リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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徐庶元直の真名を変更

灯里(ともり)→碧里(あおり)

最初の方で登場しただけですが、蜀伝の書~プロフィール~を読んでくださった方のために一応載せておきます。


第三十一鬼~赤鬼と拾い物~

side~宏壱~

 

 マナとの戦闘から数日、俺達の予想通り事件は終わっていなかった。あれから数度の力の流動を感じ、現場に向かい未然に被害を押さえたが、どうも思った以上の数がいるらしい。複数の力の流動を感じる事がある。それが同時に起こると対処しきれなくなって、どうしても被害者が出てしまうんだ。

 悔しいが、俺の身はひとつ、咲のように分身体でも作り出せれば話は違ってくるんだろうが……あれは恐らくレアスキルの類い、ひょっとすれば前に咲が言ってた特典とやらの可能性も高い。それを俺が扱えるとは到底思えない、口惜しいが近場から対処していくしかないんだ。

 しかし、妙な話がある。どうやら俺以外にもこの事件を解決しようと動いている奴がいるらしい。と言うのも、幾度か別の場所、俺が向かった方向とは違う所で力の流動が消失することが多々あった。誰かが対処している。そう考えが至るのは当然だろう?

 

 

「4990……4991……4992……4993……」

 

 

 世間はゴールデンウィークの中期休暇で大にぎわい……らしい。

 そんな中、俺は鍛練を続けている。朝から走り込んで腕立て、腹筋、スクワット、懸垂、素振り、シャドーボクシング、それらを道場でこなし、昼飯を食べて小休憩してから地下のプロジェクター、ジェイの所で地球の20倍の重力下で本日二度目の鍛練を行っている。因に今やっているのは、逆立ち腕立て伏せだ。

 

 

「5000……っと……ふぅ」

 

 

 足を地に付け乱れた息を押さえ、ゆっくりと呼吸する。深く吸って、浅く吐いてゆく。

 

 

「ジェイ、投影機起動だ。刃から抽出したデータを元に組み込んだデカブツを5体投影してくれ」

 

[了解しました]

 

 

 流れる汗を拭い、ジェイに声を掛けた。

 投影機は、ジェイに新しく搭載した機能で、仮想敵を生み出すことが出来る。何かしらのデータを組み込めば 、それこそ自分自身との戦闘さえも可能にしたプロジェクターだ。以前から製作に取り掛かっていたものの、俺一人ではどうも計算等が合わず行き詰まっていた。そこで心強い助っ人を四人呼び出し、完成にありつけたって訳だ。

 で、今はその調整段階。まだまだ細かな調整は必要だけどな。

 1分程の時間を掛け五つの影が眼前に現れる。

 

 

「よしっ、成功だな」

 

 

 少し時間が掛かるのは問題だが、取り合えずの成功に軽く握り拳を作ってガッツポーズを取る。

 

 

[では、交戦モードに移行します]

 

「頼む」

 

 

 仮想敵には幾つかのパターンを組み込んである。攻撃、防御、回避、逃走、停止、飛行、最後に交戦。これらを使い分けて、自分のしたい訓練に合わせて使用。そして、仮想敵のレベルを設定して登録すれば、そのレベルに見合った行動を取る。それがこの投影機の完成と言える……んだが。

 

 

「……おい、俺に背中を向けたぞ」

 

 

 仮想敵は五体とも俺に背を向けて……走り出した。

 

 

[誤作動です]

 

「はぁ、完成はまだまだだな」

 

 

 俺は消えていく仮想敵を切なく眺めて溜め息を吐き、投影機の設置されている場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」

 

 

 自動ドアを潜り店内に入ると、若い男の店員が声を掛けてきた。完璧な営業スマイルだ。

 時刻は7時を過ぎ、分針は真下を向いている。あれから、無事作動して投影された仮想敵で訓練をやって、気が付けば6時を過ぎていた。

 今日は何処かで外食することになり、こうして近くにあるチェーン店へと繰り出してきたって訳だ。何時もの事ながら『グロウ』を使った大人モード(省エネ)だが。

 

 

「二人」

 

 

 人差し指と中指を立てて店員に伝える。

 

 

「かしこまりましたー!お席に御案内します!」

 

 

 ハキハキとそう告げた店員は、俺達に背を向けて通路を淀みなく進む。

 

 

「こちらです!」

 

 

 店員が手で示した席は、テーブルを挟んで二人掛けの椅子が向かい合わせに置かれたボックス席だった。

 

 

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらにあるボタンを押してください。では、ごゆっくりー」

 

 

 そう言って店員は去っていく。それを見送って座り、テーブルの端に置かれたメニューを取って向かい側に座った、両端に鈴の付いた赤い髪紐で黒髪をツインテールに結った女性に声を掛ける。

 

 

「碧里、何にする?」

 

「宏壱さんと同じもので」

 

「了解」

 

 

 碧里は柔らかく微笑み、テーブルの上に肘を立てて乗せ、両手を組んでその上に顎を乗せて俺を眺める。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 俺がメニューのページを捲る音だけが二人の間で鳴る。当然、店内には流行りの曲が流れているが……。

 

 

「あら? 山口さん?」

 

 

 メニューを見ながら何が良いかと考え、写真を見てその料理の味を想像しながら決めていると、俺達が座っているボックス席から通路を挟んで向かい側のボックス席から声が聞こえた。

 

 

「ん?」

 

 

 そちらに顔を向ければ、栗色の長い髪をアップで止めた美人さん、愛紗とデートした日に出会った八神夫人がいた。向かい側にはあの時は見なかった八神夫人と同じ色をした髪をボブカットにした小さな少女と、その少女を膝の上に乗せた所々髪の毛が跳ねている男、八神夫人の夫・八神さん。彼も俺に気付いて笑顔で手を振る。

 

 

「ああ……これは、八神ご夫妻。奇遇だな」

 

 

 メニューを閉じて顔は八神夫妻に向けたまま、テーブル脇にあるボタンを押す。

 

 

「今日は愛紗さんと一緒やないんですか?」

 

「浮気ですか?……余り感心しませんね」

 

 

 八神夫妻は関西人らしく、ここらの人達とは言葉のイントネーションが違う。

 八神夫人の端正な眉が顰められ声にも険が乗る。美人なだけに怖いな。

 

 

()みたいなもんだよ。血は繋がってないけどな」

 

 

 妹の部分でピクリと正面に座る碧里の眉が僅かに動いた。

 

 

《すまん。後で詫びはする》

 

《……ふぅ、絶対ですよ?……今夜は寝かせませんから》

 

《お、おう》

 

 

 念話で謝ると、碧里は重々しい溜め息を吐きそう言った。余りに思いため息に、少しの罪悪感を感じ吃りながら返す。

 

 

「徐 碧里です。これ(・・)のい・も・う・と分です」

 

 

 碧里は俺をこれ呼ばわりし、『妹』を強調して一瞬俺を睨む。これは、かなり根に持ってんな……。

 

 

「八神美果です。こっちが夫と娘の」

 

「八神侑人です」

 

「八神はやて言います」

 

 

 碧里の変化に気付いていないのか、それとも、気付いていて触らぬ神に祟り無しと決め込んでいるのか分からないが、今の碧里に動じないのは凄いな。

 

 

「これはどうもご丁寧に」

 

「あの、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 

 碧里がそう返してお互いの自己紹介が一先ず終わったところで、様子を窺っていた店員が声を掛けてくる。

 

 

「悪い。じゃあ――」

 

 

 そう一言謝って注文をしていく。

 

 

「で、ではご注文を繰り返させていただきます。ハンバーグ定食が――」

 

 

 一瞬の戸惑いを見せ、店員は注文を繰り返す。

 

 

「「「……」」」

 

「あ、あはは」

 

 

 次々と店員の口から料理名が出てくることに八神一家は唖然、碧里は苦笑、と反応は違うがどこか呆れた雰囲気を放っている。可笑しいか? 10人前頼んだだけなんだけどな。

 

 

「――以上で宜しかったでしょうか?」

 

「ああ。……あ、料理は時間を空けて持ってきてくれるか?」

 

「かしこまりました」

 

 

 礼をして店員は去っていく。

 

 

「相変わらず食べますね」

 

「食は体の資本だぞ」

 

「にしても、食べ過ぎちゃいます?」

 

 

 八神夫妻の愛娘、はやてからツッコミが入った。

 

 

「これが、宏壱さんの普通なのよ」

 

「食費、嵩みそうやね」

 

「それなりの稼ぎはあるからな」

 

 

 実際、管理局からの給金はかなりのものだ。首都防衛隊は前線で戦う部隊、危険は付き物でいつ死んでもおかしくない。そんな俺達だから高額の給金が与えられるって訳だ。

 

 

「お兄さんのお名前なんて言うん?」

 

 

 はやてが聞いてくる。

 そういえばはやては俺のこと知らなかったな。

 

 

「山口宏壱だ。お兄さんでもお兄ちゃんでもお兄様でもクソッタレでもいいぞ」

 

「……クソッタレ」

 

「誰がクソッタレだ!!」

 

「ええて()うたやん」

 

 

 少しボケたら乗っかられた。まさか、ボケに対してボケてくるとは……。

 

 

「はやて」

 

 

 席を立ってはやての傍まで行き、目線を合わせる。

 

 

「……何?」

 

 

 俺をおちょくるようにボケたことで腹を立てたと思ったのか、その瞳に怯えの色を見せた。

 

 

「俺と友達にならないか?」

 

「……え?」

 

 

 まぁ、大人の姿で出会ってしまった以上、このままの付き合いをするしかないが……。

 

 

「ま、ゆっくり考えてくれ」

 

 

 それだけを伝えて自席に戻る。そんな俺を碧里はにこにこと眺めている。こう……暖かい目と言うか、見守るような感じで……。

 

 

「……何だよ?」

 

「ふふっ、不器用ですね」

 

「うっせ」

 

 

 ちょっと気が合うな、と思っての提案だった。騙すことに心苦しくはあるが、このまま付き合いが続くのなら必ず話すときが来るだろう。

 この娘にも、俺達と同じ力が眠っているのだから。

 

 

「また、守るものが増えましたね」

 

「なんの話だ……?」

 

 

 すっとボケてみせても、分かっているとでも言いたげに微笑む碧里。敵わねぇな……ホント。

 

 

「決まった訳でもないだろ……」

 

 

 運ばれてくる料理を見ながらぽそっと呟く。その声は碧里に届いたようで、彼女は笑みを深めた。

 

 

「こちら、ミートグラタンになります」

 

「どうも」

 

 

 グラタンを受け取り、「いただきます」と手を合わせスプーンで掬う。

 

 

「はむ……うん、旨いな」

 

 

 もう一度掬い口へと運ぶ。

 

 

「そんなに美味しいですか?」

 

 

 俺が旨そうに食べるのが興味を引いたのか、碧里がそう聞いてくる。

 

 

「ん? 食うか?」

 

「いいんですか?」

 

 

 俺が「おう」と笑うと、碧里はテーブルの端の籠に入れてあるスプーンを取ろうとする。

 

 

「ほれ」

 

「……え?」

 

 

 自分のスプーンでグラタンを掬い、碧里の口許まで持っていく。

 

 

「早くしないと溢れんぞ」

 

「あ、えっと、その……宏壱さん?」

 

 

 俺の差し出すスプーンを見て、今度は周りを見る。八神夫妻は微笑みを浮かべるだけ、はやては興味津々、周囲の客もチラチラとこっちを気にする仕草を見せる。

 さっきの遣り取りで、八神夫妻は兄妹の戯れ合い(じゃれあい)みたいに思ってるのかもしれないけどな。俺達の感覚は恋人同士のそれだ。

 もし、兄妹に見えるとしたら俺が兄貴だよな? 弟だと言われたら軽くヘコむぞ。いや、さっき妹みたいなものって言ったから気にすることもないんだろうけど。

 

 

「ほれ、あーん」

 

「うぅ……よしっ…あ、あーん」

 

 

 少しの逡巡、そして意を決したようにひとつ頷いて、頬を朱に染め小さな口を開けて頬張る。

 

 

「旨いだろ?」

 

「……はひ」

 

 

 スプーンを咥えたまま真っ赤な顔で答える碧里の口からスプーンをゆっくり抜いて、そのままグラタンを掬い自らの口へと運び食べる。うん、旨い。

 

 

「なんや、夫婦みたいやね」

 

「そうやなぁ」

 

「お母さんとお父さんにもあんな頃あったんよ?」

 

 

 微笑ましい。そんな声音だな。兄妹みたいなもんだと公言しちまったからな、下手に口を出せばボロが出る。

 ミッドはあらゆる次元世界と繋がっている特性上、申請さえすれば一夫多妻、一妻多夫もOKなんだが……日本はその倫理観から複数の女性と、或いは複数の男性との交際は忌避される。ここでそれが許されるのは物語の中だけだ。

 だからこそ、八神夫人はちょっとした嫌悪感を見せたんだしな。前世は『英雄色を好む』で複数の女性とそういう関係でも周りは納得するし、婚儀も挙げられたが、今の時代じゃダメだな。将来的には、ミッドへの移住も考えなきゃならんかもな。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそーさん」

 

 

 次々と運ばれてくる料理を恙無(つつがな)く消化し、食べ終わったのは碧里と同時。碧里の料理は二人前頼んだハンバーグ定食と半たまで作られるミニネギうどんだ。

 

 

「何であの量一人で食べて、僕らと食べ終わんの一緒なんですか……」

 

「特に早食いやった訳でもあらへんのにねぇ」

 

「ふわぁ、お兄さん凄いなぁ」

 

 

 またも唖然、言葉……は出てるが、八神一家は驚きを隠せないようだ。

 

 

「よし、帰るか」

 

「そうですね。見たいテレビもありますし」

 

「あー、あのドラマか」

 

 

 席を立って伝票を取り、会計へと向かいながら話す。

 

 

「僕らも帰ろか」

 

「はーい!」

 

 

 八神さんの言葉に、元気よく返すはやての声が聞こえた。

 レジの前で待機していた店員に伝票を渡した。

 

 

「お会計14,570円になります」

 

 

 慣れた手つきでレジを打つ店員がそう言う。

 

 

「カードで」

 

 

 財布からクレジットカードを取り出し店員に渡す。

 

 

「お預かりします」

 

 

 店員はカードをレジの窪みに通す。Piっと電子音が鳴り、カタカタと店員がレジを打つとレシートが出てきた。

 

 

「カードをお返しします。それと、こちらレシートと当店サービスのアメです」

 

「ありがとうございます」

 

 

 俺が受け取る前に、碧里が横から掻っ攫っていく。

 

 

「ちゃんと記帳しておきますから」

 

「いや、それくらい俺でも」

 

「捨てますよね?」

 

 

 まぁ、捨てるけど……ちゃんと書くぞ?

 

 

「では、今回の代金は?」

 

「1万4千……ちょい?」

 

「……ふぅ、帰りましょう」

 

 

 何だ今の溜め息は。

 

 

「では、ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさん」

 

 

 店員にそう言って店を出る。こういうのは大事だ。最低限の礼儀って奴だな。

 

 

「ふあ~」

 

「大きな欠伸ですね」

 

「んー……食ったら眠くなってきた」

 

 

 腹八分目に抑えたつもりだが、満腹感が強く、眠気が襲ってきた。

 

 

「山口さん!」

 

「ん?」

 

 

 碧里と並んでゆっくり歩いていると後ろから声を掛けられる。振り返れば、八神一家が店の前から手を振りながらこっちに歩いてくるところだった。はやては八神さんに抱き抱えられている。

 

 

「このまま直帰ですか?」

 

「まぁな、ほら最近なにかと物騒だろ?」

 

「……ニュースでよーやってる事件ですか」

 

 

 合点がいったと頷く八神さん。最初の事件から合わせれば、被害者は既に20人近い。商店街の方でも結構な騒ぎで、八百屋のおっさんが襲われた。なんとか逃げ切ったらしいがな……。

 ニュースで持ちきりだったが、必死だったからどんな姿をしていたとかは覚えていないらしい。引っ掻き傷が背中に深く刻まれ、今も療養中だそうだ。

 

 

「まぁ、そういうことだ」

 

「それは、しゃあないですね。この後良かったらどっかでお話でも思たんですけど、僕らも真っ直ぐ帰りますわ」

 

「ああ、そうした方がいい。はやてもまたな」

 

「うん!」

 

 

 八神さんに抱かれているはやての頭を一撫でして背を向ける。

 

 

「帰りますか?」

 

「おう」

 

 

 八神夫人と話していた碧里が、八神夫人に別れを告げて傍に駆け寄ってくる。

 

 

「コウ兄ちゃん!」

 

 

 後ろからはやての声が聞こえた。と言うか、これは……。

 

 

「俺、か?」

 

「十中八九そうだと思いますよ」

 

 

 自分を指差しながら隣の碧里に訊けば、他に誰かいますか?と呆れた目で見られた。

 

 

「あー、どうした?」

 

 

 俺は後ろ頭を掻きながら振り返る。

 

 

「呼んでみただけやよ」

 

「何だそりゃ」

 

 

 俺はこれ見よがしに肩を竦めてみせる。本当に呆れたとかじゃなく、何となく友達同士の他愛ない遣り取りのようなものが嬉しかっただけだけどな。

 

 

「またお話ししよな~」

 

 

 頭を下げ俺達とは反対方向に歩き出した八神夫妻、その八神さんの肩越しにはやてが手を振っていた。俺達は、そんな三人の姿が見えなくなるまで見送る。

 

 

「帰るか」

 

「ですね」

 

 

 簡潔な遣り取りだったが、今はそれだけで良い気がした。

 

 

 

 

 

「……足が悪いのでしょうか?」

 

 

 暫く無言で歩いていると、唐突に碧里がそんなことを言う。

 

 

「はやて、か?」

 

「はい」

 

 

 完璧に主語が抜けた言葉だったが、どうやら間違ってはいなかったようだ。

 

 

「さぁな。専門的な知識も無しにどうこう言ってもしょーがねぇだろ」

 

「冷たくありませんか……?」

 

 

 碧里は俺の解答が不満だったのか、ジと目を俺に向ける。

 

 

「んなことないって。俺に出来るのは戦うことだけだ。誰かを癒すのは本分じゃないんだよ」

 

「……そんなことはないと思いますけど」

 

 

 御機嫌が斜めな碧里の気を逸らそうと辺りを見回す。

 見聞色の覇気を用いてまで気配を探れば……。

 

 

「……何だ?」

 

 

 動かない気配がひとつ。潜んでいるとかじゃないなこれは……。思考もなにもない、気を失っている、のか? 徐々にだが、弱まっていってる気もする。

 

 

「どうかしました?」

 

 

 碧里は立ち止まった俺に声を掛けてくる。

 

 

「いや、妙な気配が」

 

「妙、ですか?まさか……!」

 

「違うって。今日はそんな兆候ないしな」

 

 

 何となく……本当に何となくだが、事件が起きる日は感覚で分かるようになった。何時もとどう違うんだ?と聞かれても何かが違う、としか答えられないが、昼を過ぎた辺りから胸騒ぎと言うか、不快感と言うか、兎に角モヤモヤした気分になる。

 今日はそれがないから、違うと言い切ったんだが……。

 

 

「気になるな」

 

「行ってみますか?」

 

「ああ」

 

 

 気配を便りに進むと、雑居ビルの間、街灯の明かりも届かない路地。そこに、白いローブを身に纏った一人の男が壁に背を預けて眠っていた。

 男の傍には、布で包まれた長物が立て掛けられており、それからは不思議な高潔さ、気品さ、清純さを感じた。

 

 

「怪我をしていますね。致命傷のようなものはありませんが、かなり衰弱しています」

 

 

 俺が長物に気を取られている内に、碧里は男の傍に膝をつき、男を診ていた。

 

 

「あ、ああ、そうか。……よし、連れ帰ろう」

 

「……は?」

 

 

 俺の言葉が意外だったのか、碧里は呆けた声を出す。

 

 

「何故です? 救急車を呼べばそれで解決ですよ?」

 

「まぁ、そうなんだけどな。……ただの気まぐれ……じゃダメか?」

 

「貴方はお人好しではありますが、桃香様とは違い聖人君子ではありません。相手が幼い子供や女性、御高齢の方なら兎も角、成人男性を助けようなどとは思わないでしょう? それを考えれば、理由としては弱すぎます」

 

 

 そう言って碧里は「が」と続け、数秒間を空け再び口を開く。

 

 

「考えがあるのでしょう? ここに救急車を呼べない理由も」

 

 

 逸らすことも偽ることも許さないと、海よりも尚濃いその瞳で俺を真っ直ぐ見据える。

 

 

「ああ」

 

「……分かりました。そちらの長物は私が持ちます。宏壱さんは彼をお願いします」

 

「分かった」

 

 

 俺は男の腹を自分の肩に乗せて担ぐ。怪我人だが、大丈夫だろう。男相手に丁重に扱ってやる義理はない。

 

 

「むっ?」

 

「碧里、どうした?」

 

 

 壁に立て掛けられた長物を持ち上げた碧里が驚きの声を上げる。

 

 

「いえ、思ったよりも重かったもので」

 

「重い?」

 

「はい。持ってみますか?」

 

 

 碧里から手渡されたそれは、持ち歩くには少しばかり疲れる代物で、進んで持ち歩こうとは思わない。あくまで一般人なら、な。

 

 

「……この形状」

 

「恐らく西洋剣の類いかと」

 

 

 俺が今持っているのは、多分柄の部分。柄から伸びて幅が広くなっているのは刃の部分、……だと思う。

 弛んだ布で包まれていた所為で、はっきりとした輪郭の分からなかったそれは、手に持つことによって重力に従い垂れ下がり包む物の形を浮き上がらせた。

 

 

「考えるのは後だ。今は帰るぞ」

 

「はい」

 

 

 長物を碧里に渡し帰路につく。

 

 

(話はこいつが目を覚ましてからだな)

 

 

 担いだ男をなるべく揺らさないように歩く。服が血で汚れるのは気にしないことにする。

 

 

「御自分で洗濯してくださいね」

 

「……はい」

 

 

 そうは問屋が卸さないと、碧里に釘を刺された。

 




ちょっと遅くなってしまいました。言い訳はあります。聞いてくれますか?まぁ、断られても勝手に話し(書き)ますが。

自分はPCを持っていないのでスマホで投稿しているのですが、書いてる途中で保存もしていないのに再起動しました。殆ど書き上がっていたので、その脱力感と言ったらもうなかったです。ただ救いなのは途中、店を出る辺りまでは保存をしていたことですね。
以前、数度に渡り保存せずに全消しになったことがありまして、それからは稀に保存しています。それでも、かなりモチベーションは下がったんですけどね。
一度書いたなら……と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、自分は同じ話って書けないんです。赤鬼転生記を全消しして書き直せと言われたら、流れは一緒でも内容は変わりますね。確実に。


今回の話は如何でしたでしょうか?はやての両親が出てくる二次小説を読んだことがないので出してみました。
完璧に捏造ですが、此れからの話に必要になってくるんです。


では、また次回お会いしましょう。
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