リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第二十九鬼~咲の修行part2~

side~咲~

 

 先頭にいた分身体が宏壱君の回し蹴りで吹き飛び、――ポン――と煙りを残して消え、その視覚情報が私に還ってくる。

 

 

「「やあっ!/たあっ!」」

 

 

 今度は二人の私が横から挟み撃ちで殴り掛かる。

 

 

「ふっ! らあっ!」

 

 

 宏壱君は左から迫る私に近付きサマーソルトを極め、遅れて来た右から迫っていた私が背後を取る形で殴り掛かるけど、サマーソルトの回転のまま躱され後頭部に膝蹴りを叩き込まれ消える。

 

 

「まだまだ行くよ!」

 

 

 本体の私は消えた分の分身体を補充する。私の魔力が尽きるか、宏壱君のスタミナが切れるか……。

 

 

「しっ! ふっ! うらあっ!」

 

 

 正面の私を蹴り飛ばし、飛び蹴りをする私の足を掴み右から迫る私にぶつけ、背後から掴み掛かる私のお腹に肘を入れ、左右同時に迫った私を、右側を先に蹴りその反動を利用して左側の私を蹴る。

 個々で挑んでも無駄なのは分かってる。15人の私が束になっても敵わないのも知ってる。でも、数は減らないよ。それに……。

 

 

 《二番、上から襲って! 五番、宏壱君の腕を掴んで!》

 

 《《分かった!》》

 

 

 私の指示通りに動く二番と五番。宏壱君は掴まれた腕を振り、頭上から迫る二番にぶつける。

 

 

 《四番、背中に隙ができた!十番は下から心中斬首の術を!》

 

 

 四番が後ろから襲い掛かり、十番が土遁で地中にもぐる。宏壱君は迫る四番を見ずに肘鉄を当て即座に跳び、右手に魔力弾を作り地面にぶつけた。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 地面が抉れ地中に居た十番に魔力弾が当たる。

 

 

 《っ!七番、八番、九番、宏壱君を囲んで土矛で応戦、引き付けて! 一番、二番、三番、五番は火遁! 十一番から十五番は風遁で火遁の威力を上げて!》

 

 

 三人囲まれた宏壱君は危なげ無く攻撃を躱す。小刻みなステップでその場に留まらず、目紛るしく立ち位置を変えていく。右から打ち下ろすような攻撃を半身になり躱し、蹴りを入れた。少し怯んだけど攻撃を受けた八番は吹き飛ばないし消えない。他の七番と九番も攻撃を受けても消えない。

 

 

「「「「火遁・豪炎の術!!」」」」

 

 

 一番、二番、三番、五番が印を組み口許に現れた魔法陣に息を吹けば、炎が草原を焼きながら宏壱君へと放たれ。

 

 

「「「「「風遁・大突破!!」」」」」

 

 

 更にその後ろから間髪容れずに放たれる大突破の勢いを受け、炎の威力が増し宏壱君に迫る。

 

 

「「土遁・土流壁!!」」

 

 

 また作った四番と十番の分身体が迫る炎の反対側から土の壁を作り宏壱君の逃げ場を無くす。

 

 

「ちっ」

 

 

 そこから急いで離脱しようとする宏壱君……でも。

 

 

「逃がさないよっ!」

 

 

 七番が跳び上がろうとした宏壱君に蹴りを入れる。宏壱君はそれを屈んで躱し七番の軸足を払う。

 

 

「「まだまだっ!」」

 

 

 宏壱君に息を尽かせぬまま、八番と九番が攻撃を仕掛ける。宏壱君はそれを防ぐのではなく受け流していく。

 

 

「刃と無限なしで使うのは疲れる、が。テメェの弟子に一撃くれてやるのも癪だな………ファースト ムーブ」

 

 

 迫る炎で宏壱君の姿が隠され、そのまま突き進んだ炎は土遁で作られた高い土の壁にぶつかり、行き場を失って上へと逃げる。

 

 

「……どうなった、の?」

 

 

 宏壱君の魔力を探す。炎の中には……居ない!?

 

 

「何処に……っ!?」

 

 

 咄嗟にその場で膝を折り屈む。一瞬前まで頭のあった場所を何かが薙いでいく。

 

 

「土遁・土中映魚の術!」

 

 

 素早く印を組んで術名を叫べば私の足下に魔法陣が浮かぶ。この術は、地中を水の中を泳ぐように進むことができる。息が出来なくなるけど、攻撃を躱すにはもってこいの術だ。

 

 

「らあっ!」

 

 

 間一髪、地中に潜ることで宏壱君の攻撃を回避した。

 

 

「うわっ、地面が陥没してる!」

 

 

 地上に出てさっきまで私が居た場所を見れば、直径5mほどのクレーターが出来ていた。そのクレーターの中心には右腕を地面に肘までめり込ませた宏壱君の姿がある。

 それをチャンスだと見て私の分身体が一斉に飛びかかる。

 

 

「ブレイク キャノンッ!!」

 

 

 宏壱君は腕を引き抜くんじゃなくて、更に力を込めて押し込んだ。次の瞬間、クレーターの罅割れた部分から深紅の閃光が溢れ――ゴパッ!!――と地面が弾けた。

 

 

『きゃあっ!』

 

 

 それに巻き込まれ分身体が次々と消えていく。……残ったのは二体。

 

 

「……どうする?」

 

「本体がまた距離を取って分身して指示を出すのは?」

 

 

 私のところまで飛ばされたのか綺麗に着地した二人は相談を始める。でも……。

 

 

「……そんな時間、無いよ」

 

 

 砂塵の中から宏壱君が飛び出した。

 

 

「なかなか考えたな、咲。多彩な能力を上手く活用している」

 

「……宏壱君にはどれも効果が薄いみたいだけど?」

 

 

 私の前に着地した宏壱君は嬉しそうに笑う。

 

 

「当たり前だ。まだまだ負けてやらねぇよ」

 

「……行くよ」

 

 

 グッと両拳に力を入れて駆け出す。分身体も私の後を追うように走り出した。

 

 

「やっ!」

 

 

 飛び蹴り、半身で躱される。

 

 

「せいっ!」

 

 

 

 後を追っていた分身体が宏壱君の顔に向けてパンチを放つも、上から叩き落とすことで防がれた。

 

 

「やあっ!」

 

 

 パンチを放った分身体の肩を掴んで体を浮かせたもう一体の分身体が回し蹴りを放つ。

 

 

「いい連携だ。だが……」

 

 

 宏壱君はそれを右手首で受け止めた。二人の分身体は、追撃を受ける前にその場から離れる。

 

 

「少し行動がワンテンポ遅れてる」

 

 

 高く上げられた宏壱君の右足、それを下ろすと――ズン――地面が揺れた。

 

 

「俺を相手にするならもっと早く意思疎通出来ないと、な!」

 

「ぐうっ!」

 

 

 一体の分身体が吹き飛び消える。さっきまで分身体が居た所には宏壱君が……。

 

 

「っ!水遁・水断波っ!!」

 

 

 残った分身体が印を組み口許に現れた魔法陣に息を吹き掛ければ、水が直線状に飛ぶ。

 

 

「ウォーターカッターかっ!?」

 

 

 驚いた声を上げた宏壱君は横に飛んで躱す。それを追いかけるように分身体が顔を宏壱君に合わせると、それに従い直線状に飛ぶ水が横凪ぎに曲がる。

 

 

「剃っ!」

 

 

 当たる!そう思った瞬間宏壱君の姿が消えた。

 

 

「……今のって」

 

「ごふっ!?」

 

「っ!?」

 

 

 水断波を放っていた分身体も消された。

 

 

「もう終わりか?」

 

「うんん、やれるよ」

 

 

 姿勢を低くして駆ける。

 

 

「しっ!」

 

 

 右手のパンチ、左手で弾かれた。ハイキック、上体を反らして躱される。そのまま回転して回し蹴り、屈むことで躱された。

 

 

「ほい」

 

「きゃっ!」

 

 

 軸足を払われ足が宙に浮き、背中から地面に落ちていく。地面に背中をぶつける前に手を付いてバク転、宏壱君と距離を……。

 

 

「っ!?」

 

 

 咄嗟に首を傾ける。見えたのは通り過ぎる拳と私を射抜く強い瞳。よく見れば黒い瞳が若干赤みがかって見える。

 伸ばされた腕は引かれることなく私の頭を掴む。そのまま前に体ごと倒され顔に宏壱君の膝が迫る。

 

 

「くっ!」

 

 

 それを両掌で受け止め、抵抗せず引かれるままに足を浮かせその勢いのまま一回転、必然的に私の踵は宏壱君の頭に落ちる。けど、それも左腕で防がれた。

 

 

「まだまだあっ!!」

 

 

 地に足をつけ腰を落として前へ踏み込み、屈んだ状態から右拳を握りしめ振り上げるが、宏壱君は数歩下がって躱す。

 

 

「いい屈伸だ」

 

「はあっ!」

 

 

 伸びきった体を捻り回し蹴りを放つも、上体を反らして躱される。

 

 

「鋭い蹴りだな。だが」

 

「がっ!?」

 

 

 お腹に衝撃、私の体は軽々と吹き飛ばされる。宏壱君の残心で蹴られたのだと分かった。

 

 

「けほっ、ふふっ」

 

 

 衝撃がくる前にお腹に力を入れてダメージを抑えられたことに少し笑いが漏れた。

 

 

「少し正直すぎるな」

 

「ふふふっ」

 

「って、聞いてるか?」

 

 

 ここで実を結ぶんだ。さっき出来なかったことが今は出来る。

 

 

「こりゃ聞いてねぇな」

 

 

 これなら、宏壱君の背中も見えて――「まぁ、そろそろ慣れてきたみたいだし、ピッチ上げていくか」――……え?

 

 

「一段階レベルアップだ」

 

 

 レベルの瞬間には宏壱君の姿は既に私の目の前にあった。

 

 お父様、お母様、如何御過ごしでしょうか。天国は良いところですか? 私は日々研鑽を重ね家族を守る力を付けています。新しい家族にも師匠にも友人にも恵まれ毎日が充実しています。ただひとつ言いたいことは、転生者だと言った彼が強すぎます。天狗になる暇もありません。

 

 もう心が折れそうだよぉ。

 

side out

 

 

 

 

 

side~宏壱~

 

「今度からは目隠しな」

 

「……え?」

 

 

 休憩を挟みつつ7回模擬戦をした後に、シャワーで汗を流し時計を見れば既に19時を過ぎ日も暮れていた。士郎さんに連絡をいれると、もう遅いから、ということで俺(大人モード)が送ることになった。そして今は咲を家まで送る道中。

 

 

「途中からましになったとはいえ、視覚情報に頼りすぎだ」

 

「うっ……」

 

 

 咲は自覚があるのか胸を押さえる。

 

 

「で、でも何も見えない状態で宏壱君や愛紗さん達となんて……」

 

「一応考えてある」

 

「考え?」

 

 

 小首を傾げて聞く咲の瞳には好奇心と一抹の不安、と言うか嫌な予感でもするのか微かに揺れる。

 

 

「それは今度のお楽しみってことで。まぁ、色々と時間が掛かるだろうし、それまでは道場で目隠しの状態で魔力弾を避ける練習な」

 

「え……それだと道場が」

 

「大丈夫だ。威力はデコピン程度のものにする」

 

 

 歩きながらする会話は今後の訓練内容。

 

 

「う~ん、自信ないなぁ」

 

「お前なら出来るさ。俺が保証する」

 

「宏壱君がそう言うなら頑張るよ」

 

 

 そう言った咲の声音は、それほど不安そうなものは混じっていない。

 

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

 

 咲が何かを思い出したように手を胸の前で合わせる。

 

 

「えっとね、今度のゴールデンウィークに温泉に行くんだけど、どうかなって」

 

「温泉……ああ、海鳴温泉か?」

 

「うん」

 

 

 海鳴温泉、確か海鳴市観光地化に向けて作られた場所で、観光客がそれなりに泊まる温泉宿、だったか?

 テレビでやっていた情報を思い出しながら、咲に返す言葉を考える。

 

 

「あー、ゴールデンウィークか」

 

「うん、士郎お父さんも一緒に行かないかって言ってたよ」

 

「いや、ちょっと用事があるんだよ。大事な、な」

 

「そっか。じゃあ仕方無いね」

 

 

 特にゴネるでもなく素直に引き下がる。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 一瞬会話が途切れる。咲はチラチラと俺を見て何かを言おうとするが躊躇うように口を噤む。まぁ、大凡の見当はつく。

 

 

「俺が転生者だって言ったことが気になるんだろ?」

 

「……うん」

 

 

 やっぱりか。特に隠す必要もないからな、聞かれたら当然答える。

 

 

「何が知りたい?」

 

「えっと、誰に転生してもらったの?」

 

 

 随分と的確と言うか的を射る質問だな。普通何から聞いて良いのか分からないもんじゃないのか?

 

 

「貂蝉って男だ」

 

「……ぇ……男の、人?」

 

 

 疑問の声を上げ咲は立ち止まる。その顔は驚きと戸惑いに染められていた。

 

 

「………どうした? おかしなことでも言ったか?」

 

「……女の人、じゃなくて?」

 

「何で疑う。俺が男だと言ったんだ、男だろ」

 

「そう、なんだけど」

 

 

 咲は何を気にしてるんだ? 女? どこから出てきたんだ。………いや、まさか、有り得なくはない、のか?

 

 

「お前はその女に転生してもらったのか?」

 

「……え?……うえぇぇえっ!?」

 

 

 一瞬の間が空いて驚きの声が住宅街に響く。

 

 

「な、何で? どうして分かったの!?」

 

「おい、もう暗いんだ。静かに驚け」

 

「……あ、ご、ごめんなさい」

 

 

 咲はしゅん、と肩を落とすも物言いたげに俺を見上げる。

 

 

「……どうして分かったの?」

 

 

 再び足を高町家に向けて進めて暫くすると、黙っていた咲がポツリとそう言った。はっきり言おう、聞き間違いかと思ったぞ。

 

 

「いや、あのな、男って言って女じゃないのか? 何て聞き返されたら、じゃあお前は女に転生してもらったのか?ってなるだろ」

 

「……あ」

 

「ホントどっか抜けてるよな、お前は」

 

「あ、あはは、じゃ、じゃあ宏壱君の特典って何かな?」

 

 

 咲は笑ってごまかして、話題を変えるように聞いてくる。

 

 

「とくてん?」

 

「さっき使ってたのって剃だよね。と言うことは『ワンピース』の六式かな? 愛紗さん達もなんだかその内に入りそうだよね。じゃあユニゾンデバイスとかかな?」

 

「咲、ちょっと待て。一体何の話をしてるんだ?」

 

 

 少し興奮気味の咲に制止の声を掛ける。

 

 

「何って特典の」

 

「そのとくてんってのはなんだ?」

 

「え?」

 

 

 咲は呆けたような声を出して訝しげな顔をする。

 

 

「いやだから、とくてんって何だ?」

 

「特典、知らないの?」

 

「ああ」

 

 

 何でそんなに驚いた顔をしているんだ? とくてん……特典、か? 意味合いで言えば特別な待遇とかそんな感じだが……。

 

 

「じゃあ、あの六式は?」

 

「何でお前が六式のこと知ってんだ?」

 

「いいから、こ・た・え・て」

 

 

 咲は『答えて』を強調してそう言う。

 

 

「お、おう」

 

 

 妙な迫力に吃ってしまった。今なら軽く一撃入れられそうだぞ。

 

 

「六式は俺の親父が使えた体技なんだよ」

 

「宏壱君のお父さん?」

 

「ああ、何でも代々山口家に伝わる古流武術だとか言ってたな」

 

「……宏壱君はワンピースって知ってる?」

 

「いや、知らないな。服か?」

 

「ワンピースを知らない? あの国民的アニメを?……時代が違うのかな?」

 

 

 俺の言葉は無視してぶつぶつと独り言を呟く咲。アニメとか見てたがそれも150年以上前の話で覚えてない。もし、六式が出てくるアニメなら自分も使うものだ、記憶に残っていてもおかしくないはずだ。

 

 

「……宏壱君の前世ってどんなところ?」

 

 

 咲は考えが纏まったのか、そう聞いてきた。

 咲が聞いているのは桃香達と出会った過去ではなく、俺が初めて生を受けた別の世界の事だろう。

 

 

「戦争の多い世界だった」

 

「戦争?」

 

「ああ、日本は平和な国だったが、周辺諸国では諍いが絶えず、日に何人もの人間が死んだ。テレビや新聞じゃ殆どその話題は出なかったけど、そこら辺のニュースはラジオで聞けた」

 

「……」

 

「世界大戦のような大規模な戦争はなくても、内紛やテロ、異民族間での争い事。挙げれば切りがない程に、な」

 

「宏壱君は、宏壱君はその世界で何を……?」

 

 

 恐る恐ると聞いてくる咲の声には、若干の震えが聞き取れた。何となくの察しは付いているんだろう。

 

 

「傭兵をしていた」

 

「――っ!?」

 

「俺の培った戦闘技術は、殆どそこで身に付けたからな」

 

 

 そう言って止まっていた足を三度動かす。

 

 

「じゃ、じゃあ宏壱君は人を……」

 

 

 慌てて追いかけてきた咲が、躊躇いながら聞いてくる。

 

 

「ああ、この手に掛けたことがある」

 

「……」

 

 

 自分の手を見れば血なんて付いていない。だが、そこに残る感触は世界を越えても消えることはない。

 

 

「……怖くなったか?」

 

「……宏壱君は好きで命を奪ってたの?」

 

 

 咲は俺の問いには答えず、無感情の声音で聞いてくる。

 

 

「ああ」

 

「即答、何だ」

 

「逡巡することはないさ。俺の決めた道だったからな」

 

「……」

 

 

 肩を竦めて言う俺を見上げる咲の目に恐怖の色はない。咲の演技力が卓越していなければ、な。

 

 

「……そっか」

 

「俺から指導を受けるの止めるか?」

 

「どうして?」

 

 

 そう聞き返す咲は、純粋に疑問を持っただけに見える。

 

 

「ほら、汚れた力だー、とか、この人殺しー、何て言わねぇのかなー、と思ってな」

 

 

 俺がそう言えば、咲はむっと怒った表情をする。

 

 

「別に言わないよ。士郎お父さんも恭也兄さんも、人の命を奪ったことがあるって言ってた。宏壱君が前世でどんなことをしていても、私は気にしないよ」

 

 

 そう言って笑った咲の顔に嘘は見られずホッと息が漏れた。知らず知らずのうちに緊張していたらしい。平気なつもりでも、親しい人間から拒絶の言葉を投げ掛けられるのは怖い。たった二週間で随分と内側に入られたもんだな。

 

 

「宏壱君? どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

 

 また、無言の間が空く。

 

 

「そういえば、愛紗さん達はユニゾンデバイスなの?」

 

 

 ただ疑問に思っただけなのか、無言に耐えきれなくなったのか、咲が聞いてくる。

 ユニゾンデバイスってのは確か古代ベルカで作られた融合型デバイスで、適合者とのユニゾン率が低いと洒落にならん事故を起こすから、使い勝手が悪く次元世界でもあまり普及しなかった。そんなことを文献で読んだな。

 研究自体はまだ続けられていたりするらしいが、製造は困難を極め既存の物からの複製も不可能に近い。そもそも適合者が極めて少ないらしいからな、研究も芳しくない。廃れた技術だな。廃れているから知る人間はそう多くない。何で咲は知ってんだ?

 

 

「いや、あいつらは魔力生命体だ」

 

「あ、そっちなんだ」

 

 

 さっきから咲は何を言っている? 何の話をしているんだ?

 

 

「じゃあなにか魔導書でもあるのかな?」

 

「待て。ちょっと待ってくれ」

 

「あ、ごめんね。私ばっかり話しちゃって」

 

「それはいい。俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」

 

 

 謝る咲を制して、自分の言いたいことをまとめる。

 

 

「あー、あれだ。何でユニゾンデバイスのことを知ってるんだ?」

 

「え?」

 

「いや、この基本管理局と関わりのない世界で、知る者も少ないユニゾンデバイスのことを何で知っている? 魔力生命体だって使い魔が居るからおかしくはないが、地球から出たことのないお前に知る機会があったとは思えないんだが……」

 

「それは原作で……あ、ワンピースを知らないんだよね。じゃあ、リリカルなのはも知らない? ううん、そもそも私の知ってるアニメ自体が無いのかも」

 

 

 途中でぶつぶつと考えごとを始める咲。いつの間にかまた俺達の足は止まっていた。

 

 

「おーい、咲ー。戻ってこーい」

 

「ひゃっ!わわわっ!」

 

 

 咲の頭をぐわしぐわしと乱暴に撫でる。

 

 

「あううぅ~……頭がくらくらするよぉ」

 

「はぁ、ホントに遅くなるぞ。もう20時前だ」

 

 

 溜め息をついて腕時計を咲に見せてやる。

 

 

「飯もまだだし、早くしないと冷めるぞ」

 

「のんびりし過ぎちゃったね」

 

 

 えへへと咲は笑うが、ややこしい話をしたのお前だろって言いたい。

 

 

「話があるならまた今度だ」

 

「うん!」

 

 

 俺達は今度こそ咲の家へと、止まることなく歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「宏壱君、咲を送ってくれてありがとう」

 

「最近は物騒だからな。いくら咲が強いとはいえ、女の子一人で帰すのは気が引けるからさ」

 

 

 あれから10分ほどで咲の家、高町家に着くと、少し帰りの遅い咲を心配して士郎さんが門の前で待っていた。

 

 

「そうだ。晩御飯を一緒に食べないかい?」

 

「いや、家で天和が待ってるからな。遠慮する」

 

「そうかい?」

 

「ああ、じゃあな。咲もまた学校でな」

 

「うん、バイバイ」

 

「遠慮なくいつでも遊びに来てくれると、なのはも喜ぶよ」

 

「おう」

 

 

 門前で見送ってくれる士郎さんと咲に手を振り、高町家を後にする。

 

 

「原作……ね」

 

《つまり原点、この世界の元となった物語がある。と言うことでしょうか?》

 

「多分な」

 

 

 念話で声を掛けてきた刃に、そう返しながら夜空を見上げる。

 

 

「降りそうだな」

 

 

 夜空を照らす月は見えず、幾万もの星達の姿も見えない。海鳴市は雲に覆われていた。

 

 

《予報では、降水確率ゼロ%でしたが》

 

「まぁ、こういう時もあるさ」

 

 

 そう肩を竦めてみせ、家路を急ぐ。

 

 

「――――っ!?何だ?今、妙な力の動きが……」

 

 

 足を止めると――ポツ――滴が肩に当たる。雨だ。降りだした雨に構わず、力の出どこを探る。

 

 

(これは、事件が起きた時に必ず感じる流れだ。何処だ?何処に……)

 

〈東140m付近の生体反応が弱まっています〉

 

「っ!」

 

 

 刃の報告と同時に『グロウ』を省エネモードから戦闘モードに切り替え、雨雲広がる夜空へと飛び上がる。そこに意識を集中してみれば、確かに弱まる気配が複数。だが妙だ。気配がそれだけしかないぞ。……今考えても無駄か。

 

 

「ファースト ムーブ!!」

 

〈First Move〉

 

 

 視界がゆっくりになり体感時間が延びる。距離は遠くない。一分も掛からず着く。

 

 

「炎神!」

 

 

 俺の全身を炎が包む。雨粒が炎に当てられ蒸気となる。

 

 

〈見えました。赤色の屋根の民家です〉

 

「分かった!」

 

 

 その屋根はすぐに見えた。だが、明かりが点いておらず、二階の窓ガラスが割れている。

 

 

「弱まった気配は一階か!」

 

 

 気配を辿り庭に降りる。庭から見えたのは、おそらくリビングへと繋がるガラス戸。その奥には大きな影とその影から伸びるなにかに串刺しにされた小さな影。

 全身に纏う炎を右手に凝縮させ、1m程の槍にする。炎の槍はゴウゴウと燃え盛り、放たれる時を待つ。

 

 

「刃、生存者は」

 

〈生存者、ゼロです〉

 

 

 ギリッと奥歯が鳴る。

 

 

〈結界を張ります〉

 

 

 無限がそう言うとここ一帯、凡直径200m付近の気配が消え世界隔絶され、降りだした雨もこの世界にはない。かなり隠蔽性の高い魔法だ。デバイスを持たない咲には気づかれないはずだ。

 

 

「炎神槍っ!!」

 

 

 それを確認して、炎の槍を右手で掴み、大きく振りかぶって投げる。炎の槍は真っ直ぐにデカブツへと飛んで行く。

 

 

「剃っ!」

 

 

 炎神槍がデカブツに直撃する前に剃でデカブツに近付く。

 

 

「無限!」

 

〈御意〉

 

 

 左手に漆黒の刀が現れた。

 

 

「雷神・雷刀!」

 

 

 無限に魔力を通し変換機能で魔力を電気変換、一時的に無限は雷を纏う刀になる。

 

 

「ああっ!!」

 

 

 音が鳴ることもなく、スっと抵抗なく無限は小さい影を貫いていた腕を切る。小さい影は近くで見れば、年端もいかない少女だと分かった。

 

 

〔グオオオォォォッ!!?〕

 

 

 腕を切り離され悲鳴を上げるデカブツに構わず右腕を引く。

 

 

「炎神・剛焼拳!」

 

 

 炎を纏った拳がデカブツを捉え――ゴウッ!!――火の粉を散らしながら吹き飛ばす。吹き飛んだ先は庭、そして炎の槍だ。

 

 

「くたばれっ!」

 

 

 ――ゴウウウゥゥゥッ!!!――俺の全身を包むほどの炎を凝縮した槍だ。その威力は並の炎神槍の10倍近いものがある。

 炎は拡散せず空へと渦を巻きながら上る。

 

 

「やった、か?」

 

〈分かりません。生命反応が感知できません〉

 

〈こちらも同様です。彼奴には生命反応が見られない。これでは……〉

 

 

 無限の言葉が途中で切れる。理由はすぐに分かった。

 渦を巻く炎の中からゆっくりと影が出てくる。炎に照らされたその姿は異様と呼ぶに相応しいものだった。灰色の皮膚、2mを軽く超えるデカさ、異常に長い腕、筋肉で盛り上がった体、その体の中心、鳩尾辺りはぽっかりと穴が空いていて奥の渦巻く炎が見える。

 何よりもその面を隠す面だ。鬼と表現すればいいのか、泣いているようにも、笑っているようにも見える。

 こいつがなんなのか。何故生命反応が感知できないのか。何処から来たのか。分からないことが多いが一つだけ確かなことがある。最近の一連の事件、間違いなくこいつは関係しているってことだ。




戦闘シーンを書くのは楽しいですけどちゃんと伝わっているかどうか……不安です。

今回、不自然に話を切った部分がありました。説明するなら最後までしろ、って話ですよね。ただ、あれを長くすると今回で事件に関わる所まで行けない気がしたんです。

さて、今回はここまで。では次回お会いしましょう!
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