リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第五十九鬼~赤鬼の一端~

side~宏壱~

 

 相川とセラフィムを伴い、サーチャーから送られてきた座標に転移した。

 転移先は広い部屋だった。上質な絨毯と向かい合わせになるように置かれた革張りの三人程が腰掛けられるソファー、その間に光沢を放つ黒テーブルがあって、天井にはシャンデリア、応接室のように見受けられるが、どうやら執務室でもあるらしい。

 窓際に執務机と書類が二山ある。壁際には分厚い本が幾つも並べられた本棚もあった。

 そんな部屋で、俺達に背を向けてソファーに座っているユークリウッドは、呑気に茶を啜っている。

 トントン、と二度のノック音。

 音源を辿れば、ユークリウッドの陶磁器のように白い指が机を叩いていた。

 

 

『待ちくたびれた』

 

 

 そう書かれたメモ書きが置いてある。誰が書いたかは明白だ。見ろと主張してきたこのマイペース屋しかいない。

 

 

「――っ!? 何者ですかっ!」

 

 

 その音で呆けていた銀髪のメイドが我に返り、強烈なプレッシャーを放つ。ユークリウッドに近寄ろうとしていた相川とセラフィムは、そのプレッシャーで動けなくなった。

 明らかに彼女らを上回る力量の銀髪メイドを警戒して動けないでいる。

 先のコウモリAの言葉が正しいなら、ここは魔王城、敵の本拠地だ。油断は禁物。相手も突然現れた俺達に対して油断はしてくれないだろう。

 

 

「待たせたな、ユークリウッド。帰ろう」

 

 

 まぁ、そんな事は俺には関係ない。苦戦は必須、勝てる見込みもないかもしれん。……だが、負けるビジョンも見えない。

 この言葉は相川が言うべきだと思うが、固まってるからな。

 

 

「……ユークリウッド・ヘルサイズ殿、ご説明願えるかな?」

 

 

 ユークリウッドの正面に座る赤髪の男が問い掛ける。中々のイケメンだ。

 ……強いな。ミカエルと同等……いや、それ以上か……。正直ここまでとは思わなかった。

 先遣隊とも言えるコウモリ共の力量が、クソッカスもいいところだったからな。俺でもなんとかなると高を括っていたが……無理だ。自分が消し飛ぶ未来しか見えんぞ。

 

 

「説明もなにも、お前らがユークリウッドを拐いに来たんだろうが」

 

 

 胸中の思いはおくびにも出さず、相川とセラフィムの前に立って銀髪メイドのプレッシャーを遮る。

 

 

「……どういうことかな? 私は『彼女に協力を要請してほしい』と言っただけで『問答無用で連れてこい』、とは言っていない筈だが……?」

 

 

 視線は俺を居抜きながらも、問い掛けはコウモリAに向けられている。

 ……こんな奴に出会うのは初めてだ。鍛練でどうこうできる相手じゃないぞ。

 

 

「じょ、上層部からの通達です。ユークリウッド・ヘルサイズ様を是が非でもこちら側に迎え入れろ、と」

 

「……それでヘルサイズ殿の反感を買えばどうなるか考えないのか」

 

 

 溜め息を吐く赤髪の男。何処と無く哀愁が漂っている。

 どうやら悪魔ってのも一枚岩じゃないらしい。

 

 

「ほれ、あんた客人に茶も出さないのかよ? メイドならそれぐらい直ぐにやってみせろよ」

 

 

 銀髪メイドに声を掛けながらユークリウッドの隣に腰掛ける。

 銀髪メイドの放つプレッシャーが俺のみに向けられ、相川とセラフィムが息を吐くのが聞こえた。

 これで二人が楽になる筈だ。

 

 

「招かねざる客のようですね。ルシファー様、直ぐにこの不遜な男を排除します」

 

 

 表情を変えず怒気の含んだ声で魔力を漏らす。さっき伸した連中とは段違いだ。格が違うなんて言葉じゃ収まりきらない、まさに次元が違うと言える。

 

 

「やってみせろ、メイド風情が。……この赤鬼を殺せるのならな」

 

「では、お望み通りに……」

 

 

 更に高まる魔力と殺気。俺が一身に浴びるこれは殺意。動く者はいない。コウモリAは勿論、相川やセラフィムさえも場の緊迫した状況に動けないでいる。

 動じないユークリウッド、赤髪の男は流石と言うべきか……。

 

 

――怒りを沈めて。

 

 

 隣から清んだ声が聞こえた。

 それが耳朶に届いた瞬間、感情が落ち着き全ての物事を許そうか……そんな気分になる。

 

 

「これが噂に聞くヘルサイズ殿の言霊か……なんという強制力だ」

 

 

 声を震わす赤髪の男。その背後の銀髪メイドも魔力を収め穏やかな表情で佇んでいる。

 なるほど、これがユークリウッドが喋らない理由か……。凄まじいな。

 

 

「まぁ、お茶は良いかな。別にそんなに飲みたいわけでもないし」

 

「仕える主の前で醜態を晒すわけにもいきません。大目に見ましょう」

 

 

 と、殺気駄々漏れで接していた銀髪メイドも、突然の襲撃(しかも雑魚に)で機嫌の悪くなっていた俺も、にこやかとはいかないが、穏やかに会話することになった。

 

 

「……それで? あんたはユークリウッドを自分達に協力させたいって話だが……」

 

 

 コウモリAが言っていたことと、さっきのコウモリAと赤髪の男のやり取りを思い出して正面に座る男に聞いてみる。

 

 

「できれば協力を請いたい。今悪魔は絶滅の危機に瀕している。先の戦争で純潔悪魔は著しく数を減らした。その上我々は繁殖能力の極めて低い種族。どれだけ悪魔夫婦が、夜の営みを行っても子を成せなければ、僕達悪魔に未来はない。そこでヘルサイズ殿には女性悪魔に必ず妊娠する、と言葉を掛けてもらいたくてね」

 

 

 なんだその理由。種の繁栄のためにユークリウッドを狙ったってことか?

 王としては当然だろうが、巻き込まれる側はたまったもんじゃないな。

 どれ程悪魔がいるか知らんが、ユークリウッドをこの世界に監禁でもするつもりかよ。

 

 

「向こうはああ云ってるけど、ユークリウッド、お前はどうするんだ?」

 

『私は歩達と静かに一緒に暮らしていたい』

 

「争いに巻き込まれたくないってことでいいのか?」

 

『そう』

 

 

 結論は出たな。今尊重されるべきなのはユークリウッドの意志だ。彼女が断るのならこの話はなかったことになる。

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

 もう長居する必要もない、そう判断して立ち上がった俺とユークリウッドに声を掛けてきたコウモリA。

 

 

「貴女様には悪魔の未来を救っていただかなくてはなりません! それに、貴女様の血は強力な力が得られるとき来ます! 我々が貴女様の血を摂取すれば他勢力に後れを取ることなど……!」

 

 

 喚くコウモリA。必死さが伝わってくる。が、目を見れば分かる。情に訴えればどうにでもなる、そんな考えが透けて見えるぞ。

 それに本音が漏れたな。

 

 

「悪魔の未来なんざどうでもいい。滅ぶなら勝手に滅べ。他勢力と戦争がしたいなら、テメェらで勝手にやってろ。ユークリウッドを巻き込むんじゃねぇよ」

 

「上層部とやらの真の目的はそれですか……話になりませんね。ヘルサイズ殿の負担が大きすぎます」

 

「まぁ、ドーピングして楽に強くなれるのならドーピングしたいわよね。させないけど」

 

 

 コウモリAからユークリウッドを隠すように俺と相川、セラフィムが間に立ちはだかる。

 

 

「人間風情がああっ! また俺の邪魔をする気かっ!!」

 

「それだけじゃないぞ?」

 

 

 指をパチン、と鳴らす。所謂フィンガースナップ、指パッチンとも呼ばれる動作だ。

 結構響く音が鳴るし、簡単な動作で鳴らせる。人の注意を引くポピュラーな動作だろう。

 それをすると、俺の体は深紅の光に包まれる。

 

 

「ルシファー様、お下がりください!」

 

「……危険はないと思うよ」

 

 

 そんな主従のやり取りを耳にしつつ、光が晴れるのを待った。

 

 

「……あんたは……っ!」

 

「……」

 

 

 驚きの声を上げたのはクラスメイトの相川。

 その傍でセラフィムが無言で俺を睨めつけているのが分かる。

 

 

「貴様は……っ!?」

 

「おうクソコウモリ。どうした間抜けな面してよ? こんなガキにボッコボコにされて悔しいかよ?」

 

 

 低くなった視界で、誰よりも俺が大きいと言わんばかりに腕を広げて嘲り笑う。

 見せてやるよ、魔王様とやらに。赤鬼の一端ってやつをな。

 

 

「ぐぐっ……貴様は、俺の手で殺してやるううう!!」

 

 

 魔王の前でバカにされたことに恥辱を感じたのか、顔を真っ赤に染めて飛び掛かってくる。

 

 

「……」

 

 

 余りにも遅い動きだ。怒りに身を任せてもこの程度か……。手を出すまでもない。

 コウモリAのみに覇王色の覇気をぶつける。少し室内で俺を中心に突風が吹き荒れたが、直ぐに収まる。

「あー……書類が……」とか聞こえたが、気にしないでおこう。

 

 

「……ぁ、っ」

 

 

 意識を失い落下するコウモリA。白眼を剥き、口から泡を吹く姿は無様の一言に尽きる。

 

 

「なんだ、今のは?」

 

「……凄まじいプレッシャーでした」

 

「こんな力が……」

 

「今のって……」

 

 

 反応は様々だが、一様に驚きを隠せないようだ。相川だけ別の反応の仕方だが……。

 

 

「君が子供なのも驚いたが、今の力も凄いものだね。詳しく聞かせてくれないかな?」

 

 

 悪魔側にとって今の俺は不穏分子以外の何者でもない。その目で俺を見極める気か。

 

 

「テメェの事を話さねぇ奴に自分の事を喋ると思うか?」

 

「……それもそうだね。私はルシファー、サーゼクス・ルシファーだ。四魔王の一角、魔王・ルシファー」

 

 

 俺の言葉を気にする素振りも見せず、赤髪の男が名乗る。名乗られたら名乗り返すしかないじゃないか……。

 

 

「私立聖祥大付属小学校三年、山口宏壱。しがない魔導師をやっている」

 

 

 ソファーに座り直して言う。

 当然全部は言わない。管理局がどうのとか、転生がどうのなんて言える筈はないからな。

 

 

「魔法使いにしては随分と近接戦に長けているようだね。私の知る魔法使いは往々にして不得手な事が多いのだが、君はその例に当て嵌まらないようだ」

 

「当然だ。俺は格闘が主体だからな。刀なんかも使うが、型なんてあってないようなもんだ」

 

 

 流派らしいものは六式ぐらいで、後は戦場で身に付けた生きるための戦い方だ。

 

 

「さっきのあれはなんだい? 凄い威圧だったけど……?」

 

「……」

 

 

 サーゼクス・ルシファーの言葉に少し考える。

 覇気を語るのは問題ないが、こっちだけが手の内を曝すのは面白くない。そもそも交渉事は朱里とか菫、碧里が得意なんだ。一武官の俺が、仮にも王と名の付く為政者と対等にやり合うには経験も知識も足りない。

 ここはオーソドックスに一つ曝して一つ引き出す、で良いか。

 

 

「『覇王色の覇気』だ」

 

「……『覇王色の覇気』?」

 

「詳しい話は俺もよく知らん。死んだ親父の話では王の資質を持つ者に発現する力らしい。力の差が大きい者に対して強い力を発揮する。さっきのソイツみたいに、威圧だけで意識を飛ばすのならこれに勝るものはないだろうな」

 

「知らない能力だ。君以外にも使える者は……?」

 

「いないだろうな。資質がありそうなのは何人か知ってるが、教える気はない。当然、アンタらにもな」

 

 

 と言うより、鍛え方を知らない。ジン、俺を傭兵として育てた男が殺された時に発現したからな。見聞色と武装色も戦場での発現だったし、故意に引き出す方法は知らん。

 当然、それを事実として話す気はない。

 

 

「俺の事は話した、次はアンタらの事を聞きたい。俺は悪魔との交流がなくてね」

 

「悪魔との……?と言うことは――「それを今聞くのはフェアじゃねぇな」――……そうだね。少し急かしすぎたよ。長く生きているけど、グレイフィア……彼女の殺気をその身に受けて平静でいられる悪魔は少ない。それを、人の身でまともに受けて表情一つ変えない君に興味が湧いてね」

 

 

 銀髪メイドはグレイフィアという名前らしい。主従の間柄ではあるんだろうが、その域を越えた絆がこうして見て取れる。関係としては、俺と菫達に近いかもな。

 

 

「じゃあ、次は俺からだ」

 

「何でも聞いてくれ」

 

 

 促すサーゼクス・ルシファーに頷いて口を開く。

 

 

「アンタの力は何だ?」

 

「力……?」

 

 

 色々と端折り過ぎた。

 意味が分からず疑問符を浮かべるサーゼクス・ルシファーに、場違いだが少し苦笑を溢す。

 

 

「いや、悪い。力ってのはアンタの能力とでも言えばいいのか……アンタと戦闘する場面をさっき思い浮かべてみたんだよ」

 

「ほぅ……」

 

 

 後ろに控えるメイドは身構えたが、当の本人は興味深げに息を漏らすだけだった。

 

 

「消し飛んだ」

 

「消し飛んだ?」

 

「……ああ、為す術なく跡形もなく消し飛んだんだよ。消滅と言い換えても良いな。今の俺じゃあアンタと戦っても勝ち目がないことが分かった」

 

「……呆れました。敵対関係になるかもしれない相手に弱味を見せるとは……無能ですか? 死にたいのですか?」

 

 

 メイドが口を開き、何かを言おうとしたその時、後ろから強烈な口撃が来た。

 声のした方を振り返れば冷めた表情で俺を見下ろす、黒髪ポニー美人。

 

 

「いや、まぁ、そうなんだけどさ? 隠しても仕方ないじゃんか?」

 

 

後ろ頭を掻きながら言い訳じみたことをセラフィムに言い「それに」と続け……。

 

 

ただで殺されるつもりはない。俺と敵対するのなら、大きな損害を受けると思えよ?」

 

 

 見なくても獰猛な笑みを浮かべていると分かるほどに口角を上げ、殺気と覇気をサーゼクス・ルシファーにぶつける。

 

 

「……これが、『覇王色の覇気』……か。人の身で発せられるのか。こんなものを……」

 

「……っ!」

 

 

 声を震わせながらも冷静に判断するサーゼクス・ルシファー。余波を受けたメイドは目を見開いて驚きを露にしている。

 ミカエルを呼吸困難に陥らせたものと同レベルのものなんだが、幾分か余裕があるな。実力はミカエル以上、か。

 これは問いの意味をなさないな。能力が分かったところで俺に勝ち目はない。渡り合えると判断した時に挑んでみるか。

 

 

「質問を変える。今聞いたところで意味ないからな。それに、アンタに直接使わせた方が楽しそうだ」

 

 

 殺気と覇気を引っ込めて笑う。こんな陳腐な交渉で引き出すより、実戦で引き出した方が楽しいに決まってる。

 

 

「君は不思議な少年だな。私が怖くないのかい? 自分が勝てないと思った相手に戦いを挑むのは正気の沙汰とは思えないよ」

 

「くっくっく、今は、だ。いつか必ずアンタの背中に追い付き、追い抜く時が来る。人間やろうと思えば何だってやれるもんだ」

 

「君は……鬼だな。人の世に紛れて生きる鬼だよ」

 

 

 サーゼクス・ルシファーは笑みを浮かべそう言った。

 彼からすれば俺の今の印象を語っただけに過ぎない。特に意味があって言ったものではないだろう。だが……。

 

 

「そう、鬼だ」

 

「ん?」

 

 

 サーゼクス・ルシファーだけでなく、この部屋にいる者全てが、意味を理解できずに首を傾げる。

 だから言ってやるのだ。

 

 

「俺は赤鬼と呼ばれた男だ。戦場こそが生きる道。何かを守り抜く事こそが生き甲斐。力を高め、上り詰める事こそが我が王道。よく聞けよ魔王・ルシファー。俺が赤鬼だ」

 

 

 ってな。

 

 

 

 

 

side~サーゼクス~

 

「ふぅ……」

 

 

 今日のノルマを達成して一息吐く。

 いつもと同じ作業なのに、精神的な疲労が大きい。今日はとんでもない客が来たからね。

 

 

「お疲れ様です。ルシファー様」

 

 

 コト、とグレイフィアが労いの言葉と共にお茶の入ったコップを事務机に置いてくれる。

 

 

「ありがとう……ずずっ……うん、美味しいよ」

 

 

 疲れた体にお茶の渋味が染み渡る。日本茶は良いね。疲れが抜けていくよ。

 

 

「それで、グレイフィア。彼をどう思う?」

 

「彼……山口宏壱の事でしょうか?」

 

「ああ」

 

 

 先程までこの部屋にいた少年、山口宏壱君。

 二、三互いの情報を曝して、ヘルサイズ殿への不干渉の約束を取り付け、散らかった資料をてきぱきと直し、ヘルサイズ殿、セラフィム殿、もう一人の少女を連れて、見たことのない魔法陣を展開して帰っていった少年だ。

 

 

「口で言うほどの実力があるようには思えませんでした。鬼に憧れているのか、自らを鬼に例えていましたが、大言壮語と言わざるを得ません」

 

「ふむ、君はそう見るか……」

 

 

 確かに自らを鬼に例えていたのが印象に強く残った。が、実力はグレイフィアの見立てを遥かに上回る筈だ。

 僕だけに向けた殺気は本物だった。それに得体の知れないあのプレッシャー……あれが『覇王色の覇気』なのだとすれば、耐えられるのは上級悪魔以上の存在だけ……。

 それに……。

 

 

「……人間界に赤鬼と呼ばれた男がいるのは知っているかい?」

 

「……いえ、聞いたことがありません」

 

 

 僕の問いにグレイフィアは少し考える素振りをして思い当たらなかったのか、首を横に振って答える。

 

 

「今から約1800年前の話だよ。古代中国、後漢の時代にその男は現れた。気や妖術がまだ人の手に多く残っていた時代、黄金時代と僕達の間では呼んでいる」

 

「黄金時代、ですか?」

 

「そう。僕もまだ生まれていない頃の時代だ。伝承で色々残っているけど、かなり強い人間が存在したそうだよ。劉備玄徳や呂布奉先、孫策伯符、夏侯惇元譲、関羽雲長……挙げれば切りがない。彼女達は、一人一人が上級悪魔にも匹敵する力を持っていたとされている」

 

「上級悪魔にも……ですか?それほど昔ならば『神器』も無い筈、信じられません」

 

 

 疑いの眼差しを向けてくるグレイフィアに頷く。

 この事を知っていても信じない者は多い。殆どの悪魔が人間を下等だと、脆く弱い存在だと思っているから当然とも言える話だ。

 

 

「このルシファー城、アジュカがいるベルゼブブ城、セラフォルーのレヴィアタン城、ファルビウムのアスモデウス城に厳重に保管されていた古文書に記載されているんだ」

 

「何故人間の話が魔王城に……?」

 

「その事も書かれていたよ。何でも、各魔王はその昔、人間の戦争を肴にお酒を飲んでいたらしい。その古文書に古代中国の戦争も記載されていた。各魔王が興味を示したのは『天の御遣い』と呼ばれた青年と『赤鬼』と呼ばれた青年だった」

 

「『天の御遣い』は聞いたことがありますが、古代の人間が作り出した与太話では?」

 

「存在したそうだよ。事実、『天の御遣い』は日の光を反射する衣を身に纏っていた、と記載されていたしね。僕達の見解では彼は天から来たのではなく、未来から時を越えて過去に飛んだ人間。そう思っている」

 

「未来から……ですか?」

 

「真実は分からないけど、外れでもないと思うよ。結論から話せば、この二人、『天の御遣い』と『赤鬼』は当時の魔王に匹敵する力を持っていた。『天の御遣い』は黄巾の乱の時に10万の賊を斬り伏せ、『赤鬼』は邪龍を倒してその鱗や角、牙、爪、骨、血肉を干物にして粉末状にしたものを学んだ製法で、自らの刀を鍛えたと記されている。これは人間界でも有名な伝説だよ」

 

「人の身で龍を……?」

 

 

 驚愕に目を見開くグレイフィアに苦笑する。僕もその事には疑いを持っているが、当時の魔王はそれを目で見ているらしい。

『骨龍刀・刃』と『黒龍刀・無限』。一太刀で鎧ごと多くの兵士を斬り裂いた名刀。格闘戦術が主体だった『赤鬼』は、殆どの戦場でこの二振りの刀を抜くことはなかった。

 一瞬にして相手の命を刈り取る二振りを、恐れたからだと人間界には伝わっているが、ここにある古文書には、長く戦を楽しみたかったからだと記載されている。

『赤鬼』が二振りの刀を抜いて全力で戦った相手が、魏に舞い降りた『天の御遣い』北郷一刀。

 三度刃を交え、拳を交えた強者。曹操の懐刀と呼ばれ、鬼神・呂布、仁徳の王・劉備、呉の小覇王・孫策を凌ぎ、実力で『赤鬼』と並ぶ三国の英雄。

 

 

「それで、あの少年とどう繋がりが……?」

 

「……グレイフィア、君には見えなかったのかい?」

 

「見えなかった……とは、何がでしょうか?」

 

 

 僕の言葉の意味が分からず首を傾げるグレイフィア。

 

 

「鬼が見えなかったのかい?」

 

「鬼……ですか?」

 

 

 どうやら本当に見えなかったらしい。

 これは……。

 

 

「彼は『赤鬼・山口(さんこう)』の末裔か……?1800年の時を越えて現代に現れた戦の申し子……」

 

「ルシファー様……?」

 

「グレイフィア、彼には手を出さない方がいいかもしれないよ。下手に突つくと、藪から鬼や龍を呼び出すかもしれない」

 

 

 彼一人だけ……とは限らない。彼の英雄達の子孫が彼の傍にいるかもしれない。

 しかし、彼の後ろに見えた赤い鬼(・・・)、あれは『赤鬼・山口』に恐怖や畏怖の念を持った者に見えると古文書に記載されていた。

 

 

「君に興味が湧いてきたよ。山口宏壱君?」

 

 side out

 

 

 

 

 

 ~おまけ・宏壱が家に帰っての夕食前の風景~

 

「まったく、何を考えているのです! 悪魔の本拠地に、しかも魔王の居城に乗り込むなど!!」

 

「いや、そう言っても愛紗。散歩友達が――「言い訳は後で聞きます! ご自分の浅はかな行動を反省してください!」――……はい……」

 

「では地下に行きますよ」

 

「え……?」

 

「鈴々、星、翠、蒲公英、延耶、要、呉刃、優雪(ゆうしぇ)兄上を徹底的に反省させるのだ! 桃香様……いえ、姉上にもご協力願います」

 

「うん、久し振りにお兄ちゃんと全力で()るのも良いね」

 

「お腹をいっぱい空かせて晩御飯食べるために、全力でやるのだ!!」

 

「相変わらず食い気がすげぇな」

 

「仕方ありませんな、兄者。我々に一声も掛けず冥界などとおもしろ、ゲフンゲフン……危険なところに行かれたのです。容赦はしませんぞ?」

 

「いや、今面白そうって言いかけたよな? ただのやっかみだよな?」

 

「あたしはどっちでも良いけど、やるんなら全力だ!!」

 

「じゃあ辞退――「それは嫌だ」――……そっすか……」

 

「じゃあ、たんぽぽが辞退――「お前は参加な」――……なんで!? お兄様だって嫌がってたじゃん!」

 

「最近、鍛練サボりぎみらしいからな。いっそこの場で鍛え直す。異論は受け付けません」

 

「よろしくお願いします! お師匠様!!」

 

「……ああ、平常運転だな、お前は」

 

「宏壱様、諦めたんっすか?」

 

「……俺も本気を出したいんだよ。久し振りに、な」

 

「がん、ばり、ます」

 

「おう」

 

「お、お手柔らかにお願いしますっ!」

 

「いや、全力だ」

 

「ええぇっ!?」

 

「覚悟は決まりましたね? 全員で一気に叩きのめします」

 

「え゛? ぜん、いん……?」

 

「はい、一人一人では勝ち目がありませんから、全員で全力で掛からせていただきます。魔法も封印です」

 

「聞いてねぇよおおっ!!?」

 

 

 引き摺られて地下室に連れていかれる宏壱の嘆きが、夜の住宅街に響き渡った。




と言うことで第五十九鬼でした。

殴り込みに行った訳ですが、戦闘には発展しませんでした。初めて出会った悪魔が弱かったので宏壱は、それほど実力は離れていないだろうと思っていたようですが、甘いと言わざるを得ませんね~。超越者に勝つには些か実力が足りないと言えます。

さて、次回からは時間が飛んで半年後、その話が終わればいよいよ原作です。次も特に事件らしいことは起きないので4、5話くらいで終わると思います。

では、また次回お会いしましょう。
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