side~はやて~
「……っ!?」
目が覚めた時に感じたのは頭に響く鈍痛やった。
それから暫く何もできひんとぽーっと天井を見とるだけ。
真っ白な天井で、私の部屋の物とちゃうってことは直ぐ分かった。
「……はやてちゃん!」
どっかで見たことある天井やな~、って考えてると部屋中に女の人の声が響く。聞き覚えのある声で、そっちに目を向けると石田先生が
「あ~、石田先生や~」
妙に間延びした声が自分から出る。声もちょっと掠れててなんか喋り
長い間喋らへんとこんな感じになるんやと思う。
「はやてちゃん……状況、分かる?」
私が寝かされてるベッドの傍まで来た先生は、目を潤ませて私の顔を覗き込む。
「なんで石田先生泣きそうな顔してるん? なんか悲しいことでもあったん?」
私が聞いても先生は目尻に涙を溜めて私を見下ろすだけやった。
「先生……?」
呼び掛けても先生は反応返してくれんと、私の背中に両腕を回して抱き締める。まるで割れ物を扱うみたいに……。
1、2分くらい経ってから先生は目尻に浮かぶ涙を人差し指で
「……今、山口さんを呼んでくるから待っててね」
そう言葉を残して先生は部屋を出ていった。
そこで改めて部屋の中を見回す。清潔間のある白い壁、カーテンも白い、机も白い、ベッドも白い、白、白、白……ほぼ白で統一された色調の部屋。若干鼻に突く薬品の臭い。どない見ても病院の部屋やった。
「私、どないしたんやろ……?」
なんで病院なんかに
「……ぅっ!?」
記憶を振り返ると、寝起きに感じた鈍痛が私の頭に響く。
「……あかん、思い出されへん。考えると頭痛なる……っぅく」
何があったか思い出されへん。思い出されへんけど、胸が……苦しいぃっ!
「ひっく……あれ……? なんで、私泣いて……るん……?」
よう分からへん。でも、涙が止まらんようなって……。
――あなた……! 前!
――なんや、あれ……。
「……っ!?」
耳の奥にお母さんとお父さんの声が響いた。ここには居らへん筈やのに……。
――こっちに来よる……!
――はやてっ!!
今度は声だけやなくて、その光景が見えた。
私に覆い被さるお母さん、その肩越しには車の運転席と助手席。車を運転するお父さんの頭。
そんで、その奥のフロントガラスにはこっちに迫ってくる強い明かり。
――避けれへん……!
お父さんのその叫びと同時に衝撃が私らを襲う。
目を開けてられへんでギュッと瞑っていると……。
――生きてな……はやて。
最後にお母さんの声が聞こえた。
「――――っ!?……はっ……はっ……はっ……」
そこで意識が現実に戻った。
心臓が……バクバク……ゆうて……息が上手く出来ひん……っ!
「お父さん……! お母さん……!」
目の前がどんどん暗くなって、何も見えへんようになった。
side out
side~宏壱~
石田先生の言葉を聞いてからの俺の行動は早かった。
即座に『グロウ』で大人の姿になり士郎達を置き去りにしてはやての居る病室へと向かう。
「はやて!」
ものの数分で別病棟にあるはやての病室に辿り着いた俺は、閉じられていたドアを開けて中に入る。
そこに居たはやてはベッドの上で起こした体を、寒さに震える自分を温めるように肩に手を置き抱き締めて背中を丸めて縮こまっていた。
「……はやて」
何を言っていいのか分からないが、話をしないと何も出来ない。そう判断した俺は、静かにはやてに呼び掛けながら近付く。
「はやて」
はやての傍まで来た俺は、そっと彼女の肩に手を置く。ビクッと体を跳ねさせたはやては驚きに目を見開いて俺を見上げる。
目からは涙が溢れてシーツを濡らしている。呼吸も少し荒いが過呼吸って程じゃないな。
小さな手と重なった俺の手には彼女の体温が伝わる。でも、その冷たさに驚く。まるで氷に触れた後みたいだ。初夏に入った今、ここまで冷えることはない。
「コウ兄……ちゃん……コウ兄ちゃん……!」
俺を見上げるはやての目から流れる涙の量が増え、自分の肩に回していた手を俺の胸に置いて服を握り締める。
「はやて……」
俺に何が出来るだろうか? 家族を失ない、独りになったこの娘に何をしてやれるだろうか?
答えが見えないまま、俺は独りの寒さに震えて温もりを求める少女の頭を自分の胸元に置いて強く抱き締めてやる。
「うっく……ひっく……うあぁぁあああ」
「……」
ただ抱き締める。慰めの言葉を持たない俺にはそれしか出来ない。
はやての泣き声だけがこの部屋に響き渡る。
どれくらい時間が経っただろうか?1分か、10分か、1時間か。長いかも短いかも分からない時が流れ、いつの間にか泣き疲れたのか、俺の腕の中ではやては静かな寝息を立てていた。
「……すぅ……すぅ……すぅ……」
「離してくれないな」
俺の服を握り締めるはやての手は、解けずにずっと握り込まれたままだ。決して安眠とは言えない苦悶の表情を浮かべるはやては、見ていて痛々しい。
俺とはやて以外この部屋には居ない。はやての寝息と身動ぎする音、それと備え付けられた壁時計の秒針が動く音だけが病室に響く。
士郎達は気を利かせて病室に入ってこない。部屋の外に三つの気配があるから居るのは間違いないけどな。
はやても寝たし呼び込んでもいいが、何と無く今はこうして二人の時間を過ごしたいと思った。
〈〈……〉〉
うん、別にお前らが居ること忘れてる訳じゃないから、無言のプレッシャー掛けるのやめてくれ。
「ぅう……ん……?」
寝ていたはやての瞼が持ち上がる。その目は俺を捉えているのか、いないのか、暫くさ迷った後、俺の目を見て……。
「……コウ……兄ちゃん……何処にも……行かんといて……」
譫言のように呟いて「独りは……嫌や……」そう続けてまた瞼が落ち始める。また寝るんだろう。瞼が落ちきる前に、伝えることを伝えないとな。
「大丈夫だ……ここに居る。お前を守ると約束したんだ。大丈夫だ……大丈夫」
聞こえたのか、聞こえていないのか、定かではないが、再び眠りに就いたはやての表情は少し和らいでいるように見えた。 <input name="nid" value="42387" type="hidden"><input name="volume" value="50" type="hidden"><input name="mode" value="correct_end" type="hidden">
今話もかなり短めです。取り合えずはやてのお話はこれで終わりですね。次回からは宏壱も退院して学校に復帰です。
シリアスに書けたかどうか、不安なところではあります。ひょっとしたら、はやての心情を書ききれていなかもしれません。多分、思うことがもっとあるのかもしれません。
これが自分の限界と言えばそこまでですね。もっと上手く書けたら……!とも思いますが、これ以上は厳しそうです。
大事な場面ではありますが、引っ張りすぎもよくないと思いました。
では、また次回お会いしましょう。