リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第三十七鬼~赤鬼、魔導師・山口宏壱~

side~宏壱~

 

「宏壱君と呼んだ方がいいかな? それとも宏壱さんと呼んだ方がいいですか?」

 

 

 まぁ、当然か。今の俺の姿は子供、本来の姿で魔法はとっくに解けてるからな。恭也も美由希、千冬、束、忍嬢とすずか嬢もその瞬間を見ている筈だ。

 士郎さんと咲に視線を向けると……首を横に振られた。説明はしてないってことか。この分だと愛紗も同様だろうな。

 

 

「どっちでも構わねぇよ。両方俺なんだからな」

 

「……そうか。では、宏壱君、単刀直入に聞かせてもらう……君は、君達は何者だ?」

 

 

 君達ってのは、俺と愛紗のことか?

 何処まで話すべきなんだろうな、これは……。愛紗は完全に俺任せで沈黙してるし、どうしたもんか。

 

 

「あー、あれだ、所謂魔法使いってやつだな」

 

「魔法使い? そんなの――「アンタらだってただの人間じゃないでしょ」――っ!?あなた、どうして……!」

 

 

 忍嬢の言葉を遮って言うと、忍嬢とすずか嬢が目を見開く。驚くことか……?

 

 

「どうしてってそりゃあ、なぁ?」

 

 

 愛紗に同意を求めれば頷きが返ってくる。

 

 

「どこが、とも言えませんが気配が違います」

 

「あと、血の臭いな」

 

「「……え?」」

 

 

 さっ、と顔が青くなる忍嬢とすずか嬢。余り触れて欲しくない部分だったか……? でもなぁ、避けるのは難しいし……気にせずいこうか。考えるのが面倒臭くなってきた。

 

 

「口周り、口臭上手く誤魔化してるみたいだけどな。俺らみたいな奴には直ぐ分かるぞ、それ」

 

「「っ!?」」

 

 

 二人揃って口を押さえる。それしちゃあ、そうですって言ってるようなもんだろ。

 

 

「っと、だいぶ回復したな」

 

 

 ベッドから下りてぐっぐっと屈伸をしたり、軽いシャドーをしたり体の具合を確かめる。暫く安静にとも思ったが、やっぱり寝てるわけにもいかねぇしな。回復魔法を掛け続けりゃ、ある程度の戦闘も出来るようになるだろう。

 

 

「よしっ!」

 

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

 

 グッと手を握ったところで声を掛けられた。

 

 

「あん?何だよ……大宮さん」

 

「もう、回復したのか? 一ヶ月は安静にしていないと……」

 

「言ったろ。俺は魔法使いだ、傷を治療する……正確には自己回復を早めるんだけどな。まぁ、それくらい出来るってこった」

 

 

「苦手分野ですけどね」と愛紗が補足を入れる。その情報はいらんだろ。

 

 

「そんな素振りはなかったが」

 

「相手にばれないようにするのも技術の内だ」

 

 

 完治までは出来ないが、鍛練するのに支障はないレベルまでの回復は出来る。……あと二、三日は掛かりそうだけどな。

 

 

「……あなたはどうも思わないの?」

 

 

 恐る恐ると忍嬢が問い掛けてくる。顔色は良くはないが、確りと俺の目を見て受け入れる体勢だな。それはすずか嬢も一緒だ。

 

 

「怖くないかって?」

 

 

 ベッドに腰掛けながら聞き返せば、頷きだけが帰ってくる。忍嬢の脇に控える恭也の目が、虚は許さないと語っていた。

 

 

「どうも思わねぇな」

 

「どうもって」

 

 

 ここで目を逸らせば、俺の言葉は嘘になる。実際どうも思ってないし、そもそも忍嬢とすずか嬢が何者かも知らないんだけど……。

 

 

「……あ」

 

「咲?」

 

 

 何かに気づいた咲が声を漏らし、傍にいた美由希が声を掛ける。

 

 

「宏壱君」

 

「ん?」

 

 

 それを無視して、咲は俺に声を掛けてきた。

 

 

「二人は吸血鬼なんだって」

 

 

 全員が「あ」と声を漏らす。俺が知らない事が頭の中になかったらしい。まぁ、明らかに俺が知ってる前提で話が進んでるから、どこか噛み合わないと思ってたんだよな。

 

 

「吸血鬼、ねぇ……で?」

 

「「……え?」」

 

 

 呆けた声を出す忍嬢とすずか嬢。

 

 

「だから、それがどうしたって聞いてんだよ」

 

「どうって……その、怖くないの?」

 

 

 忍嬢は隣にいる恭也の手を握って躊躇いながら聞いてくる。

 

 

「私達は、バケモノ……なんですよ?」

 

 

 忍嬢に続くようにすずか嬢も問うてくる。その手は服の胸部を握っていた。

 聞くのが辛いくせに、聞きたがる奴っているよな。周りばかり気にして、歩調を会わせて、顔色ばかり伺って、それでいていつも何かに怯えている奴。

 バケモノ……何て言葉を自ら口にして、いっそ罵ってくれた方が楽だと考える。すずか嬢はそんなタイプか。泣きそうな顔をして昨日今日知り合ったどころか、(俺の感覚では)会って一時間も経ってない奴からの印象まで気にする。そんなことをしていれば、いつか潰れるぞ。

 つっても、千冬と束は向こう側にいるわけだし、恭也……は元々知ってそうだな。忍嬢から全幅の信頼を寄せられている。士郎さんも咲も美由希も受け入れたんだろう。高町家はお人好し連中だからな、桃子さんやなのはも関係ないと受け入れる可能性の方が高い。絶対を付けてもいいかもな。

 

 

「はぁ、そもそもだ」

 

 

 ベッドに下ろした腰を上げ、誰も反応できない速度ですずか嬢の前まで移動する。足がすんげぇ痛いけど、我慢だ。

 

 

「っ!?」

 

 

 目を見開くすずか嬢と息を呑む音が病室に響く。俺は、周りを気にせずに胸の前で服を握っているすずか嬢の右手を取り耳元に口を寄せる。

 

 

「お前ら以上のバケモノである俺が、脅威にもならねぇお前らを怖がる必要性がないだろ?」

 

「――っ!?」

 

 

 耳元でそう囁いて顔を離すと、首筋まで赤く染めてすずか嬢は体を震わせる。

 

 

「っ!」

 

「恭也っ!」

 

 

 忍嬢の悲鳴にも似た声が病室に響いた。恭也が殺気を放ちながら(何かあった時のために)持ってきていた木刀を俺に向けて振るった。しかも、俺が避ければすずか嬢に当たる軌道で……。

 

 

「鉄塊」

 

 

 避けることも出来るが、確実に分かってやってるよな。感情に任せて周りを見ずにがむしゃらに攻撃とかありえねぇし……。

 横凪ぎに振るわれた木刀は――バキィッ!――と俺の側頭部を打つが、半ばで折れて木片を散らす。恭也は折れた木刀を捨てて、袖の中に隠していた小木刀を出し振り上げる。

 

 

「その腕を下ろせば、貴様の首を絶つ」

 

「っ!?」

 

 

 それが振り下ろされる前に、愛紗が自身のデバイスである『青龍偃月刀』を展開して恭也の背後を取り首に添える。

 

 

「愛紗」

 

「……」

 

 

 愛紗は無言で恭也の首からそっと『青龍偃月刀』を離して待機モードに移行する。

 

 

「恭也……俺を試したのか?」

 

「……え?」

 

「……」

 

 

 慌てたのは忍嬢と、力が抜けたのか俺の胸に寄り掛かるすずか嬢だけで、他の連中は理解している風に動く素振りを見せなかった。咲は俺ならどうとでも出来ると思ったのかもしれんが……。

 

 

「すまない。すずかを置いて避ければ、俺の何を捨てでも切るつもりだった」

 

「つまり、おメガネに適ったってことでいいのか?」

 

「いや、貴方にそれほど偉そうなことを言うつもりはない」

 

 

 こいつは俺がガキだと分かっても態度を変えねぇな。それは士郎さんも同じなんだが、なんと言うかこう……むず痒いものがあるな。

 

 

「しかし、そのまま受けるとは思わなかった。何をしたんだ?」

 

「束さんも、束さんも知りたいなー。コーくん教えて?」

 

 

 恭也の言葉に便乗して、束が右手を上げて言う。

 

 

「あー、何か俺に話があるんじゃなかったっけ?」

 

「これも、君が何者か?という問いの一部になると思うが?」

 

 

 大宮さんの返しに「そうかい」とだけ返して、近くにあった丸椅子を引き寄せてすずか嬢を座らせて再びベッドに腰掛ける。正直、立っているだけで筋肉がジクジクと痛む。

 

 

「はぁ、聞きたいか? そんな話」

 

「私も興味がある」

 

「あの……私も」

 

 

 千冬と美由希が俺の言葉に答えたが、他も興味津々だな。好奇心を隠しきれてないぞ。

 なんか、今年入ってから説明ばっかしてねぇか?……別にいいんだけどさ。

 

 

「んじゃ、まず六式からだな。もう一気に全部言うから質問は受け付けないぞ」

 

 

 全員が頷くのを確認して語る。

 

 

「六式ってのは、俺が親父から教わった技術だ。親父いわく、山口家に伝わる古流武術らしい。そんな文献みたいなのも残ってなかったから実際はどうかしんねぇけどな。

 で、六式は名前の通り六つの技を基礎にしてるんだよ。

 一つ、指銃……こいつは単純だ。弾丸のような速さで指を一突きする」

 

 

 実演として病院食を乗せるトレイに放つ。すると、見事に穴が空き向こう側がよく見えるようになった。

 

 

「応用は色々と利くが、こいつ単体だと決定打に欠ける」

 

 

 取り合えずこの机はあとで弁償しよう。

 

 

「二つ、素早く蹴りを繰り出すことによって鎌鼬を発生させる嵐脚。三つ、瞬間的に地面を十数回蹴ることによって生み出した瞬発力で移動する剃。4つ、空中を力強く踏み込むことで空中歩行を可能にした月歩。五つ、宙に浮かぶ紙のように相手の攻撃を躱す紙絵。そしてさっき見せた自分の肉体を鉄のように硬化させる鉄塊。これら全てが六式の基本だ」

 

 

 ゴクリ、と誰かの喉がなった。作り話に聞こえるだろうが、実際に鉄塊と指銃は目の前でやって見せた。

 

 

「俺はこの中で剃と鉄塊を得意にしている。たった六つの技だがそこからの応用は利く上に、どれ一つとっても超人的なものだ。二つを使えるだけでも常人を遥かに超えた力を得ることは必須だな」

 

「それが君の強さの一端か……修得するのにどれほどの鍛練を積んできたんだ」

 

 

 士郎さんの言葉は正しい。当然、楽ではなかった。才能の無い俺が全部を身に付けるのは、それこそ一生を費やしても無理だったからな。

 

 

「君自身の腕っぷしが強いのは分かった。だが、魔法使いというのは……?」

 

「正確には魔導師だな」

 

「魔導師?」

 

「違い、は特に無いか。ただ、俺達が使う魔法ってのは科学の延長線上のものだ。神秘の力じゃない。演算と情報処理、物理化学とか力学的、時には生物学なんかも必要になる」

 

 

 興味深そうに話を聞くのは束と忍嬢、すずか嬢の三人で他は余り興味がなさそうだな。士郎さんと大宮さん、恭也、咲、千冬は真剣に聞いているが、美由希は頭から湯気が出ちまってる。

 生物学が必要なのか?って思う奴もいるだろう。

 違法研究でされていることは、基本が遺伝子組み換え、生物構造の変異化とか見ていて気分の良いものじゃない。脳をいじられて洗脳みたいなことされてる奴もいりゃあ、自暴自棄になって襲ってくる奴もいる。そういうのを保護したりするんだが、体を治すまでには至らず自害する奴も多い。だから、魔法でなんとかできねぇかと、うちの軍師を中心に目下勉強中って訳だ。

 

 

「あ、あの杖ってあるんですか?」

 

「すずか嬢、いい質問だ」

 

 

 気になるよな。魔法使いと言えば魔法の杖……これは恐らく世界の共通認識だろう。

 

 

「俺達にとっての杖ってのは、愛紗がさっき見せた……」

 

 

 そこで、愛紗が『青龍偃月刀』を展開してみせた。

 

 

「それとか。俺が戦闘中に使った……あー、無限どこだ?」

 

「私が預かっていました」

 

 

 愛紗が細長いケースを取り出して開くと、十中心に黒く輝く宝石が填められた字架のネックレスが納まっていた。

 

 

「無限、展開だ」

 

〈……〉

 

「無限?」

 

 

 愛紗から受け取ったケースから出して呼び掛けるも反応を返さない。

 

 

「無限さ~ん……無限ちゃ~ん……無限さま~……無限お嬢様」

 

 

 最後ので一瞬点滅を示した宝石部分だが、また直ぐに沈黙する。

 

 

「拗ねているのですよ」

 

 

 幾度か呼び掛けるが、反応を返さない無限にどうしようかと手を考えていると愛紗がそう囁いた。

 ああ、そうか。なんの相談もせずにフォースを発動したことに怒ってるのか。

 

 

「宏壱さんは誰に話し掛けているんだ?」

 

「しっ! 恭也黙ってて!」

 

「あ、ああ」

 

 

 何てやり取りが忍嬢と恭也の間で行われたが、今は無限に集中することにする。

 

 

「あー、無限、俺が悪かった。今度はちゃんと相談するようにする」

 

〈……〉

 

「絶対……とは言えないけどな。それでも、なるべく相談し合うことを心掛ける」

 

〈……断言できませんか?〉

 

 

 やっと言葉を交わしてくれた。その事にほっ、と安堵の息をつく。

 

 

「ああ、出来ない」

 

〈……〉

 

「だが――〈いえ、結構です〉――……そうか」

 

 

 ピシャリと言葉を遮られる。言葉は厳しめだが、語調も特にキツいものではなく、ただ遮ったというだけだ。

 

 

〈貴方が、そういう方だということは知っていますから〉

 

 

 無限は〈ですから〉とそこで言葉を切り……。

 

 

〈我々が、この場にはいない刃と共に貴方を支えてみせますよ。我々が〉

 

 

『我々が』を強調して続けた。

 

 

「ほう……無限、それは私への当て付けか?」

 

〈そう取るのは貴様の勝手だ。関雲長〉

 

 

 ……何で喧嘩腰だお前ら。

 

 

「此処で切り捨ててもよいのだぞ」

 

〈やってみせろ。貴様のなまくらで切れるほど、赤鬼の矛は柔ではないぞ〉

 

「以前から気にくわなかったのだ。兄上の全てを理解しているような態度が!」

 

〈貴様こそ、劉玄徳を差し置いて正妻気取りなところが気に食わん!〉

 

 

 ヒートアップする二人と目が点になるギャラリー。偉人の名を出しすぎだ。周りが置いてけぼりだぞ。

 

 

「お前ら仲良いな」

 

「〈誰が!〉」

 

 

 端から見ている分には問題ないんだけどな。ちょっと面倒事を増やしてくれたことにイラついてることを、気づいてほしいなぁなんてな。

 

 

「関雲長……だと」

 

 

 やっぱりそこだよなぁ。と、事をばらした二人を見る。……睨むとも言うな。

 

 

「これ以上はややこしくなるから、お前ら喋んな」

 

「……申し訳ありません」

 

〈……元はと言えば御主君が〉

 

「あ゛?」

 

〈いえ! 何でもありません!〉

 

 

 ことの重大性に気付いた愛紗は謝り、自分に非はなく俺が悪いと言う無限。ちょっと凄んでみせたら速攻で何でもないと否定してきた。

 

 

「ったく。……説明はしねぇぞ。話すのは俺らの過去の話じゃねぇ、何者かって事だろ」

 

「そう、だね。聞くのはまたの機会にしよう」

 

 

 結局、聞く気じゃねぇか。と思わなくもないが、今の士郎さんの言葉が釘を刺す形になったのは助かった。聞きたそうにしていた連中(すずか以外)の質問攻めに遇うところだった。

 

 

「はぁ、無限。グローブモード展開」

 

〈Globe Mode〉

 

 

 左手が深紅の光に包まれて稲光が走る。小さく放電しながら光が弾け飛ぶと、そこには手の骨に沿うようにして深紅のラインが引かれた黒いグローブ、徒手格闘用のモードの無限があった。

 

 

「おー、すごいすごい!」

 

「……目を疑う光景だな」

 

 

 声を上げたのは束と千冬だった。他は兎も角として、この二人と士郎さん、恭也は感情を隠すのがやけに上手い。千冬は顔には出ない代わりに態度に出るみたいだけどな。

 

 

「これが、俺達魔導師の使う魔法の杖、デバイスだ」

 

「デバイス……?」

 

 

 「ああ」と疑問を呈した忍嬢に頷いて説明を続ける。

 

 

「こいつが演算と情報処理を進行して魔法の術式を組み上げ、魔法の発動までの手助けをしてくれる。こいつがなくても出来なくはないが、脳への負担がその分大きくなり発動までの時間が延びる上に大規模な魔法の使用が極めて困難になる」

 

 

 一度息をついて、再度説明に戻る。

 

 

「実際のデバイスは愛紗の『青龍偃月刀』のような武器然としたものじゃなくて、もっとごつごつとした機械が付いているが、俺達が持つデバイスには一切無い。これが普通だとは思わないでくれよ?」

 

 

 言いながら左腕を上げて振り下ろすと一瞬の発光、それは数秒と掛からず収まりグローブが漆黒の刀に姿を変えていた。

 

 

「ソードモード、デバイスには幾つかのモードが備わっている場合がある。俺のデバイス、無限って言うんだが、こいつにも二つのモード、グローブモードとソードモードがある」

 

 

 全員によく見えるように無限を肩まで上げる。

 

 

「日本刀みたいだな」

 

「モデルはそうだからな」

 

「コーくんコーくん」

 

 

 俺の名前を連呼しながら近付いてきた束が、ベッドに腰掛ける俺の視線の高さに顔を合わせ目を見る。

 

 

「それ貸して?」

 

「断る」

 

「えー、ブーブー」

 

 

 無邪気な笑顔を見せて言う束に即答で返すと、頬を膨らませブーたれる。ガキか!

 

 

「はぁ、このくらいでいいだろ? 流石に体が重いんだ。休ませてくれ」

 

 

 無限をネックレスに戻して言う。いくら回復させていると言ってもダルいものはダルいんだ。いい加減休みたい。

 チラッと病室の壁に掛けてある時計を見れば21時を回ったところだった。

 

 

「そうだね。そろそろお暇しよう」

 

「じゃあ宏壱君、明日また来るね」

 

 

 士郎さんと咲が出て行くのを皮切りに、他の皆も一言口にして出ていく。

 

 

「あの……宏壱……さん、でいいですか?」

 

「ああ、すずか嬢。そう呼んでくれて構わない」

 

 

 部屋に残ったのは忍嬢とすずか嬢だった。愛紗は、まだ向こうでやることが残っていると、士郎さん達に続いてこの部屋を出ていった。

 

 

「私もすずかって呼んでください」

 

「分かった。すずか……これで良いか?」

 

「はい!」

 

 

 華が咲くような、とは正にこの事かと思わせる満面の笑顔だった。少し照れが入っているのか、仄かに頬を赤く染めているのもすずか嬢……すずかの可愛らしさを際立たせている。

 

 

「すずか」

 

「うん」

 

 

 忍嬢がすずかにそっと声を掛ける。すずかは俺の前まで歩いてきて……勢いよく頭を下げると――ゴチッ!――そんな音が部屋に響いた。

 

 

「あぅっ!?」

 

 

 額を押さえ踞るすずかに呆れた視線を送る忍嬢と俺。

 

 

「地味に痛いんだが……俺に頭突きをかます為に残ったのか?」

 

「い、いえ! 違いますっ! ごめんなさい!」

 

 

 涙目のすずかは顔の前で手を振り否定すると、今度は数歩下がり頭を下げる。

 

 

「ありがとうございますっ!」

 

 

 何の礼だ?とは思わない。助けたこと以外に理由はないだろうからな。

 

 

「どういたしまして。礼は受け取った。まだ夜は物騒だ。早く帰れよ」

 

「はい」

 

「お大事に」

 

 

 二人が出て行くのを見送ってベッドに横になる。

 そういえば、大宮さんが何者かって話を聞いてなかったな。何でこの場にいたのか、彼は人間か、それとも別のナニカか……。考えても分からないことは本人に聞くのが一番だな。全部明日だ。今日はもう疲れた。

 

 

「おやすみ、無限」

 

〈御主君、お休みなさいませ〉

 

 

 瞼を閉じ眠りにつく。体は本当に疲れていたようで、夢を見ることもなく熟睡できた。

 ただ、俺はこの事を一生後悔することになる。敵が他にも居ることを失念し、数日は動けないだろうと高を括ったことを……。

 

 俺の油断が、八神はやてから家族を奪う一因になったことを……。




執筆を一日開けたらネタが浮かんでこなくなりました。え?何これ?って感じです。書きたいものも忘れると言うまさかの展開に「これがスランプか!」と戦慄したんですけど、読み返せば何を書きたかったか思い出せたのでそこまでじゃなかったみたいです。良かった良かった。

語られませんでしたが、千冬と束がここにいる理由は学校が終わって直ぐに来た。それだけです。この後、彼女らは電車に乗って帰ることになります。

では、次回またお会いしましょう
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