リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第三十五鬼~赤鬼と誘拐事件・決着編~

side~宏壱~

 

 咲達が見守る中、俺は相手を見据える。

 

 

「一つ聞かせろ」

 

――何でしょう?貴方の質問なら答えてあげますよぉ。

 

 

 まるでテレビの中の有名人に会ったような反応だな。

 何でこんなにウェルカム姿勢なんだ?

 

 

「お前の目的は何だ?」

 

――目的……?

 

 

 分からないといった風に疑問符を浮かべる。

 

 

「あるだろ。ここまで世間を騒がせておいて何もありませんじゃ、通らねぇぞ」

 

――目的……ですか? ええ、目的ならありますよ。

 

 

 碌なもんじゃなさそうだな。こいつの目は狂気に満ちている。たいした大義も、正義も、未来さえもない。あるのは貪欲な何か……お前の目には何が映っている?

 

 

――力ですよ。

 

「力?」

 

 

 どういうことだ?

 

 

――この世には多くの力が存在します。腕力、権力、財力、知力……これらが一般的なもので、一個人が保有できるものでしょう。これが集団になれば生産力や化学力等が生まれます。ですが、中には特殊な能力を持った存在もいるのですよ。そう、貴方やそこのお嬢さんのようにね。

 

 

 俺、咲と順番に指を差して言う。

 

 

「……それがどうした。御託はいい、結論を言え」

 

――そう焦らずに……もっと話をしたいものですがねぇ。

 

 

 覇気を放ち、イラついていることを伝える。

 

 

――仕方がありませんねぇ。では、お答えしましょう。

 

 

 両腕を大きく広げ……。

 

 

――実験ですよ。

 

 

 そう不気味な笑みを浮かべた。

 

 

「……何?」

 

 

 空気が張る。遠くで息を呑む音が聞こえたが、今は前方に集中する。

 

 

――実験ですよ。実験。この力をね。

 

 

 怪物が手を開くと光の球が生まれる。それは、粒子を散らしながら消えた。

 

 

――これはゴーストに触れることができましてね。会話も可能なのですよ。そして触れたゴーストから一部、胸を切り取るんです。貴方も見たでしょう? 彼らの胸に穴が開いているのを。

 

 

 確かにマナや他のデカブツ……いや、被害者と呼ぶべきか。兎に角被害者を思い出せば、確かに俺の頭が通りそうな程の穴が開いていた。

 

 

――心を抜き取ることに成功したんですよ!

 

 

 興奮して声量が上がっていく。

 

 

――しかも良心をね。家族さえも殺す残忍さ……いえ、帰巣本能とでも言うのでしょうか、胸に穴を空けられた彼らは穴を埋めるために家族の許に、恋人の許に、親しい人間の許に帰るのですよ。そして……。

 

「ゲス野郎が」

 

 

 これ以上聞いても無駄だな。意味もない話を聞くほど俺の気は長くはない。それに、すずか嬢を見やれば顔を青くさせているのが見える。この先は聞かせるべきじゃないな。

 

 

「なら、得た力とやらで防いでみせろ!!」

 

 

 無限の刀身に魔力を集める。

 

 

「鎌鼬・雷鳥!!」

 

 

 横凪ぎに無限を振るえば、深紅の魔力刃が飛ぶ。それは、電気変換で雷の鳥に姿を変えた。そのまま木箱や鉄のコンテナを切り裂きながら怪物に高速で迫る。

 

 

――そんなこともできるのですねぇ。

 

 

 慌てる風も見せず、腕を振るった。雷の鳥は真っ二つに割れ、背後の壁を裂き突き抜けていった。

 

 

「ぜりゃあっ!!」

 

 

 俺は雷の鳥の後ろを駆け飛び上がり、無限を斬り下ろす。

 

 

――速いですねぇ。

 

 

 怪物は腕に粒子を集め受け止める。

 

 

「つぇら!」

 

 

 着地と同時に体を捻り、遠心力を合わせて横凪ぎに振るう。

 

 

――ほっと。危ない危ない。

 

 

 同じように粒子を集め、腕を盾にして防いでみせた。

 

 

「がら空きだ!」

 

 

 右拳で隙だらけの腹を殴り付ける。が、いつの間にか粒子が腹の周りに集まっていた。

 

 

――くっ! ガードを抜いてくるとは……お返しです!

 

 

 一瞬表情を歪めるも吹き飛ぶことはなく、直ぐに反撃してくる。

 

 

「ごあっ!」

 

 

 腹に衝撃、続いて襲ってくるのは浮遊感。風を切り俺の体は吹き飛ばされる。蹴られたことは分かった。だが、ダメージがバリアジャケットを抜いてくるのは予想外だぞ。

 

 

〈御主君!? 余り彼奴の攻撃を受けないでください!〉

 

「その方が……いいみたい、だな」

 

 

 体勢を立て直し、右手と両足を地に付け滑りながら止まる。

 じくじくと痛む腹を押さえ立ち上がる。怪物の距離は10m程空いたか……。

 

 

《宏壱君! 大丈夫!?》

 

《問題ねぇ。黙って見てろ》

 

 

 突然の念話に素っ気なく返して咲達の居る方を見やれば、心配そうな顔で見る者、どこまでも真剣な目で見る者、どこからか取り出したカメラで撮影する者と反応は様々だが、今のところ手出しする気はないようで何よりだ。

 

 

――新たな力を試してみますか。

 

 

 そう呟きが聞こえ……俺は咄嗟に前に身を投げる。――ゴウッ!――さっきまで俺の居た場所から黒炎が舞い上がる。

 

 

――ふむ。少々狙いが甘いですか……では、こんなのはどうです?

 

 

 怪物は右手を付き出した。そこから、黒炎が渦を巻き俺に向かって一直線に飛ぶ……と言うより延びてくる。

 

 

「ファースト ムーブ!」

 

〈First Move〉

 

 

 迫る黒炎の速度が遅くなる。姿勢を低くして黒炎の下、地面との間を一気に走り抜け怪物の許まで辿り着く。

 

 

「ふっ!」

 

 

 低い姿勢からの蹴り上げで、伸ばされた腕を上に蹴る。

 

 

――っ!?

 

 

 その衝撃で俺に接近されていることに気がついたのか、怪物は目を見開く。

 

 

「雷神・雷刀」

 

 

 無限に魔力を流す。電気変換で雷を纏った無限は、なんの抵抗もなく怪物の胴を斬り裂く。上半身と下半身を分かれさせることに成功した……が。

 

 

「っ!?」

 

 

 俺はそこから飛び退く。怪物の上半身と下半身は黒炎に包まれて燃える。二つの黒炎はやがて重なり大きく広がって消えた。

 

 

――躊躇いもなく切ってくるとは……いやはや、恐ろしい方ですねぇ。

 

「ちっ……終わってくんねぇか」

 

 

 黒炎が消えた後には五体満足の怪物……めんどくせぇ。

 

 

「テメェ名は何て言う。俺は山口宏壱だ。山口って呼べ」

 

――私の名はマキア・セルバンと申します。

 

「んじゃセルバン……死んでくれや」

 

〈Second Move〉

 

 

 さらに景色が遅くなる。もう咲にも俺の姿は見えていないはずだ。

 セルバンの後ろに回り込んで、雷刀を保ったまま横凪ぎに首筋を斬りつける。そのまま振り上げ、袈裟懸けに斬り下ろす。そこから再び胴を切断する。振りきった無限を斜めに斬り下ろし、セルバンの足の付け根から両足を別つ。

 そして、世界は元の速度に戻る。

 

 

――ガアッ!!?

 

 

 バラバラに切断されたセルバンは、再度黒炎に包まれ再生する。

 

 

――はあっ……はあっ……はあっ……本当に……容赦のない方です。

 

「テメェみてぇなゲスに、かける情けも温情もありゃしねぇよ」

 

 

 再生には多分な体力を消費するのか、片膝を突き呼吸を荒げながら俺を見上げる。

 

 

――私はこれ程までに貴方に会いたかったというのに……つれない方です。

 

 

 呼吸を整え立ち上がったセルバンの言葉に俺は顔を顰める。が、直ぐに笑みに変える。笑顔はほんら(ry

 多くの作者が説明してるからいらねぇな、これ。

 

 

「男に言われても嬉しくねぇが……俺もテメェに会いたかったぜ? 殺してぇ程になあぁ!」

 

 

 何度再生しようが関係ねぇと、何度も斬りつける。心なしか、再生速度が上がっている気がする。

 いや、確実に上がっている。倒れ伏すよりも早く再生し、斬られた場所だけが黒炎に包まれくっ付いている。

 

 

――ふむ、やっと馴染んだようですねぇ。

 

 

 遂には蹌踉めくことすらなくなった。

 

 

「ちっ、時間を掛けすぎたか……」

 

 

 一度、態勢を立て直す為に後ろに跳んで距離を取る。

 さっきこっちに来る前に感じた力の収縮……多分セルバンが何かしらの力、すずか嬢を攫った首謀者かその部下か……どちらにしろ、後天的に力を取り込んだ時に発生したものだって事は分かった。

 

 

「無限」

 

〈御意〉

 

 

 俺の意図を察し、無限は刀からグローブへと姿を変える。刃が居ない今は両手とも無限の黒だ。

 

 

――それも妙な武器ですねぇ。姿を変えるとは……『神器』ですかぁ?

 

 

 セルバンの言葉には何も返さず、両拳を握りしめて構える。

 

 

「おおぉぉぉ!!」

 

 

 セルバンが反応できない速度で駆ける。距離は5m、一足で潰せる。

 一秒も掛けず、俺の姿は既にセルバンの眼前で右拳を振り上げ、セルバンの顔面目掛けて打つ。――パァンッ!!――と破裂音が響く。

 

 

――グゥッ!?

 

 

 反応できずに諸に喰らったセルバンは上体を反らす。特殊な力を得ても本人の基礎能力が上がる訳じゃない。

 

 

「まだだっ!」

 

 

 反れた頭、金髪を鷲掴みにして引き戻す。

 

 

――グッ!

 

 

 戻ってきた頭を、さらに引き倒すように引っ張る。後頭部が見えたところで首に肘を落とす。

 

 

――ガッ!……アアッ!!

 

 

 セルバンは地面に叩き付けられ、その影響で地面が凹み亀裂が入る。飛び散るコンクリート片に混じり、光の粒子が散布されたのが見えた。

 ギリギリで地面にぶつかる衝撃は防いだらしい。オート制御じゃないな……任意で発動するピンポイントバリアってとこか。

 

 

――嘗めるなぁ!!

 

 

 倒れ伏したセルバンの背中から黒炎が吹き出る。追撃を掛けようと魔力を拳に集中させていた俺は、それを中断して飛び退く。

 

 

――ふぅー、ふぅー、くっ! まさかこれ程とは思いませんでしたよぉ。

 

 

 黒炎を迸らせながら立ち上がり、恨めしそうに俺を睨む。

 

 

「お前、戦闘自体は大してしたことないだろ」

 

――……何故分かるのです?

 

 

 答えてやってもいいが、こういう事からヒントを得て強くなる奴ってのは結構いるもんで、無駄に力を付けさせる様なことをする意味もない。

 動きが素人臭い。普通の人間なら脅威足り得る脚力で蹴られたが、重みは大して無かった。軸がブレブレで威力が分散してしまい鋭さが激減、その上追撃を掛けるようなこともしなかった。俺なら蹴り飛ばした段階で、体勢を立て直す前に沈める。

 

 

「ここで死ぬお前には関係の無い話だ」

 

 

 身を屈め駆け出す。

 

 

――今度はそう簡単には行きませんよ。

 

「ほざけっ!」

 

 

 瞬間的に接近、セルバンの表情に動きはないが反応できていないのは明らかだ。やはりハッタリか。そう思いながら腕を引き……。

 

 

「はあっ!」

 

 

 土手っ腹目掛けて振り抜く。

 

 

「何っ!?」

 

 

 だが、それは黒炎に阻まれた。

 

 

「剃っ!」

 

 

 セルバンには俺が消えたように見えたはずだ。

 

 

「らあっ」

 

 

 セルバンの背後から空中で体を捻り回し蹴り、着地と同時に上段からのハイキック、肩甲骨を狙った掌底、それら全てが黒炎によって防がれる。

 セルバンが腕を払ったのが見えて咄嗟にバク転で離れる。さっきまで俺の居た場所、地面から黒炎が火柱のように燃え上がる。

 

 

「おおおっ!!」

 

 

 黒炎の火柱を突き抜け殴り掛かる。

 

 

――何度やっても同じことです。

 

「スパークショット!」

 

 

 拳が黒炎に触れた瞬間、魔法陣が展開され雷を放つ。

 

 

――グッ!……まだ手札を隠しているのですか!?

 

 

 黒炎を突き抜けた雷は、セルバンの背中に命中したらしい。数歩前に蹌踉けたセルバンは腕を大降りに振り、背後にいる俺を凪ぎ払おうとする。

 

 

「剃っ!」

 

 

 そんな見え見えの攻撃に当たってやる必要はなく……。

 

 

「氷神槍!!」

 

 

 

 剃で躱してセルバンの頭上から氷の槍を落とす。

 

 

――グアアアッ!!

 

 

 黒炎が発生するが、それを突き抜けて肩から脇腹までを深く貫いた。

 

 

「おらあっ!」

 

 

 俺はそのまま落下の勢いに任せて、膝からセルバンの後頭部に落ちてセルバンを俯せに倒す。

 

 

――アガッ!

 

 

 溶けない氷の槍は黒炎で再生しようとするのを邪魔し続ける。

 

 

「呆気なかったな。マキア・セルバン」

 

――クゥ!何……ですか、これは!? 何故溶けない!

 

「俺の濃密な魔力で氷の周囲を守っている。一度刺されば引き抜くしかないぞ」

 

 

 もう血すらも出ないのか、傷口からは黒炎が漏れるだけだ。

 

 

「雷神・雷球」

 

 

 左手の人差し指をを天に翳し魔力を集束させる。雷の塊、雷球の完成だ。

 分類としては収束魔法で、電気変換での最強の威力を誇る強力な魔法だ。データ上では一都市を消滅させる威力があるらしいが、それは最後の最後まで集束した状態、それこそ俺の魔力の3分の2を注ぎ込んだもので、これはその100分の1にも満たないものだ。

 通常なら直径5m程の球体、今は直径10cm程だ。これでも、この倉庫半分は吹き飛ぶレベルだけどな。

 

 

《そういう訳で、ここから出た方がいいぞ》

 

《分かったよ》

 

 

 咲に念話で退避するように伝える。確実にこの倉庫は崩壊するからな。

 

 

――ただでは……終わりませんよっ!!

 

 

 その時だ。俺が念話を切ると、咲がこの場から退避するように皆に伝えたのか、全員が背を向け出ていこうとする。そこを狙ってセルバンが7発の黒炎弾を放った。

 狙いは……。

 

 

「すずか嬢!!」

 

「……え?」

 

 

 振り向いたすずか嬢の目は正確に黒炎弾を捉えたんだろう。見開かれる。士郎さん達も間に合わない。気付くのがワンテンポ遅すぎた。

 ダメだ。出遅れた。そんな言葉を冷静に吐く俺と、走れ! まだ間に合う!と叫ぶ俺がいる。どちらを選ぶか…………迷う必要はないな。

 

 

「フォース ムーブ!」

 

〈なっ!?御主君、勝手に――!〉

 

 

 無限の声が途切れて世界が止まる。そう表現した方がいい。愚鈍な世界で、普通に動けるのは俺だけだ。咲も士郎さんも恭也も美由希も千冬も束も……全てが遅い。すずか嬢に迫る黒炎弾が皆より少し速い程度で、それも陸を歩く亀のようなものだ。

 そんな世界を置き去りにして俺は駆ける。ギアを飛ばしての発動……後が大変そうだな。

 

 

「解除」

 

 

 すずか嬢に迫る黒炎弾の射線上に立ちフォース ムーブを解く。

 

 

〈――そんなことをすれば!〉

 

「があああっ!!!」

 

「なっ!?」

 

「宏壱君!?」

 

 

 世界が動き出す。

 急激な反動と7発の黒炎弾を直撃、腹に3発、右太股に2発、胸に1発、左肩に1発……焼ける、焼ける、焼ける。肉を焦がす音と焼いた臭い。熱さを超え鋭い痛みに変わった。

 それと同時に全身の骨が軋み始める。通常なら刃と無限がギアムーブの演算処理を行い、俺が肉体を守るための防護魔法を使って肉体を強化して反動を緩和させる。無限に相談する間もなく使ったフォース ムーブはファースト ムーブ、セカンド ムーブ、サード ムーブを上回るパワーとスピードを俺に与えてくれる強化魔法。その代わり反動も凄まじいもので、筋肉の断裂は避けられない。

近くで咲達の心配する声、驚く声が聞こえた。

 

 

――クククッ……引かせてもらいますよ。流石に力を使いすぎましたからねぇ。……いつか貴方の力も頂きますよ。

 

「ま……てぇ……!」

 

 

 セルバンは黒炎に呑まれ……消えた。

 

 

「ぐぅっ……!」

 

〈御主君!?〉

 

 

 一歩踏み出した足が膝から折れ前に体が倒れる。

 

 

「宏壱君!」

 

 

 咲が受け止めてくれたが、意識が遠のいていく。俺の体を光が包み、『グロウ』の魔法が解けたところでプツンと意識が切れたのだった。




さて、誘拐事件はこれにてひとまずの閉幕です。色々な問題が残ったままですが。
正体はばれたし、マキア・セルバンは取り逃がしたし……問題だらけですね。
まだマキア・セルバンが起こした事件は続きます。いつ原作入んねん!って話ですね。100話までには入るかな、と思うのですが……まだやりたいことが幾つかありまして……お付き合い願えたら嬉しいです。

では、また次回お会いしましょう!
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