リリカルなのは~赤鬼転生記~   作:コントラス

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第七十四鬼~赤鬼と怒るお嬢様と腕に覚えのある者~

side~宏壱~

 

 俺は今、正面に座るデビット・バニングスとアリサ・バニングス。その後ろには執事服を身に纏った青年、三浦 葵。

 この三人、正確にはバニングス父娘から詰問されている。

 

 既に変身魔法『グロウ』を解除していて、小学五年生の姿、本来の自分に戻っている。

 魔法を説明するのはこれが一番手っ取り早かったのだ。

 口で魔法と言っても頭がイカれていると思われる。魔力光を手に集めて見せてもグラフィックだと思われる。

 一番……かどうかは微妙だが、信じやすい方法のひとつではあると思う。

 

 俺達魔導師が使う魔法のシステム、リンカーコアがなければ魔法が使えないこと、デバイスを補助とした魔法体系、次元世界、ジュエルシードという異世界の魔導アイテム(一応ロストロギアの説明はしたが、正直予備知識がない状態でロストロギアと言われても理解は追い付かないだろうから、簡単に膨大な魔力を秘めた魔導アイテムと認識してくれと言った)、ジュエルシードの危険性、そしてなのはと大輝、咲が巻き込まれた経緯いとユーノ少年のそれらの関係性を十五分程時間を掛けて管理局のことを省いて説明した。

 そして詰問されることになったんだが……。

 

 

「それで、あたしはなのはの力になれないんですか?」

 

 

 やはりと言うか、なんと言うか、アリサはなのはの為に何かできないか、と聞いてきた。

 

 

「私も力になりたい。士郎にはアリサも世話になっているし、なのはちゃんもアリサと仲良くしてくれている。その恩を……と言うわけではないが、力になれることがあれば何かしたいのだ」

 

 

 デビット・バニングスは以前、学校でなのはとアリサが大喧嘩した時に呼び出されて顔を会わせていたらしい。

 それから幾度か酒を飲み交わすようになって、馬が合うことも分かり親友のような間柄になったんだとか。

 

 士郎とはそれなりの付き合いだが、これは初耳だった。

 ……いや、確か以前になのはの友達の親との飲み会に誘われたことがあったな。その日は犯罪者グループのアジトを強襲する予定があったから理由を付けて断ったんだが……その時に紹介でもしてくれるつもりだったのかもしれないな。

 

 

「ない」

 

「どうしてよっ!」

 

 

 俺の言葉にアリサは食い気味に返す。デビット・バニングスも眉間に皺をよせ言葉の真意を問うように俺を睨(ね)め付け、二人の後ろに控える三浦も少々の殺気をぶつけてくる。

 完全なアウェー空間だな。

 

 

「ないものはないんだよ。発動前のジュエルシードは俺達魔導師でも見付けるのが難しい。もし見付けられたとして下手に触ってみろ。そいつの深層にある願望に反応して発動されかねない。それに人海戦術で探すとして何て説明するんだ?「石ころが地球を滅ぼす危険があるから、そうなる前に見付けたいから協力してくれ」……ってか? 誰が信じるんだよ。そもそも今回あんたらに魔法を教えたのだって特例中の特例だ。俺達は原則として、魔法文化のない世界で無闇に魔法を広めるべきではないとしている。鮫嶋さんは兎も角、これ以上魔法を知る人間を増やすようなら、俺自身重い罰則を受けかねない。それは流石に御免だ。だから、したくはないが……あんたらの記憶を消す必要が出てくる」

 

 

 言葉を挟ます余地もなく、一気に言い募る。

 まぁ、魔法を知ってるって点は高町家、大輝の両親、月村姉妹とメイドの二人、石田先生がいる。

 しかも地球には地球独自の魔法文化がある上に悪魔や天使なんて超常の存在も居る。

 こんな脅しを掛けるような言い方をする必要はないんだが、ジュエルシードを下手に刺激されるのは不味い。本当に地球が消滅しかねない。

 

 

「同様の理由でなのはへの協力申請もやめてもらいたい」

 

「どうしてよっ!? あたしはなのはの友達なの! 友達が危ない目に遭ってるのに、助けちゃいけないなんてどんな理由があるって言うのよ!」

 

 

 さっきまでの敬語は既に取り払われていて、大きく噛みついてくるアリサ。

 彼女の優しさが、友達(なのは)を想う心が彼女を熱くさせている。

 それは分かる。できることならアリサにも協力してもらいたいところだ。だが……。

 

 

「友達だからこそなのはの日常に居てほしい」

 

「……ぇ?」

 

 

 熱が抜けるような静かな吐息がアリサの口から漏れる。

 

 

「あの娘は今いっぱいいっぱいになっている。今日の事件は未然に防げたものらしいからな」

 

「それはどういうことだ?」

 

 

 呆けるアリサに替わるようにデビット・バニングスが聞いてくる。

 

 

「少年サッカーチーム『翠屋JFC』のゴールキーパーが、ジュエルシードのような物体を持っていたのをなのはは見ている」

 

「それって……」

 

「ああ、なのはが確認していたら防げたかもしれない。正直、今回のジュエルシードの暴走は死人が出てもおかしくはなかった」

 

 

 さっきまでのアウェーな空気は霧散して重たい沈黙が場を支配する。

 

 

「だったら……」

 

「うん?」

 

 

 沈黙を破ったのはアリサだった。力のある瞳で俺を射貫く。

 

 

「だったら、その辛さを……全部じゃなくても、話を聞いて、少しでも背負ってあげることが友達でしょっ!!」

 

 

 覇気のある声だ。

 今どきの子供が、ここまで芯のある気を身に纏うことができるのは素直に凄いと思える。

 嘗ての戦乱の時代であれば、何かを守るために、明日(未来)へと命を繋ぐために必死に生き、己を貫き通したものだが……。

 

 

「……友達、か?」

 

「文句あるっ!」

 

「いいや」

 

 

 噛みつくアリサに首を横に振って柔らかく笑う。

 

 

「ただ……やっぱり、認められないな」

 

「何でよっ。そもそもなのはを助けるのにあんたの許可なんていらないでしょ!」

 

 

 あ、そこに気付いたのか。気付かせないままやり込めたかったんだが……。

 

 

「確かにな。俺の許可はいらない」

 

「なら口出ししないでよ!」

 

 

 アリサの言い分はもっともだ。

 アリサがなのはの力になる云々は俺の関与することじゃない。

 しかし、だ。実は物事はそう簡単にいくものじゃない。

 

 

「分かってるんだろ?」

 

「……何がよ」

 

 

 気付いているのか、いないのか。惚けているようには見えない。

 だが、本来の彼女は思ったら即行動。有言実行を絵に描いたような性格をしている。

 なら、何故なのはに連絡を取らなかったのか?

 

 

「俺を待つことなくなのはに聞けばよかっただろ?「あれはなんだ?」ってさ」

 

「それは……」

 

「それをしなかったのは、自分が無闇に関わって良いことじゃないのが分かっていたからだ」

 

「……」

 

 

 違うか? そう聞いて言葉を止める。

 アリサは瞼を閉じて自分の中を見るように、真意を探るように沈黙していた。

 それを心配して横から見るデビット・バニングスと静かに二人の後ろで佇む三浦。

 

 壁に掛けられた金箔で彩られた豪華な時計がチッチッチッ、と時を刻む。

 その音が六十回響き、アリサは瞼を開ける。

 

 

「……なのはが自分から話してくれるのを待つわ」

 

「ふぅん?」

 

 

 アリサの意外な言葉に興味深く聞き耳を立てる。てっきり無理矢理にでも聞き出そうとするかと思ったんだけど……違ったか。

 

 

「勘違いしないで」

 

 

 そう前置きしてアリサは言葉を続ける。

 

 

「別にあんたに言われたからじゃないわ。こんな大事なこと、他人(ひと)から又聞きして問い詰めるのが癪なだけよ。だからなのはが話してくれるまであたしは待つの。何もできない自分と何も話してくれないなのはに怒りながら……」

 

 

 決意の籠った目だが……それが如何程のものか。試してみるか。

 

 

「話してくれないかもしれないぞ?」

 

「それでも待つわよ」

 

 

 即答だった。アリサはさっきまでの怒りのような激情とは違う冷静で強い視線を俺に向ける。

 

 

「そうか」

 

 

 俺はアリサの決意(意地?)に似た言葉に頷き、紅茶を飲み干して壁時計に視線をやる。現在時刻は七時五分。

 

 

「さて、そろそろ帰るわ」

 

「む? 晩御飯なら用意するぞ?」

 

 

 ソファーから立ち上がるとデビット・バニングスがそう声を掛けてくる。

 

 

「いや、晩飯を用意して待ってるやつがいるんだ。また今度誘ってくれ」

 

「ふむ……女の子か?」

 

「何で家族って発想がないんだよ。まぁ、間違ってはいないけどな」

 

「ほうほう。君もなかなか隅に置けない男のようだ」

 

 

 何故か嬉しそうに笑うデビット・バニングス。

 

 

「別に彼女って訳じゃないぞ。謂わば妹分ってやつだ」

 

「そうか……。ああ、そうだ。まだ名乗っていなかったな。私はデビット・バニングス。気軽にデビットと呼んでくれ」

 

 

 思い出したように言うデビット・バニングス……いや、デビット。

 そうだな。互いに名前を知っていたから、何と無く名乗ったつもりでいたが、まだだったな。

 デビットは名乗りながら机越しに右手を差し出してくる。

 

 

「俺は山口宏壱。魔導師をやる(かたわ)ら、聖祥大付属小学校に通っている。小学五年生だ。俺も宏壱でいいぞ」

 

「……それは逆じゃないか?」

 

 

 名乗りながら右手でデビットの手を握ると、彼は苦笑して握り返した。

 

 

「それじゃ、今度こそ帰るわ」

 

「ああ。葵、宏壱君を送ってあげてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

 三浦はデビットに恭しく頭を下げあと、扉を開ける。

 またな、とデビットとアリサに告げて応接間を先に俺が出る。

 扉を閉めた三浦が俺を先導するように前を歩く。

 

 

「先程は申し訳ありませんでした」

 

 

 三浦はそう言って頭を深く下げて俺に謝る。一瞬何を謝られたのか分からなかった。

 

 

「いや、気にしないでくれ。デビットの命令だったんだろ?」

 

「いえ、私の独断です」

 

 

 それは意外だ。てっきりデビットが娘に近づく害虫の排除をしようとしたのかと思ってたよ、俺は。

 

 

「まぁ、どっちでもいいさ。兎に角、俺は気にしてない。あんたの独断だろうが、デビットの命令だろうがな」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 その礼もいらないんだけどな。まぁ、此処で押し問答しても無駄に時間喰うだけだから言わないけど。

 そんな遣り取りをしつつ、三浦が前を歩き、俺が一歩後ろから付いていく。

 

 でも、妙な話だ。デビットの命令じゃなくて三浦の独断ってのは少し考えられない。

 可能性としては世間体を気にして、か?

 客人に攻撃した、なんて醜聞が流れるのを防ぐため……ってくらいしか思い浮かばないけど。

 まぁ、あのデビットがそんなことを気にしているとは思えない。さっきの独断です、って三浦の言葉こそが独断なんだろうな。と、勝手に予想する。

 

 

「御自宅までお送りしましょうか?」

 

「ん?……いや、歩いて帰るよ」

 

 

 考え事をしている間にエントランスに着いていたようだ。

 三浦が外へと繋がる両開きの扉を開け放って俺を見ていた。若干顔が上を向いているのは仕方ないことだろう。

 

 

「まぁ、それなりに楽しかったよ。お前との闘いは」

 

「山口様は戦闘狂ですか?」

 

「そんなつもりはないぞ。ただ、強い奴と戦うのは心が躍るだろう?」

 

 

 これは本心だ。無闇な殺生も、意味のない暴力も好きじゃないが、鍛えた自分が世界にどれだけ通用するのか知りたい。

 そんな闘いなら惜しむつもりはない。

 

 

「……お気持ちは分かります。僕も楽しかったですから。でも、まだまだですね。決定打が与えられませんでした」

 

「そうか? 綺麗に極められたんだけど?」

 

 

 苦笑を交えて言う三浦に、俺は首を傾げて惚けてみる。

 

 

「誤魔化さないでも良いですよ。山口様が防御に力を入れていたら、多分僕の足の骨は砕けていました。貴方が力を抜いていたから無事だったんですよね?」

 

「否定はしない」

 

「それが答えのようなものです……すみません」

 

 

 俺の返しに混じり気のない笑顔で答えた三浦は、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「うん?」

 

「最後に手会わせ、願えませんか?」

 

「はぁ? いや、何でそうなったんだよ?」

 

 

 思わぬお願いとやらに素頓狂(すっとんきょう)な声が出た。

 ただ、三浦の声音はいたって真剣で、本気で望んでいることは分かった。

 

 

「いえ、この先僕に出番があるかどうか分かりませんから(アリサお嬢様の護衛としてこのままで引き下がれません)」

 

「それ、()(カッコ)の部分と逆じゃないか?」

 

「え? 逆?」

 

「分からないならいいや」

 

 

 メタ発言はあったが、この提案は俺も望むところだ。

 正直、さっきのは不完全燃焼もいいところだったからな。ここらでいっちょ完全燃焼といこうか。

 

 

「では外で」

 

「ああ」

 

 

 俺は三浦の後を追って外に出る。

 既に夜の帳が下り、敷地に設置された灯りが明々とバニングス邸を照らしている。

 

 

「ここで良いでしょう」

 

 

 三浦が足を止める。

 正門に進む道を少し逸れた場所に開けた空間がある。

 

 

「……何で居るんだ」

 

 

 綺麗に手入れされた芝生、設置された一台のベンチ。何時移動していたのか、そのベンチにアリサとデビットの座る姿があった。

 

 

「私も君の実力とやらを見てみたくてね」

 

 

 映画でも観賞するかのように笑うデビット。その横に座るアリサは緊張からか身体が固い。

 

 

「旦那様、宜しいですね?」

 

「うむ、存分に暴れると良い」

 

 

 はぁ……了承しておいてなんだが、はやてに怒られるだろうな。確実に20時過ぎるぞ。

 

 

「では……」

 

 

 俺から4m離れた位置で構える三浦。その右手には刃渡り40cmほどのナイフが握られている。

 俺が砕いた物とは別物だ。

 

 

「本気でいきます」

 

 

 三浦が言葉を放つと同時に真っ直ぐ飛び出してくる。

 一歩、二歩……三歩目で踏み出した足に力が入るのが分かった。加速だ。

 

 

「――っ!」

 

 

 首を右に捻って突き出されたナイフを躱す。

 さっきとは違い、俺の身長は140cm強。三浦とは拳一つ分の差がある。勿論、俺の方が低い。

 だから何だってことはないが、戦いやすさで言えば今の俺の方がやり易いだろう。

 

 

「はっ!」

 

 

 顎を狙った蹴り上げを、上半身を後ろにスウェーして躱す。

 三浦は軸足をバネにして跳んで空中で体を捻り側頭部目掛けて回し蹴りを放つ。

 

 

「っと……驚異的な身体能力だ、なっ」

 

「ぐっ……!」

 

 

 それを屈んでやり過ごし、宙に居る三浦の腹に加減して右拳を当てる。

 更に続けて二発、三発、四発と拳を当てていく。

 最後に肘を打ち下ろして地面に叩きつける。

 

 

「ぐぅうっ!!」

 

 

 叩き付けられた衝撃の痛みで呻き声を上げるも、即座に転がって俺から距離を取り立ち上がる。

 

 

「何、ですか……この打撃は。……まるで、ハンマーで殴られたような……」

 

 

 俺が打ち据えた腹を左手で擦りながら確認するように呟く三浦。

 

 

「お前が今相対しているのは化け物だ。心して掛かってこいよ?」

 

 

 俺は自分の異常さを理解している。

 力は並みの人間を遥かに上回り、肉体は鋼鉄のように……とは言い過ぎだが、少なくとも車が100kmで走行してぶつかっても生還できる。

 その上、再生能力がバカみたいに高い。当然、腕が千切れて生えてくるとかはないだろうが、骨が折れた程度なら数時間で治る。

 たとえ千切れてもくっつけて固定しておけば繋がる……と思う。試したいとは思わないけどな。

 幾度か管理局でそんな場面を見られ、データを取られた俺に付いた二つ名は『管理局の不死者』。

 地球では赤鬼、管理世界では不死者……完璧に化け物だな。

 

 

「そのようですね」

 

 

 痛みが和らいだのか、三浦は再度構える。

 よく試合なんかでは相手の視線を読むってのは言われるが、三浦は読めない。何せ目を瞑ってるからな。

 

 

「今度は俺から行くぞ!」

 

 

 三浦との距離は5m。それを一足で詰めて、胸部を狙って右拳を放つ。

 

 

「くぅっ!」

 

 

 三浦は俺の拳を左肘で受け止め、バランスを崩す。

 

 

「踏ん張りが足りないぞ!」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 バランスを崩した三浦の腹に回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。

 俺から離れきる前に三浦の右足首を左手で掴んで引き寄せる。

 

 

「ふんっ!」

 

「がはっ!」

 

 

 引き寄せた三浦の腹に肘を突き入れ、掴んだ足を離して今度こそ吹き飛ばす。

 

 

 

「ぐ……ぁっ!」

 

 

 3m飛んで地面を転がる三浦。

 柔らかい芝生が三浦と地面の間でクッションになって衝撃を吸収する。

 

 

「言っただろ。お前の目の前に居るのは化け物だ。只の人間相手のつもりじゃあそのナイフも、足も届かないぞ?」

 

「――っ」

 

 

 挑発が効いたのか、呻いて立ち上がれなかった三浦が跳ね起きる。

 右手に持ったナイフを逆手に構え、やや前のめりの姿勢。

 芝生が土を伴って宙に舞う。さっきよりも尚速い動きだ。歩方が違うのか?

 

 多分、アリサ達には三浦が消えて見えただろう。……が、俺には見えているぞ。

 低い姿勢で俺の懐に飛び込んできた三浦と目が合う。光を映さない瞳に朧気(おぼろげ)に俺の姿が見えた気がした。

 

 

「――っ!」

 

 

 ナイフが横凪ぎに振るわれる。俺は一歩踏み込んで三浦の二の腕を左肘で受け止めて防ぎ、回し蹴りを放つ。

 三浦は即座にバックステップで退いて、また踏み込みナイフを俺の肩目掛けて突き刺す形で振り下ろす。

 

 三浦の手首を左手の甲で受け止め、伸びきった腕を掴んで力任せに背負い投げの要領で背中に乗せて地面に頭から落とす。

 

 

「――くぅっ!」

 

 

 衝突ギリギリで左手で体を支えた三浦は俺の拘束から逃れ、片腕倒立の状態でしなやかな足を振り回す。

 

 腕をバネにして飛び上がった三浦は空中で体勢を整え、俺の顔面目掛けて更に蹴りを放ってくる。

 

 

「うおっ」

 

 

 腕をクロスして顔を守ったが、予想以上の衝撃が腕に伝わる。踏ん張った足が数㎜地面にめり込んだ。

 

 

「踏ん張りの利かない空中でこの威力とか……」

 

「伊達や酔狂でアリサお嬢様の護衛をしていませんから」

 

 

 着地した三浦は細い顎から落ちる汗を拭いながら笑う。

 かなり息が上がっている。スタミナがないな。

 

 

「かなりキツそうだが、どうする? 止めるか?」

 

「……まだです。僕も腕に覚えのある者として、貴方に一撃くらいは有効打を与えたい」

 

 

 笑顔を引っ込めて構える三浦。自分で言ったように、まだ気力は十分なようだ。

 

 

《七時三十七分です、主》

 

 

 刃から現在時刻を知らせる念話が届く。

 ふむ、まだ余裕がある。ハイスピードで闘えば何度でも打ち合えるな。

 

 

「――ふっ!」

 

 

 またも舞う土と芝生。三浦が居た場所は、踏み込みによって僅かに抉れている。

 

 正面からではなく、右側面からの脚撃。

 敢えて横っ腹で受け止め、右手で膝裏を掴む。

 このまま握り潰す……ようなことはしない。大輝や犯罪者ならそれで良いんだが、三浦にそんなことはできない。

 だから……。

 

 

「そらっ」

 

 

 投げ飛ばす。

 5mの距離を飛ぶ三浦は空中で膝を抱えて回転、着地の瞬間に足を伸ばして滑るように芝生の上に下り、即座に体を俺の方向に向け……慌てて横に跳ぶ。

 

 三浦が居た場所に直径2m、深さ40cmほどの小さなクレーターができる。

 俺が追撃して三浦の脳天目掛けて拳を打ち下ろしただけなのだが、空を切った拳から衝撃波が放たれ、地面に衝突、結果陥没させてしまったようだ。

 力が入りすぎたな。

 

 

「ちょっ、やりすぎでしょ!」

 

 

 アリサがヤジを飛ばしてくる。俺の動きは見えなかったと思うんだが、結果と今の俺の位置で何が起こったか把握したらしい。

 

 

「何ですか、今のまるで鉄球が落下したような音は……!」

 

「気にしている暇はないぞ!」

 

「――っ!!」

 

 

 避けた三浦に一歩踏み込んで左拳を放つ。直ぐに反応して見せた三浦は、外に逃げるようにステップを踏んで躱し、躱し様に右手に逆手で持ったナイフを袈裟懸けに斬り下ろしてくる。

 俺は左手で三浦の手首を掴んで軽く内側に捻る。すると力の入らなくなった指からナイフが落ちてきた。落ちてきたナイフを左足で遠くに蹴り飛ばす。

 

 

「くっ!」

 

 

ナイフを失った三浦は掴まれた手首を解放するために、俺の腕を狙って高く右足を蹴り上げた。

 三浦の手首を離して身体を開くように左半回転、左腕を伸ばして裏拳の要領で三浦の顔面目掛けて振り抜く。

 バックステップで躱す三浦に追撃を掛けるために更に踏み込んで左拳を放つ。が、三浦は一歩下がって右手を添えて受け流す。

 更に踏み込んで左拳を放ち、下がって受け流され、更に一歩踏み込んで右拳を、更に、更に、と一発、二発、三発、四発、五発、右、左、左、右、右膝蹴り、左、右、左、右、右、左、左、左、左、回し蹴り、左、右、左、ミドルキック、右、右、右……俺が一歩進めば三浦が一歩下がり、俺が拳を放てば三浦は受け流す。

 時に蹴りを混じえて熾烈な攻撃を放っていくが、三浦はその悉く(ことごとく)を受け止めずに衝撃を逃がすように逸らしていく。

 受け止めるだけで骨の芯に響くていどの威力はあるだろうからな。判断は間違っていない。

 しかし、反撃の隙を与えない攻撃に徐々に追い付かなくなってきた。

 俺が動きを速めてるんじゃない。三浦のスタミナが限界に近いのだ。

 

 

「ラストオオオォォォッ!!」

 

「ぐうぅっ!?」

 

 

 最後の一発は三浦の知覚を上回る速度で放った。

 受け流す素振りすら見せることなく、三浦は俺の右拳を無防備に胸部に受け止め、車に撥ねられたように吹き飛び、アリサ達の座るベンチの横をすり抜けて木に背中を強かに打ち付けて崩れ落ちる。

 遅れて――スパァァァンッ!!――と空気の弾ける音が夜空に響く。……我が家の道場ではできないな。御近所迷惑だ。

 

 

「「三浦っ!!/葵!!」」

 

 

 アリサとデビットの声が重なる。

 気を失ったのか、三浦は身動ぎ一つしない。それなりに加減はしたから骨が折れてるってこともないと思うが、一応確認のため三浦に近付きしゃがんで確かめてみる。

 

 

「……大丈夫だ、ちょっとした打ち身程度だな」

 

「そう」

 

 

 傍に寄ってきたアリサの返しが冷たい。本人に自覚があるかは知らないけど。

 

 

「あ……今更だけど、もう敬語とかいいわよね? それと宏壱って呼ばせてもらうから」

 

「は……?」

 

「い・い・わ・よ・ね?」

 

「お、おう」

 

 

 突然の提案(決定事項?)に頷くしか俺には選択肢がなかった。戦闘能力で劣る小娘に……!?

 などと脳内で巫山戯てみる。だが、実際稀に居るのだ。戦闘能力もないのに覇王色の覇気にも似たプレッシャーを放つ女性が。

 例を挙げれば、なのは、桃子さん、すずか、木乃香、ユークリウッドだろう。

 他にも数人……数十人か?居るが、そっちは戦闘能力でも並みを上回るからな。桃香達とか咲とかメガーヌさんやクイントさんとかリンディさんとかな。

 

 

「あとは任せていいか?」

 

「うむ、葵は私が運んでいこう」

 

「悪いな」

 

 

 頷いたデビットに一言返して立ち上がる。

 

 

「それじゃ、今度こそ本当に帰るよ」

 

「それ、三回目よ?」

 

「分かってるよ」

 

 

 苦笑を交えて指摘するアリサに俺も苦笑で答える。応接間で見せていた剣呑な雰囲気はもうない。

 切り替えの早い娘だ。

 

 

「じゃあな」

 

「また遊びに来なさいよね」

 

「私は居ないだろうが、何時でも歓迎しよう」

 

 

 そう言って笑って見送ってくれるバニングス父娘に手を振ってバニングス家の門を潜って敷地を出る。

 

 

《現在時刻、七時五十七分です》

 

 

 念話で刃の時報が届いた。

 刃が五十と言った段階で俺は既にトップスピードに入っていた。剃と月歩、刃と無限を展開せずに使えるファーストムーブまで重ねた。

 

 その結果、俺の眼前には既に八神家が見える。

 そうして着いて玄関扉を開ける。

 

 

「ただいま」

 

 

 家の中にそう声を掛けると奥から「お帰り~」と間延びしたはやての声が聞こえた。

 扉を閉めて靴を脱ぎ声のした場所、リビングへと向かう。

 その途中で炊きたての米の香りとかしわの独特の臭いが香ってくる。

 

 

「丁度ええとこに帰ってきたなぁ」

 

「タイミングバッチリか?」

 

「うん、ええタイミングやったよ」

 

 

 リビングに顔を出せば、大皿にこんもりと盛られた唐揚げを机の上に置く体勢で俺を見ているはやての姿があった。

 

 

「何か手伝うことはあるか?」

 

「ほな、お味噌汁入れて持ってきて~」

 

「了解」

 

 

 こうして俺とはやては二人で晩飯を食った。

 ジュエルシード、なのはとのこと、リニスが言うフェイトとアルフ、そしてプレシアのこと……問題は山積みで嫌になるが、それでもはやてとこうして過ごす時間は俺に癒しを与えてくれるのだった。

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