side~宏壱~
爽やかな風が俺の髪を靡かせる。
今日は日曜日で晴天、運動するには最高だ。特にサッカー。サッカーは良いな。仲間と団結して相手の陣を崩し、僅かな隙間を縫って相手ゴールにシュート。実に爽快だ。流れる汗も爽やかさを演出する格好のスパイスになる。
「山口さん、パスっす!」
二歳年下の少年から声が掛けられ、蹴られたサッカーボールが少年の斜め前を駆ける俺のもとに迫る。
「ナイス!」
難なく足で受け止めて、勢いを殺さずそのまま駆ける。
駆けていると外野から「いっけー!」とか「そのままゴール!」や「突っ走れー!」等の声援が聞こえる。少年の甲高い声に混じって、少女の黄色い声も聞こえた。
ゴールまで凡7m。正面のディフェンスは四人、後ろから三人迫ってきているのが分かる。
何処と無く彼らの放つ気迫には嫉妬が混ざっている気がする。
「くっそー! あいつ、高町さん達から声援受けやがってぇっ!」
「転かして恥をかかせろ!」
「一瞬で抜いてやる!」
……気がするじゃなくて、嫉妬だったな。
俺に声援を送るのはなのは、すずか、アリサだ。他にも、咲と相川、大輝、ユーノ少年……あとクソガキが河原に設置されたベンチから応援の声を上げている。
俺は今日まで知らなかったが、なのは、すずか、アリサ、咲、相川は海鳴の五代天使と呼ばれているらしい。
そんな彼女達から、一身に声援を浴びている俺が許せないんだろうが……彼女らに他意はなく、応援以外の何物でもないだろう。
「ふっ……!」
ゴールまで5m。ドリブルで進めていたボールを踵で頭より高く浮かせる。
それが頂点に達し、落下する寸前で相手ゴールに背を向けて地面に背中が平行になるように跳ぶ、落下してくるボールに右足を叩き込む。
踏ん張りの利かない中空での蹴りは威力が落ちる。それを振り上げの遠心力で補い、尚且つ常人を上回る俺のキック力でボールを蹴り飛ばす。
歪に形を変えたボールは誰にも邪魔をされることなく、5m先のゴールネットに突き刺さった。
「ふむ、テレビで見ただけだったが……できたな」
それを地面に寝そべったまま見届けた俺は、昨日DVDで見たものを思い出しながら立ち上がる。
河原を静寂が支配している。一秒、二秒、三秒、四秒……きっかり十秒経った時、味方の歓喜、敵の嘆き、観客の喝采が合わさり、静寂が砕け、わっ、と場が沸いた。
まずは一点。これは先制点に過ぎない。ここからはチームワークが物をいうだろう。俺のマークは厳しくなり、パスが通り難くなるのは明白。
全力を出す訳にはいかない以上、さっきより派手な行動はできない。
だから、今出せる全力で挑む。俺達の戦いはまだ始まったばかりだ……!
時は三日前に遡る。
場所は聖祥大付属小学校5-Bの教室。現在は昼休みだ。
なのはの覚醒から数日。順調にジュエルシードを集めているようで、咲に聞いた話では、既に幾つか回収に成功しているらしい。
なのはの成長も著しく、封印魔法も上手く扱えるし、空間把握能力が高いお陰で空を縦横無尽に飛び回れるらしい。順調に力を付けているようでなによりだ。
「なぁ、山口ちょっといいか?」
そんな事を考えながら自分の席で弁当を食っていたら、クラスメイト少年Aが話し掛けてきた。
「なんだ、磯辺か」
「いや、西沢だけど!? 一文字もあってないし!」
「……知ってた。知ってたゾ?」
「俺の目を見て言えよ!」
「それで?」
クラスメイト少年A改め、西沢○○君に用件を聞く。
「言っちゃいけない名前みたいになってないか?」
「気にするな、西沢○○君。それと俺の心を読むな」
「読んでない。声に出てた」
「……」
「……」
「……それで、何の用だ?」
俺の席だけ妙な沈黙が支配する。
気不味いものを感じた俺は、本筋に話を戻すことにした。
「……今度の日曜日って何か用事があったりするか?」
俺が誤魔化したことにツッコミを入れることなく話を進める西沢。
「日曜?」
「ああ」
休日の予定を思い浮かべる。
管理局は……非番。咲と大輝との鍛練も今回の件が収まるまでなし。束が来る予定もない(俺の都合を考えずに急に現れるから、予定なんて有って無いようなものだが)。買い出しとかもないし、何もなければはやての家に泊まるくらいか……。
「……特にないな」
はやての家に行くのは晩飯前になる。そう決まっている訳でもないが、特に何時に行くとか約束をせずに行くから時間はある。
「そうか。じゃあ、サッカーをしてみないか?」
と、そう誘ってきた西沢の言葉に頷いた結果が冒頭だ。
と言っても、俺は西沢の替わりだ。何でも、西沢は家の用事があって出られないらしい。
一応人数的な余裕はあるそうだが、念の為に補欠で居てほしいって話だった。
まぁ、居るだけなら良いか、とも思ったし、偶には子供らしいことをするのも悪くない、とも思った。
そんな経緯があって了承したのだが……西沢が所属する少年サッカーのチーム名が『翠屋JFC』。
その時は「聞き覚えがある名前だな……」と思ったんだ。思った……と言うか、思い込もうとしたんだ。
家に帰ってから「翠屋なんてよく聞く名前さ、ハッハッハッ」と意味もなく笑ったんだが……。
現実とは儘ならないものだ。『翠屋JFC』は、喫茶・翠屋のマスター、高町 士郎がオーナー兼コーチを務める少年サッカーチームだった。
そして当日、つまり今日河原へ向かうと、目を見開く咲と大輝、すずか、相川。にこやかに会釈するなのはとアリサ。サッカーが珍しいのか、ゴールを見たり、立派なユニフォームを身に付けたサッカー少年達を見渡すユーノ・スクライア少年。それと……赤髪のクソガキとその傍らに立つ金髪の女(おそらく、その女が大輝の話に出てきたクソガキのユニゾンデバイスだろう)。
そして苦笑いの士郎。話は聞いていたらしく、出会い頭に「よろしく頼むぞ」と『翠屋JFC』のユニフォームを手渡されたのだ。
しかも、序盤から出てくれと言われた。
断ることもできたのだが、子供らしいことをする、と決めた以上参加するのも良さそうだ。
そんな考えから、十分だけFWと代わってもらうことにした。
先制点以降はチームメイトのサポートに徹した結果、キーパーのファインプレーもあって、試合は3ー0で『翠屋JFC』の勝利で幕を閉じた。
そして、翠屋で行われる祝勝会にも呼ばれはしたのだが、用事があるから、と言って参加は辞退させてもらったのだ。
これ以上なのはに近付くと、気付かれる可能性があったから、仕方ないと言えば仕方ない。それに今日ははやての検査日だった。一応、海鳴大学病院まで送ってやらないといけなかった。
《もう宜しいのでは? なのは様もこちら側に片足を入れました。正体を明かしたところで、支障はないと思いますが……》
《そうは言ってもな。今まで黙ってた分言い辛いと言うか……》
《御主君は妙なところで臆病ですね》
お小言を相棒二人から念話で受けながら、何と無しに街中を歩く。
「……はやても送った後だし……暇だ。何か面白ことが起きないもんかねぇ?――っ!?」
この一言が切っ掛け……という事もないだろうが、魔力が弾けるような感覚が俺を襲う。
「これは……ジュエルシードかっ!」
《御意にございます。場所は東に500m。既に異変は起こっているようです》
「……みたいだな」
無限が言ったように、東側に視線を向けると嫌に騒がしい。
悲鳴や怒号のようなものが聞こえ、東方面に続く道から多くの気配がこちらに向かってくるのが感じられた。
ビルの間から、街のド真ん中に聳え立つ大樹も見える。
《……主、お伝えしたいことが》
「なんだ?」
少し緊張を孕んだ刃の声に答えつつ、進行方向を東に移す。
乱雑に駆けてくる人々の隙間を縫って進む。俺が駆け出してしまえば、少しの接触も有り得るかもしれない。こんな状況でそんな事になれば、出さなくていい被害を出してしまう。怪我人が出てからでは遅いのだ。
そんな事もあり、魔力の発信源に早歩き程度の速度で歩く。
こちらに押し寄せる人垣の向こうには建造物に蔓が這い、アスファルトを木の根っこのようなものが押し上げているのが見えた。
《アリサ様、アリサ様の執事を務めております鮫島様の生命反応を魔力発信源100m付近にて感知いたしました》
「……何?」
《移動する様子がありません。何らかの理由で、動けないものと思われます》
それを聞いて少し焦りが生まれる。咲と大輝から聞いていた今までの物とは規模が違いすぎる。死者が出る可能性も否めない。
考えられるのは、人間が発動させたということ。人の願いは具体的な分動物に比べて強力だ。犬や鳥より強いものになるのは当然と言える。
何を想ったのかは知らないが、ジュエルシードは歪曲した形で願いを叶える。
どれだけ純粋な願いだろうと、あの石ころにとっては自分の力を発動させるための燃料にしかならない。
「人の波も途切れてきた。急ぐ――っ!」
加速しようとしたところで、最後尾の親子と擦れ違う。その親子に背後から迫る複数の根っこ。
根っこの先は槍のように尖っていて、人体程度なら貫くことは容易く行えるだろう。現に乗り捨てられた乗用車を下から真上に貫通し天に昇らせている根っこもある。
「させるか!」
親子に向かう根っこを飛び蹴りで進行方向をずらし、他の根っこを手刀で切り刻む。
親子は危機に気付かないまま走り去っていった。
「今度こそ急ぐぞ」
〈〈御意〉〉
バリアジャケットを展開して駆ける。なのはやユーノ少年に気付かれる可能性はなくもない。だが、アリサと鮫島さんの命か、俺個人の気不味さか……どちらを取るのか?と聞かれれば迷わずアリサ達の命を取る。
「ファーストムーブ!」
〈First Move〉
根っ子の迫る速度が目に見えて遅くなった。しかし、実際は世界が遅くなったのではなく、俺が加速したのだ。
俺が持つ高速魔法『ギアムーブ』。ファースト、セカンド、サード、フォース、ファイナル……この五つを段階を踏んで加速して使う魔法だ。
正直な話をすれば、フォースとファイナルは急激な加速が術者の肉体に大きな負担を掛けてしまうため頻繁に使用することができない。使った時に痛い目を見たこともあるしな。まぁ、あの時は段階を踏まずに使ったから影響がデカかったんだろうが。
そもそも『ギアムーブ』は肉体への大きな負担を考慮した上での魔法で、ファースト、セカンド、サード、フォース、ファイナル、と段階を踏むことで、身体と思考を加速世界にある程度慣れさせ、その上でギアを上げていく。そうすれば急激な加速に身体が付いてこず、肉離れが起こるとか、関節が外れるとか他にも幾つかある問題を緩和することができるのだ。
シミュレーションを幾つか重ねたが、リスクをゼロにすることはできなかった。
俺の身体能力向上及び魔力量増加、魔力操作の精密化……能力が高くなれば耐えることができるが、魔力量が増す分反動が増し、肉体に掛かる負担も大きくなる。プラマイ0になるって訳だ。
だから、反動をゼロにするのではなく、弱めることに重点を置いた。それが『ギアムーブ』なのだ。
閑話休題。
つらつらと意味のないことを考えながら駆けていると、眼前に木の幹が幾重にも重なっているのが見えた。
迫る蔓や根っこを拳で弾きながら近付いていく。
〈正面、迫り上がった根っこの上に車があります。その中にアリサ様、鮫島様……お二方の生命反応を感知しました。ご無事です。が、車体が安定しておらず、何時墜落してもおかしくありません〉
「分かった」
刃の言うように、周囲にある建築物よりも高く盛り上がった幹の上からアリサ達の気配が感じ取れた。
勢いを殺さないまま、アスファルトから顔を覗かせる根っこに足を掛けて駆け昇る。
時折迫る蔓や枝を躱しながら気配のする方へと進む。
「咲達も動いたな」
〈そのようですね〉
〈少し行動が遅いのでは?〉
俺に言われてもな。無限の非難するような言葉に、肩を竦める。
「あれか」
幹の上を走って数十秒、タイヤが幹の窪みに嵌り込んでなんとかバランスを保っている車が見えた。
左側後輪が中に浮いている。救いなのは右側前輪が窪みに嵌り込んいることか。だが、少しの揺れで何時落ちてもおかしくない。
フロントガラスから見える運転席で、鮫島さんがぐったりしているのが見えた。刃の話では生命反応がある、と言うことだから死んではいない筈だ。強く頭を打ったのかもしれないな。
「大丈夫か?」
後部座席の右側に座って身動ぎしないアリサに窓越しに声を掛ける。
一瞬ビクッと身体を跳ねさせるアリサ。それだけで車体がグラつく。
「お……っと。動くな。下手に揺らせば落ちるぞ」
揺れる車を左手で押さえて安定させる。平坦な場所でなく、凸凹した幹の上で危ういバランスを保っているのだ。
少し揺らせばバランスが崩れて真っ逆さま……なんてことも有り得る。それだけは避けたい。
「……あなたは……!」
俺の言葉で落ち着いたアリサが、若干潤んだ目で俺を視界に捉えて驚いたように目を見開く。
涙が目尻に溜まってはいるが零れた形跡はない。意地で折れそうになる心を奮い立たせたのか……凄まじい精神力とど根性だな。勝ち気な性格が泣くことを自分に許さなかったのか。
「待ってろ、今開ける」
そう告げて右手でドアを開けようと取っ手に手を掛けて引くが……開かない。
「……開けようとしたけど開かないんです」
くぐもった声がガラス越しに聞こえる。アリサも何度か試したらしい。弱ったように眉尻を下げていて、その瞳は不安と諦観に揺れていた。
当然か、意地で踏ん張っていても小学三年生の女の子だ。この状況下で冷静に自分の状況を把握できていることが異状だ。
「ふむ……何かがぶつかった痕があるな。ロックが拗れて開き辛くなったのか」
何が原因か……と、ドアを見れば複数の窪みがあった。おそらくアスファルトの破片が強く打ち込まれたのだろう。
軽く力を入れても開きそうにない。中から無理に押せば車体が揺れる。開くかもしれないが、落ちてしまえば意味はない。
「車壊すけど勘弁してくれよ?」
「え?」
左手で車体を強く押さえ込み、右手をドアに捩じ込み指を車の中に入れる。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴が聞こえたが気にすることなく捩じ込んだ指を握り込んで腕を引く。
バキィッ、と音が響いてドアがまるごと引き千切れた。千切ったドアを放り捨てる。
居ないとは思うが、下に落として誰かに当たれば大惨事どころか死者が出る。ジュエルシードで死ななかったのに、救出時に死者が出たりするとか洒落にならないからな、遠くの幹に刺さるように回転を加えて投げた。
狙い違わずしっかりと突き刺さったのを見てアリサに視線を戻す。
「え……?」
「早く出ろ。運転席の人も出さにゃならん」
「は、はい!」
呆けていたアリサを急かす。
アリサが慌てて下りると車体が微かに浮き上がった。押さえた手を離せば落ちるぞ、これは。
「二人でなんとかバランスを保っていたみたいだな」
呟いてアリサの時と同様にドアを引き千切って鮫島さんを救出する。
鮫島さんを運転席から引きずり出して幹の上に下ろし、車から手を離すと……。
バランスが崩れ落下していく。幾度か車体を幹にぶつけながら落下していく車が、アスファルトに激突して炎上したところまで見届けて鮫島さんの許に戻る。
「鮫島! 鮫島!」
「頭を強く打ってる。揺らさない方が良い。それに気絶しているだけだ、心配はいらないさ」
堪えていた涙をぽろぽろと零し、横たえた鮫島さんの肩を揺らすアリサを優しく止める。
「取り敢えず今はここを降りよう。聞きたいこともあるだろうが、話はそれからだ」
「は、はい」
何かを聞きたそうにしているアリサを牽制し、鮫島さんを揺らさないように横抱きにする。
「まずこの人を下まで連れていく。そしたら次は君だ。直ぐに戻ってくる」
「連れていくって……どうやって」
アリサが言葉を言い切らない内に幹から飛び降りる。
凡10m程の高さから降りた訳だが、一直線に地上に辿り着くのは無理だった。
うねるように彼方此方に伸びた幹や枝、根っこがアリサが居る場所から下にもあった。それらを足場にしながら降りていく。
「っと……ここでいいか」
地上に降りた俺は、比較的損傷の少ない場所を選んで鮫島さんを寝かせる。
「んじゃ、戻りますか」
誰に言うでもなくそう呟いて跳ぶ。
降りてきた時と同じように、幹や枝、根っこを足場に上へ上へと登っていく。
「ほっと……待たせたか?」
「……」
ものの数秒でアリサのもとに辿り着いた俺が声を掛けると、ふるふると首を横に振るだけの返答が来た。
一人になって不安がぶり返したのか。何時もの活発さが感じられない。
「さっさと降りよ……ん?」
俺達の居る位置から南に凡730mの地点で膨大な魔力反応を複数感知した。なのは達だ。
俺の視力ならこの距離からでも彼女らの表情を鮮明に見ることができる。
それは咲と大輝も同様で、俺と隣に居るアリサを見て目を見開いている。
「……(しーっ)」
俺は咲と大輝に向けて口許に人差し指を立てて「喋るな」とジェスチャーする。
「あれって……なの、は?」
おっと、向こうに意識を向けすぎたらしい。アリサが俺の視線を追ってビルの上に居るなのは達に気付いた。
「はぁ……降りるぞ」
「え……? きゃっ!」
アリサの背中と膝裏に腕を回し抱き上げる。見た目以上に軽いな。それに甘い匂いが……。
「空の旅へとご招待……といきたいところだが、魔法を使うと気付かれるかもしれないからな。ゆっくり降りるだけにするぞ」
幹の上からアリサを抱いたまま飛び降りる。
「ちょっ……! こわっ!」
「喋るなー、舌を噛むぞー」
俺の首にしがみついてぎゅっと目を閉じるアリサ。
枝に着地、そして更にしたの根っこに向かって飛び降りる。膝や腰をクッションにして衝撃を和らげ、アリサに響かないように注意しながら降りる。
「ほら、着いた」
十数秒で地面に辿り着いた。
俺は目をきつく閉じるアリサをそっと下ろしながら声を掛けた。そんなことをしていると……。
「お嬢様!」
男性の渋い声が届く。
そちらに視線をやると駆け寄ってくる初老の男性の姿があった。どうやら降り立った場所はさっきと少しずれたところだったらしい。
俺がアリサを迎えに行っている間に鮫島さんは目を覚ましたんだろう。
「鮫島!」
「ご無事で……!」
二人が互いの無事を確認していると、唐突に街を覆っていた草木が光の粒子となって消滅する。
封印が成功したようだ。
「これは……一体?」
「どういうことよ……あなたはなにか知っているの?」
本来の姿で会話をしたことがないからか、アリサの声掛けはどこか余所余所しい。自業自得だと理解してはいるが……。
「まぁ……それなりに、な」
「思うところはありますが、先ずは感謝を。アリサお嬢様を助けていただき、有り難う御座います」
深く腰を折る鮫島さん。それに続くようにアリサも「ありがとう」と頭を下げた。
《宏壱君、今大丈夫?》
二人のお礼に「俺が助けることができたからしただけだ」と無難に返していると、頭の中に声が響く。
《咲か? 問題ないが……どうした?》
《……アリサちゃん、巻き込まれたんだね》
用件を聞くと、少し沈んだ声が返ってくる。咲にも見えていたからな。心配しているんだろう。
《ああ……そっちのビルになのはが居たのも見えてたぞ》
《……バレたってこと?》
《そうなるな。まぁ、こっちは上手いことやるさ》
《うん、分かった。そっちは任せるよ》
申し訳なさそうに言う大輝。それに対して《おう》と答えた俺に咲は言葉を紡ぐ。
《お任せ序でにもう一ついいかな?》
《うん? なんだ?》
《実は――》
咲の話を聞いた俺は、今夜、事情を説明するために必ずアリサの家を訪問することを伝え、彼女達と別れた。