは今までにないものだ。
通路を風より速く跳ぶ。サードへのチェンジをしてそれほど間を置かずに地下へと続く階段が見えた……瞬間には既に駆け下りていて、今は一本道を進んでいる。
「問題ないだろ?」
〈軽く診断してみましたが、異常はないようですね〉
〈流石、御主君です〉
「いや、それ意味わかんねーよ」
無限はことあるごとに俺をヨイショする。何か狙ってんの?って感じにな。
「見えてきたな」
〈どうやら皆無事のようです〉
〈先程のアリアという女、少し前に出すぎでは?〉
通路の先に光が見え始めその中にリーゼと武装隊の面々、そして不確定要素のなにかの気配がする。即座にエリアサーチを行った刃、無限が状況の報告をする。確かにアリアの気配はその中の誰よりも敵、不確定要素のなにかに近く、更にソイツがアリアに近付いていってるのが分かる。
「もう少しとばすぞ!」
足に軽く力を込めると、クンっと更に速度が上がる。通路の先、矢鱈と広大で真っ白な空間に突入、見えたロッテの横を通り過ぎ、ロッテより前にいた武装隊の面々の間を通り抜け、今まさにアリアに手を伸ばそうとしていたトカゲ顔をぶん殴り――ドゴオ!!――ぶっ飛ばしてアリアの前に立つ。
「ありがと、宏壱♪」
「……なんで声が弾んでるんだ。お前」
「信じてたからよ♪」
アリアには、突然俺が目の前に現れたように見えた筈なんだが(現に武装隊の面々は目を丸くして驚いてるし、ロッテも多少なりとも驚きがあったみたいだ)、ソレに驚いた様子もなくやけに嬉しそうなアリアの声音……だが、よく見れば体が少し震えているのが分かった。
「はぁ、下がってろ。あとは俺がやる」
「うん♪」
自分の状況を見破られていると分かっていて尚見栄を張る、か……流石の胆力だな。伊達に、歴戦の魔導士の使い魔をやってないってわけだ。
アリアが下がるのを見届けて、トカゲ顔を見据える。トカゲ顔は四肢を床につけ唸り声を上げるだけで俺を警戒して動かない。なら……。
「こっちから行くぞ!」
言葉と同時に一歩踏み出し前進する。その一歩で床が砕けた。
「どこを見てるっ!」
床が砕け、その破片が落ちるよりも速くトカゲ顔の後ろに移動、右手で頭を掴み床に叩きつける。
〔ギガッ!?〕
「っと」
トカゲ顔は床を砕き顔を床に埋めた状態で腕を振ってくる。それを後方に跳んで躱し、床から顔を出し、こっちに振り向いたトカゲ顔の懐に、間髪容れず飛び込む。
「っらあ!」
ゴッ!
腹を渾身の一発で殴ると、重い音が響きトカゲ顔が更に吹き飛んでいく。
っく! 何だこりゃ!? まるで鉄の塊を殴ったみたいだ! さっきはこんな感触しなかったぞ!?
〔ギエエェェッ!!〕
あまりの固さに特に痛くもないのに驚いていると、トカゲ顔が奇声を上げて飛び掛かってくる。
「っ!ふっ!」
ズドン!!
〔ギ、ガッ!!?〕
鋭く爪を伸ばし振るわれた右腕を屈んで躱し体の起こしざまにカウンター一発、 右拳が深く鳩尾部分にめり込む。
吹き飛ばすようなものではなく、内部に衝撃が伝わるように打たれトカゲ顔は鳩尾を押さえ踞る――シュッ――ピッと俺の頬の皮を少し切り何かが通っていく。
「あ?」
既のところで首を傾げて躱した俺の頬を切っていったのは尻尾だった。
〔ギヒァッ!!〕
「当たるかよっ! おらっ! お返しだっ!!」
一瞬の静止を隙だと思ったのか、トカゲ顔が尻尾を素速く戻して今度は首を伸ばし噛み付いてくる。俺は空中に逃げることでそれを躱し、代わりに魔力弾を五発ぶち込む。魔力弾の爆発で煙が出来上がり、トカゲ顔の姿が見えなくなる。
ガシッ!
「なっ!?――ズゴンッ!!――ぐっ、がっ!」
煙の中から腕が伸びてきて左足を掴まれ背中から床に叩きつけられた。息が漏れる。
〔ギヒィッ!〕
伸ばされた腕が戻される。当然足を掴まれたままの俺は……。
「おわっ!」
引っ張られる。
「クソがっ!」
引っ張られながらも魔力弾を放っていく。深紅の魔力弾は寸分違わずトカゲ顔に直撃……。
〔グルアアアアアァァァァッッ!!!〕
することなく後方へと逸れていく。
「なにっ!?」
「宏壱っ!! そのリザードマンは魔法を逸らせる能力があるんだよ!!」
魔力弾を逸らされ驚く俺にロッテの声が届く。それ、最初に言っといてくれませんかね?
ゴッ!!
〔グルブアアァァ!!〕
トカゲ顔、リザードマン(ロッテがそう呼んでいたから、俺もそう呼ぶことにした)が引き戻した腕にぶら下がる俺を殴ろうと空いている腕を振り上げた……ところを掴まれていない方の足で顔面を蹴り飛ばす。吹き飛ぶことも、俺を離すこともしない根性は認めるが、無謀だ。
「炎神!!」
ゴオオオオオォォォオオオオ!!!!!!
俺の両腕両足に炎が纏わり付く。あまりの熱量にリザードマンは手を離し飛び退く、が逃がさねぇ!!
「剛焼拳!!」
ドゴオオォォッ!!
〔グギイイィィ!!?〕
ただの右ストレートをリザードマンの懐に潜り込んで打つ! リザードマンは悲鳴を上げ、ジュッっと肉の焼ける音が聞こえた。
「まだまだっ!」
〔グギアッ!!〕
そこからは掌底、正拳、肘打ち、手刀、前蹴り、回し蹴り、膝蹴り、頭突き、を織り混ぜ、リザードマンに反撃の余地を与えない。炎を纏った俺の攻撃の威力は普段の数倍跳ね上がる。そこに覇気を纏わせれば十倍はある、はず。
「双焼拳!!」
俺の攻撃が100発を超えたところで、両腕を引き同時に前に突き出しリザードマンを吹き飛ばすことでフィニッシュだ。
人であるなら肺のある位置を打たれ、吹き飛んでいくリザードマン。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
〈……主〉
〈御主君これ以上は〉
「……ああ、さ、さす、がに、キッツい、な」
『グロウ』を使っての長時間(と言っても10分弱ってところだが)の戦闘は初めてだ。そもそも、『グロウ』は普段からそんなに使うものでもないしな。そこに加えて、サードと炎神を常時発動で、魔力もほとんどない。これで疲れない方がおかしいな。
〔グルウッ、ヒィッ!〕
リザードマンが口から紫色の血を滴らせながら立ち上がる。
「……マジ、かよ」
〈随分とタフですね〉
〈あの一撃で肺が焼かれただろうに〉
その筈だ。肺だけじゃない。あらゆる臓器を焼いた。それほどの威力はあった筈なんだ。
「……まさか」
〈主?〉
〈御主君何か分かったのですか?〉
いや、これは俺の想像以上の魔力に対して緩和力があったってことなのか?
「刃、刀になれ」
〈は?〉
唐突な俺の言葉に、刃は気の抜けた声を上げる。
「早くしろ。来るぞ!」
〈っ!?〉
リザードマンが姿勢を低くして足に力を入れるのが分かった。刃もそれに気づき、グローブから白い刀身を持つ抜き身の刀に姿を変える。
刃を左手に持ち腕を垂らす。なにも構えを見せず、ただそこに立つ。
「―い―っ!」
「こ――っ!」
リーゼが何かを叫んでいるが、俺にはその声が遠くなる。目の前に迫る獲物だけに集中していく。体は今の俺よりも大きくゴツイ。牙や爪も鋭く、鉄塊も武装色でさえも意味をなさず俺の肉体を抉るだろう。それでも、俺には獲物にしか見えていない。ヤツは被捕食者で俺が捕食者。それは絶対で、覆ることのない真理だと。自分の死が見えず、嘗て何度も味わった死の感覚が今はない。アレは俺の脅威足り得ない。
リザードマンが目の前まで駆けてきた。床を踏み抜きながら、――ドン!ドン!――と音を鳴らす。どれ程の力を込めているのか、それだけ本気と言うことを意味しているのだろうか。俺とリザードマンとの距離は5mを切った。
「たかだかトカゲ風情が、“鬼”をどうこう出来ると思うなよ?」
リザードマンが駆けながら右腕を伸ばす。顔面に迫ったソレを……首を傾けて躱し刃を切り上げ――ザン!!――腕半ばで切る。腕が宙を舞い床に落ち、転がる。
〔グッ!ギアアアアァァァァ!!!〕
一瞬痛みで動きを止めようとしたリザードマンが更に足に力を込めて加速して――ザン!!――首が飛んだ。
当然俺のではなくリザードマンの首が、だ。
ただ単純に切り上げた刃をただ切り下ろした、それだけだ。
ドチャッ!
飛んだ首が落ち、紫色の血が床を濡らしていく。
「「宏壱っ!?」」
「あ?」
遠くなっていた感覚が戻り、リーゼの声が聞こえた。
「前っ!!」
アリアが叫ぶそれは悲鳴と言えるもので………。
「……どんだけだよ」
〈〈主!?/御主君!?〉〉
前を見れば右腕と首を失い、尚も佇み左腕を振り上げているリザードマンの姿があった。
「もう、これ一発で死んでくれ」
降り下ろされる左腕を無視してリザードマンの、人であるなら心臓のある位置に右手を当てる。
「インパクト」
ドン! ゴス!!
俺のインパクトが放たれるのとリザードマンの降り下ろした左腕が俺の右肩に食い込むのはほぼ同時だった。リザードマンは失った右腕、首、残った左腕、両足、尻尾の先、あらゆる場所から血を噴き出し崩れ落ちる。
「が、くっぅう!」
「「宏壱っ!!」」
打たれた右肩を左手で押さえ床に膝をつく。と、深紅の光が生まれ、俺を包んでいく。光りが収まれば『グロウ』が解けて、元のガキの姿に戻った俺がいた。
「はっ……はっ……はっ」
魔力が切れ頭の中に靄がかかり視界が揺れる。さっきとは違う意味で、全ての音が遠くなっていく。
「―こ―っ!?」
「し――り――――っ!」
〈あ――い――っ!〉
〈――く――っ!〉
声も断片的で、聞き取れず何を言っているのか分からない。
(心配してるんだろうなぁ)
俺は靄のかかった思考でぼんやりと他人事のようにそんなことを考え、そこで意識を手放した。
side~三者視点~
宏壱がリザードマンと戦闘を開始した頃。
――――ミッドチルダ首都クラナガン・商業区画――――
ここはミッドチルダ首都クラナガンにある商業区画。デパートやスーパーが多く建ち並び毎日人で賑わう場所で、ここに来れば家電製品や衣類、食製品、家具や娯楽類、デバイスまでも揃う場所である。
そこを三人の美女が人目を引きながら歩いていた。
一人は、二年前に同じ管理局員と結婚した人妻(子供ができないのが悩み)で管理局の魔導師を務めるクイント・ナカジマ。
もう一人は、同じく管理局の魔導師で交際中の男性あり(近々籍を入れる予定)メガーヌ・アルピーノ。
最後の一人は、管理局では嘱託魔導師扱いで二十人以上の女性と関係を持ち、一国の王を支えた男を今でも愛していると堂々と言ってのける、未亡人にして一児の母紫苑(黄忠)。
この三人に桔梗(厳顔)を加えた四人は非常に仲が良く、紫苑か桔梗どちらかが宏壱の手伝いでミッドチルダを訪れたときは、よくクイントの家で酒を飲み、非番のときは女性らしくウィンドウショッピングをしている。
この日も例に漏れず、宏壱の一ヶ月のアースラ出向で、その代わりとして入っていた紫苑とクイント、メガーヌの非番が重なり、こうしてブラブラと三人でウィンドウショッピングと洒落込んでいた。
「そろそろお昼ね。どこかで昼食にしましょ」
「そうね。何処が良いかしら? この前は有名なカフェに行ったわよね」
クイントの提案にメガーヌが以前の非番の時を思い出すように、人差し指を顎に当てて考える。
「彼処なんてどうかしら?」
そう言って紫苑は、進行方向の右手側にあるファミリーレストランを指差す。車道を挟んで向かい側にあるその店は家族連れが多く、親子仲良く店内に入るのが見える。
「最近できた店よね。確か第97管理外世界の地球の」
「ええ、美味しい料理が多いって評判の世界ね。家の旦那のご先祖様がその世界の出身なんだって」
「ナカジマ……漢字表記だと中島かしら?」
「そういえば、宏壱君の在住世界は第97管理外世界だったわね。紫苑もそこで一緒に住んでるんでしょ?」
「ええ、宏壱さんと桃香様達と一緒にね」
「楽しそうね」
「それじゃ、彼処でその話を聞かせてもらいましょうか」
昼食をする店は紫苑が指差したところに決まったらしく、三人は止めていた足を再び動かす。
車道を渡るため信号のあるところまで歩いていた三人は、表面上では他愛もない会話しながら念話で会話をする。
「何を食べようかしら《二人とも気づいてる?》」
「ピザの幟が見えたからそれを三人で分けない?《ええ、付けられてるわね》」
「クイントは足りないんじゃないかしら《誰かしら。私たちに恨みを抱く人?》」
クイントがメガーヌと紫苑に聞くと、肯定の意が返ってきた。紫苑は並んで歩くメガーヌの顔を見るふりをしてチラリと後ろを見る。だが平日の昼時でも人通りの多いこの区画、誰が自分達の後を追ってきているのか分からない。
「私は私で別に注文するからいいわよ《職業柄恨みを買ってない……とは言わないけど、そんな感じの視線じゃないのよね。》」
「開店早々お店を畳ませないでよ?《そうね。どちらかと言うとネチっこいというか、厭らしい視線じゃないかしら》」
「クイントならやりかねないわね《こう人が多いと人物の特定までは無理ね。お店に入るまでに対処する?》」
「そんなことしないわよ! ちゃんと抑えて食べるし、後で食べ歩きするから!《先の路地裏に誘い込みましょう。本部に連絡を入れて、周囲で待機してもらえば不測の事態にも対応できるわ》」
《《了解》》
方針を決め三人は本部に連絡を取り応援を要請したあと、路地裏へと歩みを進めた。
(ぎひひひひ、まさか下調べに来てみりゃクイントとメガーヌに出会うとはな。ツイてるぜ。それに並んで歩く女、ありゃ恋姫無双の紫苑か? 何でこの世界にいやがんだ?……そうか! 神が俺様に餞別でもくれたのか! あの女、俺様に惚れてたんだな)
ひひひ、と忍び笑いをするこの男。名は緋川翔。所謂テンプレ転生者で神様によりこの世界に転生した男だ。この男は前世で引きこもりのニートだったが異常気象による巨大霰が、部屋の窓ガラスを割り睡眠中の緋川翔に当たり死んだ。その異常気象は下位神の書類ミスで起きたもので、その際に死んだのが緋川翔ただ一人だったという話だ。その詫びとして、複数の特典を与えこの世界へ転生させたのだ。
(さぁて、どう料理してやろうか。ぎひひひひ、可愛がってやるぜ。雌豚共)
下卑た笑みを浮かべ、緋川翔は前を行く三人の美女を追う。
しばらく歩いていると、三人は路地裏へと歩みを進めた。緋川翔は見失わないように歩くペースを上げた。路地裏に入ると三人はどんどん奥へと進んでいく。
(俺様に気づいた? いや、んな訳ねぇか。俺様の尾行は完璧だぜ)
緋川翔はかなりの自信過剰な男で神の特典も鍛えていない。だから本物の英傑に会えば為す術も無くやられるのは必然だ。
「あ? 行き止まり、だと?」
三人を追いかけ曲がった角、その先は行き止まりで三人の姿もなかった。
「私達に何か用かしら?」
「っ!?」
緋川翔の背後から女性が声を掛ける。それに驚いた緋川翔は体を声のした方へ向ける。その顔には驚愕の色だけが見て取れた。
「へ、へへ、俺様の女にしてやるぜ」
緋川翔は振り向いた先にいた三人の女性、クイント、メガーヌ、紫苑に突然そんなことを言う。
「はぁ? あなた、頭は大丈夫?」
「クイント、話すだけ無駄よ。間違いだった、と本部に伝えて行きましょ」
「ダメよ。メガーヌ」
クイントは男をバカにしたような目で見て、メガーヌはこれ以上相手をしても時間の無駄だと踵を返しその場を去ろうとする。が、それを紫苑が止めた。
「紫苑?」
メガーヌが紫苑の顔を見れば、真剣な表情で目の前にいる男を見ていた。クイントも疑問に思い視線を紫苑と男を交互に見る。
「はは、俺様に可愛がられる気になったか!」
「この男は人を何人も殺しているわ。放置するのは危険よ」
「「え?」」
紫苑の突然の言葉にクイントとメガーヌは呆けた声を出す。真剣な表情を崩さずいっそう強く男を睨み付ける。そこには娘を想う母でも愛する男を想う女でもなく、嘗て神弓とさえ呼ばれた女傑、黄忠漢升がいた。
「……」
「取り合えずどういう目的で近づいたにせよ、拘束させていただきます」
「拘束って、そこまでしなくても」
緋川翔はなにも言わずクイント達を見ている。ただその視線は胸や腰、太股をに行っていてろくなことを考えていないのは確かだ。
「そうツンケンすんなよ『紫苑』これから――」
「っ!?」
緋川翔が紫苑の名を呼んだ瞬間には紫苑は自らの相棒『颶鵬』を展開、魔力でできた矢を放っていた。
その矢は寸分違わず緋川翔の心の臓を貫いた。と言っても非殺傷設定で魔力ダメージをダイレクトに喰らい昏倒しただけだが 。
「ちょ、ちょっと紫苑!?」
「貴女のなまえのいみはきいたことあるけど……いきなりは。知らない人だっているんだし」
「寒気、と言うより悪寒がしたの。真名を呼ばれた瞬間、強烈な嫌悪感に襲われたのよ」
そう言われては二人もなにも言い返せず黙る。
暫くして局員が駆けつけ、取り合えず事情聴取をということで、緋川翔は地上本部へと連れていかれ、当事者としてクイント、メガーヌ、紫苑の三人も同行することになった。
連行中に目を覚ました緋川翔は暴れだし「俺様がオリ主だ!」「世界を手に入れる!」等と喚きだし、今度はクイントに殴られ昏倒することになる。その際に、今回宏壱が出向することになった事件への関与を疑う発言があり、更なる追及が必要だと判断し事情聴取が執り行われた。
こうして、エルピオンから始まった事件の首謀者は余りにも呆気なく捕まり事件の終結となった。
これは紫苑の功績で、この話を聞いた管理局上層部で『蜀伝の書』にいる者達にも嘱託魔導師ではなく、正式な局員として迎えるべきだと声が上がるようになり、数日後、彼女達が局員として首都クラナガンに君臨することになるのはまた別の話。<input name="nid" value="42387" type="hidden"><input name="volume" value="26" type="hidden"><input name="mode" value="correct_end" type="hidden">
……拍子抜けでしょうか?戦闘と言ってもさほど苦戦せず終わりました。リザドーマンはそれなりのタフさを見せましたが、他は雑魚ですね。
緋川翔は紫苑の真名を呼んで怒りを買いました。この買い物は高くついたみたいですね。
人……からの下りは完璧酔ってました。楽しく飲んで帰ってさあ書こう……結果がこれだよ!まぁ、修正するのもめんど……つかれ……しんど……おとろしかったんで、そんなことを考えてるんだ程度で流してください。
次回から原作……ではなく、まだまだ原作前~が続きます。五十話過ぎても入ってないんじゃなかろうか?と不安になってます。
ではでは、また次回お会いしましょう。(おとろしいの意味は興味があれば調べてみてください。検索すれば出てきますんで)