リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

37 / 84
またも早く書き上がりました。何なんでしょうか?この後に凄まじいスランプでも待ってるんでしょうか?


第三十三鬼~赤鬼と誘拐事件・勃発編~

side~宏壱~

 

 カウンター席に座った俺の前にスパゲッティが盛られた皿が出される。

 

 

「本当によく食べるね」

 

 

 士郎さんが苦笑を交えながらそう言う。

 

 

「そうか?普通だぞ」

 

 

 俺が本日五品目のスパゲッティをホークにクルクル巻き付けながら言うと、士郎さんは「営業側としては嬉しいけどね」と苦笑を深める。

 まぁ、普通は俺にとってのもので一般的じゃないのは分かっているが。

 

 

「その姿でなのはと仲良くなれたなら、本当の姿でも良いんじゃないのかい?」

 

「いや、まぁな。でもさ、こっちの俺は強く見えるだろ? 抑止力の役割なんだって」

 

 

 何度か繰り返した遣り取り。ぶっちゃけた話をすれば、意味がないのは分かっているが……。この姿と、子供の姿で交互に会うのも変だし、魔法を知りたいって言われたら断る自信がない。

 

 

「君がそれで良いなら、僕はもうなにも言わないけどね」

 

「七回目」

 

「え?」

 

「なにも言わないって言って言った回数」

 

 

 士郎さんは「あはは、そうだったかな」と後ろ頭を掻きながら厨房に引っ込む。逃げたとも言うな。

 まだいくつか料理を頼んでいるから、それを取りに行ってくれたのかもしんないけど。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 スパゲッティを食べ終えフォークを置く。手持ち無沙汰になり、離れた位置に固まって座っている咲達を見る。

 歳が近いからか自然と咲、なのは、一夏、箒のグループと恭也、千冬、束のグループに分かれて話をしている。

 咲達は、咲となのは、一夏が学校の話で盛り上がり時偶箒が加わる。余りコミュニケーションが得意じゃないんだな、箒は。

 恭也達は束だけが大いに盛り上がり他二人は生返事を返すだけ。ただ、束が箒の話を持ち出すと、競うように恭也と千冬の口も饒舌になり、妹と弟の自慢話をする。

 

 

「加わらないんですか?」

 

「俺が行っても、あの空気を壊すだけだろ」

 

 

 音もなく忍び寄り、声を掛けてきた美由希に平然と返す。

 

 

「うぅ……何で分かったんですか?」

 

「心臓の音を鳴らしすぎだ」

 

「そんなの聞こえるんですか!?」

 

「出来るようになるぞ、お前でも」

 

 

「本当ですか!」と驚く美由希に、「五年間目隠しで生活すればな」と返す。

 

 

「……やったんですか?」

 

「ああ、久しぶりに見る世界は眩しかったぞ。慣らすのに一週間掛かった」

 

「私にはできません……」

 

 

 美由希は肩を落として奥に引っ込んだ。休憩に入ったんだろうな。

 

 

「恭也っ!!」

 

 

 美由希が奥に行って直ぐに店内に慌ただしい女性の声が響いた。

 荒げた息を整えることも、流れる汗を拭うこともせずその女性は店内を見回し、とある一点で視線を止めと脇目も振らず、一直線にそこへ向かう。

 

 

「……はぁっ……はぁっ……た、助けて!」

 

「忍、何があった?」

 

 

 どうやら恭也の知り合いらしい。かなり距離が近いな、彼女か?ただ、彼女は人……か?どうも気配が違うな。

 

 

「忍お嬢様」

 

 

 店の出入口からもう一人、メイド服姿の女性が現れる。表情が乏しく無表情のように見えるが、何処と無く焦っているように見える。彼女からは人の気配を感じない。

 

 

「すずかがっ! すずかがっ!」

 

「あ、あの! すずかちゃんがどうかしたんですか!?」

 

 

 すずか……確かなのはが仲良くなった女の子だったか? つまり、彼女はそのすずかの姉ってことか。確か姓は月村だったな。ここらでは有名な資産家だったはずだ。有力者の息女だけに身代金目当てで誘拐、何てことも有り得る、か。

 黙って成り行きを見守っていると、恭也と千冬、束と咲が立ち上がり、何事かと置くから出てきた士郎さんと美由希も忍嬢とメイドさんと一緒に出ていった。出て行く際に士郎さんは傍目じゃ分からない程度に、数人の男に視線をやり最後に俺を見た。

 

 

《あの面子を相手にするなんてな、犯人には御愁傷様としか言えないな》

 

《同感です》

 

 

 念話で無限と話していると……。

 

 

「貴方は行かないんですか?」

 

 

 箒が鋭い視線を俺に向けて言ってくる。

 

 

「あの面子だぞ。俺が必要だと思うか?」

 

「心配じゃないのかよ!」

 

 

 店内に一夏の怒声が響く。俺が動かないことがそんなに不満か? 敬語が抜けるほど。

 

 

「あんただって戦う力があるんだろ! なのにっ――」

 

 

 一夏にそれ以上言わさず頭を乱暴に押さえる。

 

 

「行ってもただの戦力過多で終わるだけだ。それに、下手に全員で動けば相手を刺激しかねない。すずか嬢の命に関わるぞ」

 

「「……ぁ」」

 

「もっと頭を使え、ガキ共」

 

 

 気の抜けた声を出す一夏と箒の頭を乱雑に撫でる。

 

 

「それと……テメェ、懐に入ってるもんここで抜いてみろ。その腕、二度と使えなくしてやるからな」

 

 

 背後の席でそっと立ち上がった大柄な男にそう言い放つ。

 妙な緊迫感と微量の殺気を放ち続けていた奴で、店内に入ってきた瞬間から俺達(・・)がマークしていた男の一人(・・)だ。

 

 

「ボブっ!!」

 

 

 立った男が叫ぶと別の席に座っていた黒人の男が、横の席の女子高生の首に腕を回し銃を突きつける。

 

 

「きゃっ!?」

 

「Fr――「おせぇっ!」――eeze!!――ガッ!?」

 

 

 黒人が立ち上がった頃には、既に俺は近くの椅子を踏みつけ黒人に飛び掛かっていた。

 空中で体を捻り足を振り下ろす。寸分違わず俺の足首は黒人の首筋を打ち据える。

 

 

「グウゥッ!」

 

 

 黒人は蹌踉めきながらも倒れない。だが、首を押さえ女子高生を離した。

 

 

「せあっ!」

 

「ゴフッ!!」

 

 

 着地と同時に左足を軸にして、右足で黒人を蹴り飛ばす。

 

 

「伏せてろ」

 

「は、はい」

 

 

 顔を赤く染めて俺を見ていた女子高生に、声を掛けて床に伏せさせる。他の客にも聞こえたようで、数人の男を残して(一夏達含め)全員床に伏せた。

 

 

(四人か……人質を取るつもりだったか?それとも足止め?……それは無いか。やるならアイツ等が出ていく前に動いてるな)

 

「考え事かっ!」

 

 

 日本人の男が懐に手を突っ込み銃を取り出す。客の何人かが息を飲む音が聞こえた。

 

 

「くたばれっ!!」

 

 

 ――バンッ!バンッ!バンッ!――三度の銃声、起動は全部頭部狙い。かなりの精密射撃だな。それ故に、躱し易い。

 

 

「きゃああああぁぁぁっ!!!」

 

 

 誰かの悲鳴が響く。――パス! パス! パス!――銃弾は全て俺の後ろの壁に当たり穴を開ける。首を傾げるだけで躱す。

 

 

「なっ!?」

 

「驚いてる暇はねぇ、ぞっ!」

 

 

 瞬時に男の目の前に接近し、伸ばされた男の二の腕を両拳で挟むように打ち付ける。ゴリゴリッと音が響いた。骨が砕けたのだ。

 

 

「ぎあああああああっ!!」

 

「うるせぇ」

 

 

 踞り腕を抱えて悲鳴を上げる男の首に手刀を落とし意識を刈り取る。

 

 

「がっ!」

 

「言ったろ。その腕、使い物にならなくするって」

 

 

 気を失った男を見下ろして言う。恐らくもう治らないだろう。骨を粉々にしたからな。

 

 

「ヘイヤアアアァァァッッ!!」

 

 

 白人の大男がバッグからサブマシンガンを取り出し、俺に向けて構える。

 

 

「そこまでするかっ!」

 

 

 発砲する前に一瞬で男の前へ行き、銃身を掴んで銃口を上に向ける。二発、三発、四発、と射ち出された銃弾は蛍光灯を砕いた。

 店内に客の悲鳴と銃声が響き渡る。

 

 

「おらあっ!」

 

「グッ!!」

 

 

 膝蹴りを男の腹に打ち込んで、衝撃で倒れてきた顔にサブマシンガンをぶつける。鼻血を吹き出して倒れ行く白人に追撃を掛ける為、拳を顔面目掛けて振り下ろす。

 

 

「らあっ!!」

 

「グガッ!」

 

「残りはテメェらだ」

 

 

 白目を剥いて倒れた白人を放置して残りの外国人を見る。ナイフを抜き近接で攻めてくるらしい。果物ナイフとかカッターナイフとかではなく、刀身の幅が広く長さも20cm以上あるサバイバルナイフだ。

 それをクルクルと掌で回転させながらゆっくりと近付いてくる。丁度俺を挟んだ感じだ。

 

 

「ヤアッ!」

 

「ふっ」

 

 

 間合いに入った左側の男が横凪ぎにナイフを振るう。それを男の手首を肘で上に弾くことで防ぐ。

 

 

「ハッ!」

 

 

 それを隙だと判断した右側の男は下から上へとナイフを切り上げる。それを半身になることで躱し、左足踵に椅子を引っ掛けその場で右足を軸に回転して椅子を引っ掛けた足を上げ、弾いた腕をナイフを逆手持ちにして振り下ろそうとした男の側頭部に当てる。

 

 

「っと、らあっ!」

 

「グアッ!?」

 

 

 椅子が砕け、男は頭から血を流しながらも踏ん張って耐える。左足が床に付いた瞬間、左足をバネにして跳び右足を蹴り下ろす。

 

 

「うらあっ!!」

 

「ゴァッ!!」

 

 

 さっきと同じ位置に蹴りを喰らった男も白人同様白目を剥き、テーブルを巻き込んで倒れる。

 

 

「さて、後ひとーり」

 

「ッ!?」

 

 

 男は表情を引き攣らせナイフを自分の首に宛がい――っ!?

 

 

「させるかっ!」

 

 

 近くの机の上に乗っていたフォークを取り、投げる。矢のように飛んだフォークは、男が首を掻っ切るよりも速くナイフを持つ手に刺さる。

 

 

「グッ!? アアアアッ!!」

 

 

 男はナイフを落として悲鳴を上げて手を抱える。滴り出る血が床に赤黒い斑点を作る。

 男に近付き右足を高く上げ……。

 

 

「寝てろ」

 

 

 ……下ろす。

 

 

「ガッ!」

 

 

 脳天に強烈な踵落しを喰らった男は意識を失い倒れた。

 

 

「……ふぅ」

 

「終わった……のか?」

 

 

 ひとつ息を吐いて、転がった椅子を起こしてそこに座る。すると、客達がのそのそと起き始めた。

 

 

「ああ」

 

 

 短く答え、近くにあったテーブルのカップを取り飲む。ブラックコーヒーだった。

 

 

「すげぇ、映画みたいだった!」

 

「ホントだよな! 銃がババンってさ!」

 

「怖かったー」

 

「リカ、大丈夫?」

 

 

 口々に安堵の声と、興奮した声が店内に響く。その中で俺に近付いてくる複数の影がある。

 

 

「あ、あの! 先程はありがとうございました!!」

 

 

 黒人に一瞬人質に取られた女子高生だ。横には友達だろう女の子が一人。

 

 

「俺が対処できたからしたんだよ。礼を言われるようなものじゃない」

 

 

 誰のものか分からないコーヒーを飲みながら答える。

 

 

「えと、あの、それで」

 

「ん?」

 

「その、あうぅぅ」

 

 

 何やらモゴモゴと言う女子高生に友達が「頑張れみなみん!」とエールを送る。みなみん……この子の渾名か?まさか、本名じゃないだろう。

 そのエールに後押しされるように「よし!」と決意を秘めた目で握り拳を作る。

 

 

「お名前を聞いてもいい、ですか?」

 

 

 そんな態度とは裏腹に遠慮がちに、俺の顔色を窺うように聞いてくる。名前を聞くならまず自分が名乗れ、前世ではよく聞いた言葉だが、今の時代これをやっても相手を萎縮させるだけだ。

 

 

「山口宏壱だ」

 

「山口……宏壱、さん」

 

 

 噛み締めるように呟いた女子高生の頬は赤く染まっていた。

 端から見れば彼女が俺に惚れているように見えるだろうが、一気に非日常に放り込まれ、人質になるという恐怖心、そしてそこを救った俺……一種の吊り橋効果ってやつだな。

 

 

「ほら、みなみん! 名前、名前」

 

「あ!そっか、まだ私名乗ってない!」

 

 

 二人の遣り取りを眺めていると、ここより少し離れた位置に力の流動を感じた。

 

 

「これは……」

 

 

 今までにない大きさの力を感じる。その近くに咲の魔力反応も感知した。

 

 

「まずい……か?」

 

「あの、私の名前は……!」

 

「悪い時間がないんだ」

 

「……え?」

 

 

 首を傾げる女子高生に悪いと思いながらも、俺は桃子さんの方へと顔を向ける。

 桃子さんは店員と協力して、すずか嬢誘拐の共犯者と思われる連中を縄で締め上げていて、そこには一夏に箒、なのはの姿もあった。

 

 

「桃子さん」

 

「宏壱君、お疲れさま。怪我をした人はいないから安心して」

 

 

 近付きながら声を掛けると、桃子さんはそう労ってくれる。

 

 

「凄かったです! 動きも速くて、俺全然見えませんでした!」

 

「ああ、ありがとう。鍛えればあれくらいお前らでも出来るようになるさ」

 

「本当ですか!」

 

「生半可な鍛え方じゃ無理だけどな」

 

 

 興奮冷めやらぬ、といった風に詰め寄ってきた一夏と箒の頭を撫でる。

 

 

「精進しろ、それがいつか必ず実を結ぶ」

 

「「はい!」」

 

 

 怯えの色は見られないな。ここまで懐いてくれるのは、素直に嬉しく思える。

 

 

「あの……宏壱さんにお怪我はありませんか?」

 

「大丈夫だ。心配してくれてありがとう、なのは」

 

「……」

 

 

 なのはは、俺の周りを一周して嘘がないか確かめる。

 

 

「ホントだって」

 

 

 二周目に入ろうとしたなのはの頭を押さえる。

 

 

「にゃっ!?」

 

 

 猫のような悲鳴を上げたなのはに笑みが溢れ、そのまま頭を撫でる。

 

 

「にゃ~~」

 

 

 なのはは気持ちよさげに目を細め喉を鳴らす。

 

 

「宏壱君? 何か用があったんじゃないの?」

 

「そうだった。なのはが可愛すぎて忘れてた。俺も士郎さん達を追うことにした」

 

 

 それだけを告げて踵を返し、出入り口へと向かう。返答は聞かない、これは決定事項だからな。

 

 

「俺も行きます!」

 

「ダメだ」

 

 

 一夏の提案を考える間もなく却下する。

 

 

「でも人数は多い方が……!」

 

「はぁ……分からないか? お前が来たところで役に立たないって言ってるんだよ」

 

 

「足手まといの命を守る身にもなってみろ」それだけを告げて、俺は翠屋を出た。サイレンがこっちに近づいてくる。誰かが通報でもしたんだろう。

 

 

《無限、少し急ぐぞ》

 

《御意》

 

 

 体中に魔力を循環させ、咲の魔力反応を頼りに駆け出す。一歩目よりも二歩目を速く、二歩目よりも三歩目を速く、三歩目よりも四歩目を速く、四歩目よりも五歩目、とどんどん速度を上げていく。それが二十歩目に達する頃には時速50km差し掛かっていた。

 

 

「上から行った方が速いな」

 

〈同意です〉

 

 

 無限と意見が一致したところで電柱を駆け上る。障害物の無い上の方が速いからな。

 電柱の頂点まで来て跳び、近くのビルに着地してまた駆け出し、今度は隣のビルへと跳ぶ。

 

 

「まずいな、力の反応が咲達に近いぞ。これは接触したか?」

 

 

 感じていた力が咲の魔力反応と極めて近い位置に居るのを感じて、更に速度を上げる。

 ビルを跳び、電柱を跳び、を幾度も繰り返すと街並みは消え山道が見えてくる。

 電柱から跳んで、道路に着地そしてまた駆け出す。道沿いに……ではなく、木の枝に飛び乗り別の木の枝に跳び移る。

 

 

(ん? 妙だ。力の流動が一点に収縮している? 一体何が起きている? 何か別の存在が?……今は考えても無駄か、その場に行けば分かることだ)

 

 

 考え込みそうになるが、無理矢理思考を中断する。

 足は止められない、あれは余りにも危険すぎる。咲の力量、と言うよりも実戦への心構えだな。あいつは優しいからな、殺せはしないだろう。士郎さんや恭也、美由希、千冬は手段がないし、忍嬢は分からん。身体能力が高そうではあるが、戦闘経験は少ないだろう。胆は据わってそうだがな。あのメイドさんは恐らく移動役で中まで突入はしないと思う。

 唯一分からないのは束だ。天才ってやつは人の常識を打ち破ってくる。ただ、足止めか、変な気を引くかして真っ先に殺されそうだけどな。

 

 

〈見えました〉

 

「ああ、あの倉庫だな」

 

 

 つらつらと考えている内に、俺達の視線の先に寂れた倉庫が見えてきた。山の中腹に建てられた倉庫で、どこかの会社が物置場所に使っていたのか、鉄製のコンテナが見える。高さ2m、長さ5m結構な大きさだ。それが二段、三段と積み重なれている。

 ただ、俺達が来たのは裏側のようで、窓は見えるが出入り口のようなものは見当たらない。

 

 

「問題ないな」

 

〈はい、このまま突っ込みましょう〉

 

 

 木々を抜け、剥き出しの地面に着地、そして

 一つの窓に向けて駆け出す。

 その窓の向こう側には複数の気配と不気味な力、咲の魔力を感じる。

 山に入った段階で、何時も感じる力に異変が起きたのは気づいていた。余りにも大きすぎる力だ。咲では対処できない。

 顔を腕で守り――ガシャアアァァンッ!!――窓ガラスを割って中に突入する。

 

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

――グオオオォォォッ!!

 

 

 俺が中に飛び込むと、複数の息を飲む音が聞こえ、座り込んだ束の背中が見えた。そして、その束に迫る人形の怪物。

 新雪のように白い服を纏い、半分に割れた仮面を付け、胸にはデカブツ同様大きな風穴が空いていた。

 

 

「剃っ!」

 

 

 剃で束の横を通り迫る怪物に接近……。

 

 

「せあっ!」

 

 

 ……そのまま横っ腹に魔力を纏わせた蹴りを入れぶっ飛ばす。

 

 

――グゥオッ!!?

 

 

 怪物は吹き飛びその先にある棚に衝突、棚を巻き込んで埃で見えなくなる。だが、これで終わるはずはない。追撃を掛けるぞ。

 

 

「雷神槍っ!!」

 

 

 左手に雷の槍が生まれ、放つ。――バリバリバリッ!!――と稲光を瞬かせ激しくスパークする。

 

 

「無限、バトルモード。バリアジャケット展開だ」

 

〈御意〉

 

 

 魔力の供給量が増し、体が軽くなる。それと同時に体が稲妻に包まれた。

 一秒足らずで右腕を横凪ぎに振るえば、稲妻は払われバリアジャケットを装着した俺が立っている。

 状況確認のために周囲を見渡せば、機械の部品のようなものが散乱している。青みがかった長い黒髪にカチューシャを止めた泣きじゃくる女の子、その女の子の傍に咲、恭也、忍嬢が居て、女の子を支えるように周りを固めていた。恐らくあの子がすずか嬢だろう。特に衣服に乱れはなく、こうして見た感じでは怪我もなさそうだ。

 そこから少し離れて、山積みになった黒服の男達の傍に木刀を構え唖然と俺を見る千冬。

 外へと繋がる出入り口には小太刀を構えた士郎さんと美由希。美由希は何やら興奮して士郎さんに話し掛けている。士郎さんは苦笑いを漏らしているが、俺と目が合うと「ありがとう」と口を動かした。

 俺の後ろには当然座り込んだ束……だが、なんか目がキラキラしてらっしゃる!?

 さっきまであんなに無関心だったのに!? すげぇ見てんだけど! 顔赤いし! お・ま・え・も・か!

 そんな乙女じゃないと思ってたのに!

 

 

〈寧ろ、乙女だからこそあんな服を着ているのでは?〉

 

「確かに!」

 

 

 いや、落ち着け俺。キャラが崩れてるぞ。COOLになれ、COOLに。

 

 

「ふぅ……取り合えず全員話は後だ。外に出るぞ」

 

 

 息を吐き気分を落ち着かせて束を見ないように全員に告げ踵を返し外へ向かう……。

 

 

「無限」

 

〈御意〉

 

 

 左手に付けていたグローブが刀に姿を変え、それを確りと握り切り上げ、横凪ぎに振り、切り下げる。その動作で俺に飛ばされた三つの光弾を切り裂く。

 

 

――連れないじゃないですかぁ。やっと出会えたと言うのにぃ。

 

 

 頭に直接声が響く。魂の底から嫌悪感を煽る声だ。それにこの視線。肌に粘り着く様な不快感が俺の神経を逆撫でする。

 

 

「なるほど」

 

 

 体を敵に向け見据える。

 

 

「ワレか」

 

「こーくん?」

 

 

 束よ、それは俺か? 急にどうしたお前。いや今は……。

 視線を咲に向け外に行くように伝える。念話で言わなかったのは、口調が荒れるからだ。今こうして思考する間も抑えるのに必死だ。

 束を連れて咲達は、外に向かうが途中で立ち止まりこっちを向いた。

 

 

《宏壱君、束さんがここで見たいって》

 

《はぁ? アホ抜かせ! 死にたいんか!》

 

《ご、ごめんなさい ! でも、私も見たいなって》

 

「お前まで何()うとるんじゃあっ!!」

 

 

 思わず声に出た俺の怒声は、大気を揺らし倉庫の窓ガラス、蛍光灯、全てが割れる。

 咲がビクッと肩を震わせたのが見えたが、一度口に出せば止まらない。それが怒りって感情だ。

 

 

「そのすずか嬢はどないすんねん! ええ? 怖い思いして、尚もここに居させる訳にはいかんやろうが!」

 

「でも、勉強のために!」

 

 

 震える肩を必死に抑え、自分の言い分を俺に伝えようとする。

 

 

「何が勉強や!んなもん――「実戦の空気を味あわないと、いざっていう時に動けないよ!」――……」

 

 

 ここまで考えていたのかと、感心と驚きと妙な嬉しさが込み上げてくる。

 イラつく男を前にした段階で口数を減らした時の念話だった。タイミングが悪く、八つ当たりになってしまったんだな。反省だ。抑えきれないのが怒りだが、抑えなきゃいけないのもまた怒りだ。

 

 

「ふぅ……――「あ、あの!」――……ん?」

 

 

 息を吐き、気分を落ち着けていると、聞き慣れない声が耳朶に届く。

 

 

「私からもお願いします!」

 

「すずかちゃん」

 

「僕からも頼めないかな? 危険になったら離れるから」

 

「士郎お父さん」

 

「俺からも頼む。寧ろ俺も見たい、貴方がどんな戦いをしているのか」

 

「恭也兄さん」

 

「はい、はーい。束さんも束さんもこーくんの戦いを――「お前は黙っていろ」――ふぐっむぐー!」

 

 

 手を上げて騒ぎ始めた束の口を千冬が押さえて黙らせる。

 

 

「束さん、千冬さん……」

 

「私は関係無いだろう!?」

 

 

 ったく、緊張感の欠片もないな。

 

 

「……好きにしろ」

 

「宏壱さんってツンデレなんですねー」

 

「しっ、美由希ちゃんそれは男の人には言っちゃダメよ」

 

 

 もう好きにしてくれ、怒りも吹き飛んだぞ。

 

 

――茶番は終わりですかぁ?

 

「ああ、咲のお陰で頭も冷えた。宣言通り、テメェをぶち殺してやるよ」

 

 

 無限を構え魔力を循環させる。頭は冷えたが、戦闘意欲は高まっていくばかりだ。




最近思うんです。戦闘シーン多くね?って。

この作品、3分の1は戦闘シーンなんじゃないでしょうか。

まぁ、それは置いておいて、すずかちゃん誘拐事件でした。これまた定番ですね。二次創作ではよくある話です。
最初ははぐれ神父ではなく、悪魔が眷属を求めてって話でした。でも、別に悪魔側アンチをしたい訳でもないので、こういう形にしました。
この場面で束に宏壱への興味を持たせる。束を出すと決めた時から構想を練っていたので、筆(指)が進む理由はそれもあるのかもしれません。
大輝の能力は何がいいか……と考えているときに「BLEACH」が浮かんできて、この場面に使えるんじゃないか?と、これのためだけに彼に「BLEACH」の力を与えたと言っても過言ではありません。

では、次回お会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。