リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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今回は何だか微妙な仕上がりになりました。


第三十四鬼~赤鬼と誘拐事件・救出編~

side~三者視点~

 

 時は、宏壱が突入する前まで遡る。

 

 廃倉庫の駐車区域には三台の車が停められている。すべて重厚な装甲車で如何にもな雰囲気を放っていた。

 そこに、一台の白塗りのワゴン車が入ってくる。倉庫よりも離れた位置に止められたそのワゴン車を、倉庫の出入り口で見張りをしていた三人の男が警戒して手に持つサブマシンガンを構える。

 ガサッと男達の側面、左側30mで好き放題に生い茂る草が揺れた。男達がそれに反応するよりも速く、そこから小さな影が飛び出す。

 小さな影は五足で男達との距離を潰し、一番近くに居た男に拳を放つ。

 

 

「しっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 放たれた拳は男の鳩尾に打ち据えられ、反対側の藪まで吹き飛ばした。

 

 

「「っ!?」」

 

 

 訓練された彼らの判断は速く男達はナイフを抜く。だが、敵は目の前の小さな襲撃者だけではない。

 男達の背後から音もなく現れた眼鏡の少女が、己が持つ小太刀の峰で二人の男の首を打つ。

 

 

「さすが美由希姉さん」

 

「いやいやいや、咲も相当な速さだったよ」

 

 

 小さな襲撃者こと高町咲は、自分でも察知できないほどに気配を薄くして近づいた眼鏡の少女を褒め称え、眼鏡の少女こと高町美由希は、自分よりも遥かに速く敵陣まで突っ込んだ咲を誉める。

 

 

「二人とも気を抜くなよ。ここは既に敵地だ」

 

 

 そう声を掛けたのは高町恭也。彼の腰には、二本の小太刀が鞘に納められた状態で腰紐に刺さっている。

 その恭也の後ろから高町士郎、恭也の彼女でもある月村忍、強化合宿の名目で海鳴市に来ている織斑千冬、篠ノ之束が歩いてくる。

 白塗りのワゴン車の側には、月村家メイド長・ノエル=K=エーアリヒカイト、その妹のメイド服を着た少女、ファリン=K=エーアリヒカイトがいた。姉とは違い普段は活発で天真爛漫で忍の妹、月村すずかとは友人のような間柄だ。今はそれが鳴りを潜め、沈痛な表情で肩を落としている。

 すずかが誘拐されたことの責任を感じているのだ。

 すずかは習い事の帰りに同じ習い事をしていたこの春仲良くなったアリサ・バニングスと別れた後、ファリンと一緒に帰る予定だったのだが、ファリンが着くまでに少し間ができた。その間を利用されたのだ。

 翠屋襲撃、すずかの帰宅ルート、ファリンが着くまでの間、入念な計画設定、リサーチは完璧だったと言えよう。惜しむらくは宏壱がその場に居たことであろう。当然、士郎や恭也、千冬、束、咲も男達の放つ異様な雰囲気に気づいてはいたため、宏壱が居なかったとしてもこちらに割く戦力が減るだけで、結果はそれほど変わらなかっただろうが。

 

 彼らがこうして廃倉庫に襲撃を掛けたのは、ここに月村すずかが捕らわれているからだ。

 情報源はすずかの持つ携帯電話。GPSの付けられたそれは携帯電話と連携していない独自のもので、すずかの姉である忍がいざという時のために作ったもの。たとえ携帯電話の電源を切ったとしてもそのGPSは稼働し続ける。それを追って、彼らはここまでこられたのだった。

 

 

「急ごう。すずかちゃんの身が心配だ」

 

 

 士郎の言に従い恭也達は重厚な鉄の扉へと向かう。

 

 

「士郎お父さん、私は上から行くよ」

 

「分かった。気を付けるんだよ」

 

「うん!」

 

 

 先行した咲は、駆け足のまま倉庫の壁に足をつけ、僅かな窪みに指を引っ掻けて軽々と上っていく。軈て咲は開いている窓から静かに中に入っていった。

 

 

「……咲ちゃんって凄いのね」

 

 

 それを見て驚くのは忍だ。彼女は咲がここに居ることに疑問を持っていた。鍛えてると言ってもまだ9歳だ。一般の子供よりは強い程度の認識だった。だが、その小さな体で30mもの距離を五歩で潰し、大の男を一発の拳打で反対側の藪、約50m先まで吹き飛ばしてみせた。彼女の目を以ってしても、その姿を捉えるのは難しかった。男からしてみれば、気付けば吹き飛んでいたようなものだろう。

 

 

「師匠が良いからね」

 

「士郎さんですか?」

 

 

 尤もな疑問だろう。恭也を鍛えたのは士郎だ。恭也自身の努力も然ることながら、士郎の指導者としての能力が優れていたのも、恭也がここまでの実力を得られた一因であることは間違いない。

 

 

「違うよ」

 

「じゃあ――「話している時間はないぞ」――……はーい」

 

 

 二人の話が盛り上がりそうなところで、恭也が割って入る。

 好奇心旺盛な忍はまだ聞きたそうだったが、欲望を抑え妹の救出に集中することにした。

 

 

 

 

 

 ところ変わって倉庫内。そこには30人の男達と両腕と両足をロープで縛られ口もガムテープで塞がれた少女がいた。

 

 

「しっかし、こんなガキ攫ってどうしようってんです?」

 

 

 男の内の一人が灰色の髪の大男に聞く。

 

 

「お前達は黙って言われた通りの事をすればいい」

 

 

 そう返したのは司祭服を着た男だ。マキア・セルバンとは違いその顔は厳つく、体つきも大きい。

 コンボ・シュラーゲ。それがこの男の名である。悪魔祓いと呼ばれる彼は、これまで多くの悪魔を祓ってきた。しかし、その行動はいき過ぎており、悪魔と親密な関係にある者、事情を知る者、知らぬ者問わず手に掛ける狂人であった。

 

 

「んー!」

 

 

 少女、月村すずかはポロポロと涙を流し呻き声を上げるしかない。

 

 

「化け物め。せいぜい可愛がってもらうんだな、貴様の次は貴様の姉だ。そして、貴様を友達などと巫山戯たことを言う、お友達とやらも同じ目に遭わせて殺してやる。貴様らのような化け物と交わるなど、俺はごめんだがな」

 

 

 吐き捨てるようにコンボ・シュラーゲは言うと、その場から離れた位置で、しかしそれがよく見える場所で、折り畳み式の簡易椅子を開いて座った。

 

 

「ってことだ嬢ちゃんわりぃな。なーにすぐ気持ち良くなるさ」

 

「そうだぜ。俺たちゃこう見えて何人もの女を相手にしてんだ」

 

「薬漬けだけどな!」

 

 

「ひゃははは」と男達の下品な笑い声が響く。

 

 

「んっんっん」

 

 

 すずかは這って必死に逃げる。30人の内5人の男が下卑た笑いを上げながら、ゆっくりと獲物を追う。

 そしてとうとう逃げ場がなくなった。すずかは倉庫の端まで来たのだ。それは、この倉庫の出入り口とは逆の場所。出入りするには窓を使うしかない。だが、両手足を縛られた状態ではそれも叶わなかった。

 

 

「ひひひ、逃げ場がなくなったねー」

 

「残念でしたー、くくっ」

 

「………」

 

 

 そんな嗤い声を上げる男達を、見たくないとすずかは天を仰いだ。見えるのは天井を支える鉄筋、そしてその上を速く駆ける何かだ。

 

 

「――――っ!!」

 

 

 声が聞こえた気がした。男達は距離を詰めようと近付くだけで気付かない。

 

 

「ほおら手がとどぶっ!?」

 

 

 すずかに最も近付き手を伸ばそうとした男が、突然吹き飛んだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 代わりにそこに居たのは、ゆっくり息を吐きながら掌底の残心を解いた咲だ。

 

 

『っ!?』

 

 

 男達の息を呑む音が響く。だが、驚いたのはすずかも同じだった。

 すずかは彼女を知っている。高町なのはの姉で学校の先輩である。なのはと友達になってからは、一緒に登校しているし、時間が合えば下校も一緒の時がある。優しくおっとりしている先輩。それがすずかの認識だった。

 だが、今目の前にいる彼女はどうだろうか? キッと男達を見据え、その背にすずかを守るように立つその姿はまるで女騎士のようだ。

 

 

「大丈夫。私達が来たから、すずかちゃんに手出しはさせないよ」

 

 

 すずかを振り返って口を止めているガムテープを剥がしながら、咲は安心させるように言った。

 

 

「咲……さん?」

 

 

 すずかの声に一度笑みを見せ、咲は再び男達に向かい合う。

 

 

「っ! 何処から現れた! このガキっ!?」

 

「そんな話はどうでもいいです」

 

 

 普段の優しげな声音から色が抜け落ちたように冷たい声だった。守られているすずかでさえ背筋に冷たい何かを感じた。それが汗だと分かったのは、咲が男の一人を殴り飛ばした時だった。

 

 

「問題は、あなた達が私の妹の友達を泣かせた。それだけ、です」

 

 

 咲はそう言い終わると男達を薙ぎ倒していく。決してすずかの傍を離れることなく、向かってくる男を確実に対処する。

 

 

「おい! 銃を使えっ!」

 

 

 6人目の男が倒れたところでコンボ・シュラーゲが声を荒らげ指示を出す。男達は、たった一人の少女に翻弄されたことによって気が動転して銃の事を失念していたらしい。

 

 

「……これは……まずい、かな」

 

 

 数十人の男達が自分とすずかに銃を向けているという状況に、咲の頬を冷や汗が伝う。

 

 

「咲さん」

 

 

 すずかは弱々しい声ではなく、はっきりとした声で咲を呼ぶ。

 

 

「逃げて、下さい」

 

 

 ピクッと咲の肩が揺れる。正面にいる男達は、顔色を青褪めさせその場に釘付けになった。

 

 

「咲さん一人なら――「すずかちゃん」――っ!?」

 

 

 静かにすずかを呼ぶ声が響く。小さな声で、人混みの喧騒の中なら簡単に掻き消されるだろう声量。だが、聞くものを震え上がらせるには十分な怒気が含まれていた。

 

 

「それ以上言ったら、私も本気で怒るよ」

 

「……は、い」

 

 

 すずかにはそう返すしかなかった。自分が巻き込んだ。なぜ誘拐されたかも分かる。だから、自分の所為で友達から大切なお姉さんを奪いたくなかった。そんな思いがあっての「一人だけでも」だったが、それを許せるほど咲は従順ではないし、聞き分けも良くはない。何より彼女は……一人ではない。

 

 

「「うちの娘に手を出さないでもらえるかな?/俺の妹に手を出すな」」

 

 

 突如男達の中心で――ゴウッ!!――と突風が吹き荒れた。その爆心地とも言える中心付近にいた男十数人が弾き飛ばされる。

 

 

「すずかっ!」

 

 

 男達を弾き飛ばした二人、士郎と恭也の間を抜けて忍がすずかに駆け寄る。

 

 

「……お姉……ちゃん」

 

「怪我はない? 何処か痛いところとか……」

 

「大丈夫だよ。咲さんが、助けてくれたから」

 

 

 すずかがそう言うも、忍は目尻に涙を浮かべてペタペタと触れて確かめる。

 

 

「よかった」

 

「心配かけて、ごめんなさい」

 

 

「いいのよ」と忍はすずかの両手足を縛るロープを懐から取り出したナイフで切る。それは、一応の護身用にとノエルに渡された物だった。

 

 

「よかったよかった」

 

 

 と頷く束を見て、千冬は溜め息をつく。長い付き合いの千冬でさえ束の考えは読めない。彼女の他人に対する態度は無関心、無干渉だ。宏壱に対するものが良い例だろう。宏壱は一夏と箒を挑発することで、束の気を引いた。それが、怒りという感情だったとしても関心を持ち干渉してまで行動を起こさせたのだ。この段階で千冬は、既に宏壱を普通ではないと認識している。

 

 

(何故だ? 何故お前は月村の妹救出に乗り出した)

 

「うーん? どうしたの、ちーちゃん?」

 

「いや、何でもない。私達も片付けるぞ」

 

 

 考えても無駄だと断じて千冬は木刀を手に駆け出す。

 

 

「はい、はーい」

 

 

 そこからは早いもので。残った20人の男達も瞬く間に伸されていき、山のように積み上げられていった。

 

 

「さて、もう貴方だけですよ」

 

 

 咲は油断せず、椅子に座って部下が倒されていくのを眺めていたコンボ・シュラーゲを見据える。

 

 

「ふむ、よくやるものだな。そんな化け物相手に」

 

「何を言って……?」

 

 

 コンボ・シュラーゲの言った意味を理解できないと、咲は首を傾げる。千冬も同様で、何かを理解したと「なるほど」と呟く士郎と「そっち側か」と呟く恭也。ニマニマと笑みを浮かべる束と顔を青褪めさせるすずか。そんなすずかを抱き寄せる忍。

 反応はそれぞれだが、この場に事を理解していない者が居ることに満足しコンボ・シュラーゲは立ち上がる。

 

 

「月村家は化け物の血筋だ。と言ったんだ」

 

「貴様は何を言っている?」

 

 

 問うのは千冬だ。眉間に皺を寄せ不快そうにコンボ・シュラーゲを見る。

 

 

「この世にはな、存在してはならない忌むべき者共が居るのだ」

 

「それとすずかちゃんがどう繋がるんですか? 出鱈目を――「まぁ、聞け小娘」――……」

 

 

 咲の言葉を遮りコンボ・シュラーゲは手を大きく広げた。

 

 

「この世には神が実在する。主は我ら人を護り導いてくださるのだ。だが、悪しき者共がそれを邪魔する! 人を惑わし、貶め、死へと誘う悪しき者共がっ! 私はこの街から、それを消してやると言っているのだよ!」

 

 

 コンボ・シュラーゲが手を翳すと掌から炎が生まれた。

 

 

「これは主から我らへ与え給うた悪魔に対抗する力『聖なる炎(セイグリット・フレイム)』。格の低い『神器』だが魔の属性を持つ者共には効果覿面だ」

 

 

 それを証明するかのように、炎の熱が伝わっただけで忍とすずかの肌は焼かれ始める。

 

 

「くうぅぅ!」

 

「あぁぁ……あつ……い!」

 

「忍!」

 

 

 恭也が間に入り炎の熱を二人に伝わらないようにするが……。

 

 

「あああぁぁぁ!」

 

「くぅぅぅ!」

 

 

 意味をなさない。悪魔に類似する者に効果があり、そうでない者にはただの炎であるのが特徴だ。

 

 

「見たか小娘。あのメス共はそういう存在なのだ。月村一族……いや、夜の一族は何百年もの昔にルーマニアの吸血鬼共の一部が人間と交わり、そうして生まれた混血共が世界に散らばったのが原点だと言われている。その特徴は今でも引き継いでいる。当然、吸血もな……」

 

 

 咲にピンポイントに語って聞かせるコンボ・シュラーゲの顔は歪な嗤いを浮かべていた。これから咲がどう反応するか楽しみなのだ。山の奥まで駆けつけていざ助けると、それは人の血を吸う化け物でした。普通の感性を持った人間ならば、出会って間もない妹の友達と言うだけの存在にそれほど大きな情はわかない。

 チラッと咲はすずかを見る。すずかは縋るように、祈るように、痛みに苦しみながらも咲を見ていた。

 

 

「私にはすずかちゃんが人を襲うような子には見えません」

 

「夜の一族は人の記憶を操作できるのだよ。誰かが居なくなっても抹消されている可能性もある」

 

「それでも、私は何も知らないあなたよりもたった数週間だけど、目を見て会話したすずかちゃんを信じます」

 

 

 咲の言葉を聞いて、嬉しさからか苦しさとは違う涙がすずかの目に溢れた。

 

 

「嘆かわしい。化け物に肩入れするなど……その若さで魔に魅せられたか」

 

 

 コンボ・シュラーゲの咲を見る目は、言葉とは裏腹に嘲りを多分に含んでいた。

 

 

「あなたはどうしてすずかちゃんを化け物なんて呼べるんですか? あなたはすずかちゃんの何を知っているんですか?」

 

「知らんな。化け物の事など知る価値もない」

 

「身辺調査までしたのにかい?」

 

 

 黙って見ていた士郎が、美由希を伴って出入り口のところまで歩きながら言う。逃げ道を塞ぐ算段だ。

 

 

「ふん、どんな人間を周囲に配置しているか分からんからな。事をスムーズに運ぶには必要なことだ。どんな手を使ってでもな」

 

 

 過ぎたる正義は悪だ。そんな言葉を耳にしたことがないだろうか? 何れ程の犠牲を払っても、正義の為なのだから仕方がない。死者は正義の礎になれたのだから喜ぶべきだ。見方を変えればこれは立派な悪だ。余りにも独善的で、他者を思いやらないもの。

 あなたのご家族は正義の為に死んだのです。……これで納得する人間は、現代日本では極めて少ないだろう。この男、コンボ・シュラーゲはそんな思考回路をしている。

 

 

「人よりも優れた身体能力、自己治癒力、催眠能力に記憶操作。あまつさえ経済力すらも持っている!危険な存在なのだよ!だから――「もういいです」――……何?」

 

「あなたの言い分は分かりました」

 

「そうか!」

 

 

 コンボ・シュラーゲは喜色の笑みを忍、すずかは顔を青褪めさせ、恭也、千冬、美由希は息を呑み、士郎と束は静観する。

 

 

「その炎……消します」

 

「……何だと?」

 

 

 一瞬その意味を理解できなかったのか、コンボ・シュラーゲは疑問符を頭に浮かばせ……嗤う。

 

 

「くはははははは、消す。消すか! これは傑作だ!」

 

 

 嗤うコンボ・シュラーゲを気にせず咲は印を組む。

 

 

「水遁・水断波!」

 

 

 咲の口許に出現した橙色の円形の魔方陣、そこに息を吹き掛ける。――シャッ!――とウォータカッターが空を走り、コンボ・シュラーゲが掲げた掌に出現させた炎を的確に撃ち抜いた。

 

 

「な……に?」

 

「すずかちゃん」

 

 

 炎が消え驚くコンボ・シュラーゲを気にすることなく、苦しみから解放されたすずかに呼び掛ける。

 

 

「……は……い?」

 

 

 すずかは息も絶え絶えに返す。

 

 

「私は君以上の力を持ってるよ」

 

「……え?」

 

「咲……?」

 

 

 その場では士郎と咲だけが平然としており恭也、美由希、忍、すずか、千冬、束でさえも驚きを隠せないでいた。

 

 

「何を……何をしたあああっ!!」

 

「あなたに答える義理はありません」

 

 

 さっきまでの余裕が嘘のようにコンボ・シュラーゲは鬼の形相で咲を睨む。

 

 

「何かの『神器』か!?」

 

「『神器』は分かりませんが、この力は家族を……大切な人達を守る為のものです」

 

 

 コンボ・シュラーゲは先程よりも強い炎を生み出す。

 

 

「全てを灰にいぃぃぃ――かっはっ!?」

 

 

 が、背後から胸部を太い腕が貫いた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 咲は突然の出来事に驚き、印を組もうとした手が止まる。

 

 

「があっ!!」

 

「これが『神器』使いの魂というやつですか……」

 

 

 倒れたコンボ・シュラーゲの背後に立っていたのは金髪の優男、マキア・セルバンだった。だが、血に濡れたその右腕は紫色に変色し肥大化していた。

 

 

「すずかちゃん見ちゃダメっ!」

 

 

 突然の出来事にマキア・セルバン以外の者達が茫然自失となる中、咲はすずかに惨状を見せまいと自分の胸で顔を隠させる。触れる彼女の体は震えていた。

 

 

「んー、濁りきっていますねぇ。ですが、質は上々です。『神器』の影響でしょうか?」

 

 

 マキア・セルバンは手の中に収まる光る球体を掲げて眺める。

 

 

「……ぎ……ざば」

 

 

 血を流し倒れ伏すコンボ・シュラーゲが声を上げる。

 

 

「おや? まだ息があるのですか? 凄まじい生命力ですねぇ」

 

「お……での……ぢがらを……がえぜ」

 

 

 それを見下ろすマキア・セルバンの目は汚物を見るものだった。

 

 

「では、自分の力で滅びなさい」

 

 

 マキア・セルバンは光る球体をコンボ・シュラーゲに向ける。するとそこから炎が吹き出しコンボ・シュラーゲを包む。

 

 

「ぎああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 肌を焼き、肉を焼き、骨を焼く。長く長く悲鳴が響く。

 

 

「――――――」

 

 

 炎が消えた後、そこに残ったのは灰だけだった。

 

 

「ふむ、消し炭になりましたか。ふふっ、惨めな最期ですねぇ」

 

 

 そう言ったマキア・セルバンは(おもむろ)に光る球体、コンボ・シュラーゲの魂を口に含み……飲み込んだ。

 

 

「くぅうううあああああああっ!!!!」

 

 

 マキア・セルバンの肉体は炎に包まれる。コンボ・シュラーゲが出した炎とは違い、忍とずずかの肌を焼くほどの聖性はなく、禍々しい黒炎と化したそれはどんどん収縮していく。

 

 

「何が起こっているんだ……」

 

 

 その恭也の呟きに答えられる者はいなかった。

 

 

――アアアアアッ!

 

 

 声が止まり、黒炎が晴れる。

 そこに居たのは180cmの長身の男。顔半分を割れた仮面で隠し、裾が膝ほどまである長袖の白いコートに白いスラックス。インナーも白で統一されていて異様なのは胸部に空いた穴だ。まるで、その者の空虚感を露わにしているようだった。

 

 

――素晴らしい。なんとも高揚感が治まりませんねぇ。

 

「何だ……あれは……人、なのか?」

 

 

 茫然とした千冬の声、それは空に溶けて消えていく。

 

 

――さて、そこのお嬢さん。

 

 

 咲の肩がピクリと跳ねた。マキア・セルバンが指差したのは咲だ。すずかを抱き締める力が強くなる。

 

 

――あなたで試させていただきましょうか。この力を……。

 

 

 姿勢が低くなり飛び出そうとした瞬間……。

 

 

「エネルギーボム!」

 

 

 束が瓶を投げつけた。

 

 

――……は?

 

 

 マキア・セルバンの足下に転がったそれは弾け、魔力の奔流を生み出す。

 マキア・セルバンを中心に広がったそれは、竜巻のように空気を巻き込み渦を作る。

 束がしたのは単純なこと。特殊な吸引装置を使って吸引し、咲の魔力の残滓を転がっていた瓶に詰めて蓋をし投げた。魔力を束は咲が水断波を放つ時、エネルギーを体内から絞り出しているのが分かった。

 使った後の残りカスでも、それなりのエネルギーを内包していた。そして、試しに出来上がったのがエネルギーボムだった。

 

 

「くぅっ!」

 

 

 全員が突如発生した竜巻から顔を守る為に、腕を顔の前まで持ってくる。

 その中で咲だけは目で見ていた。マキア・セルバンが竜巻の奔流から抜け出し、束に向かうところを……。

 

 

「束さん! 逃げてぇっ!!」

 

 

 束は迫るソレに気付いたが逃げられない。自分の投げたエネルギーボムが、思った以上の威力を発揮したことに驚いて腰が抜けたのだ。

 彼我の距離は10mもない。駆けつけるには全員離れた位置に居すぎた。

 

 

「くっ」

 

「待って恭也兄さん!」

 

 

 神速を使おうとした恭也を咲が止める。ここに来て高速で迫る存在に気づいた。この一月で慣れ親しんだ魔力だ。膨大な魔力をその身に宿し、隠そうともせず流れるがままに垂れ流し、それでいて均整のとれたコントロールをする。自分の魔法の師匠が持つ魔力だった。

 

 

――グオオオォォォッ!!

 

 

 迫る脅威に束は目を閉じて痛みに備える。――ガシャアアァァンッ!!――束の後ろの窓ガラスが粉砕され影が飛び込んでくる。

 それに幾つもの息を呑む音、それでも止まらず束に迫るマキア・セルバン。それを見た影、宏壱は瞬時に判断した。アレが敵だと。

 

 

「剃っ!」

 

 

 宏壱はその場から姿を消す。

 

 

「せあっ!」

 

 

 咲達が次に宏壱を認識した時には既に束に迫るマキア・セルバンの前に居て、深紅の尾を引いて繰り出された蹴りがマキア・セルバンの横腹を捉え蹴り飛ばしていた。

 

 

――グゥオッ!?

 

 

 こうして宏壱は、今海鳴市で起きている事件の首謀者と邂逅を果たしたのだった。

 

side out




誘拐事件編は勃発編、救出編、決着編(仮)の三部構成になりました。

コンボ・シュラーゲは、特にはぐれ悪魔祓いという訳でもないですが、かなり過激な思考回路をしています。忍とずずかを惨く殺そうとするほどに。
スターウ○ーズの議長も言っていました。ダークサイドの方が視野が広く多くを学べると……。正義に執着するあまり大事なものが見えなくなる、と言うのは定番ですね。そういった面では、悪魔の方が寛容で視野は広いかもです。

正義は人それぞれで決して誰かに押し付けるものではない……と、今回のテーマはそんな感じでした。

では、また次回お会いしましょう。
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