side~歩~
「……お前らのお姫様は何処だ?」
目の前に悠然と立つ男が静かに告げる。
訝しみながらも、ユーのいたところに視線をやれば……。
「――っ!」
そこには誰もいない。ついでに言えば、目の前の男に苦しめられていた悪魔も、倒されていた悪魔もいない。
「歩! してやられました……!」
男を挟んで向かい側にいるセラが、悔しげに下唇を噛む。
心情は私も同じだ。失念していた。悪魔がユーの事を狙っていたことを……。
「グルだったのね……!」
「……」
男はなにも語らない。でも、無言は肯定と同じだ……!
「500%!」
力一杯男に殴り掛かる。向こうでセラが駆け出すのも見えた。
さっきまでダメージを与えられていたなら、今度はもっと力を込めて……ユーが連れ去られた居場所を聞き出す!
「残念だが、もう遊びは無しだ」
私の拳が右手に持つ漆黒の刀の腹で受け止められる。今度はびくともしない。
「――っ!?」
左手に持つ潔白の刀を私の足の間、股に差し込む。
(斬られるっ!)
自分が縦に斬り裂かれる瞬間を幻視した。でも、結果は……。
「受け取れっ!」
「えぇっ!?」
股から持ち上げられ、男の背後から迫るセラに私を投げつける。
「歩っ!」
「きゃうっ!」
セラの豊かなおっぱいがクッションになって衝撃自体は軽いものだった。
「動くな」
「「――っ!?」」
体勢を立て直す前に首元に刀を突きつけられて私とセラは降伏するしかなくなった。
私の名前は
私立小学校に通うただのゾンビで……転生者だ。
前世はちょっとしたオタクで
前世、というのはちょっと違うかも。所謂多重転生者……うん、こっちの方がしっくり来るわね。
私がこの世界に来る前は『これはゾンビですか?』という世界に生まれた。二次創作であるような神様に出会った。とか、特典を貰って……。というのはなかったと思う。
そんな存在と会ったのかも分からないし、いつ私が死んだのかも分からない。
前々世(でいいよね?)では、ただの平凡なサラリーマンだった。趣味はライトノベルと漫画、彼女はなし、年齢は二十九歳、両親健在で兄と妹がいた。どんな人生を歩んだかも覚えてる。
……だけど、いつ死んだのか? どうやって死んだのか?
その記憶が私にはなかった。寝て起きたら赤ん坊で、しかも女の子になってた。
母親らしき人に抱えられて、父親らしき人に頭を撫でられていた。
その時の私は混乱の極みで喋れるようになっても、歩けるようになっても塞ぎ混んだままだった。(前世の)両親にも迷惑をかけたし、私が産まれて数年後に産声を上げた弟にも寂しい思いをさせた。
そんな私だから、学校では虐めに遭ってた。陰気で、暗くて、協調性の無いはぐれ者。子供達は自分より劣る私を見てストレスの捌け口にしたのだ。
靴を片方隠したり、ノートに落書きされたり、トイレにいると上から水を掛けられることもあった。
でも、抵抗しない私が面白くなかったのか、虐めをしようとしてくる子供は次第に減り、今度は無視が始まった。
先生でさえ私と関わりを持たなくなったし、両親も腫れ物を扱うように私と接した。
そんな私にも転機が訪れた。織戸……なんとか。名前は思い出せないけど、そのメガネ織戸が私に話し掛けてきたのだ。
小学5年生になった頃、クラス替えでみんながわいわい騒ぐ中、自分の席で大人しく座っていた私の前髪を上げた男子がいたのだ。
人に顔を見られたくなくて、目が隠れるまで前髪を長く伸ばしていた私の前まで来て、前髪を上げたキモメガネが、その織戸……何とかだった。
アップに映ったソイツの顔には、キモいメガネとキモい鼻とキモい口が付いていた。
そしてこう言ったのだ。
――チョー可愛いじゃん。
思わず殴った。グーで思いっきり殴った。何だかこう……悪寒が凄かった。思わず拳が出るほどキモ……じゃなくて、ウザかった。
話したこと無いけど、ウザかった。一目で分かったよ。コイツウザいって。
でも、それからだ。みんなと少しずつ話すようになったのは……。
前髪を切ると男の子がすごく話しかけてきたり、女の子がそれを牽制したり、そんな光景を眺めていると、前の自分とかどうでもよくなった。悩んでいた自分がバカらしくなって、声に出して笑うとみんなも笑ってくれた。織戸はキモかったけど……。
でも感謝はしてる。お尻触ってこようとするけど……。悪友みたいな関係になって、ゲームセンターとかで遊んだり、カラオケに行ったり、織戸が職質されて連れていかれるのを見送ったり……。
そうして高校生になって、もう一つの転機が私に訪れた。
ユークリウッド・ヘルサイズ……。
行き着けのコンビニから出ると、彼女が駐車場の車止めに座って猫とじゃれていた。
驚いた私は足を滑らせ、購入したカップのジュースを上に放り投げてしまい、マンガのように頭からそれを被ったのだ。
私は彼女を知っていた。十数年経っても好きな物の記憶は消えない。鮮明に彼女が誰か? どんな存在か? その全てを覚えていて、その時ここがどんな世界なのかを理解したんだ。どこかで見たことのあるキモメガネ、友達の妙子、かなえ、ユキ……。
前々世で好きだったライトノベルのキャラクター達だった。そして私の容姿は完全に主人公の『相川
そこから色んなことに巻き込まれた。京子に殺され、ユーに生き返らせてもらって、ハルナと出会って、セラと出会って、夜の魔王を倒したり、ユキとキスしちゃったり、サラスに惚れられちゃったり(何故か同性に惚れられるのだ。元が男だっただけに、変に受け入れたのが悪かったのかな……?)、クリスと戦ったり……他にも色んなことがあった。
言い切れないくらい色んなことが……。
……そして目が覚めると私はまた赤ん坊になっていた。目の前にはセラとハルナ、ユーの姿(みんなは姿は変わってなかったけど)。
セラの話では大昔からこの世界にいるんだって。天使や堕天使、悪魔、神様、魔王、妖怪、ドラゴン、色んな種族がいてみんなが啀み合ってる。
その種族同士による戦争が大昔にあって、ユーとセラ、ハルナは悪魔側に加担して戦った。何でも、この世界に来た時に色々と融通を利かせてくれたかららしい。
戦争で利益を得られないまま終わってしまい、それでも恩義は果たしたと判断したセラが、ユーとハルナを連れて悪魔側から離れて旅をしている時に、遠い未来で私もこの世界に来るって有名な占い師に聞いて、この街の臨海公園で私を見つけてくれた。
そして、悪魔側はユーの力が強力なのを知っている。その言霊の強制力は生物の死さえも拒絶する力があるし、彼女の血液は摂取した者に強靭的な肉体と能力を与える。
代償としてユーは、喋ることも、感情を動かすことも許されない。喋ればその通りになる。感情を動かせば傍にいた誰かの運命が変わる。
悪魔はそんなユーの力を求めて付け狙ってくる。それは多分目の前の男も同じ……。
ユーの帰りが遅いから心配になって探していると、妙な結界の張られた地区があった。不審に思った私は、手分けして探していたセラに連絡を取ってその場に急行、空を見上げるユーを発見。
その視線の先には悪魔の気配を持つ男と、その首を掴んで絞めている男。気配は人間と変わらないのに悪魔を圧倒していた。セラに聞いたような『神器』ってやつかな?
多分中級悪魔。それほど実力のある悪魔でもない。だけど、並みの人間が対抗できる相手というわけでもない。
とりあえずやり過ぎかな?
「――150%っ!」
跳び上がって男の背中に拳を叩き込んで悪魔を助けた……んだけど。
「えっと、詰まりユーを悪魔から守ってくれてたってこと……?」
「ま、そうなるな」
「「……」」
首元に刀を突きつけられた後、男は何を思ったのか、何処かに刀を消して(服も黒のジャケット、スラックスから茶色のコートとジーンズに変わってた)説明を始めた。
要約すると私の勘違いだった。
「言えた義理じゃないのは分かるけど、ユーを囮にするなんて……」
「そうです。ヘルサイズ殿に何かあれば私はあなたを決して許しません」
「それでいいさ」
飄々と言い放つ男は本当に何も心配していないのか……。
「さて、どうだ? 飛べそうか?」
〈……はい、座標の特定できました。主の資質でも飛べる距離です〉
何処からともなく響く声。発信源は男の首に掛けられたアクセサリーだ。
デバイス、なんだと思う。それに『神器』。
デバイスで思い付くのは『魔法少女リリカルなのは』、『神器』で思い付くのは『ハイスクールD×D』……どっちも二次創作でしか知らない作品だったから、正直全然分からなかった。
この世界で友達になった咲の妹さんがなのはって名前なのと、実家が翠屋という喫茶店をしているので思い出した。
天使や堕天使、悪魔の名前を聞いて、どこかの作品の世界だって言うのは分かってたんだけど、まさか世界が混ざり合ってるなんて……。
「私も同行させていただきます。ヘルサイズ殿をあなたに任せるのは心配です」
「実力は示したと思うんだけどな」
「信用できません」
「こりゃ手厳しい」
考えてる内にセラと男の間で話が纏まったみたい。
「じゃあ、近くに寄ってくれ。転移する」
「……分かりました」
「……首元に突きつけている得物は何っすかね?」
男の隣りに立ったセラが、太刀を男の首元に突きつけている。
「不埒な真似をしないようにです。それくらい察してください。気持ち悪い」
ゴミクズを見る目で言ったセラに「そうかい」と苦笑いで答えて、男は私に視線を向ける。
「……信用した訳じゃないから」
「ああ、肝に命じておこう」
私にも苦笑を見せて、男は目を閉じる。資質がどうのって聞こえたから、集中しているのかもしれない。
多分、完全に戦闘特化型の魔導師なんだと思う。だから、サポート系の魔法は苦手なんだ。
……だとしたら、自分の転移できないほど遠くに行かれてたらどうするつもりだったんだろう?
「転移」
足元に深紅の三角形の魔法陣が浮かび、私達の体を包む。眩い光に思わず目を閉じた。
一瞬の静寂の後、複数の強い気配を感じて目を開けると、ソファーに座ってお茶を飲む銀髪の少女の後ろ姿と、目を見開く赤髪ロングのイケメンと背後に控える銀髪の美人メイドさん。
そして、腰を抜かすユーを連れ去った悪魔の姿があった。
side out
相川さんの正体は多重転生者でした!
続けても良かったのですが、長くなりそうなので視点変更で一度区切ります。
では、また次回お会いしましょう。