リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第六十九鬼~観戦~

side~咲~

 

「それじゃ、父さんは先に行くから」

 

「はーい」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 家を出る士郎お父さんをリビングから見送る私となのはちゃん。

 

 

「アリサちゃん達はもうすぐ来るの?」

 

「うん、そろそろだと思う」

 

「そっか。じゃあ早く食べちゃわないと」

 

「うん!」

 

 

 頷くなのはちゃんに微笑みながら目玉焼きが乗せられたトーストを口に運ぶ。

 うん、良い焼き加減。トーストはサクサクっとして目玉焼きの黄身は半熟でとろとろだ。流石桃子お母さん。

 

 今日は日曜日。学校もお休みでゆっくりできる日。

 それはジュエルシード集めも一緒で、疲れた体を癒す事が今日のすべきことなのです。

 そんな訳で今日は河原で行われるサッカー試合を観戦することにしました。

 と言うのも、そのサッカー試合に参加するチーム『翠屋JFC』を士郎お父さんがコーチ兼オーナーを務めているからなのです。

 そういう訳で今日は午前中は桃子お母さんと恭也兄さん、美由希姉さんが朝早くからお店の開店準備のため、既に家に居ません。

 

 

「大輝君、エストちゃん、ユーノ君、おはよ!」

 

「おはようございます、咲さん」

 

〈おはよう、ございます〉

 

「おはようございます」

 

 

 家を出て外で待っていた大輝君とその首に掛かっているネックレス状態のエストちゃんそしてユーノ君に朝の挨拶をすると、三者三様の返事が返ってきた。

 

 

「咲さん、なのはは……?」

 

「なのはちゃんなら――「もう、咲お姉ちゃん待ってよ~!」――……今出てきたよ」

 

 

 大輝君の質問に答える途中で、準備を整えて出てきたなのはちゃんが頬を膨らませて私を見る。

 

 

「大丈夫だよ。先に行ったりなんてしないから」

 

 

 宥めるように言いながら、「ね?」と隣で成り行きを見守っていた大輝君に振る。

 

 

「そうだよ、なのは。アリサ達だってまだ来ていないんだ。置いていく筈がないよ」

 

「アリサちゃんとすずかちゃんが来てたら置いていくつもりだったんだ……」

 

 

 じと目で大輝君を見るなのはちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんを引き合いに出せば、そう思われるのは当たり前だよね。

 

 

「いや、そういうことじゃなくて、ええと……」

 

 

 じと目で睨むなのはちゃんに、身振り手振りで弁明しようとする大輝君。

 チラッ、チラッ、と助けを求めるように私とユーノ君に視線を送ってくる大輝君を意識して視界から外し、知った気配が近付いてくる方向に顔を向ける。

 

 

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「「おはようございます、咲さん!」」

 

 

 私の挨拶に元気よく返してくれるアリサちゃんとすずかちゃん。うん、誰もが見惚れる美少女っぷりだね。

 

 

「あ、アリサ、すずか! おはよう!」

 

「あ! 大輝くん、まだお話は終わってないの!」

 

 

 今が好機!と言わんばかりに、アリサちゃん達の下に駆け寄る大輝君。

 

 そうして家の戸締まりをして、私、なのはちゃん、大輝君、ユーノ君、アリサちゃん、すずかちゃんの六人で河原に向かう。

 その道中で歩ちゃん、新崎君、セイバーさんと合流、九人の大所帯となって移動する。

 歩ちゃんは私が、新崎君はなのはちゃんが誘っていて一緒に観戦をすることになっていた。

 

 

「今は練習中みたいですね」

 

「うん、ウォーミングアップ中だね」

 

 

 河原に着いた私達は土手の下に設置されているベンチに並んで腰掛ける。

 全員は座れないから、大輝君とユーノ君、新崎君、セイバーさんが立って見ることにして、私、歩ちゃんで一つのベンチに。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんで私達の座るベンチの右隣のベンチに座ることになった。

 

 そうして試合開始まで雑談を交わしているものの一向に始まる気配がない。不思議に思って首を捻っていると……。

 

 

「遅れたか……?」

 

 

 それほど大きな声量でもないのに、こんな開けた場所ではっきりと耳に届いた低めの声。

 低いと言っても暗い感じじゃなくて、お腹に響くような声だった。

 この声には聞き覚えがある。毎日顔を合わせている彼のものだ。

 声のした方に振り替えれば、堤防の階段を下りている宏壱君の姿があった。

 

 

「どうしてあんたがここにいるのよ?」

 

「あ?」

 

 

 そんな彼に逸早く声を掛けたのは私の隣に座る歩ちゃんだった。

 小学五年生にしては鋭すぎる視線が私達を射貫く。別に本人にそんなつもりがないっていうことは分かっているんだけど……やっぱり一瞬身構えちゃうよね。

 身体を強張らせ、周囲に分からない程度に半身になって構えたセイバーさんに苦笑する。

 でも、今日はちょっと機嫌が悪い?……うーん?

 

 

《表に出てないですけど、なんだか困惑してる感じですね》

 

 

 私が宏壱君の表情を分析していると大輝君から念話が届く。

 

 

《困惑?》

 

《はい。僕達を見て、次に士郎さんを見たんです。その時、ほんの一瞬ですけど……すごく目が泳いでました》

 

 

 歩ちゃんとの会話を終えて士郎お父さんに近付いて、なにかを受け取る宏壱君を見る。

 

 

《僕達がここに居ること、士郎さんがここに居ること……知らなかったんじゃないですか?》

 

《そうかな?》

 

《後で聞いてみれば分かると思いますよ》

 

《そうだね。そうするよ》

 

 

 そこで、ピーッとホイッスルが鳴る。試合が始まった。

 宏壱君のポジションは前衛だ。たしか……ほ、ほ、ほわー?

 ……サッカーの事はよく分からないんだよね。

 あ、フォワードだって。大輝君がユーノ君に説明してる。

 所謂、アタッカー。守備じゃなくて、率先して前へ出てシュートに専念するポジションらしい。

 開始早々から『翠屋JFC』の子がドリブルでボールを蹴りながら、追っ手を引き離し相手ゴールに向かって駆ける。

 けれど相手も見ているだけじゃない。『翠屋JFC』の子達をマークしてパスを通さないようにしたり、ボールを持った男の子に駆け寄ってスライディングでボールを奪取しようとしたりと果敢に攻める。

 

 

「山口さん、パスっす!」

 

 

 そんな攻めを受けた男の子はボールの所持が困難だと思ったのか、先行するフリーの宏壱君に的確にボールを蹴り上げる。

 宏壱君の2m先で落ちたボールを、宏壱君より早く取ろうと相手のディフェンダーがボールに向かって駆ける速度を上げる。

 けど、それより早く宏壱君がボールを前に蹴り、走る。ここでなのはちゃん達から声援が上がった。

 

 宏壱君の前と横に味方は居ない。皆が宏壱君の後から走っている。

 孤立無援。そんな言葉が似合うくらいに彼は敵陣深くまで食い込んでいた。

 正面から宏壱君に迫る二人のディフェンダー。それを目で確認した宏壱君は足を止めて、足の甲にボールを乗せて浮き上がらせる。

 浮かせたボールが宏壱君の頭を越えた時、宏壱君は相手ゴールに背を向けてバク宙。

 その奇怪な動きに思わず足を止める選手達。応援していたなのはちゃん達も固唾を飲んでその行為を見入る。

 落下するボールを宏壱君の天に向けられた右足が蹴った。

 相手ゴールとの距離は7m。その距離をボールはかっ飛び、ディフェンダーの間を抜け、遅れて反応したゴールキーパーを嘲笑うかのように手をすり抜けてゴールネットを揺らす。

 どれ程の力で蹴られたのか、ゴールネットに刺さって数十秒間回転を止めず進もうとするサッカーボール。

 漸く勢いを無くし、重力に従って落下、テンテン、とボールの跳ねる音が静寂が包む河原に響いた。

 

 

「ふむ、テレビで見ただけだったが……できたな」

 

 

 静寂を破ったのは立ち上がり、埃を叩く仕草をする宏壱君だった。

 その余りにも冷静な言葉が河原に浸透するように響いて数秒。わっ!と河原が沸いた。

 

 

 

 

 

「凄かったね」

 

「うん。運動神経がいい人っているんだね」

 

「あー、話聞ければよかったのになー」

 

「仕方無いよ、アリサちゃん。用事があるって言ってたもん」

 

 

 なのはちゃん、ユーノ君、アリサちゃん、すずかちゃんがケーキを食べながら話す。

 話題はさっきまで行われていたサッカー試合だ。先制点を決めた宏壱君を中心に、ファインプレーを決めてゴールを守りきったゴールキーパーや相手選手を抜かせなかったディフェンダー、的確なパスをしてみせたミッドフィルダー等の話で大盛り上がりだ。

 

 今は試合後、私達は『翠屋JFC』の勝利祝いにお邪魔させてもらっている。

 その中に宏壱君の姿はない。用事があるということで、ユニフォームは後日洗濯して届ける、とだけ士郎お父さんに告げて帰ったのだ。

 因みに、試合は3ー0で『翠屋JFC』が勝利を納めた。宏壱君の最初の先制点で勢い付いた他のチームメンバーが奮闘した結果だ。宏壱君は先制点以外はサポートに徹していて、試合開始十分後に交代、あとはベンチで応援しているだけだった。

 

 

「にしても、あの山口が今日の試合に助っ人で参加するなんて思わなかったわ」

 

「ですね。僕もあの人が出てくるなんて思いませんでした。正直、やり過ぎないかハラハラしましたよ」

 

「案外、力加減とか得意だしそこは大丈夫じゃないかな」

 

 

 なのはちゃん達が座る丸テーブルの隣の丸テーブルで話をする私、歩ちゃん、大輝君。なのはちゃん達を挟んで向こう側に新崎君とセイバーさんが座っている。

 それぞれ思い思いにケーキとドリンクを頼んで満喫しているのだ。

 

 

「咲と大宮は山口から鍛練を受けているのよね?」

 

 

 一年ほど前に歩ちゃんの家族であるユークリウッド・ヘルサイズちゃんが悪魔に襲われたらしい。

 その時助けたのが宏壱君だった。悪魔の頂点の一人であるルシファーって悪魔の魔王城に殴り込み、もう狙わないように話を付けたそうで、その日からだ、宏壱君と歩ちゃんの距離感が妙に近付いたのは。

 そんな事情で私や大輝君のことも、能力と転生者ってことを伏せて、身体を鍛えてるということだけが彼女に伝わった。と言うのも、歩ちゃん自身も時偶宏壱君の家で組み手をすることがあるからだ。

 詳しいことは聞いていないけど、歩ちゃん自身にも特殊な力があるみたい。私のことを詳しく話していないから、聞き出すつもりはないけど。

 

 

「はい。これでもかなり力を付けたんですよ? それでも宏壱さんにはまだまだ敵いませんけど」

 

「あはは、仕方無いよ。年季が違うんだもん。百年以上鍛え上げて、戦線で戦ってた人と、少し前から漸く実戦を知った私達だと、比べるのも烏滸がましいよ」

 

「あいつが強いのは知ってるわ。あたしの勘違いで戦ったけど、最初の不意打ち以外でダメージを与えられなかったもの」

 

 

 続けて「しかもセラとの二人掛かりだったのに」と肩を落として言うと、歩ちゃんは目の前にある彼女自身が注文したコーヒーを飲む。

 士郎お父さんがブレンドしたコーヒーで、営業マンに人気らしい。私はちょっと苦くて飲めないけど、ミルクと砂糖を少しいれれば歩ちゃんは飲めるらしい。

 

 

「あの人と敵対とか考えたくないですね。正直、殺されないまでも人格崩壊ぐらいはされそうです」

 

 

 大輝君のしみじみとした言葉に、示し会わせたように頷く私と歩ちゃん。

 宏壱君だけじゃなくて、桃香さんや愛紗さん、鈴々ちゃんとか星さん、他にも多くの人が宏壱君の味方につくと思う。サーゼクスさんとかミカエルさんとか近右衛門さんとかね。あの人達は底が知れない。少なくとも宏壱君より強いのは確実だ。

 打算はあると思う。宏壱君一人味方につけるだけで多くの武芸の達人や戦略、戦術、軍略、政略を修めた賢人が付いてくるからどの組織も欲しがるはずだ。

 

 

「いずれにしろ、今は味方なんだし気にしなくてもいいと思うけど」

 

 

 歩ちゃんがそう締め括った。

 

 

 

 

 

《そういえば咲さん》

 

 

 翠屋で祝勝会を終えた私は、なのはちゃん、士郎お父さん、大輝君の四人で家まで帰ってきた。

 今日はジュエルシードの探索はお休みだから、自室のベッドの上でのんびりしているところだ。なのはちゃんも私と同様に部屋で休んでると思う。

 士郎お父さんは午後から翠屋に行くため、お風呂に入って汗を流している。

 

 因みに、アリサちゃんはアリサちゃんのお父さんとお出掛けで、すずかちゃんは忍さんとショッピングらしい。

 新崎君はセイバーさんと帰って鍛練をするって言ってた。

 

 

《大輝君、どうしたの?》

 

 

 のんびり、と言ってもやることがなかった私は、一度読んだ少女漫画を暇潰しに読んでいた。

 『幽霊になっても……』というタイトルで、タイトルを見ただけで内容の三割が分かる漫画だ。

 主人公の女の子が、交通事故に遭って死んで、好きだった男の子に想いを遂げられなかった主人公がその事を未練に思って幽霊になってしまう。

 最初は友達以上恋人未満な二人の日常風景。そして二人をくっつけようと画策する主人公と男の子の友人達。

 一巻はそんな日常風景で終わりなんだけど、二巻目の冒頭で主人公が夜道で車に撥ねられて死んでしまう。悲しみに暮れる主人公の想い人と友人達。そして足がなく、身体の透けた主人公が目を覚ます……ところで二巻目終了。

 三巻目からは主人公が男の子の着替えを覗いたり、トイレを覗いたり、入浴中を覗いたり、寝顔を覗いたり、臓器を覗いたりするというまさかの展開だった。

 一巻平均して二百ページあるんだけど、三巻目から六巻目まで、主人公が男の子をいろいろ覗く話だった。

 この作品は既に完結していて、全七十三巻まである長編だ。

 最終話では、主人公が想い人の男の子を呪い殺し、男の子の魂を地獄に引きずり込んで完結するっていうホラー展開で終わる。

 

 今は『幽霊になっても……』の三十七巻目、主人公が除霊師のおばあさんを憤死させたところまで読んだ。そんな時に大輝君から念話が届いた。

 大輝君はユーノ君と一緒に魔法談義に華を咲かせるって言ってたんだけど……何の用だろう?

 

 

《その……今日、サッカー試合ありましたよね?》

 

《え? うん、そうだけど……大輝君も居たよね?》

 

 

 大輝君の言葉はよく分からない質問だった。もしさっきまで一緒に居たのが彼じゃなかったら、一体誰だったんだろう?って話になっちゃうよ。

 

 

《そうなんですけど……何か忘れているような気がするんです》

 

《忘れている?》

 

《はい……原作関連で……》

 

 

 そう呟いて、思考を垂れ流す大輝君。

 

 

《サッカー……原作……なのは……原作……宏壱さん……は関係ない。……うーん?……今の時期の原作と言えばジュエルシード関連の筈……》

 

 

 一つ一つ言葉を繋げる大輝君。私も少し考えてみる。大輝君に言われて、私にも何か引っ掛かるものがあったからだ。

 サッカー……なのはちゃん……ジュエルシード……選手……ゴール……キーパー?

 

 

()()()()()()()

 

 

 私と大輝君の思考がリンクした瞬間だった。どうやら大輝君も同じ結論に至ったらしい。と言うか、思い出したのだ。今日はジュエルシードの発動する日だと。

 

 

《咲さん!》

 

《分かってる!》

 

 

 私は『幽霊になっても……』をベッドの上に放り出して、急いで出掛ける準備を始める。

 そして準備が終わった時に……遠くでジュエルシードの発動を私達は感知して慌てて家を飛び出したのだった。

 

side out




凡一ヶ月の更新停滞……。
別にエタったわけじゃないんですよ?ただ、とある小説にドハマリして進まなかっただけなんです。これからも面白い小説(それなりに話数があるもの)を探すので、更新頻度は確実に落ちます。小説漁りが止められません。
月に一度は更新するので、ご勘弁ください。

では、また次回お会いしましょう。
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