side~宏壱~
「そんな訳で、暫く海鳴市で騒動があるが、お前らは気にしなくていいぞ」
学校から帰り、制服からジャージに着替えて一人での鍛練を終えてリニスが作ってくれた晩御飯を二人で晩飯を食ったあと、そのリニスが風呂に行っている間に、居間で空中ディスプレイを三つ展開して通信をしている。
それぞれのディスプレイには、赤髪のイケメン、金髪の美青年、妖怪ぬらりひょんと個性的な面々(妖怪ぬらりひょん以外が人ではない)が映し出されていた。
[私が押さえられる分は押さえよう。こちらは一枚岩ではないし、上層部の者がどう動くかは予想できないが……]
赤髪のイケメン、サーゼクス・ルシファーが渋面を作って言う。
確かに、悪魔の老害共にこの件を知られると厄介だ。サーゼクスには頑張ってもらわないとな。
[分かりました。海鳴市近辺の
金髪の美青年、ミカエルが微笑を浮かべる。ミカエルほど顔が整っていると嫌味にならないな。
まぁ、天界側は心配ないか。天使長直々のお達しだ、無下にすれば異端者として扱われるだろう。勿論、ミカエルがするんじゃなくて、周囲の信者が、だけどな。
[ほっほっほ、了解じゃ。と言っても、ワシが押さえられるのは、麻帆良に所属する魔法使いだけじゃが]
妖怪ぬらりひょん、近衛 近右衛門が長い顎髭を撫でながら言う。
ディスプレイに映る中で一番人外っぽいのに、近衛のじいさんだけが人だってのが驚きだ。
[……失礼なことを考えておるようじゃのう?]
「ああ、あんたが人間だってことに改めて驚いてる」
[正直に言うでないわ! 普通は誤魔化すところじゃろ!]
「わるい、正直者なもんでな」
くわっ、と怒る近衛のじいさん。見開かれた目が益々人外じみて見えるな。
「さて、事情は説明した通りだが……もしも、もしもなのはに何かあれば……友人といえども容赦はしない」
事情と言うのは、今海鳴市で起きようとしているジュエルシードの事だ。
膨大な魔力を秘めたジュエルシードが管理局以外の勢力……ぼかさずに言えば、地球に存在する数多の勢力に渡らないようにするための根回しだ。
ジュエルシードを得ることで発生する危険性を、十分ほど掛けて説明した。
[全力を尽くさせてもらうよ。君と戦争なんて起こしたら悪魔が滅びかねない]
[サーゼクスに同意です。天界が焦土と化すのは避けたいですから]
[同じくじゃ。曾孫の顔を見るまで死ねんわい]
と、三者三様の返答。
殺気を込めた視線を向けたが、笑みさえ浮かべて受け流す。まさに魑魅魍魎の集いってか?
「……しかし、今更なんだが……お前ら、こんな和気藹々と会合してても良いのか? 天使と悪魔って敵対してるんじゃなかったっけ?」
[まぁ、共通の友人がいますし]
[君が僕達を引き合わせたんだろう?]
サーゼクス、ミカエル、近衛のじいさんとは出会ってから幾度となく交流を重ねている。
冥界や天界に足を運んだこともあるし、彼らが我が家に来たこともある。
近衛のじいさんは、麻帆良を気軽に離れるわけもいかないため、俺が会いに行くことが多い。
ただ、直接会うのは結構な手間が掛かる。だからミッドで購入した異世界間でも通信可能な簡易通信機を三人に渡した。
購入時は音声だけの物だったんだが、束が勝手に改造して映像で相手と通信できるようにしやがった。
不備は特にないので、今はこの方法で連絡を取り合ってはいるが。
話す内容は他愛ないものが多いが、各々の陣営で起こった事件や、はぐれになった連中の情報なんかを伝えてくる。
一応管理局員としての仕事もあるため、こっちに掛かりきりになれる訳じゃないが、暇があれば俺が討伐に乗り出すことも間々ある。
咲と大輝を連れていくことも多い。それは二人に経験を積ませることが主な理由だ。A級程度なら一人で余裕を持って屠れるし、AA級でも二人で掛かれば難なく倒せる。
当然、俺は二人に殺しをさせたい訳じゃない。だから捕縛メインで戦う。大体の手配書にはDEAD OR ALIVEと記載されている。要は生死を問わない、ってことだな。これがあるから、実戦経験を積ませるにははぐれ狩りがちょうどいいとも言える。
それに生きている方が報酬は大きい。
二人が討伐(捕縛)したはぐれの報酬は、二分にして二人に渡している。ピンからキリまであるが、安くない金額が二人の口座に振り込まれている。そこらのリーマンよりは多い資産があるはずだ。
閑話休題。
で、気軽に連絡を取れるようになった所為でサーゼクスとミカエルが同時に通信してきた。
俺は特に考えもせずに同時に通信に出た。気付いた時には既に二人は顔を会わせていた。
彼らも、まさか俺が自分にとっての敵対勢力と連絡を取っているなど思わなかったようで、一瞬の思考停止のあと激しく詰問してきた。
そこに近衛のじいさんが通信をしてきた。その場を誤魔化すために通信を繋いだんだが、どうやらサーゼクスとミカエルは近衛のじいさんと面識があったらしい。……敵対者として。
近衛のじいさんと言うよりは、じいさんのバックにいるメガロメセンブリア元老院という連中が、一方的に悪魔や天使、堕天使を嫌っているらしい。理由は人外だからということらしいが……。
一悶着どころか二悶着、三悶着あったわけだが、会談を重ねている内に当人らに争う気持ちがないことが理解できたらしく、今では直接会って同じ卓に腰を下ろし飯を食う間柄だ。
他の連中に知られたら動乱の引き金になりかねないため、彼らが非公開の会合をするのは我が家なんだが……咲や大輝、リニスが家にいるときもアポなしで来る所為で、三人の緊張感がどえらいことになる。
正直な話、三人が束になっても勝てないのがサーゼクス達な訳で、最初は目を合わせただけで指一本動かさない状態に陥っていた。今は慣れもあるのか、そこまでではないが、それでも鉢合わせしないように我が家に来る時は慎重になっている。
まぁ、サーゼクス達を前にして平常運転なエストと束は流石だが。
はやても三人と面識はあるものの、事情を知らないため、反応がどうこうとなることはない。願わくば、ずっと何も知らないままでいてほしいものだ。
またも閑話休題。
「取り合えずそっちは任せた。悪魔とか天使が
[うむ、任された。上には上手く話しておくわい]
[こちらもご心配せずとも上手く押さえてみせましょう。『
「部下を押さえるのに意気込みすぎだろ」
[はは、事と次第によっては君が敵になるんだ。手を抜くことはできないさ]
サーゼクスの言葉は事実だ。と言っても、干渉してきた程度で各々の組織を壊滅させるつもりはない。
どこかを潰せば、拮抗している世界情勢が崩壊して混乱を招くことは必定。
彼ら人ならざる者が人間に不幸を
ただでさえ絶滅の危機に瀕しているというのに、大きな戦争をやるのは悪魔、天使双方にもう余力がない。だからこそ俺を、俺達を敵に回したくはないんだろう。
俺はサーゼクス達に「頼むぞ」とだけ告げて、通信を切る。
これで外からの干渉は気にしなくてもいいだろう。後は士郎に連絡して……。
俺は頭の中で予定を立てながらその時を待った。
天に昇っていた桃色の光の柱が晴れる。
光の中から現れたのは、白を基調とした服を見に纏った栗色の髪を側頭部でツインテールにした少女、なのはだ。
覚醒したなのはが内包する魔力量は、凄まじいの一言に尽きる。推定AAAってところか。
俺の視線の先にある光の柱になのはが包まれてから
〔……凄い〕
俺の右肩に乗っているリニスが呆けたようにポツリと呟く。
「だな、正直嘗めてた。まさかこれ程までとは……っと、大輝が抜かれたぞ」
視界の端で捉えていた大輝と思念体の戦い……と言うには、大輝に軍配が上がっていたが……大輝に押さえられていた思念体が、大輝にフェイントを仕掛け、脇をすり抜けた。
「態とだな」
〔はい。大輝はなのはに実戦の空気を味わわせるつもりでしょう〕
なのはを守ることだけが目的じゃない。彼女が一人でも戦えるようにするのも目的の一つだ。
そもそも、彼女自身がそれを良しとしないだろう。人一倍優しい娘だ、それで誰かが傷つけば自分を責めるのは目に見えている。
〔……優秀なデバイスですね。早速、主の役に立っています〕
俺達の視線の先では、なのは達に接近した思念体が飛び掛かるのを、なのはが持つ杖型のデバイスが魔法障壁で防いでいた。
「俺の相棒は自動で障壁張ってくれないぞ」
〈主の場合はご自身で対処してしまわれますからね〉
〈我らが御主君にお力添えをする時は、攻撃時だけでよいのです〉
俺の相棒こと、刃と無限が俺の愚痴を華麗に受け流す。
「……愛されてて泣けるよ、ホント」
本当にそう思ってるから始末に負えない。俺でも対処できない攻撃はあるぞ。リカルド・シュレインの攻撃とかな……。
〔……宏壱?〕
映像で見た長身痩躯の男を思い浮かべていると、リニスから声が掛かる。
「ん?なんだ、リニス?」
〔少し身体が強張っていますよ?〕
無意識の内に身体に力が入っていたらしい。意識して身体から力を抜く。
「そんなことないぞ」
〔そう、ですか?〕
「それより、なのは達だ」
怪訝な眼差しで俺を見るリニスを促して思念体と戦闘を続けるなのはに目を向ける。
飛行魔法で拙いながらも思念体の攻撃を躱していくなのは。
危うい箇所はあるが、咲と大輝のサポートを受けながら思念体を撹乱する。
〔咲より才能がありますね〕
「ああ。空間認識能力がずば抜けてるんだろうな。初めてであんな軌道で飛べば、普通なら上下が一瞬分からなくなるぞ」
俺達の視線の先で、弧を描いて宙返りしながら攻撃を躱すなのは。
なのはの才能ともう一つ、デバイスの補助が的確なお陰でもあるか。
「いいコンビだ」
〔ええ、同感です。強くなりますよ、彼女達は〕
なのはの潜在能力、その片鱗を見た俺とリニスは互いに笑みを浮かべる。
そうしてなのはがジュエルシードを封印しようとデバイスを構えたその時、接近する気配に気付いた。
今日の昼休みに感じたものと一緒だ。
新崎 勝吾……赤髪、緋色の目をした少年……の筈だが、目の色はそのままに金色の髪をしている。イメチェン、じゃねぇよな。
その少年がなのはと思念体の間に割り込み、手に持つ何かを横凪ぎに振り抜く仕草をした。それを受けて思念体は吹き飛ばされる。
何か……と言ったのは、見えないものだからだ。
〔今、何をしたんですか……?〕
「リニスにも見えなかったのか?」
〔はい。何かを握りしめているように見えますが……〕
「ふむ……武器であることは間違いないが……。構えかたからして、剣……か?」
そう辺りを付ける。
青を基調とした騎士甲冑を着た少年が、なのはに親しげに声を掛けている。しかし、闖入者に戸惑うなのは。
そこにサポートに徹していた咲と大輝が、怒気を孕んだ表情で詰め寄る。
当然だ。新崎 勝吾はなのはの邪魔をしたのだからな。
あと一歩で封印……そんな時に割り込まれて怒らない者は少ないだろう。恰も助けましたよ……何て顔をされれば、温厚な咲でも怒りを感じずにはいられないだろう。
「もう一度やるみたいだな」
〔ですが、そう上手くはいきませんよ?〕
「だろうな」
思念体はむやみに突っ込まず、なのは達の様子を慎重に窺っている。
なのはの封印を警戒されたな。咲と大輝は封印魔法は使えない、そう踏んで突っ込み続けていた思念体が及び腰になっている(不定形のあの身体のどこが腰かは知らんが)。逃げの体勢だ。
「……さて、どうするのかねぇ?」
〔少し困難な状況ですが、心配していないのですか?〕
「咲と大輝がいるしなぁ。新崎 勝吾……あのガキがネックだが、二人なら上手くなのはをサポートできるだろ」
そう話している間に咲と大輝で思念体の退路を断ち、進行方向を誘導していく。
多彩な能力を活かして進路を妨げる咲に、高い身体能力を活かして行動範囲を制限していく大輝。
…………手を出せずに唖然とそれを見る新崎 勝吾。ワレは何しに来よったんじゃ、ボケぇっ!って言いたくなるな。
「終わりだな」
〔はい、思念体がなのはの射線に足を止められました〕
咲が土遁で思念体の行く先を完全に封じ、大輝が空に逃げた思念体を叩き落とす。そうしてできた隙になのはの砲撃が撃ち込まれた。
桃色の光が思念体を呑み込んだ。
「封印完了、だな」
〔はい。……ですがこの惨状、結界を張っていて正解でしたね〕
「だな。咲の能力は地形を変えることもできるような規模の大きいものも多い。人里ではそうほいほい使える代物じゃない」
〔……結界に気付いていたのでしょうか?〕
実はなのはがフェレットと接触した瞬間にリニスが封時結界を2km範囲に張っていた。
隠密性に長けたもので、それこそリーゼでないと気付くことは困難なレベルだ。
中に捕らえられた者も、外に弾き出された者も、発動の瞬間も、発動中の今も、な。
とは言え、咲が気付いているか、か……。
「その可能性は低いな。あいつは案外抜けてるところがある。……見ろ、切り立った岩を見て慌てているぞ」
俺が指差した先で咲が、どうしよう!とあたふたしている。
まぁ、それも大輝の助け船で元に戻しているが……。
そうして離れていくなのは、咲、大輝、フェレット、それと……クソガキ。去り際に咲と大輝の視線がこっちを向く。
《臨海公園で少し話を聞くことになりました》
大輝からの念話だ。
《そうか……もう俺は必要ないな?》
《はい。詳しい事情はまた明日ということで》
《おう》
そこで念話が切れる。初日ということで見に来たが、この分だと今後の活動も支障はないだろう。
俺にも管理局の仕事がある。ずっと見ていてやることはできないし、心配のし過ぎは咲達を信頼していないことの証だ。
「帰るか」
〔はい〕
そうしてなのはの初陣は、クソガキの闖入というトラブルはあったものの、快勝という形で幕を閉じた。
結界を解いたことでなのはがフェレットと接触した後にできた損壊は跡形もなく消えたが、なのはがフェレットと接触する前の槙原病院の損壊は消えなかった。
それらは、原因不明のガス爆発ということで片付けられたのだった。
祝☆一周年!
この~赤鬼転生記~が………………(活動報告に続きを書いております)
新崎君のダメさが出ていれば嬉しいかな、と思いながら書きました。彼の事はいずれ書く予定ですが、もう少し先になります。
暫くは宏壱を始め、咲、大輝の視点が多くなると思います。
では、また次回お会いしましょう。