リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第三十鬼~赤鬼と救いと憤怒~

side~宏壱~

 

 燃え盛る炎に覆われた庭、血溜りの出来上がったリビング、晩飯の最中だったのか料理が床に散乱し皿は割れ机や椅子はひっくり返され、強盗に入られたような家の中。

 だが、天井や壁、床は鋭い刃物で切り裂かれたような裂傷があちこちにあった。これをやったのは人でも獣でもない。この世にいてはならない存在だ。

 

 

「……」

 

 

 刃と刀(ソードモード)の無限をグローブモードにしてバリアジャケットを展開、それから傍に転がる少女の遺体を抱き上げる。胸部を貫かれ一撃で殺されたみたいだな。その顔は恐怖で引きつり、絶望の色が窺える。

 抱き上げた少女を、肩から腹部に掛けて引き裂かれ殺された母親であろう女の傍に寝かせる。女の傍には上半身のみの男の姿があった。下半身は見当たらない。

 

 

「……喰ったか? 絶望に落とし、その表情を楽しんでこの子も喰う予定だったってか?」

 

 

 湧いてくる感情を抑えデカブツを睨み付ける。何の目的で、誰の為に、こんな未来ある子供の命を奪ったのか。そんなことを考えるも答えなど出ない。出す必要もない。今俺がすべきことは……。

 

 

「お前を殺すことだ」

 

 

 佇むデカブツを見据える。高い再生能力を持っているのか、切り離した腕は再生していた。

 

 

「おおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

〔グウウオオオォォォッ!!〕

 

 

 俺とデカブツは雄叫びを上げ同時に走り出す。一段階ギアを上げ、踏み込めば床は砕け木片が飛び散る。

 デカブツよりも速い俺の姿は既にデカブツの懐にあった。雷を纏った拳を強く握りしめ振り上げる。

 

 

「ぜりゃあああっ!!」

 

〔グブオオッ!?〕

 

 

 ――ズドン!!――腹部に深く拳がめり込み衝撃波が生まれ炎が靡く。

 

 

「ぶっ飛べぇぇっ!!」

 

 

 めり込ませた拳を振り切り、デカブツをぶっ飛ばす。

 吹き飛んだデカブツは塀を壊して道路に出る。

 

 

〔グアアアッ!!〕

 

 

 塀の向こうから三度の閃光、黒い光が瞬く。見えたのは、黒く輝く三つの光弾。

 

 

「おらあっ!」

 

 

 迫る光弾を魔力強化した拳を三度振るうことで弾く。

 

 

〔グアアッ!〕

 

 

 続けてデカブツが飛び出し、その図体とは裏腹に速い動きで迫る。

 

 

「せあっ!」

 

 

 迎え打つように回し蹴りを放つ、が。

 

 

「なにっ!?」

 

 

 俺の蹴りは当たることなく素通りした。躱された訳じゃない、文字通りすり抜けたのだ。

 

 

〔ギアアッ!〕

 

「ごふっ!」

 

 

 驚きで生まれた隙を逃すような相手ではない。顎をかち上げられ、上空へと殴り飛ばされる。

 

 

「ぐっ!……薄氷!」

 

 

 体勢を立て直し、空中に氷の足場を作り出す。

 

 

「……何が、起きた?」

 

〈攻撃がすり抜けました〉

 

彼奴(きゃつ)が何かしらの力を使ったようには見えませんでしたが……〉

 

 

 下を見下ろせば、デカブツが俺を見上げていた。余裕のつもりか、何かの行動を起こすこともなくこっちを見ている。

 

 

〈では、何故すり抜けたと言うのです? 彼奴が何かをしなければ有り得ないことでしょう〉

 

〈ならば、お前には見えたと言うのか刃! 彼奴が何か力を発揮したところが!〉

 

 

 刃と無限が互いの意見をぶつけ合う。ここで割り込んでも、思考を逸らさせるだけだ。なら俺のすべきことは、多くの情報を得ることだ。

 

 

〈それは……〉

 

〈そもそもがおかしいのだ! 何故通っていた攻撃が急に通らなくなった!〉

 

〈分かりません。ですが無限、喚いても仕方ないこも事実です。考えれば必ずタネが見つかるはずです〉

 

「……もう一度攻めるぞ」

 

〈〈主!?/御主君!?〉〉

 

 

 俺がそう言えば、二人は驚いた声を上げる。

 

 

「情報が少なすぎる。交戦すりゃ見えないものも、見えるようになるさ」

 

〈ですが!〉

 

〈危険です!〉

 

 

 抗議の声を上げる二人を無視して、薄氷の上から飛び降りる。

 

 

「動かねぇと何も始まらんだろうがっ!!」

 

 

 言いながら右足に魔力を集中し炎熱変換する。膝から下の右足を炎が覆う。

 

 

「炎神・紅蓮落脚っ!!」

 

 

 空中で体を前に倒し回転する。ちょうど踵がデカブツの頭に落ちる形だ。

 

 

〔グゴッ!〕

 

 

 炎を纏った脚は後ろに飛ぶことで躱される。地面に激突する前に魔力結合を解き、炎神を解除する。

 

 

「逃がすかっ!」

 

 

 着地と同時に、後ろに飛んで逃げたデカブツを追い駆ける。

 

 

「うおっ!」

 

 

 デカブツの胴に抱きつくように掴みかかろうとしたが、さっきと同じようにすり抜ける。

 

 

「っ!?」

 

〔グアアッ!!〕

 

 

 掴むことが出来ずすり抜け、体勢を崩した俺に背後から迫る殺気。崩れた体勢を立て直さず、前に転がることで躱す。

 

 

「くそっ!ブレイク キャノン!!」

 

 

 すかさず魔力弾を放つ。

 

 

〔グバッ!!〕

 

 

 追撃を掛けようとしたデカブツは、顔面にもろにブレイク キャノンを受ける。

 

 

「……当たった?」

 

〈これは……〉

 

〈まさか……御主君!〉

 

 

 一瞬の思考の停止、その隙を突かれた。眼前に影、デカブツが両手を組んで振り上げる。

 

 

「っ!?」

 

 

 後ろに高く跳んで避ける。――ズゴンッ!!――降り下ろされた腕は地面を穿つ。

 

 

「なるほど、魔力の有無か……」

 

〈恐らく……〉

 

〈なれば簡単なことです〉

 

 

 攻撃がすり抜けた時と通った時の違い、それは魔力の有無だ。当たった攻撃は、全て魔力を纏ったものだった。逆にすり抜けた攻撃は、魔力を纏わせていなかった。

『グロウ』は、常に魔力を細胞組織一片に余すことなく行き渡らせている。戦闘モードは魔力量を多く、省エネモードは少なくしている。それで身体能力の良し悪しが決まるんだが……。

 憶測ではあるが、身体強化のような魔力を内側に通すものではなく、外側に纏うような剥き出しのエネルギーが、あのデカブツにダメージを与えられた要因だろう。

 デカブツが何もせず、俺に攻撃を当てられる理由は分からんが……。

 

 

 

「勝機は見えた。……雷神!!」

 

 

 この身に雷を纏う。

 

 

「これより先は光の世界。お前に付いてこれるか?」

 

 

 光速でデカブツの懐に潜り込み、腹部に手を添える。その時に仮面の目の部分から見えたデカブツの目は、悲しみと絶望に満ち震えていた。

 

 

「スパーク ショット」

 

〔グボオオッ!?〕

 

 

 深紅の魔法陣が浮かび、雷がデカブツの腹を撃ち貫く。

 

 

〔ギアアア!!〕

 

 

 横凪ぎに払われた腕を屈んで躱し、今度はデカブツの太股に手を添え……。

 

 

「スパーク ショット」

 

〔ギガアアア!!〕

 

 

 悲鳴を上げ前屈みになったデカブツの肩に手を添え……。

 

 

「スパーク ショット」

 

〔グギャアアア!!〕

 

 

 それを繰り返す。腕、足、胸部、背中、首、頭と光速で時折振るわれる腕や足を躱しながら、確実にダメージを与えていく。

 

 

〔グギイイィィ……〕

 

「……ふぅ、タフだな」

 

〈同感です〉

 

〈一体何者でしょうか……?〉

 

 

 全身余すとこなく重度の火傷を負ったデカブツは倒れ伏し、俺は息を吐く。ダメージを与えても直ぐに再生する。その度にダメージを与える、再生、ダメージを与える、再生を何度も繰り返した。目紛るしく景色が移り変わり、遂にデカブツが倒れた。再生する力はもう無いのか、灰色だった皮膚は炭化し黒く染まっていた。それでも息があるこいつのタフさには感心する。

 

 

「その顔、拝ませてもらうぞ」

 

 

 抵抗する力もないデカブツの仮面に手を掛け……剥がす。

 

 

「――っ!?」

 

〈……これは〉

 

〈……どういうことだ〉

 

 

 俺達は混乱した。その仮面の下の顔は……幼い少女の顔、見たところ俺よりも年下だ。

 

 

――お…じさ…ん。だ…れ?

 

「これは……念話、か?」

 

 

 幼い少女の声が耳からではなく、頭の中に直接響いた。

 

 

――おじさん…も…マナの声…が、聞こえ…るんだ。

 

「ああ。君は何者だ?」

 

 

 静かに語り掛ければ少女、マナはその愛らしい瞳から涙を流す。

 

 

――マナ……いっぱい…人殺しちゃった。お母さんも……お父さんも……ひっく、みんな泣いて…た!……うっく……みんな怖がってたの……!

 

「……」

 

 

 何も言葉がでない。この少女を救う術は俺にはない。

 恐らく自分の意思ではなく、暴走のような形で暴れていただけなんだろう。俺にはこの子の気持ちを理解してやれない。自らの意思で誰かの命を奪うことを決めた俺と、意識がありながらも意思とは関係無く人を殺めたこの少女では、覚悟が違う。

 

 

――あたたかい…お家を見ると……体が止まらなくて……そこに居る……人達が…憎くなって……マナは…死んじゃったのに!……何であんなに…笑ってるのって……!あああぁぁぁ!

 

「抑えろ! 闇に呑まれるな! その暗闇に身を任せると、その悲しみだって消えるぞ!」

 

 

 暴れだそうとしたマナに、声を掛けながらグラビティバインドで押さえる。凄まじいパワーだ。ギチギチと悲鳴を上げるバインドの音で、発揮されている力の強さが分かる。気を抜けば破壊されかねないぞ、これは。

 

 

〔アアアアアアッ!!〕

 

「気をしっかり持て!自分を見失うな!」

 

――ころ……して……。

 

「――っ……な…に?」

 

 

 頭に響いた声に一瞬気が抜けた。その隙を突かれ、バインドを破られる。火傷を負った皮膚が、マナの叫びに呼応するように再生していく。

 

 

〔ウアァァァァッ!!〕

 

「ぐうっ!」

 

 

 バインドを破ったマナは、がむしゃらに腕を振り回した。傍にいた俺は躱すこともできずに弾き飛ばされる。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 近くの電柱を破壊して民家の塀を壊し、その先の民家にの壁をも壊しフローリングの床に転がる。例によってバリアジャケットの恩恵でダメージは無いが、強い衝撃が来れば息がくらい漏れる。

 

 

〈主、このままでは……〉

 

 

 刃が悲壮感に満ちた声を掛けてくる。

 

 

〈あの少女のためにも討つべきです、御主君〉

 

 

 決意を固めるようにと、無限が言葉を掛けてくる。二人は知っているのだ、俺が女子供を手に掛けたことが無いのを……。

 

 

〔グウアァァァァッ!!〕――ころ…して……。

 

「……」

 

 

 耳に届く声と頭に響く声が重なる。マナは流す涙も枯らし、声で泣き暴れ続ける。その方向性の無い暴力が俺に向かってくるのも時間の問題だろう。

 

 

「殺す……覚悟、か。救うことは……」

 

〈その術が無いことは、貴方が一番分かっているでしょう!〉

 

 

 刃の言葉になにも返せない。ああ、分かっている。そんなものは無い。分かっている。こんなことは初めてで、訳も分からない力を使う少女が、恐らく既にその命を失っていることも……。

 頭が真っ白になっていく。視野が狭まり、見えるのは苦しむ少女の顔だけ。

 

 

〈御主君、目の前の少女を泣かせたままにするおつもりですか?〉

 

「……」

 

〈彼女を救う術は……ありますよ〉

 

「は……?……お前、何を言って」

 

〈解放するのです〉

 

「……かい、ほう?」

 

〈はい。彼女を呪縛から解放するのです。貴方の力で、意思で、覚悟で、殺すのではなく救う。その力が貴方にはあるのですよ、御主君〉

 

 

 溶け込むように、無限の言葉が胸に染み込む。

 

 

〔アァァァァ!〕――おじ…さん……マナを……助けて……!

 

 

 無限の声が聞こえたわけでもないだろうが、マナが俺に救いを求める。女を泣かせたままにするのは俺のポリシーに反する。助けを求められたのなら尚更だ。

 

 

「……ああ、救おう」

 

 

 腕に力を入れて起き上がる。

 

 

「俺にはこれしかないからな」

 

 

 全身に力を入れ一歩踏み込む。

 

 

「剃っ!」

 

 

 暴れ続けるマナの腕を掻い潜り懐に飛び込む。

 右腕に魔力を集中させ、最終的には五本の指に集める。六式の一つ、『指弾』を基礎とした技。

 

 

五指弾(ごっしがん)っ!!」

 

 

 放たれた五つの指弾は、正確にマナの腹部を貫き、手首より先が背中側へと突き抜けた。

 

 

〔グアアアァァッ!!〕――おじ…さん……ダメだよ……それじゃあ……また……直ぐ元に戻っちゃう……よ。

 

「……分かっている」

 

 

 マナ自身に痛みはないのか、掠れた声で注意してくる。

 

 

「炎神!!」

 

 

 俺の全身を炎が覆う。その炎は右腕からマナへと移っていく。絶え間無く魔力を注ぎ込むことで炎を増大させ、それは軈て俺達を包み込み膨大な炎の球体となった。外から見ればもうひとつの太陽が地上に出来た感じかもな。

 周囲は深紅の炎に覆われ轟々と燃え盛る。マナを包んだ炎は、マナの首から下だけを燃やす。

 

 

――……あたたかいね。

 

「……そうか」

 

 

 そう言ったマナの表情は穏やかで、笑みさえも浮かべていた。

 

 

――ありがとう……おじさん。

 

「ああ、安らかに眠れ」

 

 

 最後に満面の笑みを俺に魅せて、マナは炎に呑まれた。

 

 

「こんな平和な時代で、こんなことが罷り通っていいのか……」

 

〈……結界を解きます〉

 

 

 無限が結界を解くと、炎に覆われた住宅街や倒れた電柱、壊れた塀も何事もなかったかのように元通りになった。

 

 

「……強くなったな」

 

 

 結界を解けば降っていた雨が当たる。結界を張る前よりも雨足は強くなっていて、少し痛い程で本格的な土砂降りの雨だ。

 

 

「……帰るか」

 

 

 雨音に混じってサイレンの音が聞こえる。近所の誰かが、あの家族の遺体を見つけて通報でもしたんだろう。

 

 

〈これで決着したと思いますか?〉

 

 

 刃が聞くのはこの事件が、マナを止めたことで終わったのか?と言うこと……それを自分でも思っていないことを問うのは、俺達の間で誤認が無いようにするためだ。それに対する俺と無限の答えは……。

 

 

「〈あり得ない/あり得ん〉」

 

 

 否定だ。確実に終わっていない、そう確信を持って言える。事件はまだ続く。恐らく今回マナには外的力が加わっている筈だ。この世を彷徨う幽霊のマナを捕まえて、何者かがあの子に無理矢理力を与えた。何者かが、な。そう、例えば……。

 

 

「絶対殺したるからな!! 覚悟せぇや、くそボケェッ!!」

 

 

 空に向けて有りったけの声量で覇気を乗せて吼える。大気が震え、道路に出来た水溜まりが雨以外で大きく波打つ。(後で天和から聞いた話だが、この時海鳴市で局地的地震が起きたらしい。震度は3少し揺れを感じる程度だが、皆が感じ取るには十分な揺れだったらしい)

 

 

「……消えたか」

 

〈申し訳ありません。探知できませんでした〉

 

「気にすんな」

 

 

 刃と無限を待機形態にしてバリアジャケットから普段着に戻る。覗いていた相手も居なくなったし、もう臨戦態勢を解いてもいいだろう。

 

 

「絶対に許さへん。死んだ子を利用して無差別に人を殺させたんや、報いは受けてもらうで……」

 

 

 意識して関西弁を使い怒りを吐き出す。口に出すだけでも随分と違うものだからな。

 

 

〈同感です。何者かは知りませんが、命の冒涜もいいところ。我らも腹に据えかねています〉

 

〈誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやりましょう。マナのためにも……〉

 

 

 刃と無限もかなり頭にきてるな。俺と同様、抑えを効かせる為に喋ってるんだろう。

 

 

「ホントにな……早めに対処しねぇと犠牲者が増える一方だ」

 

〈ですが、事を急げば仕損じる可能性も高くなります〉

 

〈刃の言う通りです。御主君、ここは慎重に事を運ばねば……〉

 

 

 刃と無限の言葉に確かに、と頷く。ここで首謀者、黒幕と呼んでもいい、そいつを逃せば別の場所で同じ事件が起こるのは明白。海鳴市でないと出来ないことがあるのなら話は変わってくるし、余裕もあるだろうが。今のところ方向性が見えない。

 

 

「……分からないことが多すぎるな。情報が欲しい」

 

〈では呉刃さんを?〉

 

〈しかし、あちらも人手がいるのでしょう?〉

 

 

 そうなんだよな。今、向こうの人員を割く訳にはいかないんだ。なんでも今度、複数の違法研究所を押さえるらしく家の実力者、桃香、愛紗、要が数日前からミッドの方に行っている。ただ、こっちに俺一人置いておくのは不安らしく、天和が残った。全員を召喚できればいいんだが、そこまでの魔力は俺にはないし。

 ……いつか全員をずっと維持できるようになれば、この先、有利に戦況を進めることができる。これまでの経験が俺に告げている。今回だけじゃなく、どれ程先か分からないが必ず大きな戦いが待っている。

 それを望む俺がいるのは確かだが、それで何かを失うのは本意じゃない。力を付けるのは咲だけじゃない、俺達もだ。

 

 

「仲間は欲しいが……」

 

〈宛がない、ですか〉

 

 

 刃の言葉に頷き、土砂降りの雨の中を急ぐでもなくゆっくりと歩く。

 

 

「……ああ」

 

〈高町家は巻き込めませんからね〉

 

「当然だ。あれを相手取るのは咲にはまだ早いし、士郎さんや恭也ではダメージを与えることはできない」

 

 

 難しいな。……味方は欲しいが、今は頼れる実力者がいない。

 

 

「一人でやるしかない、か」

 

〈いえ、三人ですよ、主〉

 

〈我等を抜かないでください、御主君〉

 

 

 二人の抗議の言葉に笑みが零れる。そうだな、俺は一人じゃない。傍には心強い相棒達が居るんだ。不安に思うことはないんだよな。

 

 

「はは、悪い悪い。そう怒るなって、ちゃんと分かってるからさ」

 

 

 そう話している内に家に着いた。土砂降りの雨でゆっくり歩いたから、服が水を含みすぎて重く感じる。

 

 

「ただいまー」

 

 

 パタパタと駆け寄ってくる足音を聞きながら、頭では別の事を考える。

 

 

(何処の誰だか知らねぇが、必ず報いを受けさせてやる。俺と直接相見えたその瞬間がテメェの死だ)

 

 

 静かに、だが激しく感情を心の奥底で渦巻かせ、雨で冷えた体さえも熱を持たせた。びしょ濡れの俺を見て慌ててタオルを取りに行った天和を見送り、俺はこの想いを解放する時を待つと決めた。

 

 

 

 

 

side~???~

 

 場面は宏壱が戦闘を行った住宅街からオフィスビルが並ぶビルの屋上へと移る。

 そこには、首にロザリオを掛け祭服を身に纏った金髪の男がいた。

 男の名はマキア・セルバン。カトリック教会に心を置く若い男だ。だが、この男、マキア・セルバンは異端審問を受け既に教会から追放されている身で、所謂はぐれ神父と呼ばれる存在である。

 

 

「ふむ、妙な力を使う男ですね」

 

 

 マキア・セルバンは未だ震える肩を押さえる。先程の戦闘を遠見で窺っていた彼だが、それに気付いた宏壱の殺気の乗った覇気をまともにその身に受け、震え上がったのは記憶に新しい。

 

 

「しかし、結界のようなもので覆われ姿が見えなくなってしまったのは残念です」

 

 

 心底残念そうに男は肩を落とす。

 マキア・セルバンはあらゆる力に興味を持つことで有名だった。『神器(セイクリッド・ギア)』『魔術』『仙術』『妖術』この世界のあらゆる力を追い求めた。『神器』を持つ人間を過酷な戦場に送り込み力を見極め、『魔術』を扱う人間を拉致して、解剖しその人体の構造がどうなっているのかを調べた。

 他にも様々な人道に反する行為を人知れず行ってきた。それが、教会の上層部に暴かれた。

 

 

「ですが、私の知らない力がまだまだあるんですねぇ、この街はそういう意味では宝箱のようなものです」

 

 

 マキア・セルバンは狂喜に顔を歪め笑う。新たなおもちゃを与えられた無垢な子供のように……。

 

 

「……ですが、もっとこの力を研究しなければ……ゴーストに触れることができるなど、どんな高位の司祭でも不可能ですからねぇ」

 

 

 マキア・セルバンは後ろに振り向き、背後に佇む多種多様な背格好の存在を眺める。体が大きなモノ、小さなモノ、手足の長さ、指の数、皮膚の色、どれも人のそれとは大きくかけ離れていて一感性がない、が。どの個体も宏壱が救った少女、マナと同じような仮面を被っていて、胸の中心には穴が空いていた。

 

 

「では、皆さん。またご自由に狩りを楽しんでください。そして、その力の詳細を私にお教えくださいね」

 

 

 整った男の笑顔は数多の女性を魅了するだろう。その眼の奥に狂喜がなければ、だが。

 

side out




マキア・セルバン

元カトリック教会司祭。特に大きな功績は残していないが、その好奇心、探求心は人一倍。世界にある数多の力の研究をしているが、研究のためなら何でもやる男。
天使を殺したこともありそれが、追放の決定打になった。
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