リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十五鬼~赤鬼の敗北、リベンジ、勝利~

side~宏壱~

 

 目の前で(むく)れる赤毛の女を見て頭を掻く。朱里と雛里の視線が痛い。クイントさんとメガーヌさんの視線が冷たい。呆れた視線を送るゼストさんのは痛くも痒くもない。

 

 

「いや、ぼーっとしてだな。その、まさかお前が居るなんて思わないし……」

 

「……つーん」

 

 

 言い訳をしても取り合ってもらえない。そっぽを向いてつーんと口にするだけだ。

 

 

「……わざわざ口に出すなよ、ガキ臭い」

 

「「「「……」」」」

 

 

 思ったことを言うと、女性陣の視線が更にキツいものになる。

 ゼストさんに視線で助けを求めても、入り口横の壁に背を預けて静観している。

 実際、頭に血が足りなくて視界も霞んでた。その上、二年ほど前に出会っただけの女だぞ? たった一日だけの関係の女だぞ(意味深)?

 同じチームだったとしてもそう簡単に思い出せないだろ、普通。

 

 

「ルーヤ、機嫌を直してくれ。今度何か旨いものでも奢ってやるから」

 

「食べ物なんかで釣られないもんっ!」

 

 

 涙目で抗議された。っていうか、もんって何だ。もう二十歳だろ。

 

 

「……お兄様、それはないです」

 

 

 冷めた目で俺を見て首を横に振る朱里。

 

 

「さ、最低でしゅっ」

 

 

 ハイライトの消えた目が少し怖い雛里。

 

 

「乙女心が分かってないわね~」

 

 

 腰に左手を当て右手は人差し指を伸ばして他の指は握り込んでメッと叱るクイントさん。

 

 

「あらあら」

 

 

 右手を頬に当てて悪戯をした子供を見るように困り顔のメガーヌさん。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 何気にゼストさんの溜め息が一番グサッと来た。

 アウェイ過ぎる。この場に俺の味方は居ないのか……!

 そこで、この部屋に近づく気配に気付いた。実力はそこそこだな。

 

 

「おう、坊主。目を覚ましたんだってな!」

 

 

 ノックもせず、扉を開けて入ってくる大柄の男。身長は2mを超えるだろう。スキンヘッドの頭から左頬にかけて三本の深い爪痕、高官局員の制服を大きく盛り上がらせる肉体。

 雰囲気で分かる。歴戦の勇士だ。敬意を払うべき人間なのは一目瞭然。普段の俺なら……敬意を払ってさん付けで呼ぶだろうが……。

 

 

「「……」」

 

 

 俺の背に隠れて体を震わせる朱里と雛里を見やる。

 突然現れた厳つい大男に怯えているのは明らかだ。

 

 

「剃っ!」

 

「……む?」

 

 

 瞬時に男の前に移動する。

 

 

「俺の妹を泣かしてんじゃねぇぞ! 若造がっ!!」

 

「うごっ!!?」

 

 

 飛び上がっておっさんの鼻っ面に膝を叩き込んだ。

 鼻血を吹き出して倒れ行くおっさんの左腕が動いた。パーにした手で張り手を噛ますつもりだ。

 

 

「ふんっ!」

 

「ぐふぅっ!」

 

 

 それが届くよりも速く、空中で体を捻り回し蹴りを放って部屋から蹴り飛ばす。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

「か、か、か艦長おおおぉぉぉぉぉぉっ!!??」

 

 

 お偉いさんだということは制服で分かったが、俺の大事な朱里と雛里を怯えさせた罪は重い。断じて現状に混乱を(もたら)せて有耶無耶にしたかったとかではないのだ。これは大義である……っ!!

 

 

「「……お兄様」」

 

 

 二人の妹分兼恋人は呆れた視線を俺に送る。流石、臥龍鳳雛。俺の隠された真意に気付くとは……。

 

 

「イってぇ……なんて威力してやがるんだ。ホントに怪我人か……?」

 

「……頑丈だな、あんた」

 

 

 体を起こした大男は埃を払い、垂れた鼻血をポケットティッシュで拭う。

 俺の蹴り、当然加減はしたが、それを受けて平然としていられる頑強さは驚きの一言に尽きた。

 

 

「ちょっ、ちょっと、宏壱君! 艦長になんてことを……!」

 

 

 リーヤが詰め寄ってくる。当然だろう。俺の階級は二尉、艦長ってことはこのおっさんは提督……将官クラスだ。厳罰は免れない、普通なら。

 

 

「がっはっはっは、バルセット、構わんぞ!」

 

「か、艦長?」

 

「ヤンチャな坊主だ。大抵な奴は、俺の階級と風貌にビビって声が上ずる。……その若さでその胆力、エースと呼ばれるのも頷けるってものだな」

 

 

 自分を蹴り飛ばしたガキに対しての物言いじゃないな。保身に回るだけの高官とは一味も二味も違う、本物だ。本物のバカだ。

 

 

「ゼスト、お前も面白い奴を部下に持ったな。この坊主は、強いぞ。権力にも地位にも、名誉にも興味ねぇって面構えだ。戦いを楽しみ、食うことを楽しみ、笑うことを楽しむ。人間らしさを持ってやがる」

 

「ああ、それが宏壱の良いところだ」

 

 

 普段、仏頂面のゼストさんがニヒルな笑みを浮かべる。この人も戦うのが好きだからな。普段はそんな素振りは見せないが……。

 

 

「それだけ動けるなら訓練もできるだろ。……ここから本局まで四日掛かる。多重転移を使って帰るのもありだが、まぁ任務終わりの骨休めだと思ってゆっくりしてくれ」

 

 

 それを態々伝えに来たのか、おっさんは踵を返して通路の角に消える。

 俺達はおっさんの言葉に甘えることにして、思い思いの時間を過ごすことにした。

 

 朱里と雛里は二人で探検だ。あまり大型の次元艦に乗ることが少ないからな。大体が、転移魔法で次元間を行き来することが多い彼女達だ、珍しいものに触れたくてうずうずしていたのは見ればすぐに分かった。

 俺の怪我が心配だったらしいが、付いていなくても大丈夫な旨を伝えると、後ろ髪を引かれながらも手を繋いで出ていった。

 ゼストさんは隊長としてシーザー提督(シーザー提督が去った後、嗜めるようにルーヤが教えてくれた)と相談事をするために提督を追い、クイントさんとメガーヌさんは食堂だ。俺が目を覚ますと急激に腹が空いたらしい。

 そんな訳で残ったのはルーヤと、特にやることも見当たらない俺だった。

 俺達は入局してからの二年間のことを向かい合わせに座って話していた。

 

 

「ルーヤ、お前はこの(ふね)で何をしているんだ?」

 

「私は武装隊に所属していて、魔獣の捕縛要員なんだよ。鳥系、犬系、猫系、虫系、爬虫類系、魚介系、それぞれで幅広く捕獲方法が違うの。だからリングにチェーン、サークル、いろんなバインドが使える私がその中枢を担っているのです!」

 

 

 自信に満ちた顔で慎ましやかな胸を張る二十前の女。もう少し大人になれないもんかねぇ……。

 

 

「そんな優秀なルーヤが何でこんな辺鄙な場所に?」

 

「うぅっ……それは……」

 

 

 自信満々だった顔に陰りが生まれ、肩を落とすルーヤ。何か事情があるらしい。

 

 

「攻撃魔法とか防御魔法、強化魔法が得意じゃないから……」

 

「はぁ? 捕縛魔法も十分役に立つだろ……そんな理由で」

 

「前のところは本局の航空隊だったんだけど、魔力ダメージで沈めた方が早いって言われて」

 

「おいおい、違法魔導士が人質を取ったらどうするんだ? 巻き添えになんかすると風評が悪くなるぞ。管理局は民衆の支持を得ているからこそ大っぴらげに動けるんだ。民衆に悪感情を持たせるのは頭の良いやり方じゃないだろ」

 

「ありがとぉ……そう言ってくれると嬉しいよ~」

 

 

 力のない声だ。これ以上この話を広げるのはやめた方が良さそうだな。

 

 

「……なぁ、ルーヤ」

 

「……宏壱君? どうしたの?」

 

 

 俺の静かな呼び掛けに首を傾げるルーヤ。気落ちした雰囲気はそのままだが、思い出してのそれってだけで引きずってる訳でもなさそうだ。

 

 

「俺と模擬戦をしてくれ」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 そんな訳でやって来ましたトレーニングルーム。

 そこでは、バリアジャケットを展開したルーヤと、メディカルルームで拾ってきた刃と無限を展開した俺が7m程の距離をあけて対峙していた。

 刃を刀に無限はグローブにして佇む。

 

 

「えっと、さっきも言ったけど、私宏壱君を仕留められる攻撃魔法なんてないよ? ちょっとした魔力弾が射てるだけで……」

 

「ああ」

 

「防御魔法も展開が遅いし耐久値も高くないよ? 宏壱君の渾身の一撃なんて受けたら2秒ぐらいで壊れちゃうよ?」

 

「ああ」

 

「それに宏壱君怪我してるでしょ? 別に何日も寝てたって訳じゃないから体力が衰えてるってことはないと思うけど、それでも――「問題ない」――……むぅっ、ホントに怪我しても知らないよ?」

 

「大丈夫だって」

 

 

 念押しで聞いてくるルーヤに苦笑を返して伝えると「分かったよ、もう」と頬を膨らませながらも、杖型のデバイスを構える。

 

 

「そんじゃ、始めるぞ」

 

「うん……!」

 

 

 とんとん、とその場で二度、三度片足で軽く跳ねる。四度目、床に足がついた瞬間身を低くさせ、前方に跳ぶ。

 

 

「――っ!」

 

 

 遅れて後ろに跳んだルーヤ。微かに彼女の口が動くのが見えた。

 

 

「――くっ!」

 

 

 二歩目に出した足が床につくと同時に横に跳ぶ。無理に避けたせいで未だ癒えきっていない傷がじくじくと痛むが、心配を掛けるわけにはいかない。

 リングバインドだ。展開が速い。彼女が自身で言ったように、バインド系はかなり得意らしい。

 

 

「――っ!」

 

「ちぃっ!」

 

 

 更に距離をあけたルーヤの足元から、淡く赤い色の魔法陣が浮かび上がり、そこから六本のチェーンがジャラジャラと音を立てて飛び出てくる。

 真っ直ぐに俺に迫るチェーンの先は尖っていてかえしが付いている。

 

 

「どこが攻撃魔法なんて使えない、っだ!」

 

 

 立派な攻撃手段じゃねぇかっ!と胸中で悪態を吐きながら迫るチェーンを刃で弾く。

 斬り上げ、横凪ぎ、突き、斬り下ろし、ステップを踏んで体を揺らして躱す。俺の周囲を縦横無尽に駆け巡るチェーンバインドを対処していく。

 時折、手首や足首を狙って的確な位置にリングバインドが設置される。しかもチェーンの合間を縫って直射弾が飛んでくるのだ。

 予想以上の動きに心が躍る。

 違いはあれど戦闘タイプと戦ってきた俺だが、こういった戦闘向きではないタイプと戦った経験が不足していることに思い至ったのだ。

 

 

「埒があかねぇ……!」

 

 

 顔に迫ったチェーンを首を捻ることで躱し、前に進む。

 前方、後方から挟み撃ちをするようにチェーンが迫る。上に逃げるのを防ぐためか、俺の頭上ではチェーンが我武者羅に飛び回っている。

 ここから逃げる方法は一つだけだ。

 

 

「炎神・炎刀」

 

 

 前から迫り来るチェーンに駆けながら呟くと、刃の刀身に炎が纏わり付き、それに熱せられて新雪のような刀身が紅蓮に染まる。

 逆手に刃を構えて俺の胸へと迫るチェーンに中心線を合わせる。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 刃とチェーンが接触今度は弾くことなく、ジュッ、とチェーンが溶けた。

 熱せられた刃の刀身は3000℃を超える。当然、刃は溶けないように魔力保護がされている。

 

 

「うおりゃあっ!」

 

 

 そのまま駆けてチェーンを真ん中から二股に焼き切っていく。

 最後に刃を斬り上げて、俺を囲っていたチェーンを絶つ。

 

 

「えええっ!?」

 

 

 突破した俺に驚きの声を上げるルーヤ。そのまま彼女に向かって駆けよう……として後ろに跳躍、距離をあける。

 

 

「そんなに長く捕らわれていたつもりはないんだけどな」

 

「あれ? 分かっちゃうんだ……上手く隠せたと思ったんだけどなー」

 

 

 理由は至極簡単で、トラップがあちこちに仕掛けられているからだ。

 トラップと言っても、仕掛けられた場所を通ると発動するリングバインドだ。

 初歩的な戦術で、士官学校の教科書にも載っている基本中の基本だ。それ故に扱い易く手堅い……そして、バカにされ易い。

 子供騙しと嘲るものも多いだろう。が、嘗めてはいけない。これはそこを通らなければ良いとかそんな単純なものではないのだ。

 

 

「――っ!」

 

 

 再びルーヤの足元に魔法陣が浮かび上がり、チェーンバインドが飛び出す。数はさっきと同じ……いや、違うっ!

 

 

「くっ!」

 

 

 体を横に投げ出しその場を離れる。

 ――ジャジャジャジャラッ!!――三本のチェーンが俺のいた場所を通過していく。

 後方に目をやれば淡く赤い色の魔法陣。

 前方のものと合わせると合計九本のチェーンバインドが俺を襲う。

 迫り来るチェーンバインドを躱すために上空に跳躍――っ!?

 

 

「月歩っ!」

 

 

 足を空中で踏みつける。――ドンッ!――宙で蹴り付けた足に振動が伝わった。

 体技『六式』の二つある歩法の一つ、空中歩行を可能にした技……月歩だ。

 俺がその場を離れると、淡く赤いリングが浮かび上がり、サイズを縮め――パキン――砕けた。

 

 

「あの時に見せた技だねっ」

 

 

 試験の時の話か……。

 確かにゼストさん相手に使った記憶がある。

 まぁ、知っているからといって、どうこうできる代物じゃないけどな。

 

 

「っと……!」

 

 

 月歩を繰り返して追ってくるチェーンバインドを躱し、躱しきれないものは刃で弾く。

 飛行魔法でも十分躱せるだろうが、乱雑に、それでいて正確に俺を捉えて迫るチェーンバインドは、ステップを踏んでギリギリに躱した方が捕まり難いのだ。

 

 

「鎌鼬っ!」

 

 

 隙を見てルーヤに向けて刃を振るい魔力刃を飛ばす。

 弧を描き迫る深紅の魔力刃。それを見つめるルーヤは慌てず冷静にチェーンで弾く。

 ……防御魔法が苦手とは言っていたが、防御が出来ないなんて言ってないもんな。

 

 

「剃刀っ!」

 

 

 若干の詐欺臭さを感じながら、剃と月歩の応用……空中でも高速移動ができる歩法だ。

 移動場所はルーヤの側面、2m先。そこで腰を落とし刃の刃先をルーヤに向ける。

 

 

「ぜああっ!!」

 

「――っ!?」

 

 

 限界まで腕を伸ばして突貫。渾身の突きだ。

 

 

「くぅっ!」

 

 

 ルーヤが苦悶の声を漏らす。

 ――ギャリリリッ!!――金属を擦る音が鳴り響き火花を散らした。

 ルーヤは手繰り寄せた三本のチェーンバインドで防いでいた。が、力は圧倒的に俺の方が上だ。

 受け止めきれない体は浮き上がり、後方に流される。

 

 

「せやっ!」

 

 

 ――炎神・炎刀――心で呟く。刀身に炎が纏わり付き、その熱で刀身が赤く染まる。

 

 

「これでっ!」

 

 

 刃を受け止めていたチェーンバインドを焼き切り、最後の止めと言わんばかりに刃を振り上げる。

 

 

「終わりっ――っ!?」

 

「くすっ……掛かったね?」

 

 

 ルーヤが笑みを溢す。巣に掛かった獲物を嬲る蜘蛛のような目だ。……蜘蛛の目付きなんて知らんが。

 振り上げた刃を、斬り下ろそうとしたところで体の動きが止まる。

 見れば手首、胴にリングバインドが締まっていて体を動かせない。

 解こうにも、複雑奇っ怪な術式で演算が間に合わない。

 

 

「はぁ、降参だ」

 

 

 刃と無限の展開を戻して、両手を頭の側面で広げて降参のポーズを取る。

 

 

「あー、疲れたよ」

 

 

 デバイスを仕舞ったルーヤが大きく息を吐く。勝利した喜びは少なそうだ。

 

 

「あんまり喜ばないんだな?」

 

 

 バインドを解かれた肩を回して筋肉を解す。短時間でも上に向けられたままってのは疲れるもんだ。

 

 

「だって宏壱君本気じゃなかったでしょ……?」

 

 

 そう言いながら俺を見るルーヤの目はじとっとしている。

 

 

「まぁ、ガチでやるのは流石にしんどい……体も痛いし」

 

「怪我をしてるのは分かるけど……でも、勝つならやっぱり本調子の宏壱君と戦って勝ちたいな」

 

 

 存外に負けず嫌いな性格らしい。

 

 

「じゃあ、こうしよう。最終日には調子も戻ってるだろうから、その時にってことでどうだ?」

 

「うん、分かったよ。今度は手を抜かないでね?」

 

「おう」

 

 

 それで納得したのか、笑顔を一度見せて俺に背を向ける。

 仕事に戻るらしい。

 ルーヤの背中を見送り俺もトレーニングルームを出る。すると――ぎゅるるるるっ――腹の虫が餌を寄越せと訴えてきた。

 

 

「んじゃ、俺も飯でも食うかな」

 

 

 独り言ちて、空腹を訴える腹を擦りながら食堂に足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 そして最終日、後二時間あれば本局に着くという頃、ルーサー提督、ゼストさん、クイントさん、メガーヌさん、朱里、雛里、他数名の“シヴァ”の乗組員と一番隊(通称ゼスト隊)が管制室で見守る中、俺とルーヤはデバイスを展開して再びトレーニングルームで対峙していた。

 今回は右手に漆黒の無限、左手に潔白の刃を二振りの刀を携えている。

 

 

[負けんなよっ、バルセットー!]

 

[ルーヤちゃーん、頑張ってー!]

 

「相手が陸のエースだろうが関係ねぇっ、お前はこの艦のエースだ!」

 

[やるからには勝て、バルセット二等空尉]

 

「はいっ!」

 

 

 ルーヤの同僚が管制室から声援を送る声がマイクを通じてトレーニングルームに響く。

 最後の声はシーザー提督だろう。その言葉に強く頷くルーヤ。

 

 

[頑張れ男の子っ]

 

「それはなんか使いどころが違うぞ、クイントさん」

 

[女の子に怪我をさせちゃダメよ?]

 

「無茶を言ってくれるな。模擬戦だぞ、メガーヌさん」

 

[勝て]

 

「それだけか、ゼストさん。まぁ、ここは静かに応……とだけ答えさせてもらう」

 

[[[[頑張ってくださいっ! 山口二等陸尉!!]]]]

 

「――キーーーーーンッ!!!――うるっさ! お前ら一気に喋んな!!」

 

[雛里ちゃん……]

 

[うん、朱里ちゃん]

 

[[……せーのっ、勝ってください! お兄しゃま!!]]

 

「――キーーン――応っ!」

 

 

 朱里と雛里の声援に戦意を(噛んだところに癒されつつ)漲らせる。

 [扱い違いすぎませんか!?][差別だっ!][このシスコン! このシスコン!]外野が煩いがスルーで。まぁ、シスコン呼ばわりした奴は後で模擬戦だ。『グロウ』で本気でやってやる。

 

 

「行くぞ、ルーヤ」

 

「うん……!」

 

「これが、俺の本気だ」

 

 

 完全回復……と言っても深く切られた箇所は傷跡が残るが、した足に力を込めて駆ける。

 

 

「速いっ!」

 

 

 前回と同じように後方に跳ぶルーヤだが、俺の速度は前回を上回っている。

 

 

「だけど……っ!」

 

 

 淡く赤い色の魔法陣がルーヤの正面、俺の後方に浮かび上がる。

 視線は前に向けたまま数瞬だけ意識を後ろに向ける。正面から五本、後ろも五本か。

 

 

「雷神・雷刀」

 

 

 無限が深紅の雷を纏う。

 バチバチと音を鳴らせる今の無限は、雷速で全てを絶ち斬る瞬速の刀。

 

 

「炎神・炎刀」

 

 

 刃が炎を纏い赤く染まる。

 轟轟と灼熱の熱風を放つ今の刃は、全てを溶かし、焼き切る紅蓮の刀。

 

 

「しっ!」

 

 

 迫り来るチェーンバインドに無限を振るう。恐らく、ルーヤ、管制室にいる皆には、俺の右腕が一瞬ブレたようにしか見えなかったはずだ。

 正面の五本のチェーンバインドは動きを止めた。それを横目にチェーンバインドの脇を駆け抜ける。

 

 

「えっ!? どうしてっ!」

 

 

 想定外の事に驚き目を見開くルーヤ。

 ――パキキキキキン――複数のガラスが砕けるような音が響いた。

 俺は一度振ったんじゃない。駆けながら合計で五十三回無限を振り抜いたんだ。

 

 

「くっ! 展開は間に合わないっ、だったら……!」

 

 

 驚きから我に返ったルーヤは、後方のチェーンバインドの速度を速めた。

 

 

「ぜああっ!!」

 

 

 背中まで追い付いたチェーンバインドを、体を空中で捻りながら今度は五本纏めて刃で焼き切る。

 抵抗感は殆んど無くて、まるで豆腐に刃物を通すようにチェーンバインドを通過した。

 

 

「なあっ!?」

 

 

 更に驚きに目を見開くルーヤとの距離を一足で詰める。

 

 

「わっ!?」

 

 

 驚きに固まるルーヤの足を素早く下段蹴りで刈る。

 体勢を崩し背中から倒れたルーヤの体に跨がり、トレーニングルームの床に刃と無限を逆手に持って突き刺す。

 

 

「ひぅっ!」

 

 

 引き攣った悲鳴がルーヤの口から漏れる。

 突き刺した場所はルーヤの首の横。そこに刃と無限を交差させて突き刺したのだ。

 さながらハサミで物を挟み込むように……な。

 

 

「俺の勝ち、だ」

 

 

 ルーヤの耳元まで顔を寄せて囁く。

 無言でこくこくと頷くルーヤを確認して刃と無限を抜く。

 

 

「今のが、本気?」

 

「ああ、今の俺が出せる全力だ」

 

 

『グロウ』を使っていないガキの俺が、身体強化……ギアムーブ(ファーストムーブやセカンドムーブなどの総称)なしの状態で、だけどな。

 

 

「そっか……あれ?」

 

 

 静かに答えて体を起こして立ち上がろうとするルーヤだが……。

 

 

「どうした……?」

 

「待って……あれ?あれ? 足に力が……」

 

 

 どうやら腰が抜けたらしい。

 

 

「ほら、掴まれ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 俺の差し出した手をルーヤが掴んだのを確認して引っ張り上げる。

 

 

「わわっ」

 

 

 勢い余って倒れそうになったルーヤの前に回り込んで、背中におぶる。

 

 

「ひゃうっ……こ、宏壱君?」

 

「腰が抜けて歩けないんだろ? なら、俺がこのまま医務室まで送る」

 

 

 戸惑うルーヤに答えながらトレーニングルームの出入り口へと足を向ける。

 

 

「えぇっ? だ、大丈夫だよ! 自分で――「歩けないからこうしてるんだろ」――……うぅっ……お、重くない?」

 

「軽い軽い」

 

 

 平気だと見せるように、スキップする。

 当然体が跳ねる訳で、俺は兎も角おぶられてるだけのルーヤは怖いだろう。慌てて俺の首に腕を回してきた。

 

 

「わっ、わっ、分かったよ! こ、宏壱君に任せます! だから普通に歩いて~!」

 

「最初っから素直にそうしてりゃ良いのに」

 

 

 スキップをやめて普通に歩く。「私が悪いみたいに言わないでよぉ」とぼやくルーヤを鼻で笑い。トレーニングルームを出た。

 

 

「「……」」

 

「おう、勝った、ぞ?」

 

「うわっ!?……ビックリした~」

 

 

 トレーニングルームを出て医務室まで歩みを進めていると、通路の曲がり角を通り過ぎると、その曲がり角、管制室へと続く道に朱里と雛里が立っていた。

 気配で気付いていた俺は普通に声を掛け、気付いていなかったルーヤは体を少しビクつかせていた。

 そんな二人は密着する俺とルーヤを半眼で見ていた。

 

 

「ど、どうした?」

 

「……別に、何でもありません」

 

「……お兄様には関係のないことでしゅ」

 

 

 関係なくはないだろとか、メチャクチャ不機嫌そうですねとか、この空気で言えるほど俺は勇者じゃない。

 

 

「そ、そうか……俺、ルーヤを医務室に連れていくな?」

 

「はい」

 

「どうぞお構い無く」

 

「お、おう」

 

 

 確認を取ると、是との返事がもらえたので医務室に向けて再び歩みを進める。んだが……。

 

 

「「……」」

 

「……」

 

「……」

 

 

 俺の足音に加えて、後ろから二つの軽い足音が聞こえる。

 言わなくても分かるだろう。そう、朱里と雛里だ。特に声を掛けるでもなく、ただ後ろを付いてくる。

 この異様な光景は問題だ。何故なら、無言で歩く俺達にすれ違う局員は、ギョッとして道の端に寄ってしまうのだ。

 女を背負ったガキに、その後ろを無言で付いて歩く少女二人。変な噂が立ちそうだ。

 

 

《えっと、どうするの?》

 

 

 ルーヤが念話を飛ばしてくる。主語がないが、言いたいことは分かる。後ろの二人だ。

 

 

《後で何とかする》

 

 

 ……そうルーヤに念話を返したのは一時間前。

 何とかする……ルーヤを医務室まで送った後、取り合えず自分に割り当てられた部屋で朱里と雛里の頭を、ミッドに着くまで撫でるのが俺のとった処置だった。

 

 

「「えへへ♪」」

 

 

 まぁ、二人が笑ってくれるなら良いかな。そう思う。こうも幸せそうな笑顔を見せられると、こう、二人への愛しさが……。

 

 

「「きゃっ、お兄様?」」

 

 

 衝動に負けた(抗う気がなかったとも言う)俺は両脇に座る朱里と雛里を抱き寄せると、二人は驚いた声を上げる。

 

 

「朱里、好きだ」

 

「あ……ん、ふ……うむっ……ちゅ」

 

 

 ソフトなキスを繰り返す。唇を重ねるだけの他愛もない、愛情を相手に伝える簡単なもの。

 

 

「雛里、愛してる……ん」

 

「あんぅ……ちゅっ」

 

 

 交互に二人とキスをする。それは徐々に過激になり、互いの舌と舌を絡め合わせ、唾液の交換をする。

 その後は『グロウ』で大人モードになり、二人をベッドに押し倒して……。

 

 ここから先は俺達だけの空間だ。後は想像に任せるよ。




いや~、今回は長かったです。

攻撃魔法、防御魔法が苦手なら得意な魔法で補えば良いじゃない!これが彼女の発想です。
チェーンバインドは、自由に操れれば結構なことができると思ってやってみました。
おかしかったらご免なさい。

では、また次回お会いしましょう。
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