リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第四十八鬼~赤鬼が鍛える~

side~宏壱~

 

 予想外の言葉が大輝から放たれた。それは咲も同じらしく目を白黒させている。

 

 

「待て、ちょっと待て。何だ、どういうことだ?と言うか、誰だその少女は」

 

 

 突拍子が無さすぎるぞ。落ち着け、COOLになれ俺。整理しろ。今の状況を整理するんだ。

 

 学校が終わって帰ってくると、家の門の前で咲と大輝が待っていた。

 大輝が話があると言うので家に上げて市販の緑茶(ペットボトル)を出した。

 いざ話を聞くと。

 

 

「この子を受け取ってほしい」

 

 

 大輝がそう言うと、どこからか現れた白髪の少女が大輝の横に座っていた。

 

 …………分からん! 一切分からんぞ! 何だ! どういう状況だ! 俺は今人身売買の現場に居るのか!? それとも売春か!! こんな10歳いくかいかねぇかの少女を売るとはふてぇ野郎だ! 御天道様が許してもこの『赤鬼』が許さねぇ――〈あなた、人ではありませんね?〉――ぞ……は?

 

 

「ど、どういうことだ?」

 

〈御主君、この少女は人の気配をしていません。生命反応は確かに有りますが、波長が人のそれとは明らかに異なります〉

 

 

 無限の言葉で、よーく目の前の少女の気配を探る。

 確かに、人とは違うな。何が違うか?と聞かれれば穢れがない。俺はそう答えを返すだろう。

 どれ程聖人のような人間でも欲望、煩悩は存在する。それをどれだけ理性で抑えられるのか……これで決まると俺は考えている。

 だが、目の前の少女はどうだ? 見聞色の覇気を使っても思考に穢れが混じっていない。

 生物であるのなら欲望はあるんだろうが……。

 

 

「はぁ、詳しく聞かせてくれ。話を聞かないことには、どうこうなんて言えんぞ」

 

「……? 分かりました」

 

 

 混乱する俺の様子に首を傾げていた大輝は、気にするのをやめてお茶を一口飲む。

 こいつ結構他人の感情の機微に疎いんじゃないか?

 

 

「その、山口さんは分かっていると思いますが、僕は転生者です」

 

「「……は?/……え?」」

 

「……え?」

 

「……??」

 

 

 俺と咲の気の抜けた声が重なり、それを受けて大輝は疑問の声を上げる。少女も意味が分かっていないのか、可愛らしく首を傾げた。

 

 

「何の話だ……?」

 

「……あれ? 山口さんじゃ、ない?」

 

 

 大輝は何の話をしているんだ? 今の発言からして、大輝が転生者であることは疑う余地もない。

 何で俺が大輝を転生者だと理解している風な言い方だ?

 

 

「……あの~」

 

 

 思考の海に沈みかけたところで、咲がおずおずと手を上げる。

 

 

「多分なんだけど、大輝君が言ってるのって私、じゃないかな?」

 

「え……? 咲さん、が?」

 

「うん、大輝君は金髪の女の人に転生させてもらったって事でいいのかな?」

 

「はい、そうです。どうしてそれを咲さんが……?」

 

「どうしてだと思う?」

 

「……まさか!」

 

 

 大輝はまさに驚愕、といった表情で隣に座る咲に顔を向ける。

 

 

「その話は後でやってくれ。19時には家を出るんだ」

 

 

 今の時刻は17時30分。19時30分にははやての見舞いに行く事になっている。

 面会時間は夜の22時まで、2時間ほど会話して終わりだ。

 入院時は大体そんな感じで過ごしてた。はやても一週間後には退院だって話だし、なるべく一緒にいてやらないとな。後二ヶ月程で管理局にも復帰しないといけない。一緒にいてやれる時間が減るのは確実だからな。

 

 

「あ、はい」

 

「分かったよ」

 

 

 仕切り直し、そんな感じで居住まいを正し俺達は向き合う。

 

 

「……改めて、僕は転生者です。前世は大学に通っていましたが、気付けば一面真っ白な空間にいたんです。そこで、僕は女の人に出会いました。その人は僕に転生を勧めました。前世では両親もおらず、親戚もいない、恋人も、友人らしい人も居なかった僕は未練もなかったので首を縦に振ってこの世界に生を受けたんです」

 

「なるほど。経緯は分かったが、さっきのお前の発言とどう繋がるんだ?」

 

「今から話します。……転生してもらう際に僕は二つの特別な力を受け取りました」

 

「それは特典ってやつか?」

 

 

 少し前に咲が言っていたことを思い出しながら言葉を挟む。

 

 

「はい……知ってるんですか?」

 

「咲からそれらしいことは聞いたことがある」

 

「それなら話は早いです。僕はその特典に力を望みました。『BLEACH』という作品で、主に死神と呼ばれている人達が扱う鬼道。『ドラゴンボール』という作品に出てくるサイヤ人と呼ばれる種族の肉体、大猿化や彼らの弱点とも言える特徴、尻尾は無しで」

 

 

 それらのマンガ? 小説? アニメ?……どれかは分からんが、そういった作品の能力と、恐らくだが超人的な肉体を得たって事で良いんだろうか?

 今は聞ける雰囲気でもないし、後で聞いてみるか。

 

 

「僕は二つの特典を極めるために修業に励んだんです。並大抵の物じゃなかった。そう自負した内容ですけど……あの男には通用しなかった……!」

 

 

 肩、上腕筋に力が入るのが見える。俺と彼を隔てる机に隠れて見えないが、その手はキツく握り締められているだろう。

 悔しさか、情けなさか、無力感か、何れにせよ彼が今後大きく飛躍するのは間違いない。

 

 

「それだけじゃないんです! 僕の力が今回の事件の元凶だったんです……!」

 

「何……?」

 

 

 空気が冷える。こういう状況は何度目になるのか……。

 顔を強張らせる咲とピクリと反応した白髪の少女。

 

 

「僕の鬼道は魔力を使用していません。所謂、霊力と呼ばれるものを扱うんです」

 

「霊力……なるほど、読めたぞ。だから、マキア・セルバンは幽霊となった者達を化け物に変えることが出来たのか」

 

「はい……何かしらの力を使って、僕の修業跡から霊力の残滓を回収したんです……!」

 

 

 それで、自分の所為……か。

 マキア・セルバンの能力は正滋から聞いている。聖書の神が作り出したシステム、『神器(セイグリットギア)』を身に宿したはぐれ神父。

 その『神器』は相手の力をコピーする能力を持っていたらしい。しかも、応用と改竄ができる上に、ワンランク上に能力を進化させることさえできる凶悪なものだった。

 俺の力自体は魔法術式で組まれていて複雑なものになっている。基本俺達魔導士の使う魔法はマルチタスクが必須条件だ。それだけ多くの思考をしないと処理しきれないし、理解も到底できるものじゃない。デバイスに補助してもらったとしても、使用者にそれが必要なくなった訳じゃない。

 ましてや、デバイスも持たず、マルチタスクすら扱えないマキア・セルバンがどうこうできる代物じゃない。

束なら或いは、と思わなくもないけどな。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 ひとつ溜め息を吐いて纏った怒気を霧散させる。それにほっと胸を撫で下ろす咲と少女。大輝は俺の様子の変化に気づいていなかった。疎すぎるぞ。

 

 

「話は分かった。それで、その話とその少女を譲るというのがどう繋がるんだ?」

 

「この子はデバイスなんです」

 

「ええっ!?」

 

 

 大輝の言葉に驚きの声を上げようとしたが、その前に咲が驚いて間抜けにも口が半開きの状態で止まり、上げようとした声を飲み込むことになった。

 

 

「……ユニゾンデバイスってやつか?」

 

 

 人型のデバイスで思い浮かぶのはそれだ。実物を見たことはないが、その殆どが幼い少女の姿形をしていたと聞く。だからこそそう思って聞いたんだが……。

 

 

「いえ、違います」

 

 

 首を横に振って否定された。

 どうやら違うらしい。と言うか、大輝も知ってるんだな。ユニゾンデバイスの事を。

 そういえば、咲とも転生がどうのって話したことがあったな。あの時、咲は何て言った?

 

 

――それは原作で……あ、ワンピースを知らないんだよね。じゃあ、リリカルなのはも知らない?うんん、そもそも私の知ってるアニメ自体が無いのかも。

(第二十九鬼~咲の修行part2~参照)

 

 

 原作、リリカルなのは、知ってるアニメ。この世界はアニメを元にした世界、か? しかも、なのはを主人公にした? だから、転生者が集まるのか?

 そこまで考えてカチリと何かが嵌まった。今回の事件、すずか誘拐……恐らく、これらはその原作とやらにはなかった事態だ。あればどちらかが必ず動いている。

 それに、咲の強くなりたいというのは準備か。なのはが必ず巻き込まれると予想……ではなく最初から、それこそ、この世に生を受ける前から知っていたからだったのか。

 

 

「この子はデバイスはデバイスでも精霊なんです」

 

「せい、れい……?」

 

 

 咲が鸚鵡返しに大輝の言葉を復唱する。俺も聞いたことのない単語に首を捻るしかない。

 

 

「はい。とある特定の次元世界、そこから『アストラル・ゼロ』と呼ばれる異世界に行けるそうなのですが、その異世界でしか生まれない種族なんだそうです。高密度の魔力素が集合してこの世に顕現するデバイス。『スピリッツデバイス』です。生物の形をとる彼らは武器にもなります。謂わばデバイスと使い魔を足して二で割ったような感じでしょうか。そして高位の精霊は人の姿になり言語を介する程の知能を持っているんです。人工的にではなく、自然現象で彼女、彼らは生まれてくるんです」

 

「それをお前はその少女から聞いたのか?」

 

「はい。この子はテルミヌス・エスト。高位の剣精霊です。『スピリッツデバイス』は誰でも扱えるというものではないそうです。魔導士の中でも特別に資質の高い人にしか反応しないんです。僕には少しだけ適性があったみたいですけど、それじゃあエストの力は完全には引き出せなくて……多分、山口さんなら」

 

「……なるほど」

 

 

 俺は頷きながら大輝の真意を考察する。

 恐らく大輝は戦力増強のために俺に少女、テルミヌス・エストを譲る。そう考えている。原作とやらがそれほど危険な内容なのか、今回のような不確定要素を懸念しているのか……。

 

 

「僕には力がありません……! 鬼道を使えても! サイヤ人の体を持っていても! 考えが甘くて、努力が足りなくて! エストのマスターになる資格なんて僕には……!」

 

 

 懺悔のように聞こえる悲痛なその声は居間に響く。咲は痛ましそうに大輝を見つめ、エストはそんな大輝の顔を無表情で見ている。

 

 

「話は理解した。ただ、エスト、君はそれで良いのか?」

 

 

 大輝を見ていたエストの目がこっちを向く。相も変わらず無表情だが、その瞳が揺れたのを俺は見逃さなかった。

 

 

「私は剣。主に従うだけ、です」

 

 

 清んだ声だ。心が清らかでどこまでも透き通っている。

 

 

「ふぅむ……んじゃ、断るわ」

 

「……なっ!?」

 

 

 胸の前で腕を組んで10秒程思考して結論を告げる。

 大輝は予想外だったのか、驚きに目を見開いていた。

 

 

「ど、どうしてですか!?」

 

「落ち着けよ」

 

 

 立ち上がって抗議の声を上げる大輝に、両掌を向けどうどうと馬を落ち着かせるようにする。

 

 

「まず、俺にはこいつらがいる」

 

 

 大輝とエストによく見えるように、首に掛けてある二人の相棒を手に持つ。

 

 

「こいつら以外に俺の補助はいらねぇ」

 

〈恐悦至極に存じます〉

 

〈矛冥利に尽きるというものです〉

 

 

 歓喜の表れか、俺の手の上でブルブルと震える。

 

 

「でも、僕は――」

 

「俺が鍛える」

 

「……え?」

 

 

 そうだ。簡単な話だろ。その資質とやらが、鍛えてどうにかなるのかは分からねぇ。

 

 

「俺がお前を強くしてやる。どうだ?お前を一流の戦士にしてやるぞ」

 

 

 言葉を無くし唖然と俺を見る大輝。苦笑いをする咲。無表情ながらも安心したように静かに息を吐くエスト。

 俺は自分でも分かる程に獰猛な笑みを浮かべてそんな三人を見ていた。




最近、更新が早いですねぇ。その分短くなっていますが……。

さて、エストは大輝の元に止まりました。
彼がマキア・セルバンと交戦した際に、大輝をマスターとして少し認めています。
無理に立ち向かうのではなくて、逃走を選んだことが大きな理由です。
敵わない相手に戦いを挑むのは、退いてはならない時だけです。あの時、大輝は無理に立ち向かう必要はありませんでした。
色々と疎いからですが、状況把握は確り出来ていたようです。

では、また次回お会いしましょう。
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