リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十六鬼~赤鬼、襲われる~

side~宏壱~

 

 季節は冬、十二月上旬だ。空から舞い降りる天使の羽根が、住宅街を白銀に染め上げる。

 

 

「うぅ~……さむっ!」

 

 

 マフラーに首を埋めて暖を取る。どれだけごついコートを着込んでも、手袋をはめても、靴下を二枚重ねても、寒いものは寒いのだ。

 

 今日は日曜日で休みな上、管理局は非番。はやては病院の検査で朝からいない、夜に迎えに行くことになっている。高町家と大宮家、月村家で昨日の朝から長野へスキー。俺も誘われたらしいが(家の固定電話に伝言が入ってた)、生憎昨日は管理局で事務仕事に当たっていた。

 

 そんなわけで俺は一人……じゃないんだ。実は……。

 

 

『冬だから』

 

 

 ペラリとメモを千切って俺に見せる銀髪を靡かせる青い瞳の少女。ドレスの上に西洋鎧を見に麿った無口無表情の少女だ。

 彼女は俺のクラスメート、相川歩の関係者らしい。

 

 相川歩というのは、妙な気配を放って放課の直後に俺を追い回す女子生徒だ。

 身体能力がずば抜けて高く、本気で駆ける俺にも追い縋ってくる。

 切っ掛けは五月の出来事。四月中旬から海鳴市で起きた複数の変死事件、その首謀者であるマキア・セルバンとの決戦がゴールデンウィークから数日後に行われ、その結果は俺達の勝利に終わった。

 どうやらその際に展開した海鳴市を覆う大規模な結界に偶然相川とその関係者、今俺の隣を歩く銀髪無口無表情の少女(会話手段はメモ帳)と黒髪ポニーテールのスタイル抜群美女だ。

 半年以上追い掛け回されて(夏休みは殆んどミッドチルダに居たから出会わすことはなかった。たまにはやての様子を見に帰ってきてはいたが)彼女達の名前を覚えた。

 黒髪ボイン美女はセラフィム。この女は相川よりも速い。普段の俺以上の動きだ。ただ、向こうは俺を殺す気はないようで、俺でも躱せる攻撃を放ってくれている。……最近は掠るけどな。

 そして隣を歩くのはユークリウッド・ヘルサイズ。戦闘は出来ない、何時も俺が気絶させた相川とセラフィムを回収しに来る不思議な娘だ。

 俺と出会うことを相川達に話している雰囲気はない。何故なら、アイツらが俺を狙う理由はどうやらこの少女にあるらしいからだ。

 俺がユークリウッド・ヘルサイズの力を狙っている存在なのか、そうじゃないのかが知りたいらしい。

 今までの言動でそんな感じであることは分かった。普通に話せば分かり合えるというのも理解している……んだが、追われたら逃げたくなるだろ?

 それに、どれだけ倒しても立ち向かってくるアイツらと戦うのは楽しい。

 

 

「焼き芋だ。食べるか?」

 

 

 こくん、と一つ頷くユークリウッドを確認して、道端に止めてある軽トラックに向かう。

 ユークリウッドとは、友好的に接することができていると思う。

 

 二月前、彼女が臨海公園で野良猫に餌をやっているところに通りかかった。傍には相川もセラフィムも見当たらず、一人だということが分かった。

 敵対心のようなものは感じなかったから、話をするいい機会だと思ったんだ。

 それで会話をしてみると意気投合、とまでは言わないが、相川達を大して警戒する必要もないと確信できたのだ。

 

 そして今日も昼飯を食べた後の腹ごなしと洒落込んで、散歩している最中に野良猫を餌付けしているユークリウッドを見付けて、一人で散歩するのも味気ない、そんな考えから彼女を誘うとOKと返事が返ってきて今に至る。

 

 

「おっちゃん、焼き芋二つくれ」

 

 

 車の荷台、さつまいもを焼いている釜で暖を取るおっちゃんに話し掛ける。

 

 

「あいよっ!」

 

 

 おっちゃんの威勢の良い声が上がる。

 おっちゃんが釜を開けると、むわっと蒸気が上り視界が一瞬白く染まる。その蒸気が風に流されると、びっしりと敷き詰められた紫色の食べ物が見えた。

 

 

「ほれ、熱いうちに食べな」

 

 

 取り出したさつまいもを一つずつ紙袋に納めて渡してくれる。

 

 

「代金は?」

 

「一つ1000円、二つだから2000円だ!」

 

「……高いな」

 

 

 値段を聞いてボヤきながら財布をポケットから取り出して、野口さん二人をおっちゃんに差し出す。

 

 

『私も払う』

 

 

 くいくい、とコートの袖が引かれ目をやれば、ユークリウッドがメモを突き出していた。

 

 

「いや、ここは男の甲斐性の見せどころだ。俺に華を持たせてくれ」

 

 

 暫く俺の目を見た後、こく、と頷いてユークリウッドはさつまいもをおっちゃんの手から受けとる。

 

 

「ははっ、男の甲斐性かっ! 坊主良いこと言うじゃねぇかっ」

 

 

 豪快に笑うおっちゃんを気にせずユークリウッドからさつまいもを受けとる。

 結構な熱さだ。よくこれを表情を変えずに持てるもんだな。感心するよ。

 

 

「じゃあ、いただきます」

 

『いただきます』

 

 

 ユークリウッドは態々メモに書いて見せてからさつまいもに齧り付いた……と思う。

 気付いた時にはさつまいもに歯形が付いていて一部分が消失していた。

 俺の目でも追えない速度で食べた……そうとしか思えない。ユークリウッドの口がモグモグと動いてるし、黄色いさつまいもの身がほっぺについてるし。

 

 

「旨いか?」

 

『美味しい』

 

 

 問うと即座に返答が返ってくる。メモに書いている姿も見えない。一体何者なんだユークリウッド……。

 

 

「あむ、……~~っ!? はふはふっ!……あっつ~っ!」

 

 

 俺もユークリウッドに倣い湯気を立てるさつまいもに齧りつくが、余りの熱さに驚いた。

 

 

「一気に頬張るからだ……!」

 

 

 そう言ってまた豪快に笑うおっちゃん。

 熱い、でも旨い、だけど熱い。寒風で冷えた体にはちょうど良いが、舌が火傷するかと思ったぞ。

 

 

「じゃあな、おっちゃん」

 

「おう、また機会があったら買ってくれ」

 

 

 焼き芋屋のおっちゃんに別れを告げて、散歩を再開する。

 特に会話をするでもなくゆったりと歩くだけだ。

 行き交う人々は寒さからか足早に道を行く。

 

 

「お前は寒くないの?」

 

 

 ふと疑問に思ったことを口に出す。沈黙を嫌った訳じゃない。ただ、鉄の鎧は冷えると凍傷になるから心配になっただけだ。

 

 

『問題ない。これは特別製』

 

「……そうか」

 

 

 意味を理解しているのか、メモを見せる彼女は鎧を指差していた。

 

 

「……なぁ、お前らは何者だ?」

 

 

 ユークリウッドの歩みが止まる。

 無表情だが、剣呑な雰囲気……いや、悲しげ、か。

 この二ヶ月間、俺は彼女らの素性に触れなかった。だが今、それに触れた。それは、俺達の関係を壊すことに他ならない……とか考えてるんだろうな。

 

 

「何で俺らを付け狙う」

 

「……ぇ?――っ!」

 

 

 思わず、といった風に声を出したユークリウッドが顔を顰める。清んでいて綺麗な声だった。

 別に喋れないって訳ではなく、理由があって喋らないんだろう。

 まぁ、今気に掛けることはそんなことではなく、周囲から人の気配が消えたことと、突然現れた複数の人ならざる者の事だ。

 一、二、三、四……合計で八つか。

 

 

「ユークリウッド・ヘルサイズ様ですね?」

 

 

 上空から俺達を見下して声を掛けてきたのは、コウモリのような羽を背中から生やした男だ。

 前方の空に扇状に広がって、俺達を半包囲している。

 

 

「……」

 

 

 ユークリウッドは答えない。

 無表情ながらも苦虫を噛み潰したように見えるのは、俺が彼女とそれなりに親しくなった証だろうか?

 

 

「こちらに来ていただきます。貴女の御力を我々に御貸しいただきたい……そう魔王・ルシファー様が仰っておいでです」

 

 

 魔王……悪魔か、コイツら。

 確かに人じゃねぇし、妖怪とか天使(俺が知っているのはミカエルだけだが)とも違う。もっと禍々しい存在だ。

 

 

「人間……そこを退け、死にたくなければな」

 

 

 さっきまでの恭しい態度は何処へ行ったのか……自棄にこちらを見下してくるな。

 

 

「……」

 

 

 心配そうに俺を見るユークリウッド。今の俺と彼女の身長は、彼女の方が少し高い。そんな彼女の頭に手を乗せる。

 大丈夫だと伝えるように……。

 

 

「断る、と言ったら?」

 

 

 渡す気なんざ更々ない。人をここまで見下す連中の言うことを聞く気になる奴がいるか? 否だ。

 俺が無条件で従うのは劉備玄徳以外に有り得ない。

 

 

「仕方あるまい。下等種の小僧は死を望んでいるらしい。……()れ」

 

 

 濃密な殺気が俺個人に叩きつけられる。が、呂布や夏候惇、孫策等に比べれば児戯にも等しい。刃と無限を展開する必要性すら感じない。

 

 

「楽しさはねぇが、命令じゃあ仕方ねぇ。その女と関わったテメェの不運を呪いな!」

 

 

 空中にいた一人……いや、コウモリだ一羽で良いか。一羽のオスが迫る。

 速いつもりだろうが、この程度の速度なら今の咲や大輝でも余裕で対処できる。

 

 

「ふっ!」

 

 

 真っ直ぐに迫る一羽のコウモリの顎をアッパーカットでかち上げる。

 

 

「がっ!?」

 

 

 もろに喰らったコウモリは上に3m程舞い上がり、背中から地面に落ちて伸びた。

 

 

「おいおい、悪魔ってのはこの程度かよ。弱っ」

 

 

 倒れて白眼を剥いたコウモリを見てせせら笑う。

 

 

「人間風情がっ!!」

 

 

 怒髪天を衝く……まさにそんな形相で迫る二羽のコウモリ。

 その爪は長く延びていて俺を串刺しにしようと突き出されている。

 馬鹿正直に二列に並んで正面から攻撃を仕掛けてくる。どれ程俺を舐めているのか……。

 

 

(おせ)ぇっ!」

 

「「がっ!/ぐっ!」」

 

 

 攻撃を躱して二羽のコウモリの間に入り、二羽の顔面をわし掴む。

 

 

「おらあっ!」

 

「「ごっ!/っ!」」

 

 

 そのまま力任せに後頭部をアスファルトに叩き付けた。

 小規模のクレーターが両手の先に出来上がる。

 やっぱり結界でも張られているのか、それなりの揺れがあり、音がした筈なのに誰も様子を見に来る気配がない。

 

 

「雑魚が、でしゃばんじゃねぇよ」

 

 

 気を失った二羽のコウモリを見下しながら、他の五羽に伝わるように声を張る。

 

 

「役立たず共め……っ!」

 

 

 群れのリーダー格だろう。最初に声を掛けてきたコウモリが何か喚いている。

 

 

「虫けらが図に乗るなあっ!」

 

 

 黒い魔力、で良いんだろうか……? 俺のとは何処か違うそれ、だが似通った物でもある。

 それを(今後魔力と呼称する)右手に集めて、四羽のコウモリ共が放ってきた。

 これまた、遅い上に密度が薄い。本当に人を殺せるのか、こんなもので……?

 

 

「俺の後ろに隠れろ」

 

「……」

 

 

 ユークリウッドに伝えると、こくっ、と頷いて俺の背中に隠れる。……彼女の方が身長が高いから顔が見えているが、まぁ問題ない。

 

 

「刃、無限、『グロウ』だ」

 

《《御意》》

 

 

 念話で返してきたのはユークリウッドに悟らせないためか。……俺、普通に声に出したんだけど。

 殺到する魔力弾は『グロウ』の発動と同時にユークリウッドの前に立つ俺に降り注ぎ、辺りに爆煙を撒き散らした。




やっとここまで来た。それが今の自分の心境です。

さて、次に宏壱が関わりを持つのは悪魔側ですね。ユークリウッド・ヘルサイズ……彼女を通じてパイプが出来上がる。そんなことを想定して、このお話を考えました。
最初はちょっと険悪ムードですが……。

では、また次回お会いしましょう。
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