side~宏壱~
[次は~麻帆良~麻帆良~お降りの際は~足元にご注意下さい~]
スピーカーから間延びした車掌さんの声が車内に響き渡る。
この駅で殆どの乗客が降りるようで、降車の準備を始め出す。まぁ、俺もその内の一人なんだが。
[ご乗車~有り難う御座いました~]
そんな車掌さんの声を背中に電車から降りる。
三時間電車に乗りっぱなしで疲れた。
凝った肩を手揉みで解しながら改札口へ向かう。かなりの人の数だな。今日は学園祭らしいし、当然か?
そんなことを思いながら、人の波に流されながら改札口を出る。
「さて、と。あいつらはどこかね」
駅前広場で見知った顔を探す。
「人が多すぎてなにも見えん」
今の俺は『グロウ』を使っていない子供の姿だ。平均身長より高い方だが、大人と比べるとまだ低い。人込みに紛れると、あっという間に姿は隠れてしまうのだ。
「まぁ、気配を探れば見付けられるか」
近くのベンチに腰を下ろして目を閉じる。こう人が多いと、特定の人物を見付けるのは一苦労だ。
「いた。こっちに近付いてきてるな。俺の魔力を探ったのか?」
捉えた探し人の気配が、迷い無くこっちに近づいてくる。
気配は三つ、内二つは知り合いだ。高い魔力反応と、人に近い気配だが何かが違う反応。そして……ただの人間……? こっち側とは関係ないのか。麻帆良に来て出来た二人の友達か。
上手くやっているようで何より。
「探し人は見付かったし、俺も近付きますかね」
そう独り言ちて、ベンチから立ち上がる。未だに人は多く行き交い、駅前広場は大賑わいだ。
「ふっ」
その人込みを縫いながら通る。僅かな隙間に入り目の前を通過しても、誰も俺が通ったことに気付かない。
それほどの速さで風を切り、ステップを踏みながら気配の背後に回る。
「ん? 足を止めたな。俺が目指す場所から移動した事に気付いたか?」
人と人の隙間から僅かに見える三人の少女。
長い黒髪をストレートに下ろした前髪パッツン少女と、黒髪を左側頭部でポニーテイル……で、いいのか? 何か違う気がするが……ま、まぁ、そんな感じの小学四年生にしては凛々しい顔立ちの少女と、オレンジの長い髪を鈴の付いた髪飾りでツインテールにした少しつり目の気の強そうな少女だ。
三人とも誰から見ても美少女と呼べる。それだけ顔立ちが整っている。
しかし、今はその可愛らしい顔を困惑の色に染めていた。
「お嬢さん方探し物かな?」
「「「――っ!?」」」
俺が後ろから三人に声を掛けると、ビクッと彼女達は肩を跳ねさせた。
「何よあんた、急に話し掛けてきて!」
即座に反応したオレンジツインテールの少女が威嚇気味に吼える。
気が強そうだとは思ったが……予想以上だな。まるで猛犬じゃねぇか。
「あー! 宏壱君やっ! うちら近付いてんの知ってて後ろに回り込んだやろ! 意地悪いなー」
「確かに、このちゃんの言う通り趣味が悪いです」
俺に気が付いた前髪パッツン少女と左側頭部ポニー少女、木乃香と刹那が恨めしそうに俺を見ていた。
現在は六月中旬。
悪魔との邂逅から半年以上の時が流れた。あれから悪魔が海鳴市にちょっかいを掛けてくることはなく、今でもユークリウッドとは良い散歩友達だ。
相川達には、俺の素性を説明せざるを得なくなったのは言うまでもないだろう。
転生云々と管理局関連の事は伏せて、俺が魔導師でユークリウッドをどうこうするつもりもない事と、今後もユークリウッドを狙う存在が現れた時は、手を貸すことを約定した。
相川は信じてくれたが、セラフィムは半信半疑だった。取り合えず相川とユークリウッドが良いなら何も言わない、だそうだ。
後は、管理局の任務に勤しんだり、階級が二等陸尉から一等陸尉に昇級したり、メガーヌさんが一般男性と結婚したり、正月ははやてを家に呼んでのんびりしたり、なのはの誕生日パーティーにお呼ばれしたり(当然大人モードで)、小学四年生に進級したり(咲と相川とはまたも同じクラス)、束がちょくちょく家に泊まりに来たり、士郎さんや恭也、美由希、咲、大輝と鍛練で汗をかいたり(このメンバーと内の女性陣で何度か山籠りもした)、この前は、俺がはやてに出会って二度目の誕生日を祝った。
そんな感じで管理局員としての日々と、小学生としての日々、魔導師・山口宏壱としての日々を謳歌しながら毎日を過ごしている。
そんな日常の中で、新たな不安の種がこの半年の内に出来上がっていた。
『ブラッド・カルネージ』……広域指名手配されている傭兵集団だ。戦争に関わるとか、どっかのお偉いさんに雇われてボディーガードの真似事をするとかなら良いんだが……局員殺しとか、関係ない一般市民を殺すとか……。かなりイカれた連中で有名らしい。
だが最近、とある辺境の無人世界で、激しい戦闘の傷跡と、惨殺された『ブラッド・カルネージ』のメンバーの死体が発見された。
細切れにされた奴、拳の跡が無数に体に刻み込まれた奴、腹に風穴を空けられた奴、頭部だけが弾け飛んだ奴、全身を炭になるまで焼かれた奴……俺も資料を見たが、惨いの一言に尽きた。
それなりに恨みを買っていた連中だ。復讐したいと思っている奴は幾らでもいる。だが、戦闘の傷跡はあっても実行犯の痕跡がなかったらしいから、犯人探しは難航を極めるだろう。迷宮入りする可能性は極めて高い。
ただ、俺達を襲ったリカルド・シュレインの死体はなかったらしい。塵に変えられたのか、逃げ切ったのか、慈悲で見逃されたのか……復讐者だった場合それはないか。
閑話休題。
先日、木乃香と刹那から電話が掛かってきた。用件は「麻帆良祭に遊びに来ないか?」というものだった。
麻帆良学園は、初等部、中等部、高等部、大学部や研究所などの学術機関をはじめ、学生寮や保育園、住宅街、商店街、教会、神社などの各種都市機能までをも集積した超巨大な学園都市。
その学園都市で毎年六月半ばに、行われる大きな学園祭が麻帆良祭だ。
この時期になると、毎年新聞やらラジオやらネットニュースやらテレビやらが騒ぎ立てる。
一度俺も行きたいとは思っていた。特に何かしたいとかではなくて、木乃香と刹那の住む街を見たいというだけの理由なんだけどな。
そんな経緯があって、俺はこの麻帆良の地に足を付けた。
「しっかし、すげぇ人だな。ニュースとかで見たことはあるが、毎年こんなもんなのかよ?」
「そうですね。去年もこんな感じでした」
見渡す限り人、人、人、人のオンパレードだ。人が多すぎて、道路脇に並ぶ出店が見えんぞ。
ニュースなんかでは、開催期間は三日間なんだが、この間に四十万人を超える来場者と数億の金銭が動くとか言われていた。
実際に来たことはなかったからな、テレビで大袈裟に誇張しているもんだと思っていたが……嘘偽りなく真実かもしれん。
「でも、木乃香と刹那さんに男の幼馴染みがいたなんて聞いたことなかったわよ?」
「ごめんなー。話す機会あらへんだから」
「別に謝らなくても良いけど、背、高くない?」
「あはは~、うちもこんなに身長差出来てるて思わへんだわ~」
現在の時刻、十時十五分。
今俺達は麻帆良市内を散策している。特に何か見たいとかはないし、やりたいこともないので自由気ままに歩いているだけだ。
四人で横に並ぶのは通行人の迷惑になるということで、俺と刹那が前を、その後から木乃香とオレンジツインテールこと神楽坂明日菜、明日菜が付いて歩く。
まぁ、観光気分って奴だ。
「今時普通だろ? 良いもん食えてるのが、大きく影響してるらしいけどな」
「そんなに良い物を食べてるの?」
明日菜は出会った時の険は完全に取れ、笑みさえ浮かべて話し掛けてくる。存外、人懐っこい性格でもあるようだ。
「料理人がそこら辺の目利きが良いからな。新鮮で旨味のある野菜とか、魚とか、肉とか、な」
「料理人って、あんたお金持ちのお坊っちゃまなの!?」
食いつくところはそこか?
いや、確かに母親とかを料理人なんて呼称はしないだろうから、発想は間違っていないのか?
「あー、でもそうかもしれへんなー。宏壱君っておっきい家に住んでるし。紫苑さんとか、家政婦さんみたいな人もおるしなー」
「か、家政婦?」
「そうですね。愛紗さんや星さんなんかの凄腕の武芸者も抱えていますし、お金は持っているのではないでしょうか」
「ぶ、武芸者? それってボディーガードみたいな人?」
「大きく外れてはいないと思います。宏壱さんに必要かどうかは分かりませんが……」
夏休みになると、二週間だけ家で武者修業をするのが刹那の毎年の恒例だ。木乃香はその付き添いで、家に来たついでに朱里とか雛里、紫苑、等の調理担当に付いて料理の勉強をしている。
まぁ、去年の夏休みは殆ど管理局にいたから、二人と顔を会わせたのは初日だけだったけどな。
そんな関係で二人は内の面子と面識がある。刹那はかなり扱かれてるし、木乃香も護身術程度には鍛練を受けているようだ。
「それを言うなら木乃香の方が凄いけどな。山一個分お前んとこの土地だろ」
「ええぇぇっ!?」
「すげぇぞ? 何度か行ったことがあるが、メイド風の使用人がお出迎えだからな。因みに俺はメイドとか雇ってないから」
「そんなに凄いんだ」
知らなかったのか、感嘆の声を上げる明日菜。
大体は友人が金持ちだと知ると、態度が少し変わったりするんだが、そんなこともなさそうだ。
「俺の家はちょっと大きめの道場があるくらいだし、門下生は……二人ほど心当たりがあるが、別に流派を教えてるわけでもない」
「あんたが教えてるの?」
「まぁ、な。さっき刹那が名前を出した愛紗や星、他にも十数人ほど達人レベルの武芸者がいるからな。都合が合えば彼女らにも扱かれている」
「ふぅん」と相槌を打つ明日菜は、特に話を掘り下げるつもりもなかったのか、木乃香と話を再開して華を咲かせる。
「今年もお願いしても構いませんか?」
「ん?」
隣を歩く刹那の言葉に疑問符が浮かぶが、話の流れ的に夏休みの事だろう。
「ああ、良いぞ。去年ほど忙しくはないだろうし、俺も相手をしてやれると思う」
「ありがとうございます」
ぺこっ、と軽く頭を下げる刹那に苦笑を返して、歩みを進める。
どうでも良い話だが、年々愛紗に似てきている気がする。武人気質と言うか、几帳面さと言うか。
ふと、空を見上げる。
麻帆良に来てずっと感じていた違和感。そろそろ……。
「鬱陶しくなってきたな」
「??……何がですか?」
俺の呟きが聞こえたのか、刹那が俺の顔を見ていた。後ろを歩く二人には聞こえなかったようで、話し声は止んでいない。
「視線が、な」
特に隠す意味もない。そんな考えから正直に話すことにした。
複数感じる視線。空から、路地から、人込みから、建物から、位置は様々だが、監視でもするかのようなねちっこさだ。
「視線、ですか?」
そんな俺の言葉を受けて辺りを見回す刹那だが、分からないのか首を傾げる。
「せっちゃん、どないしたん?」
きょろきょろと、周囲を見回すという怪しい動きをする刹那に気付いた木乃香が声を掛ける。
「い、いえ、なんでもありません」
後ろを振り返って木乃香にそう返したあと、恨めしそうに俺を見る。
俺は悪くないと思うんだけどな。
「いい加減うざくなってきた。対処する」
呟き、足早にその場を離れる。目指すは大きな気配がする場所、人ならざる者のところだ。
「あ! ま、待ってください!」
「うわっ!? どないしたん、せっちゃん?」
「そうよ、急に大きな声を出して、びっくりするじゃない」
「す、すみません。ってそうじゃなくて! 宏壱さんは!」
「あれ?そう言えばいないわね」
「はぐれてしもたんかなー?」
「……傍には、いない。この短時間でかなり遠くへ行ったみたいです……」
建物の上を駆ける。暫く付いてきていた複数の気配は振り切った。永春さんから聞いていた魔法使いって奴だろう。俺とは根本的に違う、神秘の力を扱う者達。
この麻帆良自体がそいつ等の……確か、関東魔法協会だったか? それの拠点になっているらしい。
そんな訳で、麻帆良は魔法関係者が他の地域に比べて圧倒的に多い。歩くだけで一般人の中に複数の魔力反応を感知した。大した力はなさそうだったが……。
「見えてきたな」
正面30m先の建物、その屋上に辺りを忙しなく見回す、ブロンドの長い髪を風に踊らせる小柄な少女。その少女からはミカエルやサーゼクス・ルシファーに近い力を感じる……が、こうして近付かないと分からない。まるで何かに押さえ付けられているような……。
「覗きとは、趣味が悪いね。お嬢ちゃん」
床を蹴って大きく跳び、その少女の背後に着地して声を掛けるのだった。
もう心が折れそうです。
書いてる最中にスマホの電源が勝手に落ちました。再起動だったんですが、書き終わりそうだったのに、半分飛びましたよ。あっはっはっはっはぁ~。
それが二日前の事です。立ち直って書いたはいいものの……最初に書いたものと細部が違うんですよね。どうも同じものは書けなくて……。
最初に書いたものの方が自分的に満足いく仕上がりだったのですけど……。
では、また次回お会いしましょう。