リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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一日空けての投稿……今回はかなり筆(指)の進みが良かったです。


第三十二鬼~赤鬼と織斑姉弟と篠ノ之姉妹~

side~宏壱~

 

 男を連れ帰って客間に寝かせた。血に汚れてボロボロになっていた衣服も俺が着替えさせた。当然、そんな状況で碧里とイチャイチャ出来るわけもなく、二人で風呂に入ってそのまま床に就いた。

 夜が明けた今も男は目を覚ます気配がなく、規則正しい呼吸音を部屋に響かせるだけだった。

 

 

「心拍数は安定していましゅ」

 

 

 そう言ったのは、俺の横で男の脈を計っていた魔女っ子帽子をゆらゆらと揺らす雛里だ。

 

 

「そうか」

 

 

 碧里には『蜀伝の書』に戻ってもらって、医療に精通している雛里に出てきてもらっていた。

 

 

「っと時間だ。翠屋に行ってくる」

 

「は、はい、でしゅ」

 

 

 今朝、昼前に翠屋に来て欲しいと士郎さんから電話があった。

 

 

「一応、桃香が帰ってくることになってるし、刃も置いていくからな」

 

 

 それだけを告げて客間を出る。無いとは思うが、あの男が目を覚ました時に敵対行動を取らないとも限らない、だから余裕の出来た桃香を呼び戻し、保険に刃を置いていくことにした。

 

 

「グロウ」

 

 

 そう唱えれば俺の体は光に包まれる。光が晴れた時には、子供じゃなくて大人の姿の俺がいた。

 

 

〈随分慣れてきましたね〉

 

〈魔力の循環もお見事です〉

 

「これだけ頻繁に使えば慣れもするさ」

 

 

 肩を竦めて二人の賛辞を流す。最近は外に出るときはこの姿で動くことが多い。ガキのままでもそこらの犯罪者に負けるつもりはないが、手足が短いとその分動作が遅れ、救える者も救えなくなる。

 

 

「たっだいまー!」

 

 

 玄関から桃香の声が響いた。もう帰ってきたらしい。

 

 

「お帰り、桃香」

 

「お、お帰りなさいましぇっ!」

 

 

 客間を出て玄関に向かう途中の俺と、桃香の声を聞いて慌てて出てきた雛里で迎える。

 

 

「お兄ちゃん、雛里ちゃんただいま!」

 

 

 何が楽しいのか、桃香は満面の笑みを魅せる。暖かな日向のようなその笑みは万人を癒し、魅了する。得も言われぬカリスマを遺憾なく発揮した。(宏壱の身内贔屓が多分に含まれています)

 

 

「早かったな」

 

「うん、お兄ちゃんが出ていくまでに帰ってきたかったから」

 

「向こうはどうだったのでしゅか?」

 

 

 最近、雛里の噛み癖が酷い気がする。

 

 

「うん、えっとね」

 

「話は聞きたいが、もう行かないと遅れちまう」

 

「そっか……もうちょっと早く帰ってくればよかったかな」

 

 

 しょんぼり、という言葉が似合う程肩を落とす桃香に苦笑を漏らす。

 

 

「……桃香」

 

 

 桃香の真正面に立って呼び掛ける。

 

 

「何?…………んむっ!?」

 

 

 顔を上げた桃香の顎を指で上に向かせて、少し膝と腰を折りキスをする。

 

 

「ん……ちゅっ……あん」

 

「ふっん……ん」

 

「あわわわわわわわわわわ!!!??」

 

 

 軽く啄むようなキス、驚いていた桃香は俺を受け入れ、俺の背中に腕を回して抱きついてくる。豊満な膨らみが、俺の胸で潰され形をぐにぐにと変える。柔らかくも弾力があるそれを国宝にしても問題はないはずだ。(実際、過去に蜀で国宝認定をしようとして牢獄で一週間監禁された経験がある。面白がって星、要、蒲公英、桔梗が協力したが土壇場で逃走に成功。逃げ遅れた〔囮にされた〕宏壱だけが捕まり、仕置きを受けた。黒幕は七乃)

 隣でそれを見ていた雛里は、顔を真っ赤にしておろおろと慌てふためく。

 

 

「「……」」

 

 

 どちらからともなく離れた俺達は、数秒間互いを見つめ合っていた。

 

 

「もう行くわ。このままじゃ抑えが利かなくなりそうだ」

 

「……うん」

 

 

 桃香はどこかぽーっとした風に返す。

 

 

「……ん? どうした雛里?」

 

 

 服の裾をクイっと引っ張られる感覚がしてそっちを見れば、雛里が真っ赤な顔で恨めしそうに俺を見上げていた。

 

 

「あわわっ! あ、あにょっ!」

 

「……あ、くすくす」

 

 

 それに気がついた桃香は笑みを溢し、目で俺に訴えかける。

 こういうところは現代人とのズレがあるよな。嫉妬心がない訳じゃないが、緩いと言うか寛容なんだろうな。

 

 

「雛里……」

 

 

 雛里の前で膝立ちになり、雛里の頬を両手で固定する。首筋まで赤く染めた雛里の目はぐるぐると渦を巻き始めていた。

 

 

「あわわっ!……んんっ!」

 

 

 唇が重なった瞬間雛里は目を見開いた。が、直ぐに目を閉じて両腕を俺の首に回しホールドする。一般女性よりも高めの体温が、密着した部分から伝わってくる。

 

 

「ぷあっ……はぁ……はぁ……」

 

「……雛里、大丈夫か?」

 

「ら、らいじょうびゅれひゅ」

 

 

 大丈夫そうじゃないな。

 

 

「桃香、任せた」

 

「うん……気を付けてね?」

 

 

 離れ際に雛里の首に刃を掛け「ああ」とだけ返して靴を履き外へ出る。後ろを振り返れば、桃香が雛里に呼び掛けているところだった。

 

 

「行ってきます」

 

 

 口の中で呟いた言葉は、当然二人に届かず消えた。何となく言いたくなっただけで意味はない。これも感覚の所為だな。昼に近づくに連れ、妙な不快感が腹の底から湧いてくる。今日、デカブツ共が動くのは間違いない。

 

 

 

 

 

 今、俺の眼前で行われているのは、二人の男女による模擬戦。

 

 

「何や、この状況……」

 

 

 思わず出てしまう関西弁。俺は翠屋……ではなく、何故か高町家にある道場にいた。

 

 翠屋に着いた途端に四人の少年少女を紹介された。織斑千冬、その弟の一夏、篠ノ之束、その妹の箒。この前バーベキューの時に話していた四人だ。

 篠ノ之道場からの強化合宿をこのゴールデンウィーク中に行うんだとさ。と言ってもゴールデンウィークももう後半、あと二日で学校だ。彼女達が居るのは昨日、今日、明日の三日間、この三日間をなのはを除いた高町兄妹と鍛練漬けにするらしい。

 で、その一環で、咲を見ている俺が呼ばれたって訳だ。因に、眼鏡少女こと美由希は翠屋の手伝いで、合流は夕方かららしいが。

 

 

「にゃはは、お父さんはいつも唐突ですから」

 

 

 俺の隣りに座って二人の模擬戦を眺めていたなのはが苦笑を漏らし「にゃはは」と笑う。

 

 

「でもビックリしちゃったよ。宏壱君が来るなんて聞いてなかったもん」

 

 

 なのはとは反対側に座った咲が言う。

 

 

「俺も聞いてねぇよ」

 

 

 そう、何も聞かされず、取り合えず翠屋に来て欲しいとだけ伝えられたのだ。

 

 

「二人はあの戦いどっちが勝つと思う?」

 

 

 正座をして真剣に恭也と千冬の攻防を見る一夏と箒に訊く。

 

 

「千冬姉だと思います」

 

「わ、私も!」

 

 

 子供ながらに整った顔立ちで、模擬戦を見るその眼差しは鋭く、真剣みが伝わる。将来良い男になるだろうと予想できる一夏。その目は姉の勝利を信じて疑わない。

 艶やかに光を反射する黒髪を緑のリボンでポニーテールに結い、一夏と同じく真剣な眼差しで模擬戦を見る箒。こちらも良い女になることは間違いない。今は平らな胸も、姉を見れば将来有望だろう。

 

 

「君はどう思う。束」

 

「…………」

 

 

 その姉、紫色の跳ねまくった髪をストレートに伸ばし、頭にはウサギ耳のようなカチューシャ(ピコピコ動いてる上に、ウィンウィンと駆動音が時折鳴っているが)を付け、メイド服と言うか不思議の国のアリスの様な格好をした女性、篠ノ之束に話を振っても反応は返ってこない。彼女は幾ら話を振っても、俺を居ないものとして振る舞う。

 高町兄妹や織斑姉弟とは普通に話すのにな。

 

 

「あ、あの、申し訳ありません。その、姉さんは気難しい人で……」

 

「いや、分かってる」

 

 

 我関せずと自前のノートパソコンを膝に乗せ、カタカタといじり続ける彼女を見る。

 何となくだが、彼女は頭の構造が俺達とは違う気がするのだ。菫、碧里、雛里、朱里、この四人に迫る程の頭脳を兼ね備えているんだろう。

 だから、超人的な力を発揮する高町兄妹や織斑姉弟を受け入れていると見た。咲は術がなくとも強いし、超人的身体能力を発揮する恭也と千冬も同様で、またこの場には居ない士郎さんと美由希もだ。それと、高町家のヒエラルキー頂点の桃子さんもな。

 

 

「でやあああっ!!」

 

 

 勝負に出た千冬が上段から木刀を振り下ろす。こっちにまで響く風切り音は、その込められた力の強さを物語る。

 

 

「しっ!」

 

 

 それに合わせるように振り上げられた恭也の木刀も風切り音響かせ、――ガッ!!――接触、そして……。

 

 

「……私の負けだ」

 

 

 千冬が木刀を落としてそう言う。よく見れば、その手が震えているのが分かる。

 

 

「「……え?」」

 

「おー、流石きょーちゃんだねぇ」

 

 

 一夏、箒は驚きの声を上げ、束は分かっているような言葉を言う。実際、理解してるんだろうな、こいつ自身かなりの強さだ。

 少なくとも恭也、千冬レベルの実力は持っているはずだ。

 

 

「どうしたんだよ千冬姉! まだ一発もっ」

 

「止めとけ、一夏。千冬、暫く腕を休ませろ、使い物にならなくなるぞ」

 

「はい、そうします」

 

 

 千冬自身分かっているんだろう。今、無理をする必要がないことを……。

 

 

「どういうこと、ですか?」

 

「えっとね。あれは――」

 

 

 一夏と箒の疑問を咲が答えるらしい。

 

 

「あの……?」

 

 

 なのはも首を傾げて俺を見上げている。何で向こうで一緒に聞かないんだ。

 なのはは何故か俺に懐いている。バーベキュー以来よく翠屋に行くんだが、そこで俺を見つける度に寄ってきて学校なんかの話をしだす。別に嫌な訳じゃない、ただ何でこんなに懐かれたのか分からないんだ。

 

 

「あー、あれだ蓄積だな」

 

「ちくせき?」

 

「簡単に言えば、恭也との打ち合いで千冬は腕が痺れたんだよ」

 

「???」

 

 

 そう説明してもなのはは首を傾げるだけ。……分からないか。

 

 

「……そうだな」

 

 

 腕を組んで適当な例えを考える。

 

 

「これ……か? なのは」

 

「はい?」

 

「腕を出してみ」

 

「???」

 

 

 困惑しながら細い腕を出す。なのはの手首に人差し指を添えて――ペチ――打つ。所謂シッペってやつだ。

 

 

「にゃっ!?」

 

 

 急な刺激で驚いたのか、なのはは腕を引っ込める。

 

 

「痛くは無かったろ?」

 

 

 かなり加減したからな、今のじゃ豆腐だって崩せないってくらいに。

 

 

「は、はい。でも、ビックリしますよ!」

 

「だな。あとは口頭でも説明できる」

 

 

「もう」と頬を膨らませるなのはの頭を笑いながら撫でてやる。さらさらした髪は柔らかく俺の手を押し返す。次第に膨れていた頬が萎み、笑みへと変わった。

 

 

「っと説明だな」

 

 

 ちょっとした殺気が飛んできて、中断していた説明を再開する。チラリと殺気が飛んできた方を見やれば、壁に凭れていた恭也が居た。

 

 

「……ぁ」

 

 

 なのはの頭から手を離せば、名残惜しそうに声を漏らす。分からなくはない。俺も桃香達に頭を撫でられるのは結構好きだ。心地良いもんな。

 

 

「要は積み重ねれば、どんな物も大きくなる。ってことだ」

 

「積み重ね?」

 

 

 疑問符を頭に浮かべるなのはに「そ」と答えて、どっかの腹黒バスガイドのようにピンと人差し指を立てる。

 

 

「同じところを打ち続ければ、痛みは蓄積、そこで溜まるんだよ」

 

「……」

 

 

 何となく理解できたのか、コクコクと首を縦に振る。

 

 

「ぼんやりでも分かれば十分だ」

 

 

 笑いながら今度は、なのはの頭をぽむぽむと叩く。

 

 

「…………」

 

「……今の説明に不備でもあったか? 束」

 

「……別に」

 

 

 じっとこっちを見ていた束に聞けば、そっぽを向きながらそう返してくる。反応が返ってくるだけましな方だな。

 

 

「よーし、一夏、箒立て。俺が見てやる」

 

「……え?」

 

「二人で、ですか?」

 

 

 二人の疑問には答えず道場の中央へと歩く。

 

 

「いくら俺達が子供だからって舐めすぎじゃないですか?」

 

「木刀も持たないなんて」

 

 

 心外だと、舐めるなと、その眼差しが語る。が、俺も言いたい。

 

 

「ガキ共」

 

 

 状況を見守っていた恭也と千冬は目を見張り、咲は肩を竦めて「あーあ」と漏らし、束はノートパソコンに向けていた視線を俺に合わせ、なのはは一人おろおろしている。

 一夏と箒は硬直して動けないようだ。

 

 

「つべこべ言わずに掛かってこい。どれだけ修練を積もうがガキはガキだ。……粋がるなよ?」

 

「「っ!!」」

 

 

 二人の顔は赤く染まり、怒りからか肩を震わせ手をギュッと握りしめる。

 

 

「どうした、怖くて動けないのか? 偉そうなことを言っても大人は怖いか? 二人で挑んで――「お前、うるさいよ」――……っと!」

 

 

 背後から振り下ろされた木刀を見ずに右手で受け止める。

 

 

「さっきからペチャクチャと……弱いくせに生意気すぎ」

 

「おいおい、誰が弱いって? 少なくともテメェよりはよ」

 

 

 突然の束の行動に呆然となる一夏と箒。恭也と千冬は成り行きを見守ることに徹し、咲は額に手をやっている。

 

 

「やっぱり、妹と親友の弟をバカにされるのは腹が立つか?」

 

「っ!?」

 

 

 驚愕って顔だな。自分の行動を読まれていたことが信じられないらしい。あれだけ溺愛してるのを見れば、誰でも予想できるだろ。

 

 

「あれ? 何この雰囲気」

 

 

 と、そこにこの場にはいないはずの人間の声が響いた。

 

 

「あれ、美由希お姉ちゃん?」

 

 

 なのはが声を上げる。現れたのは高町家次女、高町美由希だ。

 

 

「美由希、どうした?」

 

「どうしたって、もうお昼だよ恭ちゃん」

 

「あ、ホントだ」

 

 

 美由希の言葉に、携帯で時間を確認した咲が声を上げる。

 

 

「んじゃ、飯でも食いに行きますか」

 

「「「「………は?」」」」

 

 

 織斑姉弟、篠ノ之姉妹が揃って気の抜けたような声を上げる。まぁ、束の前にいたのに、今は道場の出入り口で靴を履いてるんだから仕方ないか?

 

 

「めっしめし~♪」

 

 

 鼻唄を歌いながら道場を出る。「待ってよ~」となのはと咲の声が聞こえ、「逃げるなーっ!!」と束の憤怒の叫びが響いた。束の感情を動かした俺はすごく満足だ。<input name="nid" value="42387" type="hidden"><input name="volume" value="36" type="hidden"><input name="mode" value="correct_end" type="hidden">




ちょっと短めですが切ります。

恭也がしたのは、千冬の木刀の芯を狙って打ち続けた……と言うことですね。バットだろうがパイプだろうが芯を当てると腕に来る衝撃、響きが段違いに違います。最初は気にならなくても続ければ大きな影響を与える……そんな話でした。

最後の主人公の挑発に「子供に何言ってんだ」って思われた方、これは一夏と箒にではなく束に対しての言葉です。ご了承ください。自分に無関心な束の気を引いてみたかった……そんな感じだと解釈してください。

では、また次回お会いしましょう。
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