リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第六十八鬼~二個目~

side~咲~

 

 臨海公園に着いた私達はとりあえず近場のベンチに腰を下ろす。

 私となのはちゃんが並んで座り、ユーノ君はなのはちゃんの膝の上、大輝君と新崎君は私達の前で立っている。

 

 

「まずは自己紹介からだね。私はなのはちゃんの姉で、高町 咲って言います」

 

 

 なのはちゃんの膝の上に座るフェレットに言う。私に倣うように大輝君と新崎君、そして改めてなのはちゃんが軽く名乗った。

 

 

〔ユーノ・スクライアです。皆さん、助けていただきありがとうございました〕

 

 

 ぺこり、とお辞儀するユーノ君。フェレットのそんな姿に、「わぁっ」と歓声を上げるなのはちゃん。

 

 

「うん、よろしくね。それじゃあ事情を……の前に元の姿に戻れる?」

 

〔え……?〕

 

「咲お姉ちゃん?」

 

 

 私が“元の姿”と言ったのが意外だったのか、首を傾げるユーノ君。なのはちゃんは意味が理解できずに私を見る。

 

 

「待ってくれ咲さん。何をするつもりだ?」

 

「咲さんにも考えがあるんだよ、新崎。僕達は黙って見ているべきだ」

 

「たとえそうだったとしても、俺は咲さんの行為を見逃すことはできない」

 

「どうしてそう言うんだ? 理由があるなら言ってくれ」

 

「理由は……言えない。でも……!」

 

「大輝くん? 勝吾くん?」

 

 

 突然口論を始めた二人にあたふたするなのはちゃん。

 新崎君が言いたいのは、「原作と違うことをするな」ということだと思う。そう思うなら、始めから原作介入なんて考えなければいいのに。

 私達がいる段階で原作なんて有って無いようなものだし、人って自分が思っている以上に接する他人(ひと)に影響を与えるんだよ?

 それが良いものであれ、悪いものであれ、大きいものであれ、小さいものであれ……不快感、或は愉快感。そんな感情を植え付ければ、その時々での行動は違ってくるんだよ。

 この世界は事件が起きたら回り出すんじゃなくて、日々の積み重ねで回ってるんだから。

 まぁ、私達をただのイレギュラーとして捉えている彼には言わないけどね。

 

 

「二人共……少し黙って。今、大事なお話をしてるの」

 

「は、はい!」

 

「そうはいかない! 咲さん、あなたが――ズムッ!!――……ごふっ!?」

 

 

 まだ何かを言おうとしていた新崎君の脇腹に大輝君の肘がめり込む。新崎君は脇腹を押さえて踞った。

 十分に手加減された一撃だけど、無防備なところに攻撃を受ければ誰だって痛い。

 

 

「君は少し空気を読むべきだ。この場で咲さんに逆らうとかバカなのか? 普段はおっとりしてるけど――「大輝君?」――……ひゃい!」

 

 

 何事かを新崎君に小声で話していた大輝君に声を掛けると上ずった声で背筋を伸ばす。

 どうしてそんなに顔を青ざめさせているのかな? 不思議だね……ふふっ。

 

 

「咲お姉ちゃんの笑いが黒いの」

 

「何か言った、なのはちゃん?」

 

 

 隣でぽそっと呟いたなのはちゃんが首を千切れんばかりに横に振る。

 本当は全部聞こえてるんだけど……なのはちゃんは兎も角、大輝君は……鍛練の時が楽しみだね。……ふふふっ。

 

 

「話を戻そっか……。ユーノ君、元の姿に戻れないかな?」

 

〔い、今は無理、です……その、魔力が……〕

 

 

 言葉を詰まらせながら答えるユーノ君。そんなに怖かったかな?

 

 

「なるほどなるほど。じゃあ無問題だね」

 

〔え?〕

 

「だって魔力があれば良いんだよね? じゃあ私がユーノ君に渡せば問題ないよね」

 

 

 返事を聞かずにユーノ君の頭に触れてに魔力を流し込む。

 すると、ユーノ君が光に包まれた。そのままだとなのはちゃんの膝の上で元に戻っちゃうから、ユーノ君を包んだ光を地面に下ろすと直ぐに変化が起きて……。

 

 

「えええっ!?」

 

 

 なのはちゃんが声を上げる。

 その理由は、さっきまでフェレットを包んでいた光が晴れたところに金髪の男の子が立っていたからだった。

 

side out

 

 

 

 

 

side~宏壱~

 

「咲さんも唐突すぎますよ。あんな急にユーノを人間に戻すなんて」

 

「そ、そうか……」

 

「しかもユーノの泊まる家は僕ん家なんですよ? 聞いてませんよ、そんなの。母さんと父さんに説明するの大変だったんですから」

 

「そ、それは大変だったな……」

 

「宏壱さんも宏壱さんです。本当に帰っちゃうんですから」

 

「お、おう、わるい……」

 

 

 なのはが覚醒した翌日。昼休みの昼飯時。屋上で今俺は大輝の愚痴を聞いている。他に人の姿はない。

 

 昼休みが始まって早々に大輝に屋上に呼び出された俺は、屋上に着いて既に来ていた大輝に二十分間延々と愚痴を聞かされていた。

 その愚痴の内容に昨日の臨海公園での事が含まれているため、聞き流すことはできなかった。

 

 まずは自己紹介から始まって、次にユーノ・スクライアの姿を小動物から元の少年に戻した事、それからなのはやユーノ・スクライアの咲達に対する疑問に答えたこと。

 確かに咲と大輝の能力は純粋な魔導師に比べれば異様で異質なものだからな、聞きたいことは山程あるだろう。

 当然「この世界に転生する時に貰った力です」等と言える訳もない。そこは打ち合わせしてレアスキルということにしてある。

 大輝の力は魔力ではなく霊力を使っているため、この世界固有の力ということで押し通す事にした。

 事実この世界には、魔法を始め多くの力が存在している。

 

 ユーノ・スクライア。咲達に先日聞いていた通り、今回の事件……にまではまだ発展していないが、それも時間の問題だ……の当事者だ。

 彼が発掘したジュエルシードの輸送中に事故が発生、その影響でジュエルシードが次元空間にばらまかれて運悪く地球に落下。

 その事に責任を感じた彼はその身一つでジュエルシードの回収に単独で乗り出すも、敢えなく返り討ちにあってしまい、已む無く現地の魔導師に協力要請の念話を発信。

 その声を聞いて駆け付けたのがなのはだった。

 ユーノ・スクライア少年自身は苦肉の策でなのはに助けを求めたらしい。巻き込んだことを深々と頭を下げて謝っていたそうだ。

 なのははそれを許すどころか、ユーノ・スクライアに協力を申し出た。渋るユーノ・スクライアにごり押しで迫り、承諾させてその流れのまま咲と大輝、クソガキも協力することになった、というのが事の顛末だ。

 

 

「んで、今はお前ん家に居る、と?」

 

「はい。咲さんがユーノに魔力を渡して元に戻らせましたからね。さすがに女性ばかりの高町家に預ける訳にもいきませんし、かといって新崎は論外です。手を出さないでほしいと言った手前、宏壱さんに頼るのもどうかと思いますし……」

 

 

 で、消去法でいくと大輝の家ってなった訳か。

 

 

「なるほどねぇ……まぁ、あのクソガキには頼りたくねぇよな。……クソガキと言えばさ、あいつなんで金髪だったんだ? 確かあいつの髪色は赤じゃなかったか?」

 

 

 昨日見たクソガキを思い出しながら大輝に聞く。

 

 

「簡単ですよ。ユニゾンデバイスです」

 

 

 ……ユニゾンデバイス、ね。見えない得物もそのユニゾンデバイスの能力ってことか。

 

 

「入手経路は新崎の母親だそうです」

 

「母親?」

 

「はい。新崎・エレスタシア……それが新崎の母親の名前だそうで、管理局の開発部に所属している技術者だそうです」

 

 

 新崎・エレスタシア……あの女か。確か、新技術部のチーフを任されている女だ。

 幾度か会話をしたことがある。俺のデバイスの解析がしたいとかって話を持ちかけられた。

 刃と無限に搭載されている常時発動型の魔力変換機能は、未だ確立されていない新技術だ。

 現段階では、変換資質を持たない者は魔法術式に魔力変換のプログラムを書き込まないと、魔力変換された魔法を発動できないからな。

 その分、情報量が多くなって発動に時間が掛かる。ほんの数秒といえども、戦場ではその数秒が命に関わる。その上制御も難しい。だから誰もやりたがらない。

 要はその改善策として、俺の相棒を解析したいと接触してきたのだ。

 拒む理由は特にないし、海に恩が売れる。ということで暫く貸し出したのだが……分かったことは、殆どロックが固く掛けられていて何も分からない、ということだけだった。

 

 

「僕と咲さんはその事も特典に加えられているんだと結論付けました」

 

「特典って……そんなこともできるのか? 自分の生まれる家庭を決められるような」

 

「僕も咲さんもしませんでしたけど、多分できますよ」

 

 

 地球人と結婚した管理局員との間に生まれる、か。

 そんなことのためになんでも願いを叶えてくれるっていう特典とやらを使うか?

 別にミッドの人間だから魔法適性が有るとは限らない。

 両親が魔導師だからその子供も魔導師になれるとは限らない。

 リンカーコアは不透明な点が多く、研究が今でも進められているが、魔法適性と遺伝の関連性は無いとされている。

 管理世界ではリンカーコアを持った赤子が生まれやすく、管理外世界では生まれにくい。なのはやはやて、ギルさんのような突然変異はあるらしいが、管理世界に比べればその数は極めて少ない。

 しかも、魔法文化がないから覚醒することなく生涯を終える者も多い。この事からも、なのはの例は極めて稀だと言える。

 

 

「カリスマ的な何かと、ユニゾンデバイス、出自……新崎の特典はこれで三つです。僕と咲さんを転生してくれた人は、僕達に三つの特典を与えてくれました。順当に考えればこれで全部……だと思うんですけど」

 

「他にも何かあるのか?」

 

「いえ、確信もないですし、根拠がある訳でもないですけど……」

 

 

 どうにも煮え切らない様子の大輝。懸念材料でもあるのだろうか?

 

 

「僕と咲さんを転生してくれた人はこう言ったんです。――転生させた者は貴方を含めて二人――だと」

 

「ああ、それで大輝と咲は、俺がもう一人だと勘違いしたんだったな」

 

「はい。だけど、違ったんです。あの人“が”転生させたのは僕と咲さんでした。それは間違いありません。でも、僕達だけだなんて一言も言ってないんです」

 

「まぁ、俺を転生したのは蝶蝉だからな」

 

「しかも特典を貰ってないんですよね?」

 

「特典って意味じゃあこいつがそれに当たるのかもな」

 

 

 言いながら右手に一冊の本を出現させる。六法全書並みの分厚さを持った緑色の本だ。

 表紙には金刺繍で描かれた円の中に『劉』の文字、裏表紙には同じく金刺繍で描かれた円のに『蜀』文字。

 俺が持つレアスキルの一つ、『蜀伝の書』だ。

 千ページくらいあるがその殆どが白紙で、埋まっているのは百ページくらいだ。

 

 

「こいつは蝶蝉が餞別にくれた物だ」

 

「桃香さん達のプロフィールが載ってるんですよね?」

 

 

 大輝に「ああ」と頷きながら表紙を捲る。最初のページは白紙、それを捲るとページの半分に一人の少女の立ち姿がある。

 桃色の長い髪、見る者全てを癒すような暖かな笑顔を浮かべている。

 劉備玄徳。真名を桃香。俺の愛する女性の一人だ。

 半分を立ち姿に、もう半分を氏名、年齢、性別、身長、体重、スリーサイズ、趣味嗜好、好きなもの、嫌いなもの、性格、と詳細に個人情報が記され、その次のページには彼女自身の濃密な人生が……それこそ生まれてから死ぬまでの歩んできた人生録が文章化され、細かなところを省きながらも、四ページにわたりびっしりと記されている。

 それが愛紗、鈴々、星、朱里、と同じ要領で続き、優雪(ゆうしぇ)の人生録が終わったページから最後まで白紙が続く。

 

 

「僕には何が書かれているのか見えませんけど」

 

 

 大輝が言うように、この『蜀伝の書』は所有者である俺にしか閲覧できない。

 他の誰かが横から覗き込んでもただの白い紙にしか見えないのだ。

 

 

「そうなると刃と無限もその内、なのかもな」

 

 

 首に掛かっている二人の相棒を服越しに右手で握る。

 無機質な金属の感触だが、どこか暖かみのあるそれは、そこにあるだけで俺を安心させてくれる。

 

 

〈我らは貴方が得た力ですよ、主〉

 

〈この姿にして御主君と共に居れるようにしたのは蝶蝉ですが、貴方自身が培った全てを特典等という奇っ怪なものと一緒にしないでください〉

 

「……ああ」

 

 

 相棒二人の想いに嬉しくなる。それと同時に、特典と一括りにしたことに少しの申し訳なさが俺の心に生まれた。

 

 

「羨ましいです」

 

 

 と、正面に座る大輝がぽつりと溢す。

 

 

「何がだ?」

 

 

 発言の意図が分からず首を傾げる。

 

 

「僕はまだエストとそこまで親密になれていません」

 

 

 寂しそうに呟く大輝。

 彼の首には俺と同じようにネックレスが掛けられている。両刃の剣のネックレスだ。

 テルミヌス・エスト、大輝の相棒である剣精霊であるエストの待機形態だ。

 彼女ら精霊にとっての待機形態は休眠状態らしく、喋ることができないらしい。所有者が魔力を流し込む事で、休眠中の精霊を覚醒させる仕組みのようだ。

 

 

「それは時間が解決してくれる。真摯にエストと向き合い、ただの武器としてではなく、戦友(とも)として接してやれば、な」

 

「戦友……」

 

 

 そう呟き考え込む大輝に、俺は「ああ」と笑い掛けながら大輝の頭を乱暴に撫でてやる。

 

 

「わわわっ、もうっ、乱暴なんですからっ」

 

 

 そう可愛らしく(男にこんな表現はどうかと思うが)むくれる大輝。それでも嫌がることなく俺の手を受け入れていた。

 

 

「兎に角、そういうことがある以上まだ特典を隠し持っている可能性を考えないといけません」

 

「なるほどねぇ」

 

 

 誤魔化すように話の軌道を戻す大輝。

 大輝の言いたいことは分かった。クソガキにはまだ隠し玉がある可能性があるから気を付けろってことか。

 それからは多少の雑談を交わして俺達は昼休みを過ごすのだった。

 

 

 

 

 

side~大輝~

 

 昼休みに宏壱さんと話をしたあと、恙無く授業を終わらせた僕となのは、新崎はお稽古があるというアリサ、すずかと別れてジュエルシードの探索に乗り出していた。

 宏壱さんと咲さんは僕達より一限多いから合流は遅くなる。勿論合流するのは咲さんだけで、宏壱さんは別行動だ。と言っても、今日は用事があるらしく僕達を見ていることはできないらしいけど。

 特に心配する様子もなく「なのはを任せた」と言われた時は、彼の厚い信頼が垣間見えた気がした。

 

 

《大輝くん、そっちはどう?》

 

 

 鼓膜ではなく、頭に響くようにしてなのはの声が聞こえた。

 僕の傍になのはの姿はない。僕達はそれぞれ別個でジュエルシードの探索を行っていた。

 そんな中での思念通話。魔法を知ってからなのはは度々飛ばしてくるようになった。

 精神が成熟しているなのはでも、こういった子供らしいところはちゃんとあるんだなってお昼に宏壱さんと笑った。

 

 

《成果はないよ。海鳴はそれなりに広いし、たった二十個の石を見つけるんだ。数日で終わるような事じゃないよ》

 

《うん、そうだね。だけど、咲お姉ちゃんも大輝くんもずるいよ。魔法の事を黙ってるなんて》

 

 

 何と無く頬を膨らませているなのはが幻視できた。

 

 

《あはは、ごめん。でも伝えられる筈ないだろ? 魔法なんて言ったって誰も信じてくれないよ》

 

《そう……だけど》

 

 

 理由は何と無く分かるのだろうけど、納得いかない、そんな声だった。

 

 そんな他愛もない会話を続けながら探索していると……。

 

 

《――っ!? 大輝くんっ!》

 

《うん、感じた! なのはの位置が近い!》

 

 

 ジュエルシードだ。それの発動を僕達は感じた。

 原作知識で発動場所は知っている。八束神社だ。だけど、そこに留まれば不審感を新崎に与えてしまう。

 だから一ヶ所に留まらずに適当に歩き回っていた。

 その所為で少し距離を開けすぎたの痛いな。さっき言ったように、距離はなのはの方が近い。

 

 

《僕が行くまで待ってて!》

 

 

 この言葉に意味はないんだろうな、と思いつつも念のために言ってみる。

 

 

《でも、このままじゃ誰かが危ない目に遭うかも……!》

 

 

 そう叫んだなのはの息遣いは少し荒い。既に走り出しているみたいだ。

 

 

《分かった。ユーノと新崎に合流して先に向かっていて! 僕も直ぐに追い付く!》

 

《うん!》

 

 

 そこで念話が途切れる。新崎は神社の近くをさ迷っていたし、ユーノは僕よりも近い位置にいる。なのはと合流するのは彼らの方が早い。

 新崎は当てにならないけど、ユーノは十二分に頼りになる。彼ならなのはを守ってくれる筈だ。

 

 足を動かす速度を早める。その時、ジュエルシードが発動した方向で結界が発動されたのを感じた。

 

 

「もう戦いは始まってる。急がないと……!」

 

 

 流れゆく景色は加速していく。流石に人目に付くから電柱の上を走ったりとかはできない。

 それでも最大限の加速で駆ける。

 

 

「見えた……!」

 

 

 駆け出して五分ほどで目的地へと続く石段が見えた。その上でなのはの魔力を感じる。ユーノと新崎もいるみたいだ。

 

 石段の一段目に足を掛けながら首に掛けている剣のネックレスを握る。

 

 

――汝、冷徹なる鋼の女王。

 

 

 一足で七段目まで跳ぶ。

 

 

――魔を滅する聖剣よ!

 

 

 二歩目は更に力を込めて跳ぶ。

 

 

――いまここに鋼の剣となりて、我が手に力を!

 

 

 更に十五段飛ばして石段に三歩目を着く。石段を砕く勢いで最上段まで跳ぶ。

 

 

――魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)!!

 

 

 最上段に着地と同時にエストを展開する。

 右手には両刃の剣。僕の身長に合わせて長さは80cm程。

 鋼の剣だけあって重さはそれなりだけど、僕のこの体は並みの人よりも遥かに力持ちだ。

 

 そして視線の先には大きな犬の化け物、それに体当たりで吹き飛ばされた新崎。その犬の次の標的は……なのはだ。

 

 

「――っ!」

 

 

 既にレイジングハートを展開しているなのはに、飛び掛かる犬の化け物に僕は姿勢を低くして肉薄する。

 

 

「せやっ!」

 

 

 なのはと犬の化け物の間に割り込み、エストを両手で握り込んで斬り上げて弾き飛ばす。

 

 

〔ガウウッ!?〕

 

「「大輝くんっ/大輝っ」」

 

 

 僕の後ろで声を上げるなのはとユーノ。ユーノはなのはを守るように前に出て障壁を展開していた。

 ユーノ……見せ場を奪ってごめん。

 

 

「なのは、封印を」

 

 

 とりあえず、気まずそうに障壁を解除するユーノを見なかったことにして、驚くなのはにそれだけを告げ、突然割り込んだ僕を警戒する犬の化け物に肉薄する。

 

 

「しっ!」

 

 

 一足で犬の化け物との距離を詰め、突きを繰り出す。後ろに飛んで避ける犬の化け物に喰らい付き、更に突く。引いて、突く、引いて、突く、引いて、突く。

 単純な工程だけど、角度を変え、タイミングをずらし、突く……と見せ掛けて突かず、避ける方向を予測して突く。

 放たれる突きは一秒に三回。この攻撃は致命傷は与えられなくても、かすり傷を作り、確実にスタミナを磨耗させている。

 幾度も繰り返される僕の攻撃を犬の化け物は嫌がり距離を取ろうとするけど、まだまだ喰らい付いていく。

 僕にはジュエルシードの封印ができない。だから時間を稼ぐだけでいい。あとは……。

 

 

「大輝くんっ、避けて!」

 

 

 三分ほどでなのはの声が僕の耳に届く。それと同時に突きを止めて横に転がって避ける。

 ――ゴウッ!――と僕のいた場所を極太の桃色光線が貫き、犬の化け物を包んだ。

 少し冷や汗が出る。一秒遅れていたら巻き込まれるところだった。

 

 

「リリカル! マジカル! ジュエルシード封印!」

 

 

 あとに残ったのは青い菱形の石と犬だった。

 

 

「ふぅ……エスト、お疲れ様」

 

「……はい、ダイキもお疲れ様です」

 

 

 いつの間にか魔王殺しの聖剣から人へと姿を変えていたエストの髪を撫でながら労う。

 起きたばかりだからか、眠そうに目を擦っている。

 

 

「えっと……大輝くん、その子は?」

 

 

 ジュエルシードを回収したなのはが声を掛けてくる。その腕の中には、ジュエルシードに取り憑かれていたであろう小型犬の姿があった。

 そういえば、『鬼道』の話はしたけど、エストの事はなにも言ってなかった。

 

 

「この子はテルミヌス・エスト。僕の相棒だよ」

 

「そっか。エストちゃん、わたし高町 なのはって言います。よろしくね」

 

 

 簡潔な説明だったけど、なのはにはそれで十分なようで、エストに笑顔を向けている。

 そんななのはにエストも無表情ながらに「よろしくお願いします」と返していた。

 

 

「……ん……んぅ」

 

 

 微かな声が聞こえた。まるで「いまから起きますよ」と合図しているような声だ。

 発信源を見ると、植え込みの木に凭れさせられた女性がいた。

 

 

「なのは、あの人は?」

 

「多分この子の飼い主さんだと思うの」

 

 

 なのはが抱える小型犬の頭を優しく撫でながら言う。小型犬は安心しきっているのか、特に嫌がる素振りは見せなかった。

 

 

「僕達が来た時にはもう倒れていて、隙を見付けて勝吾があそこに運んだんだ」

 

「ふぅん」

 

 

 結界を解除したユーノの言葉に内心驚く。新崎……役に立ったんだ。

 吹き飛ばされて気絶している新崎を何となしに見る。彼の傍で、日の光に輝く金髪の髪を後頭部で大きな団子にした女性が介抱している。

 彼女は彼のユニゾンデバイスで、剣の師匠でもあるらしい。

 

 

「あ……れ……わた……し……?」

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 目を覚ました女性に駆け寄って声を掛ける。まだ意識がはっきりしていないのか、開いた目は焦点が合ってなくて、中空をさ迷う。

 

 

「……え?」

 

 

 僕の声に反応して徐々に焦点が合ってゆく。

 

 

「あ……っ!」

 

「落ち着いてください。貴女は倒れていたんです。貧血かもしれません」

 

 

 急に立ち上がろうとした女性を、肩を押さえて押し留める。

 さっきまで気を失っていたのに、急に立ち上がるのは良くないと思う。

 

 

「だ、だけど……!」

 

「この子がわたし達を呼びに来てくれたんです。それで来てみれば……」

 

 

 傍に来たなのはが、抱える小型犬を女性に見せる。

 

 

「そう、この子が……」

 

 

 手を伸ばす女性に、なのはが抱える小型犬を近付ける。

 女性は慈しむように、愛おしむように「ありがとう」と呟いて、そっと撫でる。どこまでも優しく、優しく。

 

 

 

 

 

 夕陽が落ちるなか、去っていく女性と小型犬を見送る。その足取りはしっかりしていて、倒れるようなことはなさそうだ。

 

 

「じゃあ、僕達も帰ろう」

 

「うん!」

 

「はい、お腹が空きました」

 

「これ以上の探索は、体に無理をさせるだけだろうしね」

 

「遅くなったからな」

 

「マイスターも心配しておられるでしょう」

 

 

 僕の言葉に五者五様の言葉が返ってくる。

 新崎に続くようにして言ったのは、彼のユニゾンデバイスである女性、セイバーさんだ。

 彼女の言うマイスターは新崎の母親で間違いないと思う。

 

 

「じゃ、俺達反対だから」

 

「それでは、また」

 

 

 手を上げて去る新崎と、軽く会釈して去る新崎を追うセイバーさん。

 僕達もそれに答えて新崎達とは反対方向に向かって足を進める。

 

 フェイトとの邂逅まであと少し。僕達は着実に運命の出会いに向かって一歩を進めている。

 だけど、この時僕は……いや、僕だけでなく、咲さんや宏壱さんでさえ予想していなかった。強敵と(まみ)えることを……。

 

side out




新崎君……台詞最後だけですね。ま、まぁ、そんなに出番が多い子ではないので、問題ないっス。
因みに新崎君のフォローをしておくとですね……女性を安全なところに運んだあと、戻ろうと振り向くと既に犬の化け物の姿が眼前に……。
といった感じなので、無闇に突っ込んでやられたわけではないです。

では、また次回お会いしましょう。
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