リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第六十六鬼~覚醒~

side~咲~

 

「ね、お父さん、良いでしょ?」

 

 

 今は家族団欒の夕食時。

 なのはちゃんが士郎お父さんにフェレットを飼って良いか聞いている。

 放課後、なのはちゃん達が学校から塾に行く途中に、件のフェレットが怪我をしているのを見付けて、近所の槙原動物病院へ連れていったけど、このまま野に返すのは可哀想だから飼いたい。そう思っていることを話している。

 桃子お母さんと美由希姉さんはなのはちゃん寄り。恭也兄さんは我関せず。士郎お父さんも特に反対意見はなさそうだから大丈夫だね。

 

 

「咲はどうかな? なのはが言ってること」

 

「私?」

 

 

 思わぬ飛び火だ。私も反対とかはないけど、でも大切な妹の肌を見知らぬ男の子に見せるのは……。そのフェレットの正体を知っているだけに躊躇いが生まれる。

 

 

「ダメ、かな?」

 

 

 なのはちゃんが悲しそうにこっちを見ている。

 

 

「ダメ……じゃないんだけど、なのはちゃんのお部屋で飼うのは反対かな」

 

「え、どうして?」

 

「動物ってダニとかノミを連れてる事があるからね。それがアレルギーの原因になったりするんだよ」

 

 

 こう言えばフェレット……今回の事件の当事者であるユーノ・スクライア君をなのはちゃんの部屋で飼うことはないんじゃないかな。

 

 

「うーん、でもお風呂で洗ってあげれば大丈夫じゃないかな?」

 

「……美由希姉さん」

 

「え? どうしてそんなに非難の眼差しで私を見るの?」

 

 

 はぁ……まったく、美由希姉さんは。だからいつまでたっても彼氏ができないんだよ。

 

 

「よく分からないけど、すごくバカにされた気がする」

 

 

 むー……。どうしよっか。このままだとなのはちゃんの肌が……。美由希姉さんぐらいなら別に良いんだけど、やっぱり可愛い妹のお着替えシーンとか見せたくないよね。

 確か、魔力回復のためにフェレットの姿になってるんだよね? じゃあ魔力を回復させてあげれば問題ないのかな?

 ユーノ君が人の姿でも原作には関係ない……よね?

 

 

「……咲お姉ちゃん?」

 

「え?」

 

「えっと、それでどう、かな?」

 

 

 躊躇い気味に聞いてくるなのはちゃん。その瞳は不安に揺れていた。

 

 

「うん、汚れを落とすのならいいよ。ちゃんとお世話できるよね?」

 

「うん!」

 

 

 元気良く頷くなのはちゃんに心の中で「ごめんね」と謝る。

 もしかしたらフェレットは飼えないかもしれないから。

 

 

 

 

 

 ご飯も食べ終わって今は自室で予習中。前世の記憶があっても、小学校の勉強を全部覚えている訳がないし、漢字とかも使わないと記憶に残らない。だから予習復習は大切だよ。

 特に歴史は前世と違うところも多々ある。世界が違うんだし、まったく同じ歴史を辿っているとは限らない。

 一番おかしいのは中国の三国時代だね。武将の殆んどが女性だった。それに魏国も滅んでないし、死ぬべきって言えば聞こえは悪いけど、戦死せずに生涯を生きた人も多い。……主だった武官、文官がみんな寿命でこの世を去ってる。つまり、主要人物の戦死は記録になかった。

 歴史の違いを挙げれば、黄巾の乱の首謀者は張角じゃなくて義留我・滅執(ギルガメッシュ)という銀髪オッドアイの男で、張角は二人の妹、張宝、張梁と共に劉備の下にいた。

 実は董卓は可憐な美少女で、彼女の立場を羨んだ諸侯に、悪逆三昧を落陽で働いているという噂を市場に流され反董卓連合が生まれた。

 極めつけは、『天の御遣い』を主軸にした三国同盟。天下三分の計が成立し、千八百年を経て国号が変わった今も内部争いはない。話によれば『天の御遣い』の子孫が政権を完全に握っているらしい。

 

 

「ふぅ……でも小学五年生でこんなに深く歴史を勉強するなんて」

 

 

 分厚い歴史の教科書から、重要な箇所と年号を抜粋した自分のノートを見て呟く。

 少し背凭れに背中を預けて伸びをすると、節々からコキコキっと音が鳴る。時計を見ると、勉強机に向かってから一時間ほどの時間が経過していた。

 

 

「……そろそろ、かな」

 

 

 物語の始まり。なのはちゃんとまだ見ぬフェイトちゃんの出会い。悲しいけど二人が成長する切っ掛けになったお話。そこに繋がるプロローグ。

 不安要素は幾つかあるけど、やっぱり新崎 勝吾が一番の懸念材料だった。それを今日のお昼休みに再確認した。

 発端は宏壱君が新崎 勝吾君の事を観察したいと言ったからだった。

だから私達はなのはちゃん達がいる屋上に向かった。名目はお昼寝だったけど、本当は新崎 勝吾君の人となりを見ることだった。

 彼がどんな性格なのか、実力はどれ程あるのかを宏壱君に見てもらうための行動。それを宏壱君が出した結論は危険な思想家だった。

 

 

 ――中身のない正義ほど怖いものはない。

 

 

 寝るふりをして宏壱君が放った言葉だ。

 そういう者は『正義のため』という大義を掲げているつもりになっていて、何をしても、どれ程の犠牲が出てもその一言で自分の行いを正当化する。だから目的のために手段は選ばないし、平気で他人を貶める。それこそ……自分の家族でさえもな。

 

 そう宏壱君は語っていた。

 確かに創作物とかではよく聞く話だし、そんな思いを持ってる人は実際にいると思う。

 自分の思う正義を人に押し付け、それに反すればその人は悪になる。妄信的で盲目過ぎる。視野が狭く狭量。沸点が低く短絡的な思考に呑まれやすいし、過激な手段に出ることも少なくない。

 新崎君、このままだと君はとんでもない事をしてしまうよ。取り返しのつかないことを……。

 

 

「ん……ちょっと喉が渇いちゃった」

 

 

 宿題として出された計算ドリルを書き進める手を止めて椅子から立ち上がる。

 私は予習復習を終えて今度は学校の宿題をやっている。その傍らで並列思考、マルチタスクを使ってお昼休みに交わした宏壱君との会話を思い出していた。

 こういうのにはすごく便利だよね、マルチタスクって。同時にものを考えられるのは不思議な感覚だけど、使いこなせれば左手で国語の宿題をしながら右手で数学ができる(聖祥は五年生になると算数が数学に変わる。他の教科も中学一年生レベルまで跳ね上がった)。私は両利きじゃないから出来ないけど。

 

 

「……あれ、なのはちゃん?」

 

 

 喉を潤すために自室を出るとなのはちゃんが急いだ様子で一階に下りていくのが見えた。

 それに疑問を持って首を傾げていると……。

 

 

 ――誰か……この声が聞こえたら返事をしてください。

 

 

 幼い男の子の声が聞こえた。鼓膜を震わせるんじゃなくて、頭の中に直接響く声。念話だ。なのはちゃんはこの声を聞いて飛び出したんだと思う。

 意識を集中してなのはちゃんの気配を追うと、向かう先には強烈な邪気がある。

 ……間違いない。なのはちゃんは私よりも早く念話を拾ったんだ。考え事をしていたから私が気付かなかっただけかもしれないけど。

 

 

「うん、分かった。僕は何も言わないでおく」

 

 

 喉を潤すのは止めてなのはちゃんを追おうと一階に下りると、士郎お父さんが固定電話で誰かと話をしていた。

 

 

「咲……なのはを頼むよ」

 

 

 私に気付いた士郎お父さんが私を見ずに真剣な声音でそう言う。

 

 

「……うん、任せて。なのはちゃんは、妹は絶対に守るから」

 

 

 それだけを返して、私は玄関で靴を履く。

 簡潔な会話だけど、言いたいことは分かったし、電話の相手も誰か見当がついた。……宏壱君だ。

 

 

「行ってきます」

 

 

 その一言を残して家を飛び出す。

 

 

「咲さん!」

 

「大輝君」

 

 

 暫く走っていると、後ろから大輝君が追い付いてきて私の横に並ぶ。腰には両刃の剣が差してあった。テルミヌス・エスト、剣精霊で大輝君の相棒を務めるエストちゃんだ。既に展開してるってことは、戦闘準備はバッチリってことだね。

 

 

「新崎も向かってます。それに宏壱さんとリニスも」

 

「そっか。私達も急ごう」

 

 

 大輝君の気配感知能力は私を上回る。大輝君の考えでは、サイヤ人の肉体って特典が影響してるんじゃないかって話だけど……本当のところは分からない。

 

 私達は走る速度を上げる。すると、流れる景色が速くなった。一直線になのはちゃんの気配がする方向へ走る。民家を跳び越え、電線の上を走り、曲がらずに進む。

 飛行魔法は練習中で、自在に飛べるとは言えない。ゆっくり飛ぶのなら問題ないんだけど、原作のなのはちゃんやフェイトちゃんの様に高速では飛べない。だから走った方が速い。

 大輝君はそもそも飛行適性が無かったみたい。完全な陸戦型の魔導士だね。

 

 

「見えた! 宏壱さんとリニスは既に居ます!」

 

 

 大輝君が叫ぶ。

 足を動かして数分、漸く目的の場所が見えてきた。そこは酷い惨状だった。

 電柱は倒れ、ブロック塀が崩れている動物病院。その動物病院自体にも壁に大きな穴が開いていた。おそらくそこは、なのはちゃん達がユーノ・スクライア君を連れていった槙原動物病院だと思う。

 そしてその崩れたブロック塀から飛び出してくる女の子。腕の中には一匹のフェレット……っぽい動物。なのはちゃんとユーノ・スクライア君だ。

 まだ新崎君の姿は見えない。宏壱君は……居た。200mほど離れた電柱の上で腕を組んでこっちの様子を見てる。その右肩には一匹の山猫が乗っていた。

 

 

「なのはちゃん!」

 

 

 更になのはちゃんの背後から迫る黒い影。不定形の影は、グニグニと形を変えながら弾丸のような速度でなのはちゃんへと迫る。

 未だにレイジングハートを起動していないなのはちゃんがあれの直撃を受ければ、その先に待つ未来は……死。

 

 

「させない!」

 

 

 その場に止まって素早く印を組む。何度も何度も繰り返し使ってきた印。組んだ指の残像が見える速度。発動に一秒も掛からない!

 

 口許に出現した橙色のミッド式魔法陣。

 私の特典の一つ、少年漫画『NARUTO』の血継限界、血継淘汰を除く忍術を魔法として扱えるようにすること。

 印を組むことで始動させ、技名を唱えることで発動させる。後はその技にとって適切な行動をすれば……。

 

 

「水遁・水断波!!」

 

 

 橙色の魔法陣に精一杯息を吹き掛ける。

 

 

〔グガッ!!〕

 

 

 ――バシュッ!――っと魔法陣から飛び出たウォーターカッターがなのはちゃんの真上を通りすぎて影に直撃、吹き飛ばした。

 影はそのまま動物病院の屋根に激突して、破壊しながら建物の中に姿を消した。ごめんなさい、槙原先生。

 

 

「――何っ!?」

 

「なのはちゃん、こっち!」

 

 

 驚きの声を上げるなのはちゃんに声を掛けて手招きする。

 

 

「咲お姉ちゃん!?」

 

 

 これでもか!と驚くなのはちゃんは事態を呑み込めないまま私達のもとまで駆けてくる。

 

 

「大輝くんも……どうしてここに!」

 

〔魔力を感じる……あなた達は魔導師ですか?〕

 

「話はあとだよ!」

 

 

 説明する時間はない。早くなのはちゃんにレイジングハートを起動してもらわないと……!

 

 

「咲さん……僕が押さえます。その間になのはを」

 

「うん、分かったよ。必要ないと思うけど念のために言っておくね。……大輝君、気を付けて」

 

「はい!」〔――――っ!!!〕

 

 

 大輝君の力強い返事と、建物の中から新たに壁を破壊して影が飛び出すのは同時だった。

 それを見た大輝君は数瞬遅れて駆け出す。腰に差したエストちゃんを右手で引き抜き……。

 

 

「破道の三十二・蒼火墜!!」

 

 

 影に向かって横凪ぎに振り抜いた。

 ――ドオオオォォォンッッ!!――影とエストちゃんが接触した瞬間、蒼い爆炎が影を焼く。

 

 大輝君には実は魔法適性がなかったそうで(魔力量はSSSっていう魔導士なら誰もが羨む量なんだけど)、その魔力の殆んどを身体強化に回している。

 放出量、制御、生成、構築、維持……全部がEランク。射撃なんて魔力弾を生成するとシャボン玉みたいに弾けて消えちゃうし、砲撃は魔力を集めた瞬間に暴発。バインドもできないし、幻影系も適性なし。

 だけど大輝君には他に手札があった。

 それは『鬼道』だ。

『鬼道』……『NARUTO』と同じ少年漫画雑誌内の、『BLEACH』に出てくる死神が使用する霊術。

 大輝君は特典としてその力を貰い鍛えてきた。『鬼道』には攻撃系だけじゃなくて、束縛系や防御系、回復系もある。だから魔法を使える使えないは、大輝君にとってあまり意味のあるものじゃなかった。

 しかも、宏壱君との鍛練の中で大輝君は魔力に『鬼道』を重ねることを思い付いた。

 拳に纏わせた魔力に『蒼火墜』を乗せて拳を打つと、拳から蒼い爆炎が吹き出た。

 そこから練習してエストちゃんにも魔力を纏わせると『鬼道』を付加出来るようになった。それが今黒い影に放たれた『蒼火墜』なの。

 

 閑話休題。

 

 大輝君の鍛練の成果が炸裂したところで、私はなのはちゃんの手を取って大輝君に背中を向けて走り出す。

 

 

「わっ、待って咲お姉ちゃん! 大輝くんが!」

 

「大丈夫だよ。大輝君は強いから」

 

「で、でも……!」

 

 

 なのはちゃんも大輝君が強いことは知っている。

 殆んどは宏壱君の家での鍛練が多いけど、家の道場で士郎お父さんや恭也兄さん、美由希姉さんと試合形式でやり合うことだってあるから。

 

 

「それに見たでしょ? 大輝君には普通じゃない力があるんだよ」

 

〔さっきの……魔法とは違う力、ですよね〕

 

「さっきも言ったけど細かい話はあと、だよ。今はあれをどうにかしないと」

 

 

 遠くなっていく大輝君の姿をチラっと見ながら言う。

 影が放った触手をエストちゃんで捌きながら影に肉薄して、本体に痛烈な斬撃を浴びせていた。

 

 

〔あの……彼の力があれば押しきれると思うのですが……〕

 

「相手が普通の生物なら、ね」

 

 

 ジュエルシードはロストロギアだ。封印処理を行わないと暴走の危険がある。膨大な魔力で無理矢理押さえ込んで封印、って方法もあるけど……。

 宏壱君の話では、正確なプロセスを踏んだ封印じゃないと掛かりが甘くなってちょっとしたことで外れやすくなるし、暴走の危険が高くなるから絶対にやらない方がいいらしい。

 

 

〔貴女も魔導師……ですよね? じゃあ、貴女が封印を――「それは無理、かな」――……どうしてですか?〕

 

「私、封印魔法使えないんだ」

 

 〔そう……なんですか〕

 

 

 変な沈黙が辺りを包む。響くのは私達の駆ける音と見えなくなった大輝君と影、ジュエルシードの思念体が戦う音。

 

 

「ねぇ……ユーノくん」

 

 

 そこで、今まで成り行きを見守っていたなのはちゃんが口を開く。彼の名前を呼んだってことは、自己紹介はもう済んでるってことかな。

 

 

〔なんですか?〕

 

「さっき言ってたよね? わたしには魔法使いの資質があるって」

 

〔……はい〕

 

 

 いつのまにか私達は足を止めていた。

 思念体が追ってくる様子はないから、大輝君がしっかり押さえてるんだね。

 

 

「わたしならあのお化けを倒せるんだよね?」

 

〔……はい〕

 

 

 ぽつぽつとユーノ君に質問を投げ掛ける中で、なのはちゃんの瞳に強い意志が灯っていくのを私は見た。

 

 

「わたし、やるよ。咲お姉ちゃんや大輝くんの力になりたい。それに……」

 

 

 そこで言葉を切ったなのはちゃんが小さな声で、「コウくんに会えるかもしれない」と呟いたのが聞こえた。

 詳しく聞いたことなかったけど、宏壱君はなのはちゃんに魔法を見せたことがあるのかもしれないね。

 

 

〔分かりました。この宝石を握って僕の言葉を復唱してください〕

 

「うん」

 

 

 ユーノ君は小さな前足で赤い宝石、レイジングハートをなのはちゃんに渡す。

 そしてなのはちゃんの腕の中から飛び下りて、私に少し距離を取るように告げる。私が離れたのを見届けると、なのはちゃんに向かい合って……。

 

 

〔我、使命を受けし者なり、契約のもと、その力を解き放て〕

 

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て」

 

 

 ユーノ君の言葉を復唱するなのはちゃん。周囲の空気が変わった気がした。

 

 

〔風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に〕

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

 

 ……感じる。なのはちゃんのリンカーコアが脈動しているのを。覚醒の時を今か今かと待ちわびているのを。

 

 

「〔この手に魔法を!レイジングハート、セット、アップ!!〕」

 

 

 そして、桃色の光の柱がなのはちゃんを包み天を貫いた。

 

side out




咲ちゃんと大輝君は魔法を殆んど使いません。デバイスありきで戦うより、そのままの方が強いからです。……大輝君は使いたくても使えないだけですが。彼にも空を飛ぶ方法ならあるんですよ?
本編でチラっと出たサイヤ人の肉体がどうのって辺りが……。

では、また次回お会いしましょう。
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