リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第四十七鬼~赤鬼、感じる視線~

side~宏壱~

 

「ふぅ」

 

 

 溜め息を吐きながら俺は窓際の最後尾にある自分の席に座る。

 

 

「お疲れ様、宏壱君」

 

 

 くすくすと笑いを溢しながら咲が俺の席までやって来る。

 

 事件解決から五日後に俺は退院して、六日目の今日、学校に登校していた。

 学校では事故に遭ったと話が広められていて、軽傷ながらも強く頭を打ったから念のための検査入院、って事になっていたらしい。

 

 

「でも仕方ないよね。みんな心配してたんだもん」

 

「いや、別に嫌な訳じゃ無いんだけどさ。ああも質問攻めにされるのは、な」

 

 

 さっきまで、教室に入って直ぐにクラスメイトに囲まれるという大きな退院祝いを味わっていた。

 

 

「心配掛けた罰だよ」

 

 

 そう言って咲はまたくすくすと笑う。

 

 

「そーなんだけどさー。……ん?」

 

 

 咲と会話していると、複数の視線を感じた。クラスの三分の一の男子が俺達をチラチラと伺っている。

 男子17人、女子28人の45人がこのクラスの総数だ。5、6人の視線が集まれば敵意がなくても……いや、俺に対する嫉妬みたいなのが混ざってるから敵意はあるのか?

 兎に角、気になる。が、無視できないものでもない。

 

 しかしその中に俺達、正確には俺を観察するようなものがあれば話は違う。敵意は無いが、興味、好奇心、疑心、みたいなのが綯い交ぜになった視線は気分のいいものじゃない。

 視線を感じる方にそれとなく目を向ける。そこには同じクラスの女子、灰色の髪を肩甲骨まで伸ばし、目は大きくくりっとした可愛らしいもの、肌は白くて頬なんかは餅肌みたいにぷにぷにしてそうだ。

 何よりその胸部は小学3年生にしてBカップ……らしい。女子が教室で大声で叫んでいたのを聞いたことがある。

 話をしたことはないが、咲が昼飯を一緒に食べているのを何度か見たことがある。

 

 

「宏壱君? どうしたの?」

 

 

 会話はしているものの、少し反応が鈍くなった俺に咲が声を掛けてくる。

 

 

「いや、視線が……な」

 

「視線……?」

 

 

 「何でもない」と手を振って机に突っ伏す。直に眠気に襲われて、俺は「みんな~席について~」と言う担任の声をBGMに、その眠気に身を任せるように意識を手放した。

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 昼休みを告げるチャイムが鳴る。何と無く耳に残る響きで、脳を覚醒させる不思議な音を出す。

 

 

「……昼(めし)か」

 

 

 回りを見れば、思い思いに机をくっつけ合ってグループを作って弁当の用意をする者、他のクラスに友人を呼びに行く者、外に食べに行く者と分かれて好きに過ごす。

 咲の方に視線をやれば、彼女も自分の友人と机を合わせて食べるらしい。

 俺は……。

 

 咲と一緒に食べる。

 

 教室を出て人気の無い場所で食べる。←

 

 教室を出て人気の無い場所で食べることにした俺は、弁当箱の入った包みを抱えて席を立つ。

 

 

「何だ今、電波が……」

 

 

 一瞬迷走した作風に違和感を覚えながら教室を出る。

 向かう場所は校舎裏。人気の無いあの場所は内緒話(・・・)をするにはもってこいだ。

 

 

「でね、その時お兄ちゃんが――」

 

「あはは、何よそれ。恭也さんのシスコンぶりも相当ね」

 

「それだけあの人がなのはや美由希さん、咲さんの事を気に掛けてるってことだよ」

 

「くすくす、そうだね。……あ」

 

 

 幾つかの聞き覚えのある声が前方から聞こえてくる。と言うか、勝ち気そうな少女以外の声は知っている。

 

 

「……」

 

「すずか……? どうしたのよ?」

 

 

 長く紫がかった黒髪にカチューシャをした少女、月村すずかと目が合う。

 すずかは急激に顔を赤くして立ち止まり顔を俯けた。ただ、視線は床と俺を交互に行き来している。

 それを訝しんだ勝ち気そうな金髪の少女がすずかに声を掛けるが、すずかは同じことを繰り返すだけで言葉を返さない。

 

 

「あの……! こ――」

 

 

 同行者の三人、なのは、大輝、金髪少女が何を見ているのかと、すずかの視線の先に顔を向ける――前に、すずかが意を決したように顔を上げて声を張る。

 何と無く反応で何を言おうとしているのか分かった。だから……。

 

 

「お誘いはまた今度だ。それと、俺の事はなのはには秘密だ。事情はまた今度説明するから、今は友人との時間を楽しめ」

 

「――っ!?」

 

 

 すずかの目が見開かれる。その横で驚いている大輝と、俺が来た方向の柱の影から息を呑む音が聞こえた。

 簡単なことだ。なのは達では知覚できない速度ですずかの横を通っただけだ。通り過ぎる際に先程の言葉を落としていった、ただそれだけの話だ。

 

 

「何もないじゃない……どうしたのよ? すずか」

 

「??? 今、何処かで聞いたことのあるような声が……?」

 

「な、何でもないよ! ほら、屋上に行こ?」

 

「ぼ、僕もお腹すいたな~」

 

 

 角を曲がって階段を下りる前にそんな言葉が聞こえた。

 にしても、流石士郎の娘だな。あの数瞬の音を拾えるのか……。咲以上に戦闘の才能が有るのかもな。

 少しなのはの潜在能力に薄ら寒いものと、鍛えたらどれだけの強者に成るのかというワクワク感を感じながら下駄箱に辿り着いた俺は、靴を上履きから運動靴に履き替える。

 

 

「……さて、と。飯を食う前に」

 

 

 校舎裏に来て服が汚れるのも構わず、綺麗に手入れされている芝の上に腰を下ろす。

 聖祥は人目に付かないところまで確りと人の手が加えられていて気持ちがいい。

 

 

「相川、俺に何か用か?」

 

 

 教室を出てからずっと俺をストーキングしていて、今も曲がり角からこっちを窺う相川に声を掛ける。

 

 

「……貴方は何者?」

 

 

 姿を見せた相川は口を開くとそう言う。不躾で率直な問いに苦笑いが漏れる。しかし、だからこそ分かり易くて好感が持てた。

 

 

「さぁな。素直に答えると思うか?」

 

「……」

 

 

 相川はキツく俺を睨む。安い挑発だ、それに敢えて乗ったんだろう。

 徐々に相川の体に力が入っていく。雰囲気からして戦い慣れているのが分かる。

 

 

「……70%」

 

 

 今の呟きは何だ?魔法……の類いじゃないな。魔力に近い物はあるが俺にあるようなリンカーコアじゃない。似通ったナニカだ。でも、それで強化した訳じゃないな。

 

 

「っ!」

 

(速いっ!)

 

 

 相川の中にある力の考察をしていると、相川は姿勢を低くして俺に肉薄する。

 相川との距離は8m。相川は一歩で半分の距離を潰した。

 力の正体が分からない以上受けるのは得策じゃない。

 

 

「ふっ」

 

 

 俺はニヤリと不適な笑みをわざとらしく浮かべ……………………弁当の包みを開けて蓋を取る。

 

 

「は……?――――うわぁっ!?」

 

 

 呆気に取られた相川は気の抜けた声を出し、二歩目を踏み出した足の力が抜けたのか、膝が折れてすっ転んだ。

 土煙を舞わせ、野球選手のヘッドスライディングのように俺の前を滑っていく。

 

 

「おい、埃が散るだろうが」

 

「誰の所為で……!」

 

 

 勢い良く立ち上がった相川は思いっ切り顔面を打ったのか、鼻頭と額を赤くして涙目で俺を睨む。

 

 

「もぐっ…………うん、今日も旨いな」

 

「聞きなさいよ!」

 

 

 四段重ねという少し大きめの弁当箱の中身に舌鼓を打っていると、相川がくりっとした目を釣り上げて怒った表情で近付いてくる。

 

 

「話なら後にしろ。今は飯時だ」

 

「~~~~っ!」

 

 

 顔は弁当に向けたまま視線だけで相川を見て静かに告げる。俺は逃げも隠れもしない、そう伝えるために。

 

 

「……はぁ、分かったわ。放課後、ここで話しましょ」

 

 

 それだけを告げて相川は俺に背中を向けて去っていく。弁当箱は見当たらなかったからな。教室に戻ったんだろう。

 俺はそう勝手に解釈して、食事を再開した。

 

 

 

 

 

 ――放課後・校舎裏――

 

 

「……………………来ないじゃない!!」

 

 

 灰色の髪の美少女の怒声が校舎裏で虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 何処かで誰かが叫ぶ声が聞こえた……様な気がする。

 

 

《宜しかったのですか?》

 

 

 昼からの授業も滞りなく終えて今は放課後だ。

 そんな下校途中に、俺の首に掛かっている白の宝玉が嵌め込まれた十字架のネックレス、刃から念話で話し掛けられる。

 

 

《何がだ……?》

 

《彼女のことです》

 

 

 彼女という言葉に心当たりはある。と言うか、相川以外に有り得ないだろう。

 

 

《良いんだよ。このタイミングでの聞きたいこと、しかも力ずくでと来たもんだ。前の掃討作戦以外に考えられねぇ》

 

 

 一週間前に行ったマキア・セルバン討伐のとデカブツ共の駆逐作戦、多分それを見たんだな。

 何かの拍子に結界に取り込まれた可能性が高い。そして、俺が戦っているところを見られた。そういうことだろう。

 

 

《まぁ、説明も面倒くせぇし、危害がないなら放置しても構わんでしょ》

 

《……》

 

 

 肩を竦ませて言う俺に刃は呆れた視線、この場合は気配か? そんな念を送ってくる。

 

 

《刃、御主君にもお考えがあってのことだ。小言は必要ないだろう》

 

《……分かりました。もう何も言いません》

 

 

 本当に面倒臭いだけなんだが……まぁ、勘違いしてくれるならいいか。

 

 それからは特に会話もなく、のんびりと家路を辿るだけ……だったんだが、家の門が見えてくると二つの人影が門の前に立っていた。

 

 

「何やってんだ、お前ら」

 

 

 二つの人影に声を掛けながら近付く。

 

 

「……あ」

 

「宏壱君、お帰り」

 

 

 俺に気づいた二つの人影、咲と大輝が同時に俺を見る。

 

 

「それで、何のようだ。今日は鍛練の日だったか?」

 

「違うけど、大輝くんが話があるんだって」

 

「大輝が……?」

 

 

 咲の言葉を聞いて視線を大輝に移す。黒髪に黒目、典型的な日本人の容姿だ。どちらかと言えば、中性的な顔立ち、このまま大人になれば美男子間違いなしだろう。

 

 

「まぁ、いいや。取り合えず入れよ。茶でも出すぞ」

 

「うん」

 

 

 二人を引き連れて門を潜る。玄関まで続く石畳を踏みながら何の用があるのかと考えるが、話の詳細が聞きたいか鍛えてくれと頼み込んできたのか……そのどっちか、他に理由があるのか、まぁ、何れにしろ答えてやるしかないだろう。

 

 

「今日、桃香さん達は?」

 

「ああ、みんな用事でな。今日は俺一人だ」

 

「そうなんだ」

 

 

 靴を脱いで玄関を上がり居間に続く廊下を歩いていると、咲から質問が投げ掛けられる。

 今日は俺を除いた蜀陣営で管理局に出向いている。何でも大きな研究所を摘発するらしい。

 たしか『プロジェクトF』……だったか、その技術を利用した戦闘機人の製産プラントに向かうとかって話だ。

 かなり大掛かりな任務らしいからな、人数が多い方が良いらしい。しかも、超一流の奴等がぞろぞろと向かうんだ。そこの研究員共には同情を禁じ得ないな。

 

 

「座って待っててくれ」

 

 

 居間に二人を通して適当に座らせた俺はキッチンへ向かい、冷蔵庫に入れてあった緑茶のペットボトルから用意しておいた三つのマグカップにお茶を入れて、それをお盆に乗せて居間まで持ってきた。

 

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

「お構い無く」

 

「……どうも」

 

 

 二人の前にお茶の入ったマグカップを置いて向かいの席に胡座をかいて座る。

 

 

「……で、話ってのは?」

 

 

 お茶を一口すすり、視線を大輝に向ける。大輝は俺の視線を受け止めて、真剣な目で見返す。

 

 

「この子を受け取ってほしいんです」

 

 

 そう言った大輝の傍らには、いつの間に居たのか、白髪の無垢な少女がちょこんと座り、ヴァイオレットの瞳で俺を見ていた。




ヴァイオレット……エストの瞳をどう表現しようか悩んで原作を読み返した結果、原作に合わせることにしました。。

今回登場した彼女、相川歩(あいかわ あゆみ)ちゃん。~赤鬼転生記~で以前に名前だけは登場していたこの子が登場する作品を知っている方なら、直ぐに正体が分かると思います。
彼女が登場したとき「新キャラか!」と思ったのは自分だけではないはず……!

それはさておき、次に宏壱が接触する種族は彼女の家族から繋がっていきます。さてさて、どうなることやら。

では、また次回お会いしましょう。
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