リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第三十八鬼~赤鬼と誓い~

side~宏壱~

 

 士郎さん達への説明をして三日、あれから毎日士郎さん、恭也、美由希咲、忍嬢、大宮先生、束が見舞に来てくれた。千冬は剣道大会が近いからとそっちを専念するそうだが、手紙を書いて束が持ってきてくれる。

 ガキの俺にも態度を変えない彼らはどれだけの度量があるのか。

 まぁ、見舞に来る度に色々説明する時間が取れたのは良かった。今この海鳴で何が起きているのか、俺が見せた魔法と咲が見せた魔法(俺が着く前に使っていたらしい)の違い、デバイスの話、一通り話せることは話した。

 それと、大宮先生の話も聞けたな。彼は月村家の主治医で良質な輸血パックを売ってるらしい。主治医、と言っても傷なんて直ぐ治るもんだから、輸血パックの横流しを条件に、海鳴大学病院に投資してもらってるとかなんとか。

 

 閑話休題

 

 あれから三日後の現在は4時をちょっと過ぎた頃。俺は自分の病室……ではなく、別の一室に来ていた。

 

 

「……はやて」

 

 

 ここは俺が運び込まれた病院、海鳴大学病院のとある一室。個室になっているその部屋の主はボブカットの愛らしい少女、八神はやてだ。

 はやては今、穏やかな寝息をしてその小さな胸を上下させている。

 彼女がここに運び込まれたのは、恭也達に魔導師だと説明した5時間後だった。

 事故……だったらしい。何処かへ旅行に行った帰りだったと、警察の人間が説明してくれた。八神夫妻は身寄りもなく、二人共頼るものがいない天涯孤独だったらしい。そこで、事態を聞いた俺が『グロウ』で大人モードになり駆けつけ知り合いだったと言うことで説明を受けた。

 対向車が八神さんの運転する車に正面からぶつかって来たらしい。相手の運転手の男と八神夫妻は即死、はやては八神夫人の腕の中で守られ奇跡的に無傷だった。ただ、強く肺が圧迫されたらしく、一種の呼吸困難に陥り意識不明の状態だ。

 

 

〈この痕跡は……〉

 

 

 無限がはやての周囲から感知できる力……いや、感知できてしまった力の流動を解析していたところだった。

 普通なら肉親でもない俺が、運び込まれて間もないはやてに会うのは不可能だが、大宮さん……大宮先生が口を利いてくれたらしい。

 彼はそれなりの発言力があるらしく、院長を頷かせてくれた。

 

 

「……終わったか?」

 

〈……はい。八神はやての周囲に漂う微量な力の残滓、その照合が終了しました〉

 

「どうだった?」

 

〈……一致しました。一連の事件のものと細部は違いますが、流れの傾向、脈動、波紋、どれも彼奴らの放つ力の流動と非常に似通っています〉

 

 

 つまり、今回の事故はデカブツが起こしたもので間違いないってことになる。相手の運転手は既に死んでいたか、八神さんが襲われたのか……どちらにしろ、はやてがこんな目に遭ったのは俺に責がある。

 昨日、警戒していれば現場に駆けつけることは可能だったかもしれない、それ以前にセルバンを殺せていれば、こんな事には成らなかったかもしれない。そして……。

 

 

――マナ……いっぱい…人殺しちゃった。お母さんも……お父さんも……ひっく、みんな泣いて…た!……うっく……みんな怖がってたの……!

 

 

 マナが言った言葉、これの意味することは自分の両親を手に掛けた。そういうことなんだろう。

 もしも、もしもあのデカブツが死者の魂を使って生み出されたモノだとして、八神夫妻が……何て事も有り得るかもしれない。そうなれば、彼らは何を狙う? 誰を狙う? 考えたくはない。考えたくはないが、可能性としては捨てきれないのも事実だ。その時は……。

 拳を強く握り締めたところでノックが聞こえた。扉の外には複数の気配。士郎さん達だ。

 

 

「失礼します」

 

 

「どうぞ」と声を掛けると昨日の愛紗と千冬、束、すずかを除いたメンツが部屋に入ってくる。

 

 

「どうしてここに?」

 

「ここに来ていると、大宮さんに案内してもらったんだよ」

 

「そうか」

 

 

 顔を見ないままに話を続ける。

 

 

「士郎さん、翠屋の方はいいのか?」

 

 

 今朝、テレビのニュースでやっていたことを思い出して聞く。

 

 

「今は何も出来ないからね」

 

「……そうか」

 

 

 結構物が壊れたし、取材なんかで五月蝿いらしいからな。

 あの事件は、当然大きなニュースになった。テレビ局や新聞記者が連日押し寄せてきて、修理工事もなかなか進まないらしい。聖祥まで押し寄せなのはとそのクラスメイトにも取材をするしまつ……。熱意は買うが少しやり過ぎな気もするな。

 

 

「……宏壱君、この娘は?」

 

 

 俺が見ているベッドの主を、俺の肩越しから覗きこんだ士郎さんが聞いてくる。

 

 

「八神はやて、俺の……友達だ」

 

「えっ!?」

 

 

 咲が驚きの声を上げた。

 

 

「咲、何だ?」

 

「ぁ……ううんっ!何でもないよっ、何でも」

 

 

 咲は誤魔化すように「あはは」と笑う。

 一体なんだ、はやてに何かあるのか? 魔力を感知したのか? だが、名前に驚いた感じだったな……。分からん。

 

 

「事故か?」

 

「ああ、警察の話では対向車が車線を越えて正面からぶつかったらしい」

 

「ご両親は?」

 

「即死……だそうだ。相手の運転手もな」

 

 

 恭也の質問に静かに答えてゆく。俺の考えが正しければ、はやては今かなり危険な状況だと言っていい。集中を切らすわけにはいかない。

 

 

「……お前らが暗くなる必要はなくないか?」

 

 

 全員が黙って部屋の照明と言うか、明るさが落ちた気がする。

 

 

「……だけど、この娘の親は」

 

「ああ、居ない。だけどな……俺が、俺達が寂しい思いはさせない」

 

 

 そこで振り返り、全員の顔を見る。

 

 

「そうか、何かあったら俺にも言ってくれ。力になるぞ」

 

「すずかと会わせてあげるのも良いかもね」

 

「もう一人娘が増えるくらいなら構わないよ」

 

「父さん……それじゃあ家の改築が必要になってくる」

 

「良いんじゃないかな? 家族が増えると楽しいよ」

 

「私も良いと思うな。一人はやっぱり寂しいし」

 

 

 上から、大宮先生、忍嬢、士郎さん、恭也、美由希、咲の順で喋る。お人好しだな、どいつもこいつも。

 

 

「盛り上がるのはいいが、全部はやてが目を覚ましてからだ」

 

 

 わいわいと盛り上がり始めた病室に再びノックの音。「失礼します」と入ってきたのは青髪をボブカットにした女医、石田幸恵先生。彼女は、はやての足を治すために尽力している人だ。

 俺がここに来た時、はやての傍にいて手を握っていた。一患者に親身になってくれるいい人だと思う。

 彼女ははやての主治医だ。患者を気にするのが仕事で、回復させることが目的。それで金を貰っている。それでも彼女からは仕事ということ以上に、はやてを気に掛ける節が見られる。

 

 

「大宮先生……これはどういうことですか?」

 

 

 部屋の人口密度に驚いていた石田先生が我に返り、にっこりと笑顔で大宮先生を見る。

 

 

「いや、石田先生、これは、だな」

 

「山口さん……だけですよね? 面会が許可されているのは」

 

 

 石田先生には俺は山口宏壱の兄の雄二だと伝えている。流石に同一名は無いだろ。

 

 

「う、む」

 

「まったく、もう」

 

 

 何も言えなくなった大宮先生にため息をついた石田先生は俺達を見渡し口を……来たっ!?

 

 

「「っ!?」」

 

 

 周囲の空気がさっきまでの和んだものと大きく変わる。気温が数度下がったのを瞬時に感じ取ったのは士郎さんと恭也、遅れて咲と美由希、俺達の様子が一変したことで異変に気付いた忍嬢と大宮先生 。状況が理解出来ていないのは石田先生だけだ。

 

 

〈御主君っ!〉

 

「無限、結界を張れ! 士郎さん達を除外するのを忘れるなよ!」

 

〈……〉

 

 

 無限に指示を出して力の流動を索敵する。返事はなかったが、結界が張られ周囲の気配が消える。

 

 

「気配が、消えた?」

 

 

 誰かが呟く。俺以外の声だ。

 

 

「……は?」

 

 

 声のした方へ視線を向けると、戸惑った表情の士郎さん達が居た。

 

 

「無限、何をしてんだ?」

 

 

 何故ここに士郎さん達が? 何て考える必要はない。誰がこの結界を張ったのか……自ずと答えは出る。

 

 

〈必要なことだと思いました。咎は受け入れます。ですが今は〉

 

 

 言い争う時間はない。これから俺が戦う相手を考えれば、無限の言いたいこともその理由も何と無く分かる。責めるのはお門違い……か。

 

 

「話は後だ。時間がない」

 

 

 そう判断して頭を切り換える。全部の説明は後だ。石田先生へのフォローは士郎さん達に任せる。

 

 

「え? え?」

 

 

 こういう事に縁がなかったんだろう。あってもどうかと思うが……。石田先生は戸惑いの色を浮かべ辺りを見渡す。

 

 

「無限、戦闘モードに切り換えてグローブだ」

 

〈御意……Battle Mode〉

 

 

 バリアジャケットを纏い感知を広げる。

 

 

「……外か……壁を……駆け上がってくる!」

 

 

 はやてが寝かされているベッドの左側には壁があり、海鳴大学病院の庭を一望できる窓がある。

 

 

「士郎さん、はやてを任せた」

 

 

 俺は返事を聞かず窓に向かって駆け出す。はやてが眠るベッドに足を乗せて跳ぶ。顔の前で腕をクロスして――ガシャアァァン!!――窓ガラスを破り屋外へと身を晒す。俺達がいた病室は三階、地上10m程の高さだ。だから、石田先生の悲鳴が聞こえたのはなんら不思議なことじゃない。

 クロスした腕の間から迫る敵を確認する。

 

 

「雷神槍!!」

 

 

 相手の位置を確認して、先手必勝と雷の槍を落とす。

 敵は壁から離れて飛び上がる。まるで空中に足場でもあるかのように、地上5m程で立ち俺を睨む。そうして俺ははっきりと奴の体躯を確認できた。

 盛り上がった筋肉はこれまでのデカブツ共と変わらず、肌は青色で胸部に向こうに突き抜ける空洞がある。だが、腕が二本ずつ左右にあり、頭も二つそれぞれ形の違う仮面を被っている。

 

 

「はやては殺らせねぇぞ」

 

 

 飛行魔法で宙に浮いたまま構える。アレが誰かはもう察しがつく。間違いなく彼らだろう。

 俺が殺したも同然だ……などと悲劇の主人公を気取るつもりはないし、その程度の罪に潰されるほど弱くもない。こんな事は過去に何度もあった。取り逃がした賊が近隣の邑を襲うなんて当たり前で、当然だったからな。

 

 

「……俺が犯した罪だ。だから、俺が眠らせてやる」

 

〔グウゥアアァァッ!!〕

 

 

 咆哮を上げながら駆け上ってくる。どんな原理かは分からねぇが、確りとした足場があるんだろう。踏み出す力が強い。

 

 

「ブレイク キャノン」

 

〈Break Canon〉

 

 

 深紅の魔力弾を20個周囲に配置する。そして、迫る彼ら目掛け……。

 

 

「シュートッ!」

 

 

 放つ。正面から、側面から、彼らを迂回して背後から、上から、下からとあらゆる角度から曲線を描きながら迫る魔力弾を意に介さず速度を緩めることなく駆け――ヂュドォォォンッ!――着弾する。

 爆風が巻き起こり、煙が舞うそこに次々と魔力弾が殺到して爆発を起こしていく。見ていて分かるのは、煙がどんどんこっちに迫っていることだ。

 

 

〔グオオオォォォ!〕

 

 

 煙を抜け、姿を現した彼らの仮面は罅割れていてその顔の鼻から上半分を見せていた。

 

 

「やっぱりか……」

 

 

 その二つの顔には見覚えがある。八神侑人さんと八神美果さんだ。余りにも予想通り過ぎて涙が出るな。

 

 

〈御主君……〉

 

「……分かってる」

 

 

 歪む視界で捉えた彼らは、俺を掴もうと腕を伸ばすところだった。

 

 

「おらあっ!」

 

 

 横に滑るように躱し、彼らが俺の前を通過する瞬間にその無防備な背中に拳を叩き込み地面に向かって落とす。

 彼らは地面にクレーターを作りながらも着地した。四本の腕と二本の足を上手くバネに使い衝撃を緩和したようだ。

 

 

「フリーズ キャノン!」

 

 

 すかさず俺は氷結変換で生成した氷の魔力弾を10個配置する。氷神槍よりも威力は劣るが操作性が高く連射も可能で使い勝手がいい。

 

 

「シュートッ!」

 

 

 フリーズ キャノンが放たれると同時に彼らは駆け出す。ジグザグに駆け上空から迫る魔力弾を躱していく。着弾したフリーズ キャノンは、地面を凍りつかせて冷気を振り撒くだけにとどまる。

彼らの向かう先は当然はやての居る病棟だ。

 

 

「ファースト ムーブ!」

 

〈First Move〉

 

 

 フリーズ キャノンを操作しながら加速して上空から彼らの前に降り立つ。

 

 

「雷神槍!」

 

 

 雷の槍を投擲するも跳んで躱され、俺を飛び越えて病棟の壁に着地してそのまま駆け上る。執拗にはやての許へ向かおうとするのは親としての想いが強いからなのか?

 

 

「行かせねぇっ!」

 

 

 彼らが二階まで差し掛かったところで、背後から背中に魔力を纏わせた飛び蹴りを叩き込み二階の病室の壁を破壊して屋内に入れる。

 

 

「おおおおおっ!」

 

 

 倒れ込んだ彼らに今が好機だと間髪容れず右手に魔力を纏わせて殴り掛かる。

 

 

〔グガァッ!〕

 

 

 彼らは即座に起き上がり俺の右拳を左掌を重ねて受け止める。

 俺は間近でその顔を見る。見て、しまった。二人の仮面は既に剥がれ落ち素顔を晒していた。その目は充血し、頬には透明な筋が出来上がっている。涙だ。彼らは化け物の仮面を被りその下で泣いていた。口から出る声は獣に成り下がった理性の欠片も無いもの……だが、そのは悲しみを湛え涙を流す人そのものだった。それを見た瞬間、心臓を鷲掴みされたように胸が苦しくなる。

 

 

〈御主君!!〉

 

 

 意図せずに力が抜けた。それを無限が叱責するも……遅い。

 

 

〔グオオッ!〕

 

「がふっ!」

 

 

 腹にズンッ!と衝撃が襲う。

 

 

「ごあっ!?」

 

 

 息が漏れ浮き上がった体に二度目の衝撃……そのまま天井にぶつかり、破壊して上の階へと身が投げ出される。

 

 

〈御主君!!〉

 

「ぐ、あっ……ごほっごほっ!」

 

 

 びちゃびちゃっと口から血が出る。内臓を傷つけたらしい。これは多分セルバンの能力、バリアジャケットを抜く効果のある攻撃だ。しかも威力が彼奴よりも強い。

 冷静に状況を判断しながら起き上がる。

 

 

「……くっそ」

 

 

 悪態を吐きながら目許を拭う。だが、視界は歪んだままで、クリアな世界を見せてはくれない。

 

 

〔ガアアァッ……〕

 

 

 下の階から跳んで上の階に着地した彼らは覚束なく立つ俺に近付き、一本の右腕を振り上げ……。

 

 

〔ガァッ!!〕

 

「くうぅっ!」

 

 

 躊躇いなく振り抜く。俺の顔面を狙ったそれは腕をクロスにして顔面を守った俺を吹き飛ばすには十分な威力が込められていて、俺の体は背後の壁を破壊して隣の病室に俯せに転がる。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 

 女性の悲鳴が耳朶に届いた。霞む目を周囲に向ければ、はやてを抱き抱え壁から離れている士郎さん、驚く忍嬢の前に立ち小太刀を抜いて構える恭也、唖然と俺を見る咲と美由希、口許を手で押さえ目を見開く石田先生、扉の向こうに避難した大宮先生だった。どうやらはやての病室に戻ったらしい。

 

 

「こう、いち……くん?」

 

「ぐぅっ……な、に?」

 

 

 声を発したのは石田先生だった。だが、あり得ない、俺は本名を名乗っていないぞ。士郎さんが説明した? 無いな、そこまで話すとは思えない。なら……。

 

 

〔グウウゥゥッ……〕

 

「っ!?」

 

 

 はっ、と顔を上げる。壁に出来た大きな穴から彼らはその巨躯を顕にする。

 

 

「っ……八神……さん?」

 

 

 またも聞こえたのは石田先生の声だった。はやての主治医をしているのなら八神夫妻と面識があっても不自然じゃない……が、今は不味い。気を引いたぞ。

 

 

〔グウウゥゥッ……〕

 

 

 懸念通り彼らは俺に向かう足を石田先生へと進路を変える。

 

 

「ひっ」

 

 

 石田先生は引き攣った声を上げ身を強張らせる。その表情は恐怖で染まった。

 

 

「「っ!」」

 

 

 石田先生の傍に居た咲と美由希が、石田先生を守る為に彼らの進路を塞ぎ構える。咲はクナイを逆手に持ち、美由希は小太刀を正眼に構える。だが、二人の手は恐怖からか震えていた。あれじゃあ鋭さのない攻撃になる。それに、魔力を纏わない物理攻撃は意味がないぞ……!

 

 

「ぐっ……ぉぉぉおおおっ!」

 

 

 魔力を体中に行き渡らせクラウチングスタートの要領で駆け出す。

 視線がさっきよりも低い。殴り飛ばされた時に『グロウ』が解けたんだ。

 

 

「雷神・剛砕拳っ!!」

 

〔グガァッ!!〕

 

 

 咲達の前に行くまでに彼らの側面に接近して、深紅の雷を左拳に纏わせ彼らの横っ腹を殴り付けて吹き飛ばす。バキィッ、と左腕から音が響き激痛が走った。

 

 

「がっ……つぅっ! ……折れたぁ……っ!」

 

 

 皹でも入っていたのか、殴り付けた衝撃で折れたらしい。

 

 

〔ギ……ア……〕

 

 

 だが、彼らにもそれなりのダメージを与えたようで、動きがかなり鈍くなっている。

 窓際まで吹き飛んだ彼らはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「フリーズ キャノン」

 

〔グ……ガァッ……!〕

 

 

 氷結弾で足を床に縫い止める。

 

 

「もういい……眠れ……眠って……くれ」

 

 

 俺の顎から滴が落ちるのが分かる。床を濡らすそれを拭うことなく、右腕を伸ばすと俺の足元に三角形の深紅の魔法陣が浮かぶ。

 俺を中心に広がったそれは強く輝き、雷と空気中の水分が凍てつく程の冷気を吹き出す。幸い無限が士郎さん達をシールドで覆い守ってくれている。ここは結界の中でもあるし、物を破壊しても外に影響はない。

 

 

「大丈夫だから……あんたらの仇は……俺が討つ。はやても……守るから……俺が……俺達が守るから……」

 

 

 魔力を集束していく。伸ばした手の前に光の粒が集まり始める。

 

 

「これって……砲撃魔法……?」

 

「咲……知ってるの?」

 

「うん、魔導師が使う切り札みたいなもので、撃てれば不利な戦況を一気に勝利に傾けることができる強力な魔法だよ」

 

「そんなのがあるんだ。魔導師ってすごいね」

 

「……うん」

 

 

 後ろからそんな声が聞こえる。

 

 

〔ググッ……ガアァァッ!!〕

 

 

 ダメージが回復してきたのか、彼らは大きく暴れだす。

 

 

「よせ……それは……溶けないし……砕けないぞ」

 

〔ギアァァッ!!〕

 

 

 彼らはそれでも暴れ続ける。

 集まる光の粒はやがて球体となりドッジボール程の大きさになる。それでも止まらずどんどん膨れ上がっていく。

 

 

「お休みだ……」

 

 

 球体は俺を包み込む程の大きさになる。準備は……整った。

 

 

「ブリッツ フリーレンッ!!」

 

 

 出来上がった球体を右拳を引いて思いっ切り押し出す。俺の拳に押し出されるように俺とは反対側が盛り上がり、そこから魔力の奔流が雷と氷雪を振り撒きながら撃ち出された。

 

 

〔ギアアアアアアアアッ!!〕

 

 

 悲鳴のような、断末魔の叫び声を上げて彼らは魔力の奔流に呑み込まれる。右腕は伸ばしたままで魔力を注ぎ込むものの、それを聞きたくなくて、見たくなくて目を瞑り顔を俯ける。だが、それではダメだと、心が叫ぶ。伝えることがあるはずだと言う。それに従って、想いを吐露する。

 

 

「絶対に……守るから!……赤鬼の……真名に誓って……!」

 

 

「だから!」と続けて閉じていた目を開け、確りと前を見る。

 

 

「安心して逝ってくれ……!」

 

 

 零れる涙はまだ涸れない。それでも、別れ際は笑顔が一番だとこれまでの人生で知っているから……笑う。二人が安心できるように、こいつなら娘を任せられると思ってもらえるように……笑う。

 

 

〔アァッ…アァッ…アァッ…アァッ…〕

 

 

 砲撃を放って1分程で悲鳴が遠くなり消えてゆく。そして、光の奔流の中から一瞬だけ二人の顔が見えた気がした。気のせいかもしれないけど……笑っていたように見えた。

 

 

「くっ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 砲撃が止まり集めた魔力も尽きた。終わった。

 

 

「む……げん、結界の……はぁっ……」

 

〈……御意〉

 

 

 息が続かず言葉が途切れるも、意図を察して無限は結界を解く。壊れた壁や罅割れた天井、床、砲撃に巻き込まれ消失したベッドも元に戻る。

 

 

「くぅっ……!」

 

 

 痛む左腕を右手で押さえ、士郎さんに抱き抱えられ穏やかな寝息をたてるはやてに覚束ない足取りで近付く。

 

 

「はや……て」

 

 

 はやての頬に右手を伸ばし、そっと撫でる。

 

 

「宏壱君……君は……大丈夫なのか?」

 

 

 心配して声を掛けてくれる士郎さんに、にっと笑ったところで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

side~???~

 

 時刻は深夜、ここはオフィスビルが建ち並ぶ市街地、その路地裏では多くの血が辺り一面に付着していた。

 

 

「まだ、足りませんねぇ。やはりこの力の大元であるあの少年の魂を喰らうしかありませんかぁ……」

 

 

 光揺らめく球を口に含みながら男は言う。その球は周囲に転がる人であったものの魂だ。彼らは、深夜遊び回っている近くの高校の学生だ。その若い命は、呆気なく、運悪くここで閉ざされた。

 

 

「さぁて、彼は何処に居るのでしょうかねぇ……」

 

 

 男は不気味な笑みを溢して去る。新たな力を求めて……。

 

side out




ふぅ……何だか暗い話に……いえ、それを決めるのは読者様ですね。

と言うわけでマキア・セルバンが起こした事件はいよいよクライマックスです。何話後とは明言できませんが、終わります。ですが!原作はまだまだ先です!

愛想つかさず、最後まで読んでいただければ幸いです。

では、また次回お会いしましょう。
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