リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十二鬼~赤鬼、討伐戦~

side~宏壱~

 

〔グォォオオオオオッッ!!!〕

 

 

 辺り一面に砂の山が広がる砂漠地帯。燦々と太陽の熱が周囲を焦がす中、正面に居る赤い体毛のゴリラのような生物が雄叫びを上げる。

 5mを越える身長に筋肉で盛り上がった上半身。それを覆う硬質な毛は鋼のように逆立っている。

 上半身に対して下半身は異様に細い。赤い体毛の硬質さは変わらないが、極限まで引き絞られたような足だ。そして猿のような尻尾が、人間で言うところの尾骨から生えている。

 そいつの名は『レッドベルンガ』……レッドベルとも呼ばれる危険種AAに認定されている猛獣だ。

 気性が荒く、木の実から肉や魚まで食す雑食で、周囲の魔法生物もレッドベルンガを恐れて日中は派手に動き回ることはない。

 

 ここ、第78管理世界・ホールサンドは星の九割が砂漠で埋め尽くされ残りの一割がオアシスのように外部を森林が囲い、中心部に直径約5km、深さは100mを超える湖がある。海上からも100m先の底がくっきり見える程に清んでいる。

 殆どの生物が体内で水分を生成する器官を保有しており、水分を外部から摂取しなくても活動できる。これもこの世界に順応して進化したが故だろう。

 そして目の前にいるレッドベルンガは、ホールサンドに於いてはトップクラスに位置する危険種だ。

 実は他の世界でも生息を確認されている種だが、この世界の環境は生物が生きるには余りにも過酷で、レッドベルンガに対する天敵は存在しないと言っていい。

 居るとすれば別の群れのレッドベルンガだろうな。繁殖力が弱く縄張り意識の強いレッドベルンガだから、余りテリトリーを離れることはないらしいが。

 

 リーゼの来訪から二ヶ月、この二ヶ月の間に俺は管理局への復帰を果たした。謹慎を解かれて今日で半月、事務仕事ばかりだったのが、今日漸く復帰後の初任務となった。

 リハビリ(名目上そういう事になっている。マキア・セルバンとの死闘、と言うには相手が弱すぎたが……その戦いと日々の鍛錬、咲と大輝との模擬戦、これらで十分事足りていた)ということで、危険種AAランクの魔獣狩りだ。討伐数は五体。その内四体は既に沈め、残りの一体を仕留めるところだ。

 しかし、こいつがまた速いのなんのって。先に沈めた四体よりも体が一回り大きい。明らかにリーダー格、右目に三本の古い爪痕が残されているそれは歴戦の猛者の証だろう。

 

 その見た目では想像できない速さに現地の局員では対処できず、応援要請が地上のエリート部隊、首都防衛隊に回ってきた。

 現地の局員は魔導師ランクA一人を中心にBランク十一人の分隊で挑むもその速さと見た目通りの怪力、硬い毛に分隊は翻弄され自分の身を守ることが手一杯で、撤退を余儀なくされたのが事の発端だった。

 

 因みに覇王色の覇気で大人しくさせる方法は却下だ。理由は簡単……それだと楽しくないからな。

 

 

「おらおらぁっ!! 掛かってこいやぁっ!! もっと俺を楽しまろぉぉっっ!!」

 

 

 血湧き肉躍る。そんな表現がしっくり来る程の感情の昂り。

 バリアジャケットはその土地の気候を無効化する事ができる。俺の物はそれなりに厚着でこの場所には相応しいとは呼べない。それでも暑さはなく、適度な気温だと思える。魔法ってちょーべんり。

 

 

〔グウウゥゥラアアアアッッ!!〕

 

 

 挑発が効いたのか、はたまた仲間がやられた恐怖からか……俺の怒号に負けていないと訴えるように咆哮を上げる。

 細い二本の足で細かなステップを踏んで、踏ん張りの利き辛い砂地を駆けて俺に迫る。乱雑な動きは魔力弾で狙われないためだろう。最初の一体は、突っ込んできたところを炎神槍で仕留めたからな。

 硬質な毛でも、一定以上の魔力を込めてやれば効果を発揮する。

 

 

〔グゥアッッ!!〕

 

 

 俺の眼前まで接近したレッドベルンガは、その豪腕を大きく引き……振り抜く。

 

 

「遅いっ、止まって見えるぞっ」

 

 

 首を僅かに傾ける。――ゴヒュッ!――と空を切りながら俺の右頬の数mm先を赤い体毛に覆われた極太の腕が突き抜けた。触れるだけで刺さりそうな毛だ。それはさながら剣山のようなものだった。触れるのは得策じゃないな。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 カウンター一発。がら空きになった土手っ腹に右拳を叩き付ける。胸と腹筋は毛で覆われていない。但し、硬質な皮膚で強靭な筋肉を覆い、まるでゴムのような弾力を俺の拳に伝わらせた。

 

 

〔グギィッ!!〕

 

 

 レッドベルンガは獣臭い唾液を散らし、二本の足で踏ん張りながら3m程の距離を滑っていく。

 

 

〔ガァァァアアアアッ!!〕

 

 

 レッドベルンガはギザギザに並んだ牙を震わせる程の大声で叫ぶ。それは衝撃波を生んだ。先の四体は見せなかった攻撃だ。

 

 

「プロテクション」

 

 

 前方に障壁を張って全方位に向けて拡張された衝撃波を防ぐ。砂が舞い上げられて前方が見えなくなった。

 

 

〔ガァアアアッ!!〕

 

 

 立ち込める砂埃からレッドベルンガが障壁の張られていない側面に飛び出してきた。

 

 

「知能もそれなりか……」

 

〔グウゥゥルアアアッ!!!〕

 

 

 障壁がないことを確認してレッドベルンガは駆ける。当然、目標は俺だ。

 

 

「……毛に触れるのは危険だ。でもそれは、普通なら……の話だ!」

 

 

 あれはバリアジャケットさえ貫いてくる。用意に触れるべきではない。だが、俺には……。

 

 

「武装色・硬化」

 

 

 これがある。

 武装色……イメージは鎧を纏うようなものだ。鉄塊よりも遥かに固い。まるで鋼鉄の鎧を身に付けたようなもので、しかも重さなどない。相手が同じ覇気使いでなければ、これを身に纏った者に攻撃を通すことは極めて困難だ。

 その上、攻撃力は倍増。武装色を纏うことで圧倒的な破壊力をも身に付けられる。攻撃力と防御力を兼ね備えた人体強化の力だ。

 俺は少し集中しねぇとできねぇけどな。条件反射で出来るほど素質は高くないらしい。

 

 

〔グアアアアァァァッ!!〕

 

 

 レッドベルンガが振りかぶったその拳は、俺の顔よりも二回り大きい。それが顔面に迫るのは恐怖だろう。が、俺はそいつを右拳で弾く。

 

 

〔グギィッ!!?〕

 

「驚く暇はないぞぉっ!」

 

 

 直ぐに腕を引いて左拳を放つ。指の先から肘関節まで黒くコーティングされた俺の両腕。光沢さえ放つこれが『武装色・硬化』の特徴だ。

 

 

〔グガッ!!〕

 

 

 ズムッ、と左拳がめり込んだのは赤毛に覆われた横っ腹。硬質な毛と武装色を纏った俺の腕が擦れてギャリギャリと不協和音を奏でる。

 見た目通りで情報通りの硬さだ。その上、皮膚さえも厚く硬い。

 

 

「うおらぁっ!!」

 

 

 めり込ませた腕を力任せに振り抜く。

 レッドベルンガは砂埃を立ち上げながら吹き飛んだ。こんな経験はしたことがないだろう。自分よりも遥かに小さい人間のガキに、ぶっ飛ばされるなんてな。

 5m程の距離を吹き飛んだゴリラは起き上がる気配がない。

 

 あいつは獣だ。それは根源まで突き詰めれば人間も変わらない。一皮剥けば人間も獣なんだ。俺はそれを知っている。それを理性で抑える事ができるから、人は人類としての種を確立でき、獣との差別化ができるのだ。

 しかし、獣としての本能を理性とモラルで抑え付けた結果、人は危機感を失くし、生存本能さえも失った。それは現代社会に於いて不要なものとして扱われる傾向が強いものだ。

 当然、持っていて損するものでもない……が、治安の良い日本では薄れたものであることは疑いようのない真実だ。

 そんなやつらが無人島や樹海に放り込まれれば、忽ちヒエラルキーの最下層に転落する事は明白だ。どちらが強いか、生物として生に貪欲なのはどちらか、それが自然界で生き残る強者を分ける条件だ。

 

 

「そして……俺が強くてお前が弱い。この場にある事実はそれだけだ」

 

 

 未だ起き上がってこない赤毛の獣に告げる。

 ついさっきまで、自分こそが王者だといった風で、四体の取り巻きを引き連れて砂漠を闊歩していたそいつは、今は巨体を無様に横たえている。

 

 

「もう少し楽しめると思ったんだけどな。ガッカリだよ」

 

 

 レッドベルンガはぴくっ、と反応を見せた。人語を理解しているのか、ただ俺の言葉に含まれる嘲りに反応しただけなのか……。

 震える腕で立ち上がる。

 それは戦士としての気概、王者としてのプライド、生物が持つ生存本能……それら全てがレッドベルンガを突き動かす原動力になっているんだろう。

 

 

「よし……! 掛かってこい。完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」

 

〔グガアアァァッ!!〕

 

 

 痛みがあるだろうに……。その駆ける姿は全くそれを感じさせない勇猛さがあった。

 こいつが率いる群れなら大丈夫だろう。任務の成功を感じて握る手に力が籠る。

 

 

「これで……沈めっ!」

 

 

 彼我との距離は2m。そこで全力で右拳を正面に向けて振り抜く。

 決して生物に向けて放っていい威力じゃない。人に向けて放てば、真っ赤なバラが咲き乱れるほどの威力がある。空を殴ることによって空気を押し出す。普通なら微風だが、俺の全力は衝撃波を生む。

 

 

〔ガッ!!?〕

 

 

 発生した衝撃波は拡散することなく、真っ直ぐにレッドベルンガにぶち当たった。

 さっきよりも遠くに吹き飛んだレッドベルンガが、暫く経っても起き上がってこないことを確認して、俺は勝利を確信した。

 

 

 

 

 

「山口二等陸尉! お疲れさまです!!」

 

 

 十数人の局員が俺に向かって頭を下げる。

 彼らはホールサンドに拠点建設のためにミッドから派遣された業者の護衛部隊だ。

 何故こんな辺境に拠点を作るのか……? 最近この地区に密猟者が頻繁に現れる事が理由だ。

 魔法生物『ゴールドセバス』……見た目は亀そのもので、3mを超える平べったい巨体、頭から尻尾までの長さは20mはあるそうだ。亀、と言ったように当然甲羅を持っているが、その甲羅にはびっしりと黄金に輝く苔が付いている。

 大病さえも癒す秘薬で、魔法と合わせると癌さえも治療してしまう……らしい。らしい、と言うのは成功例が皆無だからだ。

 そもそも、ゴールドセバスは普段砂の中で生活していて、砂の中にある微量の砂金を数g摂取するだけで十年は生きられるらしい。

 目撃例も少ないが、これは無いわけでもない。

 水浴びをしに時折湖の方に現れる。映像で見たが、レッドベルンガもゴールドセバスには近付こうとしなかった。この世界の主的な存在だと見て間違いないだろう。

 ゴールドセバスは体内に純金を生成する器官を有しており、三年で100kg以上の純金を蓄えると言われている。

 管理局が捕獲禁止令を出した魔法生物だ。こいつは蓄えた純金を何処かに排出している……専門家の間ではそう見解が一致している。

 諸説あるが、どれも信憑性に欠けるものだ。俺や朱里達は、子を産むときの卵の殻にしているんじゃないかと予想を立てたが……それも今後の調査で明らかになるだろう。

 

 閑話休題

 

 そういうのもあって、数体のゴールドセバスがホールサンドから連れ出された事が確認されている。出所不明の純金がミッドに流れ込んだのが、今回の事件の発覚だからな。目的は金を売り捌くことで間違いない。

 環境調査や自然保護のため、自然保護隊が常駐してはいるが、それはオアシスだけだ。外はそれなりに危険生物がいるため、夜営は危険だとされている。特に夜は気温も下がり活発になる生物も増えるからな。

 で、まずその足掛かりとしてレッドベルンガを……というところで反撃に遭い已む無く撤退となったわけだ。

 

 

「夜間はコイツらに警備をさせれば心配ないだろ。餌は上等な肉を俺が送ってやるし」

 

 

 俺の後ろに座り込む五体の獣に指を差す。

 

 

「……本当に大丈夫なんでしょうか? その、山口二等陸尉が居なくなった途端暴れだす、何て事は……」

 

「ははっ、大丈夫だって、コイツらは強者の命令には絶対に逆らわねぇ。信頼しろよ」

 

 

 不安そうにレッドベルンガ達を見る男性局員に笑って言う。

 レッドベルンガは強者には逆らわない。これも確かな情報だ。自分より格上の存在に支えることを誇りにしている……そんな騎士道溢れた精神がコイツらの特徴でもあるし、自然保護隊から「生態系を崩さないで欲しい」とも言われている。

 レッドベルンガが居なくなることで、この地区の生態系が崩れる可能性は十分に有り得るのだ。

 

 

「そんじゃ、俺の仕事も終わりってことで」

 

『お疲れさまでしたぁっ!!!』

 

 

 頭を下げる局員達を背に小型次元艦へ向かう。次元間での交易なんかに使う小さなものだ。一般の商人なんかでも購入できるお手頃な値段で、ガキの俺でも刃を接続すれば動かせる便利なものだ。免許は要るが、それも年齢制限はない……というわけではない。局員は免除されるのだ。

 

 

「じゃあ、お前らも元気にやれよ。あの人達の言うことを聞いていれば、ご褒美に上等な肉を持ってきてやるからな」

 

〔ガウッ!〕

 

 

 嬉しそうに鳴くレッドベルンガの腹をポンポンと叩きその場を離れる。

 

 

「よっと。それじゃ……発進!……なんてな」

 

 

 ホールサンドまで乗ってきた小型次元艦に乗り込んで刃を接続、艦を出す。

 貨物室と操縦席、お手洗い場、仮眠室と最低限の設備が整った小型次元艦。後は冷蔵庫とクーラーボックスと次元通信可能なテレビをあとから持ち込んだ。

 10mの長さと5m程の幅しかない本当に小型のものだ。日本円で100万くらいだったか?

 

 今日までの経緯を簡単に説明しよう。

 リーゼがはやてと遊んでくれてから二ヶ月。動物と触れ合った事が良かったのか、あれから随分と元気になってくれた……と言っても、元々落ち込んだ風には見えなかったが。

 はやては妙に演技が上手いところがあるからな。そう見せないようにしていた可能性は十分に有り得る話だ。

 で、それからはやての誕生日があったり、相川の追撃が苛烈さを増したり、突然束が家に泊まりに来たり、高町親子(桃子さんとなのはを除く)と大輝で山籠りをして鍛えたり、学校が終業式を迎えて夏休みに入ったりとそれなりに日常を楽しんでいる。

 たまにはやてからリーゼに会わせてほしいと強請られる。余り我が儘を言わないはやてだ、俺も叶えてやりたいがリーゼの都合が合わない。最近は忙しいらしい。

 

 

「帰れば俺もゼストさんの指揮下に加わる。今の内に休んでおくか」

 

〈はい、そうしてください〉

 

〈お休みなさいませ〉

 

 

 機体に接続した刃と、刃の話し相手として置いた無限に見送られて仮眠室に入る。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 一息ついて、四畳半程度の部屋に備え付けられたベッドに仰向けに寝転ぶ。

 見上げる天井はこの機体の色、黒だ。無機質で温かみがない。木の天井とは全く異なる印象を受ける。

 復帰後すぐに買った機体で、新品だったから傷もついていない。

 

 

「寝よう」

 

 

 誰に言うでもなく独りごちる。ここからミッドまで四時間半程だ。十分寝れるし、到着すればどっちかが起こしてくれるだろう。

 さっきのよりは確実に過酷な任務になる。そう知っている俺は、英気を養うために瞼を閉じた。

 

 

 

 

 




リーゼ訪問から二ヶ月……少し時間が流れすぎですかね?
でも、このままはやての誕生日とかやってたら、本当に原作に辿り着かないしなぁ。

今回出てきた小型次元艦……あまり活躍する機会はないです。転移魔法が苦手な宏壱が、一人で動き回るためのものですから。

因みに、はやては紫苑が面倒を見てくれることになっています。料理の勉強とかしてます。多分「宏壱さんに美味しい料理をご馳走して、喜んでもらいましょう?」とか言われてます。

では、また次回お会いしましょう。
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