リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十四鬼~赤鬼の異常性~

side~ゼスト~

 

「何だ……この有り様は……っ!?」

 

 

 目の前に広がる瓦礫の山。ドーム状の建造物があった場所だが、今は見る影もない。

 

 

「ここに当たっていたのは、クイント、宏壱、諸葛だった筈だな……?」

 

「その筈、です……」

 

 

 隣に居るメガーヌに問えば肯定の意が返ってくる。

 

 

「朱里ちゃん……っ!」

 

 

 俺達と別の任務に付いていた淡い紫の髪を左右の側頭部で二つに結った幼い少女、鳳が瞳に涙を浮かべ瓦礫に向かって駆け出す。

 

 今回、俺達は二面作戦に打って出た。隊長に山口宏壱二等陸尉を据え、クイント、諸葛を中心とした十五人編成のチームと俺を隊長としてメガーヌ、鳳が中心とした十人編成のチームだ。

 この二チームで行われる作戦は、迅速な対応が必要だった。

 襲撃を掛けた違法研究所の殆どが、我々の侵入の把握と同時にデータの破壊と他研究所への転送を実行する。全てを完了するまで20分の時間を要するが、足止めを置いておけば事足りる。

 その足止めを一手に引き受ける最大の戦力と、遠隔からデータベースに潜り込み破壊とデータ転送を阻害する頭脳。その二つが必要だった。

 それに加えて今までにない少人数と二つの違法研究所への同時襲撃。相手の意表を突くには十分だった筈だ。

 俺達の方は成功したが……。

 

 

「お兄様ーっ!……朱里ちゃーんっ!」

 

 

 鳳が二人に呼び掛けながら瓦礫を掘り起こす。何時にない大声だ。普段の彼女からは想像できない程の……。

 

 

「メガーヌ……生命反応はあるか?」

 

「……はい、微弱ですがこの瓦礫の下に。数は多めですが、隊員全ての生命反応を感知しました」

 

「……瓦礫の撤去作業を始めろ! 下手に崩さないように気を付けろ!」

 

『はっ!』

 

 

 連れて来ていた部下に命令を下して、俺自身もその作業に加わる。

 

 

「……見つけました! 山口二等陸尉です!」

 

 

 下手な事をして崩してはならない為に遅々として作業が進まず、休みを取れぬまま二時間が経過した頃、隊員の一人が叫んだ。

 

 

「お兄様っ!」

 

 

 真っ先に駆けつけたのは鳳だ。それも当然と言えるだろう。宏壱は彼女の大事な家族だからな。

 

 

「ぁっ……ぅっ……」

 

「お兄……様……っ!」

 

 

 俺も宏壱の状態を見ようと歩み寄れば、全身を切り刻まれ、辺り一面を自らの血で染め上げた虫の息の宏壱の姿だった。

 瓦礫に押し潰されて折れたのか、両腕、両足があらぬ方向に曲がっている。それどころか、皮膚を突き破り、骨が見えている。生きていることそのものが奇跡だ。死んでいてもおかしくはない。

 十にも満たない子供のこんな姿を見ることになるとは……。

 

 

「見つかりました! ナカジマ準陸尉です!」

 

「こちらも、諸葛陸曹長を発見!」

 

 

 それからを皮切りに、次々と隊員と救助した被験者が見つかり始めた。

 

 

「気を失ってはいるようですが、みんな無事みたいですね」

 

 

 ほっ、と息を吐くメガーヌの言葉に頷く。

 奇跡的に隊員に死者は出ていなかったが、被験者の何人かの遺体が発見された。

 ……いや、奇跡的、ではないか。隊員と助かった被験者全てに、深紅の魔力の膜が張られていた。

 宏壱が把握できる人員を守った。そして、全員を守るほどの魔力が無く、自分の身を守る術もなかった。恐らくはそういうことだろう。

 

 

「応急手当を急がせろ。本局に早急に帰還するぞ!」

 

『了解!』

 

 

 鳳以外の返礼に頷き、未だ宏壱に抱きつく彼女を見やる。

 大粒の涙を流している鳳は、自分の服が宏壱の血で汚れることも構わずに抱き締め続けている。

 淡い紫の魔力光が漏れていることから、治療魔法を掛けているのは分かるが……。

 

 

「鳳、後は医療班に任せろ」

 

「……っ……いや、です……!」

 

 

 彼女には珍しい強い拒絶の言葉だ。それだけ宏壱を想っているということだが、今は医療班に任せるのが最善だ。

 

 

「隊長、ここは私に任せてください」

 

「……頼む」

 

 

 申し出たメガーヌに任せることにした。

 

 

「雛里ちゃん」

 

 

 そっと鳳の耳元で何かを囁いたメガーヌに、鳳は神妙に頷いてそっと宏壱から離れる。

 それを見た医療班は、即刻にしかし慎重に宏壱を担架に乗せて、次元空間に止まっている次元艦まで転移した。

 

 

「やることは終わった。これより帰還する」

 

 

 俺の宣言を受けて、外に出ていた隊員全てが次元艦に転移した。

 

 

 

 

 

 数時間後、次元艦ブリッジでは重々しい沈黙が空間を支配していた。

 

 

「まさか、噂に聞く若きエース、山口二等陸尉が倒されるとは……」

 

 

 口火を切ったのはこの艦、巡航L級三番艦“シヴァ”の艦長、シーザー・ゴブソル提督。52歳にして前線に立ち続ける古参の英雄だ。

 髪を全て剃り上げた頭には、若き頃に魔獣に負わされたという三本の爪痕が、頭頂部から左目を通り頬にまで刻まれていた。

 身長は2mを超え、その肉体は服の上からでも分かるほどに盛り上がっている。『肉弾戦車』と呼称されるほどの突進力と破壊力を持った体当たりがシーザーの持ち味だった。

 十数年前に、暴走列車を強化魔法を纏った身一つで止めたことは伝説になっている。

 陸と海に分かれてはいるが、幾度か任務で鉢合わせたことがあった。まだシーザーが提督になる前の話だ。

 酒飲み仲間でもある。

 

 閑話休題

 

 この近くを巡航ルートにしていた彼らに、救難信号を送ったのだ。

 

 

「だが、なんという生命力だ。あの状態で死なんとは……驚嘆に値する」

 

「……」

 

 

 確かにそうだ。全身骨折に、裂傷、多量出血、内臓も傷つき生死の境をさ迷っている。

 普通なら死んでいる状態だ。これも奇跡的……と言うよりは宏壱の体が頑丈過ぎるのか。

 

 

「お前からの救援要請は珍しいと思ったが、こんな事情がなぁ」

 

「機密事項だ。シーザー提督の部下にも箝口令を敷いてもらいたい」

 

「分かっている。これで地上本部のストライカーに貸しが出来たな」

 

 

「がっはっはっは」と豪快に笑い艦長椅子に深く腰掛けるシーザーを見やり口を開く。

 

 

「いや、これで俺に貸しを一つ返しただけだ」

 

「……むっ?」

 

「二年前、テロ事件の調査で情報を提供した」

 

「…………はっ!?」

 

 

 思い出したように目を見開くさまは、間抜けの一言に尽きた。

 

 

「序でに言えば、五年前に命を救ったこともある。考え無しのお前が、魔獣を倒すために突っ込んで火山の火口に落ち掛けたところをすんでのところで止めたのは俺だ」

 

「………………」

 

 

 シーザーの剃り上げた頭から大量の汗が流れ落ちる。目は泳ぎ定まらない。

 

 

「他にもお前が妻に――「分かった! これで借りを一つ返したっ! それでいいだろうっ!?」――……ああ」

 

 

 五月蝿く喚くシーザーに満足した俺は、ブリッジを出るために足を動かす。

 

 

「ゼスト、何処へ行く?」

 

「決まっている。部下の様子を見にいく」

 

「……そうか」

 

 

 シーザーの問いに答えてブリッジを出る。

 特に迷うこともなく医務室までの道を歩く。目の前のT字路を右折すれば、宏壱達が寝かされている医務室に辿り着く……というところで不審な人影を発見した。

 女性局員の制服を身に纏った赤毛の少女だ。首元で二つに結った二本の髪の束がゆらゆらと揺れている。

 その少女は俺に背中を向け、壁に身を隠すようにして通路の先を窺っている。

 

 

「……何をしている?」

 

 

 明らかに不審な行動を取るその局員に声を掛ける。

 

 

「ひゃいっ!?」

 

 

 奇妙な声を上げて少女が跳ねた。首元で二つに結った髪も天を突く勢いだった。

 

 

「え、とっ、あのっ、こ、これはっ!」

 

 

 振り向いて手を顔の前で振る少女には見覚えがあった。確か……。

 

 

「特別試験の時の……」

 

 

 そうだ。数年前の試験で、宏壱と同じチームを組んでいた少女の筈だ。合格したのはあの一組だけだった、覚えている。

 

 

「……え? あっ!? グ、グランガイツ試験官っ!?」

 

 

 そこで漸く俺に気付いた赤毛の少女が驚きの声を上げ、直ぐに敬礼をした。

 

 

「し、失礼しましたっ! ルイーヤ・バルセット二等空尉であります!」

 

「首都防衛隊一番隊隊長、ゼスト・グランガイツ一等陸佐だ」

 

 

 聖王教会にも所属しているため騎士として呼ばれることも多いが、管理局に居るときは大体が階級を付けるようにしている。

 

 

「は、はい! 存じ上げてます! お噂は予予……!」

 

「そういうのはいらん」

 

「はぅっ!? 申し訳ありません……」

 

 

 長くなりそうな赤毛の少女、バルセット二等空尉の言葉を遮る。

 

 

「バルセット二等空尉、何をしていた?」

 

 

 どことなく気落ちしたバルセット二等空尉に、こんなところで何をしていたのかを聞く。

 

 

「え……? あ、はい、その、ですね」

 

「……」

 

 

 歯切れの悪い言葉を紡ぐバルセット二等空尉を黙ってみる。確か、あの時、決め手となったのはバルセット二等空尉のチェーンバインドだったな。

 捕縛魔法を得意とするミッド式魔導士。あの試験は入局後、直ぐに三尉の地位を与えられる。二等空尉に昇級しているということは、それなりの功績を上げた……ということだ。

 

 

「その、こうい……じゃなくて、山口二等陸尉が怪我をして運び込まれたと聞きまして」

 

 

 立場からか、呼び方を正したバルセット二等空尉は、心配そうに宏壱が寝かされている医務室の方を見やる。

 

 

「なるほど……」

 

 

 宏壱とバルセット二等空尉は同期と言ってもいい間柄だ。陸と海に分かれた関係上交流などはないだろうが、宏壱は自分を試験合格へと導いた存在……気になるのも仕方ない、か。

 

 

「ならば、様子を見てやるといい。喜ぶだろう」

 

「えっ? でも……」

 

 

 躊躇うような仕草を見せるバルセット二等空尉に疑問が浮かぶ。

 

 

「躊躇うことはないだろう」

 

「えっと、ですね。かなりの重傷だって聞きました。まだ寝ていると思います。それに私が行かなくても、綺麗な女の人と可愛い女の子が入っていくのを見ましたし……」

 

「ふむ……」

 

 

 要領は得ないが言いたいことは理解できた。

 

 

「それで……あれ? グランガイツ一等陸佐?」

 

 

 疑問の声を上げるバルセット二等空尉を気にせず、彼女の襟首を掴む。

 

 

「へっ?……あ、あの~、一体何っ! ぐえっ!?」

 

 

 引っ張られて喉が詰まったのか、バルセット二等空尉は奇声を上げる。

 

 

「ちょっ! くるしっ! っです!」

 

「いいから来い」

 

 

 襟首を掴んだまま医務室へと歩みを進める。引きずる形になるが、それも仕方ない。

 

 

「入るぞ」

 

 

 医務室の扉の前に来た俺は軽くノックをして、返事を待つことなく部屋に入る。

 そこにはベッドが三台ずつ等間隔で左右の壁際に並べられ、右側にクイント、諸葛が、左側の一番奥に宏壱が寝かされている。

 

 

「あ……隊長」

 

「起きていたか」

 

 

 既にクイントと諸葛は目を覚ましていたようで二人とも体を起こしていた。

 

 

「はい、宏壱君に助けられたみたいです」

 

「……他の皆さんもご無事だと伺いました」

 

 

 クイントは平気そうだが、諸葛は気が滅入っている。それは鳳にも同じことが言える。

 二人ともが肩を落とし、俯き加減で声が固く小さい。心配そうに宏壱の寝るベッドを見やり目を逸らす、そんな行為を繰り返す。

 

 

「あの~、グランガイツ一佐……そろそろ放して欲しいんでけど……」

 

「む? ああ、すまん」

 

 

 未だに、俺の手はバルセット二等空尉の襟首を掴んでいたようだ。余りの室内の暗さに何を言おうか悩み忘れていた。

 

 

「あなたは……?」

 

 

 諸葛と鳳の視線が見覚えの無いバルセット二等空尉に向けられる。

 

 

「ルイーヤ・バルセット二等空尉であります!」

 

 

 制服を数度叩き埃を払ったバルセット二等空尉は敬礼する。

 

 

「あ、……っと」

 

「朱里ちゃん、まだ立つのは……っ!」

 

 

 敬礼したバルセット二等空尉に返礼するためだろう。諸葛がベッドから下りるが、足がフラつき倒れそうになったところを鳳が支える。

 

 

「あっ! 大丈夫だよ、無理しないでっ!」

 

「いえ、そういう訳にもいきませんっ!」

 

 

 止めようとするバルセット二等空尉に強い語気で返し、支える鳳から離れて今度は確りと立つ。

 

 

「……諸葛 朱里陸曹長です」

 

「ほ、鳳 雛里陸曹長でしゅっ」

 

「クイント・ナカジマ陸准尉です」

 

「メガーヌ・アルピーノ陸准尉です」

 

 

 クイントとメガーヌも二人に倣って返礼する。階級で言えばバルセット二等空尉の方が上だ、上官に先に名乗らせたことに四人はバツの悪い顔をする。

 

 

「えっと、宏壱君……山口二等陸尉はこの部屋、で良いんですよね?」

 

「はい、そうですけど……? お兄様のお知り合い、でしょうか?」

 

 

 ふむ、出会ったことがなければそれも当然の疑問か。

 事実、陸と海の仲はお世辞にも良いとは言えん。

 レジアスの娘であるオーリスが、宏壱を使って溝埋を行おうと、幾度か海への出向という形で手を貸したことはあるようだが、成果があるとは言い切れん。

 

 

「お兄様……? あれ? でもファミリーネームは……」

 

 

 確かに疑問は湧くだろう。最初は誰でも戸惑いを覚える。

 

 

「あ……えっと、昔から兄のように慕っていましたから……」

 

 

 レアスキルの話をするのは面倒だと考えたのか、諸葛は当たり障りの無い返しをする。

 

 

「あ……思い出したわ」

 

 

 声を上げたメガーヌに視線が集まる。

 

 

「メガーヌ?」

 

「クイント、覚えてない? 宏壱君の試験の時の……」

 

 

 クイントに声を掛けられ、メガーヌはゆっくりと思い出すように語る。

 

 

「え? 試験……?」

 

「最後に隊長を押さえたバインドの」

 

「あっ!? 思い出した! 確か宏壱君と同じチームを組んでた……!」

 

 

 漸く思い出したクイントが手を打つ。

 

 

「試験……?」

 

「朱里ちゃん、ひょっとして……」

 

「うん、多分そうだよ」

 

 

 諸葛と鳳は、メガーヌとクイントの会話から当たりを付けたようだ。

 

 

「ぐっ……ぅ! うるっさいぞ……っ!」

 

『……えっ?』

 

 

 五人の声が重なる。辛うじて声は出さなかったが、俺も同じ心境だ。

 声のした方を見れば、包帯男と化した宏壱が人工呼吸器を外して体を起こしていた。

 ……あれ程の重体で、もう起き上がれるものなのか? 以前から傷の治りは早く、回復魔法の効き目も人一倍良かったが……これは、異常だ。

 

 

「「お兄様っ!」」

 

「ぐぅっ!」

 

 

 考えていると、諸葛と鳳が宏壱のベッドに飛び込む。悲痛な悲鳴が聞こえたが、問題ないだろう。

 

 

「あれだけの傷を受けて血も殆ど失ったのに、数時間で目を覚ますって……」

 

 

 メガーヌが理解に苦しむ、といった風に額に手を添える。クイントは苦笑いだ。俺も心境は二人と変わらん。

 

 

「ふったり……とも、避けてくれ……」

 

 

 息絶え絶えに言葉を発する宏壱は苦しそうだ。

 

 

「お兄しゃまぁ……! ぐしゅ……っ!」

 

「うぇっ……!」

 

「……はぁっ……好きに……しろっ……」

 

 

 二人をどかそうと両腕に力を入れていた宏壱は、抵抗を諦め優しく諸葛と鳳の頭に手を置いてゆっくりと撫でる。

 そこに……。

 

 

「宏壱君、久し振り、だね」

 

 

 バルセット二等空尉が近付き声を掛ける。

 

 

「……」

 

 

 宏壱は暫くバルセット二等空尉の顔を見て、口を開く。

 

 

「誰……だ……?」

 

「「「……」」」

 

「えええぇぇぇっ!?」

 

 

 医務室にバルセット二等空尉の驚愕の声が響いた。

 

side out

 

 

 

 

 

side~シーザー~

 

 ゼストを見送って俺は深く艦長席に腰掛ける。

 

 

「むぅ……借りを返せたと思ったんだがな」

 

 

 思うのはやはり借りを返しきれなかったことだ。

 ゼストには幾度となく命を救われている。嫁とケンカをした時も、あいつが間に入って仲裁してくれた。原因は俺の浮気疑惑だったが、道端で道を聞かれて案内したのを、偶然嫁に目撃されたのが事の発端だった。

 あの時、離婚の危機を救ってくれたゼストに深く感謝したのを覚えている。

 

 

「艦長、整備班から山口二等陸尉のデバイスデータ、医療班から身体データ届きました」

 

「表示してくれ」

 

 

 オペレータに指示を出す。デバイスデータは先の戦闘データと何故あれ程の傷を負ったのか、身体データは怪我の状況だ。

 それぞれ専門のメカニックと医療班のレポート付きだ。

 

 

「……」

 

 

 ブリッジ正面ディスプレイに展開されたのは地上の若きエース、山口二等陸尉の戦闘風景だ。

 デバイスは両手に着けている白と黒の二つのグローブか。

 研究所突入後、それは直ぐ様開始された。立ちはだかる十数人の男を前に、臆さず前進する首都防衛隊の隊員達。

 誰よりも速く先頭を駆けるのは小さな坊主だ。

 掌より生み出した炎を眼前に広げて、それを目眩ましとして坊主を除く隊員達は、乱雑に散乱する生体ポッドの影に身を隠し、先に見える地下へ続く階段に向かう。

 

 

「……上手いな」

 

 

 そっからの坊主の立ち回りは見事だった。敵対する者共に気づかれぬように、見えないところで魔力弾を生成、操作して恰かも援護射撃があるかのように振る舞い、地下へ続く階段から連中の意識を逸らさせる。

 魔力光でばれるだろうが、突破さえしてしまえば関係ない。

 近接寄りのオールラウンダーなんだろう。操作する魔力弾に一切の淀みはない。

 魔力弾は牽制程度にとどめ、接近して確実に一撃で仕留めていく。隙があれば、属性変換された直射弾で相手を穿つ。強かな戦い方をする。

 全員が地下に下りると後は坊主の独擅場だ。後衛、中衛、前衛と連携を取り始めた連中のど真ん中に、高速魔法で侵入して陣形を一瞬で崩しに掛かる。

 多対戦に慣れている、そう感じさせる動きだ。

 

 

「……すげぇ」

 

 

 ブリッジに誰かの呟きが響く。俺か、オペレーターの誰かか……。分かっているのは、この場の全員がその戦いに魅せられているという事だ。

 そして直ぐに戦闘は坊主の圧倒的勝利で閉幕する。エースと呼ばれるに相応しい動きだ。

 だが……。

 

 

「何故これであれ程の傷を負うことになる……?」

 

 

 疑問はそこだ。この戦闘では、坊主にとって脅威足り得る存在はいない。ましてや、この建築物を粉々に粉砕できる奴など存在しなかった。

 戦闘終了後、地下に下りた隊員達と親しげに会話をして通信を終える。だが、坊主の雰囲気は再び戦闘へと切り替えられた。屋外からの魔力反応を感知したようだ。

 

 

[全員っ!! 衝撃に備えろおおおぉぉぉぉッッッッ!!!!]

 

 

 ブリッジに響き渡る怒声。音は空気を震わせ、コンクリートの床を砕く程の衝撃波を生んだ。

 そして直後、坊主が全身から血を吹き出し膝をつく。その直後天井が崩れて坊主の姿は瓦礫に消えた。その一瞬前、坊主の体が深紅の光を放ったのが見えた。恐らく、自らの身を守るためではなく、仲間を守るために放った防護膜だろう。

 

 

「整備班からのレポートに依りますと、観測された魔力反応は、管理局データベースに同一のものがあるとのことです」

 

「……資料はあるか?」

 

「はい、こちらです」

 

 

 坊主の戦闘データは閉じられ、代わりに一人の男の写真と情報が開かれた。白銀の髪をオールバックにした長身の若い男だ。

 

 

「名前はリカルド・シュレイン。傭兵集団『ブラッド・カルネージ』の幹部です」

 

 

 ざわっ、とブリッジ内が一瞬どよめく。無理もない、余りに凶悪で有名な組織名が出たからな。

 

 

「『ブラッド・カルネージ』……確か、金さえ積めば、大量虐殺もやって見せるイカれた連中だったか……」

 

「はい、局員殺しや無抵抗な一般人まで手に掛けているようです。既に広域指名手配されていて、この男自身にも高額の賞金が懸けられています」

 

 

 この研究をしている奴はこんな連中を雇ったってことか……ゼスト、こりゃあかなり危険な任務になるぞ。

 

 

「推定魔力量AAA、魔導士ランクSです。放つ魔力刃は、触れるもの全てを切り裂くほど鋭利だそうです」

 

「それで坊主はやられたわけか……」

 

「恐らく……」

 

「分かった。次は坊主の身体データだ」

 

「はい」

 

 

 リカルド・シュレインのデータが閉じられ、坊主の身体データが開かれる。

 

 

「……」

 

「……どうした?」

 

 

 報告をしないオペレーターに訝しむ。

 

 

「い、いえ、その~」

 

「何だ……? ハッキリしろ」

 

 

『ブラッド・カルネージ』の名前が出ても冷静さを保っていたオペレーターが、急に歯切れを悪くした。

 

 

「…………です」

 

「……何? 声が小さくて聞こえんぞ」

 

「全身骨折は既に治っていて、全身に刻まれた裂傷も小さなものは跡形もなく塞がっているそうです」

 

『は?』

 

 

 ブリッジ内の全員の声が重なった。

 

 

「俺も担ぎ込まれたときの坊主の状態を見たぞ。あれがそう簡単に治るものとは思えん。この艦にそれほど秀でた治療魔法を使える奴もいない」

 

 

 精々できて擦り傷を完治させる程度だ。後は治りを速くするだけで、骨折の完全治癒など出来るものはいない。

 それはゼスト隊にも同じことが言える。出来るなら運び込む前にしている筈だ。

 

 

「自然治癒能力が、通常の人間を遥かに上回るんだそうです」

 

「……確かにそういう奴は存在する。人体が戦闘に特化した連中だ。だがな、これ程速くはないぞ」

 

 

 骨折でも一週間で骨がくっついた奴を見たことがある。気付けば二週間で戦線に復帰してやがった。

 だが、坊主は数時間だ。有り得んだろうが……。

 

 これから数十分後、坊主が目を覚ましたと聞いて俺は考えることを放棄した。

 

side out




新しい敵勢力の存在が明らかに……!
と言っても、宏壱がリベンジを果たすのはリカルド・シュレインだけなんですけどね。それ自体もA's編終了後の空白期ですけど。

因み、にシーザーは陸だ海だと気にする性格ではありません。出世欲自体も無いので功績を陸に取られるとかの考えもありません。協力して解決するなら協力する、そんなスタンスで動いています。
こんな考え方なので上層部からは煙たがられています。
上層部から嫌われているので、違法研究所があるような辺境の管轄を任されているんです。本人に特に不満はありませんが。……強いて言うなら、ミッドに中々変えれないことでしょうか?愛妻家なんです。

では、また次回お会いしましょう。
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