リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第六十三鬼~学園長の事情~

side~宏壱~

 

「で、話ってのは?」

 

「うむ、本題に入る前に、まずは自己紹介から始めようかの」

 

 

 じいさんが居住まいをただして言う。

 その言葉を受けて、じいさんが誰かも知らないことを思い出した。知っている事と言えば、学園都市・麻帆良の統括長、謂わば最高責任者だってことくらいか。

 

 

「麻帆良学園学園長を務める近衛 近右衛門じゃ」

 

 

 向かいのソファーに座るじいさん、近衛 近右衛門が名乗りと同時に軽く頭を下げる。

 

 

「……ん? 近衛?」

 

 

 じいさんの名字に引っ掛かりを覚える。

 

 

「うむ。木乃香を知っておるじゃろ?」

 

「ああ」

 

 

 木乃香の名前で疑問が解消された。そういえば近衛が名字だっけか。

 

 

「木乃香はワシの孫娘じゃ」

 

「へぇ~……ってことは、詠春さんは」

 

「ワシの義理の息子になるのう」

 

 

 義理ってことはじいさんの娘さんが嫁いだ? あ、違うか。じいさんが近衛で詠春さんも近衛だから、詠春さんが婿養子なのか。

 

 

「ってことは、俺の事も?」

 

「うむ、聞いとるよ。木乃香と刹那くんの命を救ってくれたそうじゃな。京妖怪との協定締結にも貢献してくれたようじゃしのう」

 

「……ほう」

 

 

 近右衛門のじいさんの言葉に興味を示したのは、輝くブロンドの髪をストレートに下ろした少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。

 この部屋、麻帆良学園本校女子中等部にある学園長室。そこで机を挟んで向かい合わせになった三人掛けの片方のソファーに俺とエヴァンジェリンが並んで座り、向かい側には近衛 近右衛門のじいさんが座っている。

 机の上には、小皿に盛られたお茶請けのせんべい(しょうゆ)と、冷たいお茶の入った湯飲みが俺達の前に一つずつある。

 

 

「知っているだろうが改めて……山口 宏壱だ。しがない魔導師をしている」

 

 

 俺もじいさんに倣い居住まいを正して、自分を紹介する時の決まり文句になりつつある言葉を言う。

 

 

「ほっほっほ、しがないとはよく言うのう。あれほどの力を有しておるというのに」

 

 

 愉快そうに髭を揺らして笑うじいさん。好好爺然とした朗らかな笑いだ。

 

 

「鍛練の賜物ってな。じいさんも俺が張った結界に簡単に入ってきたな。それなりに固い筈だぞ」

 

「うむ、難解な術式じゃった。使われとる言語はドイツ語に近いものじゃったが、子細が違っていてのう」

 

 

 それを自力で解いたあんたはスゲェよ。そう思わずにはいられなかった。

 

 

「確かに、妙な魔法ではあったな。貴様の使う魔法はどうも私の知るものとは異なる。そこら辺を詳しく聞かせろ」

 

 

 水晶のような瞳を輝かせて俺を見るエヴァンジェリン。

 聞かせろ、と来たか。昔から命令されるのが好きじゃなかったんだが、彼女に言われると、そんなに嫌な感じがしないのはどうしてなんだろうな?

 

 

「んー……まぁ、説明するのは別に良いんだけど。じいさんの話を聞いてからだな」

 

「……言質は取ったぞ」

 

「おう」

 

 

 そこで満足したのか、腕を組んで沈黙するエヴァンジェリン。

 守秘義務は当然ある。だから、管理局がとか次元世界とかの話はなしで、リンカーコアとデバイスの説明だけすれば良いだろう。

 そこまでならギリギリセーフじゃないかと思うんだ。

 

 

《ギリギリアウトだと思います、御主君》

 

「《ナチュラルに心を読むな、無限》んで、じいさんが俺を呼んだ理由は?」

 

 

 念話でツッコミを入れてきた無限に返しながら、改めてじいさんに話を促す。

 

 

「そうじゃの、ワシもお主の魔法が気にるが、先に用件を済ませてからでも遅くはないじゃろう」

 

 

 こほん、と咳払いをしてじいさんは机に頭がつきそうなほど深々と下げる。

 

 

「じ、じいさん? 急にどうした……?」

 

 

 そんなじいさんの行動に、頭を下げられた俺と、見ていたエヴァンジェリンは戸惑う。頭を下げられる覚えがないからだ。

 

 

「孫と孫の友達を救ってくれてありがとう」

 

 

 じいさんは頭を上げずに続ける。

 

 

「お主がおらなんだら、木乃香と刹那くんはこの世におるまい。今、あの娘達が笑っていられるのはお主のお陰じゃ。本当にありがとう」

 

「……」

 

 

 今、俺の目の前にいるのは、孫を想う一人の祖父。学園長としての肩書きなんかはなく、近衛 木乃香の祖父、近衛 近右衛門だった。

 

 

「何年も前の話だぞ。それに、居合わせたのは偶々だ」

 

「じゃが、その偶々に木乃香と刹那くんは救われたのじゃ。偶然と言えばそうじゃろう。しかしじゃ、それが起きたのじゃ。運命とも必然とも呼べる、確かな事実で真実なのじゃ。じゃから言わせてほしい、ありがとう」

 

 

 真摯な言葉だった。最初の印象は飄々としたじいさんって感じだったが、その誠実さは先の印象を俺に改めさせるには十分だった。

 

 

「はぁ……頭を上げてくれ、じいさん」

 

 

 俺が溜め息を吐きそう促すと、じいさんはゆっくりと頭を上げる。

 

 

「どういたしまして。その感謝の言葉を受け取るよ」

 

「うむ、そうしてくれるとワシも嬉しい限りじゃ。最近の若いもんは変なところで遠慮しよるからのう」

 

 

 そう言って「ほっほっほ」と笑うじいさんに、さっきの誠意さはなく飄々とした雰囲気の好好爺に戻っていた。

 切り替えが上手いな。

 

 

「まぁ、もうこの話は良いんじゃないか?」

 

「そうじゃの。長引かせても何の益にもならんしの」

 

 

 この話はもう止めだと互いに決め込んで、話題を転換しようと思い、気になっていたことを聞くことにする。

 

 

「なら――「それよりも、あいつ等は何で俺を襲ってきたんだ? ここはそういう方針か?」――…………」

 

「……ん? エヴァンジェリン、どうした?」

 

 

 何やら苦い表情で俺を恨めしそうに見るエヴァンジェリンに問う。

 

 

「ふんっ……」

 

「???」

 

 

 腕を組んで不貞腐れるエヴァンジェリンに首を傾げる。じいさんはそんな俺達を「ほっほっほ」と笑って見ていた。

 

 

「それで、どういうことだ?」

 

 

 気にしても無駄だろうと断じて、気になっていた事……と言うよりも、事と次第によってはこのじいさんとドンパチしなくちゃならなくなる。さっきの話は抜きにして、だ。それはそれ、これはこれというやつだな。

 器が小さいとか、そんなしょうも無い事で……と思われるかもしれないが、俺にも矜持ってもんがある。嘗められて黙っていられるほど人間できちゃいない。

 

 

「それはすまなんだのう。ガンドルフィーニくんは少しばかり頭が固くて、外部の人間には強く当たりすぎる嫌いがあるのじゃ。腕は良いのじゃが、その凝り固まった思考が彼の視野を狭くしておるんじゃ」

 

「あのガキ一人に限ったことじゃねぇよ。この学園にいる裏側の連中の殆どがあんな感じだろ」

 

 

 狭い視野と思考の停滞。リンカーコアの事を知らないまでも、炎と見れば水で対処するとか、風向きで勢いを削ぐとか、或は進行方向を変えるとか、氷魔法で凍結させるとか、色々できた筈だ。そういったことができるのは木乃香から聞いている。

 まぁ、水だろうが風だろうが氷だろうがその他の何かであろうが、余裕を持って当たれば対処するのは難しくない。

 

 

「否定できんのう。お主と交流のある木乃香と刹那くんは柔軟な思考を持っておるが、それ以外の者達は如何せん英雄を盲信しておる」

 

「……英雄?」

 

「そうじゃ。ワシ等の使う魔法は、ここではない別の世界、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』が発祥での」

 

「むん……何だって?」

 

 

 よく分からない言葉が出てきて聞き取れなかった。

 

 

「『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』じゃ。直訳すれば魔法世界じゃよ」

 

「なるほど……その世界が、じいさんとかさっきの連中が使う魔法の発祥の地、って事か?」

 

「うむ、そういう事じゃの。ただ、ラテン語を主体としておるからの~。この世界の古代ローマ人、しかも魔法使いが『魔法世界』にたまたま流れ着いて広まっただけかもしれん」

 

「何だ、結局分からないってことか。……それが英雄とどう繋がるんだ?」

 

 

 興味深い話ではあるが、深く掘り下げると脱線する可能性が出てくるからな。話の軌道を修正して、じいさんに続きを促す。

 

 

「簡単な話じゃ。『魔法世界』で十五年ほど前に戦争があった。その戦争で活躍したのが『赤き翼(アラルブラ)』じゃった。『赤き翼』は戦争を終決させた立役者でもあるんじゃ」

 

「そりゃ英雄視されるわな。戦争を終わらせるなんざ簡単なことじゃないぞ。目指す場所が同じでも、過程が違えば齟齬が生まれ諍いが起きる。それが個人と個人なら喧嘩で済むだろうが……村と村、街と街、国と国なら起こるのは殺し合いだ。戦争だ。和解させるのは骨が折れる。互いに雌雄を決するために全力を出しきって相手を下すか、互いの共通の敵が出現するか、そのどちらかしかないからな」

 

「くっくっく、実感がこもっているじゃないか、『赤鬼』。体験者は語る、か?」

 

 

 喉の奥で楽しそうに笑いを溢すエヴァンジェリン。

 

 

「うーむ?」

 

「じいさん、どうかしたか?」

 

 

 妙な唸り声を上げるじいさんに声を掛ける。

 

 

「さっきからエヴァが言っとる『赤鬼』とは何の事じゃ?」

 

「あー、まぁ、別に話しても良いんだけどな。その事は後でまとめて言うとして、先にそっちの事情から聞きたいんだけど?」

 

「む?……そうじゃの、お主の魔法とまとめて聞いた方が、手間が少なくてすむか」

 

 

 一瞬の思考を経てすぐさま結論を出したじいさんが話の続きを語る。

 

 

「話を戻すが、その『赤き翼』を英雄に見立て……実際英雄なのは変わらんが、誇張して話を広め、理想の英雄像を仕立てあげたのじゃよ」

 

「ふ~ん。って事は俺を襲ってきた連中の行いが、その英雄像に感化されての事だった、って事か?」

 

「実際、彼らは無鉄砲で喧嘩っ早い。そのストッパーになっておったのが、婿殿、近衛 詠春じゃった」

 

「詠春さんが英雄ねぇ。強そうではあったけど……ありゃ鍛練してねぇぞ」

 

「今は関西呪術協会を引っ張るのに四苦八苦しておるからのう、余裕がないんじゃろ」

 

 

 まぁ、政が得意そうには見えなかったけどな、詠春さん。

 

 

「でもさ、人に武器を突き付けて「ご同行願おう」だぜ? それで英雄とか言えるのかよ?」

 

「仕方ないじゃろう。彼等は与えられた正義に固執し過ぎとるからのう。麻帆良に来た当時はそうでもなかったんじゃが、皆変わってしまうんじゃよ」

 

「英雄を夢見て、か?」

 

「そうじゃ」

 

 

 難しい問題だな。英雄の在り方ってのはその時代、個人で捉え方、価値観が大きく変わってくるものだ。

 俺が思う英雄ってのは、どれだけ人を救ったか、どれだけ敵を殺したか、この二通りだ。

 

 

「阿呆らし。それで他勢力にはツンケンか。敵を作るだけだぞ。この世界には悪魔に天使、堕天使、妖怪が存在する。他にも様々な勢力が混在するこの世界で、入ってきた者全てに武器を向ける気かよ」

 

 

 夢見るガキの集団。そう思わずにはいられない。力を持った者が侵入すると、一々監視して有無を言わさず武器を向けて「悪者を倒した、英雄に近づけた」そんなことをほざくのか……。

 

 

「そこまで露骨ではないがの。皆が少なからず意識しておるのは確かじゃよ」

 

 

 ……思っていたことが口から出ていたらしい。

 

 

「まぁ、何となく分かってきた」

 

「よし! 次は貴様だ! キリキリ話せ! ハキハキ話せ!」

 

 

 区切りがついた途端に、エヴァンジェリンがズイッと身を寄せてきて、鼻息荒く言い募る。

 そんなエヴァンジェリンに少し身を引いて距離を取ろうと試みたが、俺が座っていたのはソファーの端で後などある筈もなく、結果的にエヴァンジェリンの顔が鼻先数cmまで接近するという事態になってしまった。

 好奇心からか、文字通り目と鼻の先にある水晶のような瞳はキラッキラに輝いている。

 

 

「わ、分かった分かった! 話す! 話すから離れろ! 近いって!!」

 

「では話せ!」

 

 

 俺が慌てて言うと、満足顔で座り直すエヴァンジェリン。

 俺はバクバクと脈打つ心の臓を服の上から右手で押さえて落ち着くのを待つ。

 

 

「ふぅ……んじゃ、話しますか」

 

 

 息を一つ吐いて、頭の中で話す事とそうでない事を分けてまとめる。

 

 

「……俺の使う魔法は――」

 

 

 そうして語ったのは、魔法を発動するのにリンカーコアが必要な事、簡易の魔法ならデバイス(魔法使いの杖)を必要せずに使える事、俺達にとっての魔法使いの杖はデバイスと呼ばれる機械端末である事(これに関しては、刃と無限を実際に展開して説明した)、 じいさんが気にしていた『赤鬼』の事(この時エヴァンジェリンに聞いた話だが、英雄の生まれ変わり、ってのが存在するそうだ。それで俺の正体、と言っていいのかは知らんが、そんな事もあって俺を『赤鬼』本人だと当たりを付けたらしい)、そんな話をして二時間弱、学園長室の窓から差し込む太陽の明かりは強さを増し、壁時計の時針も12時を過ぎていた。

 

 当然、管理局や次元世界の話はしていない。じいさんのバックにキナ臭い組織がいるからな、これらの情報を得てどんな行動を起こすのか、正直分からない。無駄にちょっかいを掛けられると対処するしかない。

 戦いは歓迎するが、益もなく死人が出るのはお断りだ。

 

 

「――と、まぁこんなところか」

 

 

 そう締め括って手を伸ばし湯飲みを取り、ずずずっ、と出されたお茶で喉を潤す。話が白熱し過ぎて喉がからっからだ。

 

 話を聞けて満足したのか、エヴァンジェリンとじいさんも俺と同じようにのんびり茶を啜っている。

 その都度質問に答えたから、特に聞きたいことはないだろう。

 

 しかし……何か忘れているような……。

 

 

「宏壱くん……良いのか?」

 

「何が?」

 

 

 思い出そうと頭を捻っていると、じいさんが唐突に切り出す。

 意味の分からない俺は首を傾げて聞き返す。

 

 

「木乃香と刹那くん、明日菜くんの事じゃよ。四人で回っておったんじゃろ?」

 

「……あ」

 

 

 そうだ!なんで忘れていたんだ、俺は!!

 

 

「じいさん、すまん! お茶ありがとう! エヴァンジェリンもまた今度会おうぜ!!」

 

 

 そう言い捨てて学園長室を飛び出す。

 今の俺は風だ。近くを通った女性のスカートを捲り上げる程の疾風なのだ。

 

 

「くっ……携帯電話を家に忘れてきたことが悔やまれるな……」

 

 

 駆けながら愚痴を溢す。

 

 

《普段から持ち歩く習慣を身に付けてください。そういつも言っていたでしょう?》

 

《今回ばかりは、自業自得と言わざるを得ませんね》

 

 

 刃と無限の小言が耳に痛い。普段、不携帯と化している携帯電話を持ち歩くことを心に決めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 直ぐに木乃香達と合流した俺だったが、当然御三方は御立腹で宥めるのに少々時間が掛かった。

 昼飯も食べずに俺が戻るのを待ってくれていた三人に、詫びの印にと昼飯代は全部俺が出し、その後の諸々の経費もすべて俺持ちという事で方がついた今回の一連の騒動(?)魔法先生がいなければこれ程時間が掛かりはしなかっただろう。魔法先生、マジ許すまじ。マジック(魔法)だけに。

 

 

「ほな、今度はあの雑貨屋見てこか~」

 

「良いですね。私も髪飾りが欲しかったのです」

 

「目を付けてたネックレス、ちょっと高かったから諦めてたのよ。……良いわよね?」

 

「……はい」

 

 

 服やら小物類やらが入った袋を両手に下げた俺は、頷くことしかできなかった。

 

 まぁ、お姫様方の財布兼荷物持ちとして今日一日過ごすことに徹する。こんな日も悪くない。そう思ってしまう俺は、とことん女に弱いんだと思わされるね。

 

 

「ほら、早く来なさいよ!」

 

「宏壱さんがいないと買えません」

 

(はよ)きぃ~」

 

「おう」

 

 

 まだまだ荷物は増える、気張って行こう。




最後はちょっと駆け足ぎみでした。負傷した魔法先生の事も深く掘り下げたかったのですが、落とし所も見つからなかったので、さっと触れる程度にしておきました。

今話が今年最後の更新!メリークリスマス!良いお年を!

では、また次回お会いしましょう!
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