リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十一鬼~赤鬼と猫姉妹・密かに燻る火種~

side~宏壱~

 

 チュンチュン……。

 

 小鳥のさえずりで目が覚める。薄暗い部屋だ。まだ日の上る前だろうか……。

 暫く覚醒しない頭で、ぽーっとする。平和な現代だからこそできることだな。

 

 

(昨日ははやての家に泊まったんだったな)

 

 

 見知らぬ天井と腕の中の温もりで状況を把握した。

 思い返せばやってることは兄妹のそれか、下手をすれば父娘に見られる可能性も高い。

 嫌な訳でもないし別に良いんだが、少しむず痒いものがあるな。

 

 

「よく寝てる」

 

 

 ぐっすり熟睡しているはやてを起こさないように、慎重に俺の服を握る手を解く。

 

 

「飯でも作るか」

 

 

 そっとベッドから抜け出した俺は、はやての髪を一度二度と撫でる。擽ったかったのか、はやては身動ぎをした。

 しかし、起きる気配はなさそうだ。それを確認して部屋を出る。

 

 

「刃」

 

 

 階段を下りながら我が相棒に話し掛ける。

 

 

〈なんでしょうか?〉

 

「リーゼに繋いでくれ」

 

〈御意〉

 

 

 刃に次元間通信でリーゼ姉妹に連絡を取ってもらう。

 

 

[ん~、なぁに、こーいちー?]

 

 

 間延びした声が正面に浮かんだディスプレイから聞こえてきた。

 今は朝の5時、早朝と言える時間帯だ。ミッドと地球、と言うより日本だな……ミッドと日本はそれほど時差がない。つまり、向こうも大体似たような時間帯ってことだな。

 これは寝ぼけてても当然か……。

 

 

「……朝早くからすまん」

 

[ん、それはいいんだけど~。なにかよ~じ~?]

 

 

 通信相手、ロッテは目を擦りながら起き上がる。

 

 

「……ああ、でもその前に何か服を着てくれ。その……目のやり場に困る」

 

[……え?]

 

 

 俺はディスプレイに映るロッテから目をそらしながら言う。

 色素の薄い茶髪は短く、目尻はつり上がり、スリッド状の目は猫そのもの、そして髪の毛と同色の猫耳はピコピコと忙しない。

 

 

[ん~?なになに、宏壱恥ずかしがってるの~?]

 

 

 ロッテはニマニマと八重歯を見せながら、己の体をディスプレイによく見えるように映す。

 今の彼女の体を包むのは下着だけなのだ。よく見れば、ディスプレイの端々に寝間着のようなものが見える。寝ている間にでも脱ぎ散らかしたか……。

 

 

「いいから服を着ろ」

 

[んっふふ~、見たいなら見ても良いんだぞ~]

 

 

 そうか、そっちがその気なら……。

 

 

「……細くしなやかな腕周り」

 

[……へ?]

 

 

 キッチンに辿り着いた俺は、冷蔵庫を開けて中に入っていた卵を二つ、袋詰めのソーセージを取り出す。……視線はディスプレイに映るロッテに固定したままで。

 

 

「大き過ぎず小さ過ぎず、俺の手に程好く収まりそうな形のいい胸」

 

[ちょ、ちょっと?]

 

「引き締まりながらも女性的な柔らかさを持つ美脚」

 

 

 探り当てたフライパンをガスコンロに乗せて、火を付けて油を適量落とし満遍なく広げる。

 

 

「その白い肌には、濃紺色にフリルがあしらわれた上下お揃いの扇情的な下着がとても似合っている」

 

[こ、宏壱~?]

 

 

 次に卵を二つ割ってフライパンに落とす。離れさせて、くっ付かないように気を付けるのも大事だ。ジュウゥゥッ、と芳ばしい音が響いた。

 それら全てを行っている間、俺の視線はロッテの肢体へと注がれていた。

 

 

「恥じらいからか、頬を朱に染めた端整な顔は、普段の強気な表情とのギャップを――[ストップ、ストップ、ストーーップッ!!]――……どうした?これからもっと舐めるように、厭らしく見るところなんだが……」

 

[見なくていいからっ!]

 

 

 自分の体を抱いてディスプレイから遠ざかるロッテに溜め息を吐く。

 

 

「見ろと言ったり、見るなと言ったり……我が儘な」

 

 

 ディスプレイから視線を外して、無色だった白身が色づき始めた卵に塩と胡椒をまぶす。

 

 

[ロッテ、何騒いでるの?]

 

 

 ディスプレイの方から新たな声が聞こえた。視線をディスプレイに移せば、ベッドからロッテの双子の姉、アリアが起き上がるのが見えた。

 ロッテとは違い確りと寝間着を身に付けているが、ロッテよりも長い髪は寝癖でボサボサだ。

 

 

「お早う、アリア」

 

 

 眠気眼を擦るアリアに声を掛ける。どうでもいいが、緑の地に猫の顔がまばらにプリントされた寝間着が可愛いな。

 

 

[は、れ? こーいち……?]

 

「とっとと、焦げる焦げる」

 

 

 少し焦げ目がついてしまった目玉焼きを、用意しておいた二枚の皿に一枚ずつ移す。

 

 

[――――――っ!?]

 

 

 ディスプレイの向こうでは覚醒したアリアが、声になっていない悲鳴を上げて俺の認識できない速度でディスプレイから消えた。

 扉の開閉音が聞こえたから、洗面所にでも行ったんだろう。

 

 

[そ、それで? 用事は?]

 

 

 何時もの服に着替えたロッテがディスプレイに姿を現して聞いてくる。

 平静を装ってはいるが、その頬は未だに赤いままだ。

 

 

「……今日暇か?」

 

 

 目玉焼きを皿に移した後はソーセージを10本投入だ。肉の焼ける音が直ぐに耳朶を震わせて食欲をそそる。

 

 

[今日……? えっと、ちょっと待って]

 

 

 そう言ってロッテが消えたディスプレイから[アリアー、今日何かあったっけー?]と声が聞こえた。

 

 

「よし、いい焦げ目がついた」

 

 

 ソーセージの焼き色に満足して目玉焼きを移した皿に五本ずつ入れてリビングに持っていき、机の上に並べる。

 

 

「後はご飯だな」

 

 

 他にすることは……と考えて、至極真っ当な答えに行き着く。

 日本人の主食は米だ。たまにパンなんかも良いが、基本は米だ。ラーメンを食べても、焼きそばを食べても、バーベキューをしても米は必須だ。でないと力が出ない。パンだと7時に朝飯を食べても、11時には腹が減る。だから米を食べるのだ。だから米を食べるのだ。だから米を食べるのだ。米、米、米、米、米……。

 

 

[……こ……ち……宏壱!]

 

「っと、ロッテ? どうした?」

 

 

 何処かに飛んでいた思考が、いつの間にかディスプレイの前に戻っていたロッテの声で引き戻される。

 

 

[どうした? じゃないよ、何度も呼んでるのに……]

 

「……そうか。すまん、気付かなかった」

 

 

 [まったく]と溜め息を吐くロッテに、もう一度「すまん」と謝る。

 

 

〈主、もうお米を研ぐのは十分では?〉

 

「……え?」

 

 

 刃の指摘に手元を見れば、蛇口の下で炊飯器の内釜に米を入れて研いでいた。

 俺はいつ内釜を取り出し、いつ米を計って、いつ研いだ水を流したのか……。

 

 

「…………俺はいつ米研ぎを始めた?」

 

〈御主君、それはさすがに不味いのでは……?〉

 

 

 無限の言葉に何も言い返せなかった。

 

 

「……」

 

〈……〉

 

〈……〉

 

 

 嫌な沈黙が辺りを包んだ。

 

 

[えっ、えーっと、特に今日は何もないって……アリアが……]

 

 

 ディスプレイの向こう側に居るロッテが、気を使って声を掛けてくれた。

 

 

「……あ? あ、ああ、そ、そうか」

 

[それで、用事でもあるの? デートとかなら付き合うよ?]

 

 

 それもアリだな、とは思うものの今回は違う。

 

 

「残念だが、別の用件がある」

 

 

 内釜を炊飯器にセットして作動ボタンを押す。今からだから……6時30分頃には炊き上がるはずだ。

 

 

[別の?]

 

「ああ、実は――」

 

 

 用件だけを伝えた俺はロッテと、身嗜みを整えて戻ってきたアリアと二、三言葉を交わして通信を切る。

 

 

「はやて、喜んでくれるといいな」

 

〈大丈夫ですよ〉

 

〈必ず、彼女はもっと華やかな笑顔を見せれくれるでしょう〉

 

「そうだな」

 

 

 刃と無限に太鼓判を押され俺もそう思うことにした。

 

 

「よし、ランニングでもしますか!」

 

 

 取り合えず、目玉焼きとソーセージを盛り付けた皿にラップをしてからジャージに着替えて「行ってきます」と一言告げてから八神家を出る。鍵を閉めるのも忘れない。

 特に目標は設定せず、6時30分頃に帰ってくるか……程度の感覚で駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 時間は飛んでその日の放課後。

 

 ランニングから帰った後はシャワーで軽く汗を流して、まだ熟睡していたはやてを起こし朝食を取った。

 その後は、仕事に行くという名目で八神家を出て、一度家に帰り元の姿に戻って制服に着替えて登校という運びになった。

 そして、全ての授業を終えて昨日と同じようにビルの屋上で、クラスメイトの相川歩とセラと呼ばれる女と一戦交えて下し、帰宅した。

 今日もはやての家に行く予定があるのだが、一度家に帰る必要がある。

 何故なら……。

 

 

「……もう来てたのか」

 

 

 家の門の前に佇む小さい二つの影に、声を掛けながら近付く。

 余りにも小さいその影は小走りに俺に近づいて、跳躍……俺の肩に飛び乗った。

 

 

「っと……」

 

 

 急に双肩に掛かる微かな重みに驚く。

 その影、二匹の猫は俺の顔に体を押し付けてくる。

 

 

《もう、遅いわよ。レディを待たせるなんて男として失格ね》

 

《そうだぞー。男はもっとレディに気を使わないと》

 

 

 俺の肩に乗る二匹の猫、アリアとロッテは念話でそう言いながら両側からぐいぐいと俺の頬を前足で押す。

 顔を挟まれた形になるが、特に痛くもない。寧ろぷにぷにの肉球が心地いい。

 だが、ひとつ言いたいことがある。

 

 

「アリアは兎も角、ロッテがレディ……ふっ」

 

〔にゃっ!〕

 

「~~っ!?」

 

 

 鼻で笑うとガリッと頬を引っ掻かれた。

 

 

〔朝はあんなに熱心にアタシの体を……〕

 

 

 その続きはごにょごにょと口の中で言われ、聞こえなかった。

 

 

〔ふ~ん。ロッテが変に機嫌が良いから、宏壱が何かしたのかと思ったけど……やっぱりそうなんだ〕

 

「……」

 

 

 返す言葉はなく、我が家の門を潜る。この後は『グロウ』で大人になってはやての家に行くのだ。猫のままのリーゼを伴って……。

 

 

 

 

 

『グロウ』で姿を大人に変えて私服に着替え家を出て20分程ではやての家に着いた。両肩にはリーゼを乗せたままだったから、少し目立ったが。俺でも高身長のガタイのいい男が、肩に猫を乗せていたら二度見くらいはする。

 

 

「はやて、ただいま」

 

「コウ兄ちゃん、お帰り~」

 

 

 玄関の扉を開けて声を掛けると、直ぐにリビングからはやてが顔を出す。帰る時間帯は朝の内に伝えていたから、スタンバっていたのかもしれない。

 靴を脱いで家に上がり、はやての居るリビングまでいく。

 

 

「わ~、猫さんやぁ。コウ兄ちゃん、この子らどないしたん?」

 

 

 目の前まで来た俺の肩に乗る二匹の猫をキラキラと輝く目で見るはやて。

 

 

「ああ、知り合いから今日一日預かってくれと頼まれてな。断りきれず預かることになったんだ」

 

 

 口からの出任せだが、真実を言うわけにもいかない。

 朝、リーゼに頼んだのは、はやての相手をしてやってほしいということだった。

 こんな短時間で両親を失った寂しさ、損失感、孤独感を埋められるはずもないが、一時の間だけ紛れさせることはできる。

 それには動物と戯れることが一番有効的だ。

 

 

「そうなんや。名前はなんて言うん?」

 

「ああ、アリアとロッテだ。双子の姉妹だ」

 

 

 はやての車椅子を押して部屋の中に入る。

 

 

《宏壱……この子……》

 

 

 アリアがはやての中に眠る力に気付いて念話で声を掛けてくる。

 

 

《ああ、魔力を持ってる。バカみたいにデカイのをな》

 

《Sランク……それ以上あるかも》

 

《まさか、管理局に……》

 

《アホ、んな訳ないでしょ。この子の親とちょっとした知り合いだったんだよ》

 

 

 将来決めるのはこの子だ。ずっと隠すつもりもねぇし、話さなくちゃならない時がいつかやってくる。その時選択するのははやてであって俺じゃない。出来ればこっち側とは無縁の生活を送ってほしいが……。

 

 

「さて、夕飯でも作るか」

 

「私も手伝おか?」

 

「いや、はやてはアリアとロッテの相手をしてやってくれ」

 

 

 はやてを車椅子からソファーに移して膝の上にリーゼを乗せる。

 

 

「アリア、ロッテ、はやてを困らせるなよ」

 

 

 二人の頭に手を置いてゆっくり撫でる。確りと手入れのされた毛が柔らかて、触り心地の良い感触が伝わってくる。

 

 

〔〔にゃあぁっ♪〕〕

 

 

 嬉しそうに頭を自分から擦り付けてくる二人に笑みを溢し、三回撫でてからはやての頭にも手を置いて撫でる。

 

 

「それじゃ、直ぐ出来るから待っててくれ」

 

「うんっ」

 

 

 満面の笑みで頷くはやてをリビングに置いてキッチンに向かう。

 

 

「さて、やりますか」

 

 

 自前のエプロン(黒地にドクロのプリントがされている)を身に付けて気合いを入れて俺は料理に勤しんだ。

 

 

 

 

 

「昨日はありがとう。今度何かお礼するよ」

 

 

 リーゼが来て一夜明けた次の日。時刻は既に昼を過ぎているが、今日は土曜日で学校も休みだ。

 朝ははやてとのんびり散歩をしたり、お茶菓子を机に置いて駄弁ったりとゆっくりしたが、昼からは咲と大輝、エストを交えて鍛練に励む。のんびりばかりしては居られないのだ。

 

 

「「……」」

 

 

 我が家の門の前で美女モードのリーゼを見送っているのだが、どうも反応が覚束ない。

 昨日の夜、一昨日と同じようにはやての部屋で寝た……その時、はやての部屋に入った瞬間から考え事を始めた。

 何かを見て二人で念話で話し合っているようでもあったし、俺にも《鎖で厳重に開かないようにされている本のことを知っているか?》と聞いてきた。

 正直に知らないと答えれば、また二人だけで話を始めた。ただ、その時の声が妙に底冷えしていて、何かを堪えているようなものだった事が印象的だった。

 

 

「アリア? ロッテ?」

 

 

 再度声を掛けてみる。

 

 

「……あ、何?」

 

 

 漸く反応を返したアリアだが、意識が完全に俺に向いているとは言いがたい。それはロッテも同様だ。

 まるで隙だらけ。今、狙われれば危険とも言える状態だ。

 

 

「気を付けて帰れよ」

 

「……うん」

 

「ありがと、宏壱」

 

 

 去っていく二人の後ろ姿を見送る。その背中にはどこか決意のようなものが、覚悟をした者のように見えた。

 

 

「何かあれば言ってくれるだろう」

 

 

 心配な気持ちはあるが、俺はそう判断した。二人への信頼と二人から感じる確かな好意にそう思った。

 

 ただ、俺はこの時もっと二人に……そしてはやてに踏み込むべきだった。数年後、後悔するまで俺はこの選択が正しいと信じて疑わなかったのだ。

 

 

――宏壱……ごめん。

 

 

そんな声が、今にも泣きそうな二人の声が聞こえた気がした。




今月五話目の更新です!

インスピレーションが止まらない!!

とまぁそれは置いておいて……リーゼに『闇の書』の在りかがばれました。しかも、宏壱経由で……。
リーゼと宏壱を出会わせると決めたときから、このシーンはずっと自分の頭の中にありました。
やっと書けた、ここまで来れた……。そんな思いで今胸一杯です。
ここからA'sに繋がるんですねぇ。リーゼは既に宏壱とはやてに繋がりがあるのを知っていますから、どう彼を巻き込まないようにするか、事件の発生を知らせるのを送らせるか、ギル・グレアム提督を交えて、これから念入りに計画していくことでしょう。
更にデュランダルの設計、開発……着々と八神はやて、『闇の書』封印計画が進行するのでしょう。

では、また次回お会いしましょう。

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