リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十鬼~赤鬼の追走劇~

side~宏壱~

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 終業のチャイムが鳴り響く。俺は机の横に掛けてあるスクールバッグに手を引っ掻けて、教室の入り口に向かって放おる。

 この時留め金をはずして鞄を開けるのも忘れない。

 今日持ってきていた教科書、ノート、筆箱を開いた鞄に向かって投擲、直ぐに鞄に追い付いて寸分の狂いもなく収まった。

 更に机の合間を縫って低い姿勢で駆ける。世界は止まり、動いているのは俺だけ……ではなく、灰色の髪をしたクラスメイト、相川歩も遅いながらも確りと行動していた。チラリと視線をやれば、筆記用具を全て鞄に入れたところだった。

 それを確認して直ぐに視線を、投げた鞄に向ける。

 

 

「よっ」

 

 

 鞄の下を通りすぎて教室を出る。そこで立ち止まり右手を上に伸ばして飛んできた鞄の持ち手に指を引っ掻けた。そして今度は下駄箱に向かって駆ける。

 実はホームルームがまだ残っているのだが、それは幻術魔法……ではなく、咲の影分身が俺に変化して受けてもらっていたりする。相川の分も……。

 

 

「――なさ――!!」

 

 

 

 角を曲がる際に教室の方を見れば、丁度教室から出てきた相川が叫んでいるのが見えた。

 

 今の状況を軽く説明しようか……。

 この追い駆けっこは、相川が俺に接触してきた二週間前から始まっている。

 あの日、俺が校舎裏に行かなかったことで相川の変なスイッチを押したらしい。その日から相川は放課後になると俺を追いかけてくるようになった。

 正直に話せばいい、とは思わなくもないが、何と無く負けた気分になるからそれは嫌だ。

 それともう一人相川の関係者で追ってくる女がいる。そいつは……。

 

 

「っと!」

 

 

 殺気を感じて足を止めると、カカッ!と前方のコンクリートに手裏剣が刺さる。

 学校から遠く離れたオフィスビルの屋上で、足を止められた。俺の家とも反対方向だ。

 手裏剣が飛んできた方向を見れば、上空から女が刀を上段に振り上げて襲い掛かってくるところだった。

 

 

「秘剣・燕返し!」

 

「うおっ!」

 

 

 落下と共に女が持つ刀は俺の頭に向かって斬り下ろされる。それを上体を後ろに逸らすことで躱して、そのまま後ろに倒れ込んで手をコンクリートについてバック転する。

 1秒遅れて逆袈裟に刀が斬り上げられた。

 

 

「危ねぇな。俺じゃなかったら真っ二つだ」

 

「この程度であなたをどこうできるとは思っていません」

 

 

 俺の言葉に答えた女は、斬り上げの姿勢で止まっていた体を自然体に戻す。

 長く艶やかな黒髪をポニーテイルに結った女。

 女にしては長身で、腕や足も細く腰も確りと括れている。それに相反するかのように服を持ち上げる胸部は、体を動かす度にプルンプルンと跳ねる。愛紗……程ではなさそうだが、翠よりはありそうだ。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 女は突きの構えで突貫、一足で距離を詰めてくる。その速さは咲よりも速く士郎よりは遅い。

 つまり……。

 

 

「当たらんぞ」

 

 

 俺よりずっと遅いってことだ。

 屈んで躱し右足を女の足に引っ掻ける。

 

 

「――っ!?」

 

 

 女はそのまま受け身を取って立ち上がり大きく隣のビルに跳躍、俺との距離を取った。

 

 

「セラッ!」

 

「歩ですか……やっと追い付いたんですね。遅刻です」

 

「ごめん、やっぱりアイツ速くて……」

 

 

 女と相川が合流した。今度は二人で来るらしい。

 

 

「気を付けてください歩。あの男、まだまだ余裕があります」

 

「うん、分かってる」

 

 

 二人は俺を鋭く睨み付ける。世界は本当に広い、この前のミカエル然り、目の前のクラスメイトとその関係者然り、士郎もか……。

 強者が多く居るこの世界だ、全く退屈しねぇ。

 

 

「もう少し遊んでも良かったんだけどな。お生憎様、今日は用事があるんだわ。一気に決めさせてもらうぞ」

 

 

 身構えた二人を見据え腰を落とす……。

 

 

「剃っ!」

 

 

 視界はスロー再生のように緩やかに動く。いや、俺が速いだけか……。

 二人が瞬きをする間に、俺は二人の間に移動して左右それぞれの手を相川と黒髪の女に置いた。

 

 

「「――なっ!?」」

 

 

 驚きの声を上げて、瞬時に行動を起こす。二人の選択は離れる……ではなく、俺を排除するだったらしい。

 相川は拳を、黒髪の女は刀を、それぞれ俺に放ってきたが……それは悪手だ。俺はお前らにスタンガンを突き付けているんだぞ?

 

 

「スパークショット」

 

 

 掌サイズの魔方陣が手先に生まれ、深紅の火花を散らした。――ズガンッ――落雷のような音が響き二人の体を雷が駆け抜ける。

 

 

「「ぐぅっ!?」」

 

 

 それを受けた二人は感電して体を痙攣させる。その様は陸(おか)にうち上げられた活きのいい魚だ。

 

 

「ったく、懲りないな、お前らも」

 

 

 体を痺れさせコンクリートに横たわる美女と美少女を見下ろす。

 

 

「んじゃ、今日は大事な用事があるから。相川、また明日な~」

 

 

 全身が痺れて声も出せない相川と黒髪の女に手を振って九階建てのビルから飛び降りる。

 

 

「っと……」

 

 

 特に足を痺れさせることもなく、露地に着地した。表通りだと騒ぎになるからな。

 

 

「二人の回収、ご苦労さん」

 

 

 表通りから露地に入ってきた小柄な少女に手を上げて声を掛ける。

 少女は言葉を出さずに、よっ、とでも言うかのように手を上げて返礼してくれる。

 ドレスの上から籠手、胸当て、脛当て、額当てを着けた妙な格好の少女だ。ただ、その鎧は普通の物ではないらしい。

 

 

『二人は?』

 

 

 ペラリと懐から取り出したメモ帳にボールペンで文字を書き込んで俺に見せる。

 これもこの少女の特徴だ。喋ることが出来ない。無口で無感情……ではないと思う。押し殺している、そんな風に俺には見えていた。

 

 

「このビルの屋上だ。あの非常階段を使えば上まで行けるぞ」

 

『そう』

 

 

 この少女もまた相川の関係者らしい。どうも、相川を含めて全員人間じゃないように思える。気配が違う、とでも言えばいいのか……。ミカエルとも違う気配……まぁ、俺が向こうとの話し合いを拒否している以上詮索するつもりはない。

 

 

「体痺れさせてるだけだから2、30分あれば普通に動ける。そう伝えてくれ」

 

 

 コク、と頷いたのを確認して表通りに出る。多くの車が行き交い、足早に家路を急ぐ学生。俺はその人波に姿を紛れさせ海鳴大学病院へと急いだ。

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「お帰り、はやて」

 

 

 今日ははやての退院日だ。だからこそ急いでいた訳なんだが……。

 ちなみにと言うか、当然と言うか、今の俺は『グロウ』で大人の姿になっている。

 

 

「家用の車椅子に換えてっと」

 

 

 はやてを抱き上げて家用……と言うより、屋内用か?

 それに座らせる。前はタイヤを拭いて家と外で同じものを使っていたらしいんだが、それだと少し面倒くさいし、はやてを待たせることになる。だから別のやつを買っておいたんだ。

 

 

「でも本当にいいのか? 部屋なら余ってるぞ?」

 

「ええんよ。コウ兄ちゃんの提案は嬉しかったけど、やっぱりお母さんとお父さんの思い出があるこの家で生活したいんや」

 

「……そうか」

 

 

 はやてを見舞いに行ったときに一度だけ、俺と一緒に暮らさないか?と提案したことがある。

 その時はやては「ありがとう、コウ兄ちゃん。でも、お母さんとお父さんの温もりはまだ家に残ってるんや。それを忘れたないんよ」そう言った。

 そう言われては俺も引き下がるしかない。

 

 

「ほな、コウ兄ちゃんは座ってて、今お茶入れてくるから」

 

 

 リビングに着いたところではやてはキッチンへと向かう。

 

 

「俺がするぞ?」

 

「場所分からへんやろ~」

 

 

 俺がする、そう言うもはやては断り、ころころと笑いながらキッチンに向かってしまった。

 仕方なく言われた通りソファーに座ってはやてが戻ってくるのを待つ。

 

 

「お待たせ~」

 

 

 はやてが器用に車椅子を操作しながらお盆を持ってリビングに戻ってきた。

 

 

「持つぞ」

 

「ありがと~」

 

 

 はやてはニコニコと笑顔を見せる。何が楽しいのやら。

 

 

「今日はピザでも頼むか?」

 

 

 はやてを膝の上に乗せて(せがまれた)茶を飲みながら暫く談笑していると、腹が減っていることに気づいてそう声を掛ける。

 

 

「ええな~。病院はそういうの出ぇへんから」

 

 

 時間は19時前だ。晩飯には丁度良いが、帰ってくるのがお遅くなってしまった所為で飯の準備はできていない。

 

 

「それじゃ何がいい?」

 

 

 机の上に郵便ポストに入っていたチラシを広げて、あれでもないこれでもない、こっちが美味しそうういやこっちの方が、と二人で楽しく決めて電話を掛けて注文した。

 そうして30分程で届いたピザを、10分足らずで平らげてしまった。

 

 

「ふぅ……食った食った」

 

 

 ソファーの背凭れにぐっと体重を掛けて腹をポンポンと叩く。

 

 

「Lサイズ10枚も食べればお腹も一杯になるわ」

 

 

 呆れ顔で言うはやてに苦笑を返す。

 

 

「そう言われてもな。普段は食べられないからさ」

 

 

 そうなのだ。桃香や星、蒲公英、要なんかは食べられるし、桔梗も酒の摘まみとかで好んで食べるが、愛紗、鈴々、翠、美羽は嫌うのだ。特に鈴々は鼻が良い分匂いが駄目らしい。

 初めて外で食べたときはどんな反応をするのかと注文してみたんだが、「腐った物を出すのか!? この店は!!」と大激怒の模様を見せた。穏やかだった店内に軍神が降臨したときは肝を冷やしたのを覚えている。

 

 

「それじゃ、風呂に入ろうか」

 

 

 ピザが来るのを待つ間に、風呂掃除と湯はりは済ませておいた。

 と言うのも、今日ははやてに頼まれて八神家で寝ることになっているからだ。まだ一人でこの家で夜を明かすのが怖いらしい。

 それを素直に伝えてくれたときは、信頼されてるんだと嬉しくなった。

 そんな訳で、はやてを海鳴大学病院まで迎えに行った後、一度俺の家に寄り着替えを持って八神家に来た。

 

 

「コウ兄ちゃんとお風呂かぁ、ええなぁ」

 

 

 何を思い浮かべているのか……頬を朱に染めてぽーっと呆けた表情をしている。

 

 

「ほれ、行くぞ」

 

 

 はやてを膝から車椅子に移し、俺が車椅子を後ろから押して脱衣所へと向かう。

 

 

「ん……と」

 

「ほへ~、コウ兄ちゃんええ体してんなぁ。鍛えてるん?」

 

 

 上半身の服を全て脱ぐと、同じように上のシャツを脱いでいたはやてが聞いてくる。

 

 

「これでも格闘技をやってるからな」

 

「そうなんや。触っても構へん?」

 

「……まず脱げ。暖かくなったと言っても、その状態だと風邪を引くぞ」

 

 

「は~い」と元気な返事をして残りの服も脱ぐ。

 生まれたままの姿になったはやてを横抱きにして風呂場に入る。

 浴槽は俺とはやてが一緒に入っても余裕がある。多分、家族で入れるようにって設計されたんじゃないか?

 

 

「先に頭を洗おうか」

 

「うん!」

 

 

 頷いたはやてを椅子に座らせて、壁に吸盤でくっ付いたフックに引っ掛けてあるシャンプーハットを取ってはやての頭に被せる。

 

 

「シャワー掛けるぞー」

 

 

 一言告げてからはやての頭から、適温のお湯が出ているシャワーを掛けてやる。

 それが終われば次はシャンプーとラベルが張られた容器の頭を、一度押さえる。シュコ、と透明の少しトロッとした液が出て俺が構えた手の上に落ちた。

 

 

「お客さん、痒いところはありませんか~?」

 

「あはは、あらへんよ~。ええ気持ちやぁ」

 

 

 はやての頭を揉むようにして洗う。自分の髪ならわしわしと乱雑に洗うんだが、はやては女の子、そんな乱暴にはできない。

 

 

「んじゃ、流すぞ~」

 

「は~い」

 

 

 洗った後はシャワーで丁寧に泡を流す。そしてリンスだ。正直な話俺は使ったことがない。家の女性陣は髪が艶やかで綺麗になると、大喜びだったが俺には違いが分からなかった。

 別に使っても使わなくても一緒という意味ではなくて……いや、そうではあるんだが、使わなくても彼女達の場合は艶々なのだ。特に愛紗。あの時代で美髪公とまで呼ばれた程なのだから、それも推して知るべし、と言うやつだ。

 

 

「リンスいきまーす」

 

 

 なんの宣言だ。いや、言ったのは俺だけどな……。

 リンスは髪の毛全体に浸透させるのが大事らしい。蒲公英とか天和とかと一緒に風呂に入った時にさせられるのだ。

 一本一本丁寧に塗り込む。……別に一本ずつやっているんじゃなくて、そういう心持ちで、という意味だ。

 

 

「んじゃ、流すぞ~」

 

「は~い」

 

 

 さっきと同じやり取りをしてリンスを流す。流すときも大事らしく、髪の毛を撫でるように優しく流すのがコツらしい。

 

 

「よ~し、今度は背中を洗うぞ~」

 

「は~い」

 

 

 そう告げて今度は背中を洗ってゆく。適度な力加減が必要だ。

 

 

 

 

 

「気持ちええなぁ」

 

「ああ、良い湯だ」

 

 

 はやての体を洗い(背中だけ)泡を流した後、俺も頭、体と洗って湯船に浸かっている。

 芯から温もりに浸かるこの感じ、一日の疲れが吹き飛ぶようだ。

 

 

「コウ兄ちゃんは優しいなぁ」

 

「……なんだ藪から棒に」

 

 

 俺の膝の上に座るはやてが、俺の胸に頭を預けながらしみじみと呟く。

 

 

「んふふ、そう思っただけやも~ん」

 

「……そうか」

 

 

 そこからは60秒数を数えて風呂を上がった。あまり長いとのぼせるからな。

 

 

「玄関よし、リビングよし、キッチンよし、トイレよし、風呂場よし」

 

「戸締まりオッケーやね」

 

 

 寝巻きに着替えた俺達は、寝る前に確りと家の鍵が閉まっているか、ガスの元栓、電気の消し忘れを確認して回った。

 その間はやてはずっと俺の腕の中だった。特に疲れるとかはないから別に良いんだが、妙にこの体勢が気に入られた。

 

 

「さて、もう寝るか?」

 

「ん」

 

 

 俺の質問にはやては小さく頷く。温もって眠気が来たらしい。

 

 

「はやての部屋はどこだ?」

 

「二階の奥や」

 

「了解」

 

 

 はやての指示通りに階段を上がり、廊下を進む。

 

 

「ここか」

 

 

 戸を開けて中に入ると、大量の本が目についた。はやては中々の読書家らしい。

 足の所為で学校に行けない分、読書で知識欲を埋めてるってことか。

 しかし、その中で異彩を放つ本が一冊。物々しい鎖で雁字搦めにされた分厚い本だ。

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

 

 何か大事な物かもしれない。今聞く必要もないか、そう思った俺は、月明かりを頼りにベッドまで行き、はやてをそこに寝かせて離れる。しかし、はやての小さな手が俺の服を掴んで離さない。

 

 

「コウ兄ちゃんも、一緒に寝よ~」

 

「……ああ、分かった」

 

 

 本当はリビングのソファーで寝るつもりだったが、ねだられては仕方ない。断る理由もないしな。

 

 

「じゃ、お邪魔して」

 

 

 一言断りを入れてはやての横に寝転がる。

 

 

「んっふふ~」

 

「……どうした?」

 

 

 はやては俺の胸に額を当ててグリグリと擦る。

 

 

「何でもないよ~♪」

 

「そうか」

 

 

 特に痛くもないし、はやてが楽しそうならそれで良いか、と好きにさせる。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 5分ほどそうしていただろうか、はやてはいつの間にかグリグリを止めていた。

 

 

「コウ兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

「ずっと一緒に居ってな」

 

「……ああ」

 

 

 どう答えるか悩んだが、それも大人になるまでだろう。そう思って言葉を返す。

 

 

「……」

 

「……はやて?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「寝たか……」

 

 

 静かな寝息を立てて眠るはやての頭に手を置いてゆっくりと撫でる。

 同じシャンプーを使ったはずなのに、はやての髪からはお日様のような温かな香りがした。

 

 

「おやすみ、はやて」

 

 

 はやての額に口付けをして瞼を閉じる。睡魔は直ぐに俺を夢の世界へと誘った。

 

 八神一家と春に満開の桜の下で、高町家、大宮家、月村家、見知らぬ金髪の少女、桃色の髪をポニーテイルにした女と、赤髪をお下げに結った少女、金髪のほんわかした雰囲気の女、青い犬、黒髪のカメラを構えた女、そのカメラの先に居る二人の金髪の少女、リンディさんと黒髪の少年、その黒髪の少年に絡む茶髪の女、金髪の少女の足元で尻尾を振るオレンジ色の毛をした子犬と茶毛の山猫、織斑姉弟と篠ノ之、姉妹そして桃香達で花見をする夢を見た。




今回は満足なできでした。

日常回は苦手なんですけどね。書いてる最中はちょっと楽しかったです。

次は管理局に復帰?それとも猫姉妹を呼ぶか……むぅ、悩みどころです。

では、また次回お会いしましょう。
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